ガノンドロフを倒し、過去に戻ったリンク。
だが彼の戦いは、誰にも知られていなかった。
傍らには、唯一の理解者「ナビィ」の姿もない。
異界タルミナで再び世界の危機に直面する中、
リンクは“勇者”という枠を越え、自らが“神”となる道を歩み始める――。

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名もなき英雄

ガノンドロフを倒し、7年前の世界に戻ったリンクには、何ひとつ残されていなかった。

 

ただ一人の理解者であり、相棒だったナビィの姿も、もう傍にはない。

リンクの功績を知る者はこの時代には存在せず、ゼルダ姫ですら、それを“夢のお告げ”としか覚えていないらしい。

 

――だから、今のリンクは孤独だ。

 

外見とは裏腹に、精神は老成していた。

数々の修羅場を潜り抜けて得た知識と経験は、剣技にも表れている。

それでも、英雄であるはずの彼に、居場所はどこにもなかった。

 

かつてコキリの森を出たのも、「ただ、どこかに自分の居場所があるはずだ」と信じていたからだ。

 

リンクには力があった。悪に立ち向かう勇気もあった。

戦う理由はないが、戦わない理由もまたなかった。

だから戦った。戦っている間だけは、自分が必要とされている気がした。

その姿を、ナビィだけは隣で見つめてくれていた。

 

そうして世界を救い、ガノンドロフを打ち倒したにも関わらず――

彼はまた、一人になった。

 

栄誉も称号もいらない。ただ、傍で自分の存在を認めてくれる相棒がいれば、それだけでよかった。

 

……どこへ行ってしまったんだろう。

君しかいないんだ。僕の頑張りを、僕の存在を認めてくれるのは、君しか。

 

だから、探しに行くよ。

 

 

⸻

 

 

タルミナ平原に辿り着いた。

 

ここはハイラルとは少し空気が違う。

異なる種族が住まうこの地なら、ナビィもいるかもしれない――そう思った。

 

だが、リンクはすぐに知ることになる。この地には“月が落ちてくる”という異常が迫っていることを。

 

「......関係ない。でも、ナビィを探す邪魔をするなら、排除するだけだ」

 

毒に侵された森、吹雪に閉ざされた雪山、死者の怨念が渦巻く古代の墓、水流が狂った海の神殿ーー

立ちはだかる障壁はすべて、リンクの剣の前に屈した。

 

だが、どこにもナビィの姿はなかった。

 

月が墜ちる“最後の夜”。

それが、ナビィを探す妨げになるのなら――壊すまでだ。

彼女がいないならこの世界は永遠に色褪せたままだろう。

 

目の前には、ムジュラの仮面を纏った異形が立ちはだかる。

ぐにゃりと伸びる腕と足、笑っているのか怒っているのかすらわからない歪んだ仮面。

けれどどうでもいい。

 

なんとなく、ナビィにはもう会えない気がしていた。

 

悲しい…寂しいよ…。

ナビィは現れないのに、“ノイズ”ばかりが次々に邪魔をしてくる。

 

「お前も……"俺"の邪魔をする気か?」

 

次の瞬間、体に雷のような電流が迸る感覚を得た。

自分の体が、7年後に見た“勇者の姿”を超えて成長し、見る者すら正気を削られるような、異様な大剣を握りしめている。

 

顔に触れる。――もう、それは人間のものではなかった。

その身に流れるのは、女神ハイリアの血ーー神に選ばれし者の系譜。

幾度となく逆境に立ち向かい、トライフォースにも、聖剣にも認められた存在。

それが、世界を二度救わんとし、”誰かのため”ではなく”自分のため”に剣を振るった瞬間ーー

内側から、神の領域に足を踏み入れた証として、禍々しいほど純粋な力が溢れ出した。

それは、もはやトライフォースの加護すら必要としない、己という意思そのものが世界を塗り替える力だった。

 

「今の俺なら、あの魔王ガノンドロフすら虫けら同然か」

 

大剣を、一度だけ薙いだ。

一閃。ただそれだけだった。

それだけで、異形の怪物は砕け散った。

 

「ははっ、異形は、俺の方か」

 

月が落ちてくる。

けれどそれすら、リンクにとってはナビィを探す障害でしかない。

 

四体の巨人との約束など待つことすら億劫だ。

今の自分なら、月すら脅威にはなり得ない。

 

大剣に渾身の力を宿し、天へと舞い、斬り下ろす。

 

――刹那、空が軋む音がした。

月は、存在そのものを拒まれたように掻き消えた。

……風も、時間も止まった。

世界が、「彼」に適応しきれずに固まったかのようだった。

それは静寂ではない。“拒絶された世界”のざらついた空気。

そして、ぽつりと声が落ちる。

 

「さあ、ナビィを探さなきゃ」

 

その声にはすでに温度はなかった。

リンクはもう、ナビィには会えないかもしれないーーそんな予感を、ずっと抱いていた。

それでも、歩みを止めることはできなかった。

 

――その事実を認める“勇気”だけが、彼にはなかった。

それこそが、勇者が“鬼神”へと変貌したことを示す、明確な証左。

 

 

⸻

 

 

鬼神は、圧倒的だった。

 

もはや“悪”は悪ですらない。

彼の前では、それは塵芥の如く存在意義を失い、消えていった。

 

これが、女神ハイリアすらなし得なかった、この世界で唯一存在した"完成された平和”だった。

 

だが、“悪”が存在しない世界では、“正義”も“英雄”も“勇者”もまた、存在しえない。

 

だから、鬼神リンクが語り継がれることもない。

 

世界を二度救った少年は、神の領域へと至った代償として、“記憶されない存在”になってしまった。

 

ナビィにも会えず、語られることもない“神”となったリンクに残ったのは、ただ一つ――

 

強さだけだった。

 

けれどその強さでさえ、完成された平和によって意味を失ってしまった。

 

……だからこそ、彼の胸には、拭いきれない“心残り”だけが刻まれていた。

それは名もなき亡霊となり、

やがて深い森の奥で、ただ剣を振るうだけの存在として現れる。

誰にも語られることなく。

その名が呼ばれることも、もう二度とないままに。








あとがきというか設定補足

スカイウォードソードのゼルダは女神ハイリアの転生体であることが明かされており、ハイラル王家は女神ハイリアの血を受け継いでいると言える。
また、森の神殿はリンクの母親の別荘であり、王家のつながりがあるとも言われている。
要するにリンクはハイリアの血を受け継ぎ、トライフォースにもマスターソードにも認められた存在と言える。
そんな資格も素質も力も持っているリンクが、世界を2度救うという偉業を成して神の領域に届かないはずがない。

時のオカリナのその後、ムジュラの仮面への遷移、鬼神リンク存在、時の勇者が語られなかった理由、トワイライトプリンセスのスタルフォスに至った経緯を違和感なく繋げてみました。

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