死なない現代ダンジョンとか、転生者にはヌルゲーすぎる   作:あゔぁゔぁゔぁ

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2 ダンジョンとこれまで

 俺が転生したのは、下に七人の弟と妹がいる大家族だ。

 正確に言うと、俺が生まれてからポンポコ兄弟が増えたというのがただしいのだけど。

 両親は子どもが多い以外は本当に普通の人で、共働きで忙しそうにしていた。

 俺はそんな両親に代わって兄弟の面倒をみて。

 ちょっと生活は厳しいながらも、安定した現代日本の生活を享受していたわけだ。

 

 

 ――そんなある時、両親が事故でなくなった。

 

 

 そこからはもう本当にいろいろあって、親戚にたらい回しにされるだとか、ちょっと簡単には語りきれないけれど。

 最終的に、なんとか俺達兄弟は誰一人欠けることなく、一緒に暮らすことができている。

 ただ一つ問題があって、それは俺達の生活費だ。

 一応、後見人になってくれた人が生活費も出してくれるというのだけど。

 その人はちょっとなんというか……借りをあまり作りたくない人なので、普段の生活費は自分で稼ぎたい。

 

 そこで俺が目をつけたのが、この世界に昔から存在する”ダンジョン”と呼ばれる場所だ。

 いわゆる現代ダンジョンとでも言うべきそこは、古くから人々に脅威と恵みを齎していた。

 ダンジョンの中には魔物と宝があって、前者は人を容易に殺すけれど、後者はそんな魔物と人が対等に戦う力を与える。

 昔はダンジョン内で多くの死者が出たそうだが、現在はアバターと呼ばれるダンジョン内の産物を用いて作られた仮の体に意識だけを転送する技術によって、死者はでないようになっている。

 

 俺は、そんなダンジョンが昔から苦手だった。

 いくら死なないとは言え、せっかく現代の安定した家に転生したのにわざわざ危険に身を晒したくないからだ。

 そもそも、アバターを使うとは言え凶暴な魔物と正面から戦う度胸もない。

 しかし、両親の死によってそうも言っていられなくなった。

 子どもが一人で安定して生活費を稼ぐ方法が、ダンジョンくらいしかないからだ。

 逆に言えば、子どもでもダンジョンに潜れば生活費を稼げるので、後見人がいるとはいえ子どもだけでの生活が許されているところもある。

 どうあっても俺は、ダンジョンに潜るしかない定めらしい。

 

 しかし、ダンジョンに潜ってみるとあることに気がつく。

 アバターが消失する際に体験する感覚は、()()()()()()()()()()()()だと悪い意味で評判だ。

 だけれども、実際に一度死んだ俺から言わせてもらうと――

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 結果として、俺はそれを利用したある稼ぎ方を思いついた。

 

 それが、デフォルトで設定された初期アバターの無限リスポーン作戦である。

 アバターには、初期アバターと呼ばれるものが存在していて。

 ダンジョン内にはじめて入った時、もしくはリスポーンした時この初期アバターを使うことになる。

 男女一人ずついて、男の方は俺みたいに特徴の薄い平凡な男性だ。

 この初期アバター、使用する場合にはレンタル料金が発生するのだが、これがとても安い。

 具体的に言うとネカフェの利用料金みたいな料金設定になっている。

 リスポーンの際にかかる費用も格安で、下手にお金をかけてカスタムアバターを用意するよりもよっぽどお手軽なのだ。

 先日のオーガみたいに、ダンジョンのギミックを利用すればクソ雑魚で有名な初期アバターでもそこそこの魔物なら狩れる。

 これを利用して、俺はなんとか自分と兄弟の生活費を一人で捻出することができていた。

 

 ただまぁ、それでも色々と問題はあるのだけど。

 具体的に言うと、一つは進路。

 俺は現在高校3年生、大学に進むのか、このままダンジョン探索者として生活するのかの二択が迫られている。

 そしてもう一つは――俺達に今の生活を送らせてくれている後見人。

 あの如何にも厄介そうな”天才CEO”の存在だ。

 

 

 ◯

 

 

 ――俺は、銀行の通帳を眺めながら考えを巡らせていた。

 そこは俺達が現在暮らしている部屋のリビングで、近くでは弟たちが学校の宿題を頑張っている。

 たまに質問が飛んでくるのでそれに答えながら、今後のことを考えていた。

 

「やっぱり、安定した生活のためには週に二回は大きめな魔物を狩りたい」

「かりたいー?」

 

