ハフバ大盛り上がりの裏で書いてた奴。
ネムガキいいよね......いい......

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第1話

「今日の当番、キャンセル?」

 

 暑いを超えて熱いという表現がしっくりくる7月の日差し、が窓の向こうに見える中。クーラーをガンガンに効かせた生活安全局のオフィスで、スマホを見て思わず呟く。

 今日も一日、ウチに持ち込まれる事件といえば大したことのないものばかりで。文明の利器の涼しさに感謝を覚えながらも、ほんの少しだけウォーターパークが懐かしく思えてきた頃合い。

 

 久々に先生から手伝いの声が掛かったかと思えば、唐突にキャンセルの連絡だなんて。まあ先生も忙しいし、いきなり用事が発生することもあるだろうけど……。

 なんかあったのかな? 

 *

「あー、クーラーの故障ねぇ」

 

 すこし突っ込んで聞いてみたら、なにやらシャーレの執務室があるビルの配管? みたいなのが全部吹っ飛んだみたいで。いましばらくの間はシャーレでは空調という空調が全部動かないらしい。

 それで、エアコンが効かない中で私に当番させるのも忍びない。そういう理屈で、今日はキャンセルで良いよ、との事だった。

 

「……」

 

 別に当番に行くのは嫌いじゃない。仕事の手伝いではあるけど、所詮助っ人だし、大して責任が掛かることはしたくないし出来ない。先生もその辺は分かってるのかあんまり難しい部分は振ってこない。

 

 だから、行きがけにマスタードーナッツの一箱でも買っていって、先生にはコーヒーでも淹れておいて貰う。

 ちょっと強めに冷房なんて効かせて貰って、夏の日差しを横目にドーナッツを食べつつ、あったかいコーヒーをすする。それで片手間にちょちょいと書類の整理なんかしておけば、当番という名の、一味違ったいい「サボり」。

 

 だと、思ってたんだけどなあ……。冷房無しの場所で意地を張るのは流石にもうこりごり。そう考えたら、そのままオッケー了解、と返しそうになる。

 

「…………」

 

 ……けど、まあ。

 普段から仕事詰めで忙しい先生の事だ。たまに私のサボりに付き合って貰っているけど、ちゃんと休めているとは言い難いだろう。特に、この暑さの中でクーラーも無しに過ごしているのなら猶更。それに、先生と一緒に過ごすのを楽しみにしていたのもまた事実。

 

 だったら、私が。一肌脱いであげようじゃあないか。

 

 普段の私ならいざ知らず、先日大仕事をこなしてきたばかりの私だからこそ切れる手札というものがあるのだから。

 手元のスマホを弄って、モモトークを呼び出す。宛先は公安局の、コノカ副局長。

 トーク画面から受話器のマークをタップして、音声通信を繋げる。数度のコールの後、電話口から聞こえる声に言葉を返す。

 

「あ、お疲れ様でーす。 ……はい、はい、この前はいらないよって言ったやつ──」

 

 ……このプランが無かったら。流石に今日はキャンセルでいいかなって思ってたと思うけど。それくらい、外暑いし。

 *

 閃きを形にして、諸々の準備をしてからシャーレに訪れてみれば。

 

「うわっ。あっついねーこれは。大丈夫、先生?」

 

 ”……あれー……。フブキ? ……。もしかしてトーク送れてなかった……? ”

 

 立ち込める熱気。うだるような日差しが差し込む執務室内。洗面器に水を張って足を入れ。ぐったりと背もたれに体重を預ける先生の姿がそこにはあった。……かなり限界な姿で。

 

 もしかして、来て正解だったっぽい? 

 

「いやー、ちゃんと届いてたよ? モモトーク。でもここの冷房壊れてるって言ってたからさ」

「せっかくだし、先生には私のサボりに付き合って貰おうかと思ってね。大丈夫だよ、一日くらい書類仕事が進まなくたって」

 

 というか、こんな状態で仕事も何も無いだろうに。何やってんだか連邦生徒会。

 

 ”……さぼり……? あぁ……”

 

 先生は最早ゾンビみたいに、心ここにあらずというか。暑さにだいぶやられてるっぽい。

 

「そうだよ? こんなあっつい場所に居たら脳みそ溶けっちゃうってば。だからさ、先生──」

 

 後半の言葉は声に出さず。口角がつり上がった表情に換える。同時に右手を懐に手を突っ込み、「策」を取り出した。

 

 ”あれ? ……それって……”

 

「そ。この前行ったウォーターパーク。そのチケット。ただし、今度はお客さんとして」

 

 ──一緒に、サボろう? 

