死なない現代ダンジョンとか、転生者にはヌルゲーすぎる 作:あゔぁゔぁゔぁ
――アバターと呼ばれる技術が完成した時、世界はもっと面白くなるはずだった。
かつて、古の時代から存在していたダンジョン。
数多の英雄が栄誉を求めダンジョンに潜り、ある者は死に、ある者は財宝を持ち帰った。
その英雄譚は各地で語られ、伝説となっている。
そんなダンジョンに、もしも誰もが足を踏み入れることができるようになったら。
人々は、どんな英雄譚を描くだろう。
「きっと、多くの人々は興奮し、心躍らせるだろう!」
そう、誰かに語ったことを覚えている。
天羽リセは、そんなことを夢見る天才少女だった。
若干五歳にしてアバターと呼ばれる技術の原形を開発。
その後、アバターを世界中に広め、ダンジョン探索の常識を書き換えた。
だが、彼女はこうも呼ばれることがある。
――ダンジョン探索に関わる、人類最後の偉人。
アバターが世界中で使われるようになった時、人々はリセが思う限りもっとも”つまらない”使い方をした。
ダンジョンを仕事場にしたのだ。
それまでのダンジョンは、一部の訓練された人間が命懸けで潜る場所だった。
しかしアバターの出現により、多くの人間がダンジョンに関われるようになったのである。
宝箱や魔物のドロップ素材回収は極端に効率化され、マニュアルすら作成された。
これは、リセの思想と真っ向から対立している。
リセは誰もがダンジョンというロマンに挑むチャンスを作りたかったのだ。
それが今では、ダンジョンにあるのはロマンではなく資産である。
ダンジョンで偉人が――英雄が生まれる時代は終わった。
リセが終わらせてしまったのだ。
とはいえ、一部のダンジョン探索者が人気を博す事例も存在した。
でもそれはあくまで、その探索者自身にアイドル的な人気があるに過ぎない。
何より彼らは、アバターが仕事道具だ。
それを着飾らせ、強化し、そして維持することが第一。
リセが想定していたのは、アバターを失ってでも眼の前の強敵を倒す極限の戦い。
しかし実際には、アバターの維持を第一とした消極的な戦いが当たり前。
そもそも、彼らを”推して”いる一般人は、ダンジョン探索が見たいのではない。
ダンジョンを探索している探索者が見たいのだ。
極論、彼らは探索者がダンジョンを探索している必要すらなかった。
リセが夢見た、誰もがロマンに挑める時代をリセは、自分自身の手で終わらせてしまったのである。
――そんな時だった、一人の少年の噂を聞きつけたのは。
いまから数年ほど前、一人の少年がダンジョンでおかしなことをしているという話をリセは知った。
アバターの開発者として、忙しい生活を送るリセだがダンジョン内の”面白い”噂は常に耳にいれるようにしている。
そんな中で、一人の少年が
リスポーン機能は、リセが開発段階からアバターに取り付けていた機能だ。
アバターが消滅した場所に、次のアバターを連続で出現させる機能。
はっきり言って、現代でこれを使う人間はいない。
人々は死とアバターのロストを恐れて、そもそもリスポーンが必要な状況を避ける。
周囲からは、削除していいのではないかと常々進言されているが、リセはそれを聞くつもりはなかった。
何故ならこのリスポーン機能こそ、リセがアバターを作った根本的な原因だからだ。
かつて、一人の少年と話をしたことがある。
ダンジョンは危険な場所で、戦いに負ければ人が死ぬ。
人が死ぬのは嫌だ、悲しいことだから。
でも、人が命を賭けて戦い抜き、死闘の果に散りゆく時に悲劇と呼ばれる英雄譚が生まれる。
リセはそのことに、二律背反を感じていたのだ。
そんなリセに、少年は言った。
「――だったら、
曰く、仮にあと一歩で強敵を倒せぬことが悲劇なら。
そのうえでやり直してあと一歩を無理やり届かせれば、きっとかっこいいんじゃないか?
――と、彼はそういったのだ。
ならば、とリセは考えた。
そのためには、やり直すための器がいる。
死んでも死ななくて済むように、
それが、天羽リセの始まりだった。
だからこそリセにとって、
少年――鳴音タツミは、両親を事故で亡くして家族を一人で養いたいのだという。
そのために、格安の初期アバターを使ってダンジョン内の大物を狩り資金を集める。
なんとも、馬鹿げている考えだ。
リセだって、アバターの消失が”死の感覚”を覚えさせるアバターの欠点は理解している。
どれだけ取り除こうとも、取り除けなかったからこそ。
それを嫌ってアバターを守ろうとする探索者をリセは咎めることができないのだ。
そんな中で、構わずアバターを使い捨てリスポーンする彼は、あまりにも異常な存在だ。
――しかし、会ってみるとタツミは本当に平凡な少年だ。
特段、勉学やスポーツで優れた成績を残しているわけでもない。
かといって、その行動に特段問題は見受けられず、十代半ばの少年にしては驚くほど落ち着いていた。
この少年から、一体どうしてアレほどまでに死を恐れず行動する胆力が生まれるのか。
リセには不思議でならない。
確かに十代半ばとしては落ち着いている。
しかし天才CEOとして二十歳でありながら世界中の人間を相手取るリセと比べると、常人の落ち着きだった。
その本質は、未だ理解できていないものの。
タツミはリセの求めている他の誰とも違う、特別な探索者だった。
今の探索者は、セオリーを守ることこそが理想とされている。
魔物には常に”攻略本”が存在し、それから逸脱した探索者はそれを見ているものから激しく非難されるのだ。
間違っている、そんなこと。
もっと独創的で、素晴らしい探索を人々はするべきだ。
だというのに今の時代、探索の最前線にいるプロの探索者ですらやっていることは最適な攻略法を研究し、それをミスなく再現することだ。
最適な攻略法の研究は、リセとしても嫌いではないが。
ミスなく再現するだけなのは、つまらない。
その点、タツミの探索は常に独創性に満ちている。
タツミにあるのは、何度死んでもやり直せるリスポーンだけ。
そんな状況で、遭遇した魔物を如何に誘導してダンジョンのギミックで倒すか。
タツミは常にアドリブでそれを考えている。
魔物が現れる場所はランダムで、ダンジョンの構造もその都度変化するのだから。
定石と呼べるものが、存在し得ないのだ。
リセは確信していた。
彼こそが、この停滞した――リセが終わらせてしまったダンジョン探索者の時代を、もう一度始める存在になる、と。
型破りで、特別で、世界に唯一人の探索者。
きっと彼こそが、この時代の新たな英雄になってくれるだろう。
今はまだ、リセが個人的に彼を応援しているにすぎない。
彼の後見人となったのも、リセの個人的なことだし。
周囲に彼の存在を”推す”には、機会と実績が足りていなかった。
そんな時、ようやくやってきたのだ。
『やぁやぁタツミくん、”竜王討伐”というイベントに興味はないかな? 世界各地から、いまだ未討伐の竜王と呼ばれる魔物を討伐するために、多くの探索者が集まるイベントなのだけど』
偶然にもリセの手元に転がり込んできた、未討伐魔物の討伐イベントへの参加枠。
それは、まさに。
『そこで、誰も討伐したことない魔物を、君の手で討伐してみるというのはどうだろう』
リセが求めていた、タツミの存在を世界に知らしめるのに、最高のイベントだった。
おもしろき、こともなきよを、おもしろく
みたいな感じです。
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