 俺の独り言に、周囲の弟たちが反応を示す。

 いつもの光景だ。

 現在、俺が見ている銀行の通帳にはそこそこの預金が入っている。

 しかしこれが、俺達の全財産。

 週に一回オーガクラスの魔物を狩れば、比較的安定した生活を送れるのが現状。

 そこからこの預金を増やすには、週二回の狩りが必須だった。

 だが残念ながら、週に二回狩れる日はそう多くない。

 学校に通いながらだと、どうしてもな。

 

 

「――お(にぃ)、また難しいこと考えてるの?」

 

 

 そんな俺に、声を掛けてくる少女。

 親譲りのブラウンの髪をツーサイドアップでまとめた、利発そうな美少女(兄贔屓)だ。

 名を――

 

「カホ。……まぁ、やっぱりこのままだと進学には足りないよなって」

 

 カホ。

 八人兄弟の長女で、俺とは三歳差である。

 

「もー、またそうやって難しく考える。進学しちゃえばいいじゃん。リセさんがお金出してくれるんだからさあ」

「いや……あの人にはあんま頼りたくないだろ。怖いし……」

「えー、いい人だよ?」

 

 カホは兄弟の中でも年長なだけあって、色々と家庭の事情を理解してくれている。

 俺がいない間の兄弟の面倒も、カホとカホの二つ下の弟のユヅキが見てくれていた。

 そんなしっかりもののカホだからこそ、俺の将来を考えて進学を提案しているわけだが。

 

「それに、お兄の稼ぎ方って全然安定しないじゃん! いくらリスポーンできるからって初期アバターでゴリ押しは無茶だよ! 稼ぎになる大物だってそんなに見つからないんだからさ!」

「安定はしなくても、学生の時分で効率よく稼ぐにはこうするしかないんだよ。俺には有名なダンジョン探索者みたいなセンスはないんだからさ」

 

 確かに、俺が頭を悩ませる原因はリスポーン戦法の安定しなさだ。

 初期アバター、本当にスペックが低くてギミック利用以外の方法で魔物をほとんど倒せないのである。

 おかげで週に二回は魔物を狩りたいのに、一回も狩れない事態も稀に起こってしまう。

 

「私はお兄に、もっと有名になってほしいよ。せっかくダンジョン探索者やってるんだからさ。私の最推しはお兄とカンナちゃんなんだから。いつかコラボして欲しいなぁ」

「無茶言うなよ。向こうは登録者数百万人超えの超大手ダンジョン配信者なんだぞ?」

 

 神田カンナといえば、ダンジョン配信者ファンなら知らない人はいない、とまで言われる超人気配信者。

 いくら俺が一部でゴーストと呼ばれて有名になりかけてるからって、知名度は神田カンナと比べるべくもないだろう。

 

「やっぱ配信でも稼ごうよ。お兄の探索風景を配信に乗せたら絶対にバズると思うよ?」

「それは無理。まずアバターが地味すぎるし、トークで場をつなぐのも無理。あとリセからまだ配信はするなって言われてる」

「ダメかぁ。……っていうか、お兄ってばリセさんから頑なにお金は受け取ろうとしないのに、そういうところは律儀に守るんだね」

「後見人ではあるからな。……とか言ってたら、ちょうどそのリセからメッセージだ」

 

 スマホが震えて、見てみたらリセ――俺より二つ年上なのだが、呼び捨てにしないと拗ねる――の名前がそこにはあった。

 すると、何やらカホがニヤっと笑みを浮かべて。

 

「おっと、それなら私はお邪魔かな? 私も受験生なんだし、素直に勉強してまーす」

「お前なぁ。こういう時ばっかり勉強っていい出すんだから。普段から部活もいいけど勉強も……」

「まったねー!」

「あ、待て、逃げたな!?」

「逃げたー!」

 

 下の弟達が楽しげに「逃げたー!」と叫ぶ中、俺はため息を付いてメッセージに視線を落とす。

 内容は――

 

 

『やぁやぁ! 我が親愛なるタツミくん! 今日も元気にしてるかな!?』

 

 

 メッセージだというのに、何故か普段の大仰な話し方で文章を送ってくる一人の女性。

 名を天羽リセ。

 天羽アバタージェネレーション、通称AAGの若きCEOにして――

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何故かそんな人が俺の後見人に名乗りを上げて、しかも今の生活を全面的にバックアップしてくれているのだ。

 ……一体俺の何が、この人の琴線に触れたんだろうな?

 正直、俺はリセを少し怖いと思っていたが、それは仕方のないことだと思う。




転生者にも色々あります。
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