 

 言外の私の言葉が届いたらしい。先生がようやく顔を上げ。暑さに相当参ってたからか、一も二もなく頷いた。

 ふふっ。さ、涼みに行こうか、先生。

 ───

 ──

 ─

 ”冷たいプール、生き返る……”

 

 ウォーターパーク【エーギル】。私達生活安全局と、公安局のカンナ局長でライフセーバーに勤しんだいつぞやの施設。

 この前は目論見が失敗してしまった長めの流水プールに、今度はちゃんと客として入場する。

 

 ……余計なこと考えなくていい分、今日は気楽かも。だって誰の目にも憚らず気にすることなく、波の気の向くまま漂っていたって良いわけで。それは私がサボりを止める理由には断じてならないが。それはそれとして。

 

 先生はといえば、ついさっき私がプールに放り込んでようやく人心地付いたみたい。暑さにやられて半ば放心状態だった先生をここまで連れてくるのはちょっと大変だったけど、その成果はあったようだ。

 

 目に見えて体中の力が抜けたように感じられる。やっぱり、あんな暑さの場所で休んだり、まして仕事なんて絶対に無理なんだってば。

 かくいう私は、(一サイズ大きくした浮き輪を準備して)流れに身を任せる先生の横に並ぶように、浮き輪に腰掛けてバランスを取っている。

 

 午後に差し掛かって多少弱まってはいても、相変わらず身を焦がすような灼熱の日差しと、それを相殺するプールの冷たさが良いコントラストになっている。

 そして、波にさらわれないても離れない様に。先生の腕を掴みながら、腕一本分の距離を空け。伝わるのは、指先を伝った幽かなぬくもり。

 

 冷水に溶けたお互いの体温が混ざるような交ざらないような、微妙な距離感。……ちょっとドキドキしてるのはきっと、私だけなんだろうな。

 胸の内によぎった考えは(かぶり)を振って散らし、気を取り直して先生に呼ばわる。

 

「先生もさ、仕事として以外は来てなかったんじゃない? だから、今日はいーっぱいリラックスしよ?」

 

 そうやって声を掛ければ、疲れを多分に含んだ、けれど今は随分と休まった表情で笑顔を向けられる。

 そのまま、ぽつぽつと雑談を交わしたり黙り込んだり。思い思いに、波に身をゆだねる。お互いに黙ってて気まずくなるタイプじゃないというのもあるだろうけど、私の考えで正しいのなら。

 

 多分、先生は、この私との無言の時間も楽しんでいる。

 ……あるいは、暑さでダウンして黙り込んでるだけかもしれないけど。まあ、顔を見れば分かる。……誰かといて気まずい時にあんな、リラックスした顔をしないなんてことくらい。

 そうしてプールを複数回巡ったところで。

 

 ”ちょっと待ってて”

 

 そう言い残して唐突に、先生がプールから上がっていった。

 

「……?」

 

 待て、と言われれば待つけども。なんだかなあ。普段は私が待たせる側だからか、逆の立場に回ってしまうとどうにも落ち着かない。手持無沙汰のまま、離れていく先生の姿を目で追ってみる。なにやら、出店の店員さんと話し込んでいるみたい。

 

 ……ああ、そういうことね。

 

 推理でも何でもない、先生を目で追っていれば簡単にたどり着く結論を導いて満足した私は、プールサイドの縁を掴んで待つ事にした。

 

 何を? 簡単だ。

 プールに身を浸し、時間も午後に差し掛かって幾分日が落ちて来てはいるものの、未だ炎天の下。ならば、この瞬間のサボりに限っては欲しいのはドーナッツじゃなくて。キンキンに冷えた──

 

 ”「乾杯っ」”

 

 キンッ。

 硬質な音を互いの手元で奏で重ね。そこからは最早、意識した動作というより儀式に近いかも。だって、こんなもキンキンに冷えた、買って来たばかりを味合わないなんて、あまりにも勿体ない。

 

 飲み口に口付け、一気にあおる。

 

 一度目に喉を鳴らすと同時、冷たさと弾ける刺激が体の中を駆け巡り。

 それだけじゃ満足できなくて、二口、三口と続けて喉の鳴る音が響く。

 

 ”「ぷはっ」”

 

 ──コーラを買って来るとは。先生も結構、サボりの基本が(わか)ってきたじゃない? 

 

 炎天下に晒されて。

 冷たいプールの中。

 買って来たばかりの、キンキンに冷やされた瓶コーラを煽れる。しかも、先生の奢り。これを贅沢と言わずしてなんと言うか。

 瓶から口を離した同タイミングで、目線が交わる。続けざま、声も。

 

 ”今日はありがとう、フブキ。おかげさまでかなりリラックスできたよ”

 

「……」

 

 その言葉に対して、浮かぶのは笑み。私は全くしょうがないなあという気持ちと。力になれて良かったなあという気持ち。それらが混ざり合った、複雑な表情を浮かべているだろう。

 だから、それを全て露わにするのは流石の私といえども気恥ずかしく。

 

「……ま、私もあっつい場所で書類を触るなんてごめんだし」

 

 だからさ、先生。貸し一って事でひとつ。

 一瞬だけきょとんとした表情を浮かべた先生は、また瓶を一口煽って。笑顔で頷きを返してくれた。

 ま、次のことを考えるだなんて私らしくもない。今はただ精一杯、この流れるプールと、瓶コーラを堪能させて頂くとしよう。

 

 さあ、まだまだ(さぼ)ろうか、先生。

 

 私と一緒にさ。


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