オルクセン憲兵&エルフィンド警官シリーズ「モーリア市の奇妙な死体」   作:椚木

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合流

「オークの将校がそちら(市内)にいる筈だ。行き先を知りたい」

「エルフに堪らない憎悪を持っていた士官がいる筈だ。そいつの名を教えてくれ」

 

 

 市庁舎で鉢合わせたヘルドとエルフィスが、お互い今すぐ知りたいことをぶつけ合った時、それぞれの糸を辿るような捜査が一本に結びついたことを察知した。

 

 

「あの日外出し、所持品に『証拠』を残していた者がいた」

「その者は、戦闘で部下をエルフの兵士に殺されていた」

「まさにその日、『仇』の潜伏先を突き止めていた」

 

 

 ああ、そんなことがあるというのか。

 

 教本類が整備され兵のあり方について教育が行き届き、末端まで統制の取れたオルクセン軍において、敵愾心が行き着いた果ての私刑などと。それも士官が。

 

 ヘルドが銃剣の情報を得て、事情聴取のため身柄を確認するよう要請した時には、ハンツ中尉は既に外に出払った後であった。

 

 その様な中でのこの情報交換だ。緊張は俄然高まった。上への報告より何より先に動いたのは、賢明であった

 

 2人はその場にいた憲兵とエルフ警官に片っ端から声をかけ、目的地へ急行した。

 

 

「…………」

 

 異様な緊張の漂う客席内。均整の取れた体つきのメラアス種の馬車馬が軽やかに鳴らす蹄の音が耳に響く。

 

 ヘルドとエルフィス、それに応援の憲兵と警官2名が乗るのは、オルクセンが接収していた市庁舎の馬車であった。

 

 市長が乗るものだったのか。格式こそ貴族や商売の箔付けの為なら金に糸目を付けないコボルトの商人などのそれには劣るものの、客車内には模様のついたクリーム色の壁紙が貼られ、背もたれには軽く詰め物がなされている。ドアについたモーリア市のエンブレムもそのまま走る訳にはいかないので、暫定処置として上からシートを貼り付けていた。

 

 急行するにあたって接収という名目で市庁舎に放置、もとい駐車してあった馬車を緊急利用した訳であるが、もちろんこの馬車、エルフが乗ることを想定して作られた、エルフィンド製のものだ。

 

 道中規格外の馬車が向かってくるのを見て、慌てた同僚の憲兵たちが検問で立ち塞がろうとする。窓から太い腕を差し出したヘルドが緊急用のハンドサインを発し、そのまま通過した。

 

 客車内は、幸い全員の身体こそ収まったものの、ヘルドと憲兵、オーク2名が座席に並んで乗るわけにはいかなかった。

 

 つまり向かい合う席にオークがそれぞれ腰掛け、その隣、空いた「隙間」に残りのエルフ2名が座ることになる。

 

 エルフィスに用件も分からぬまま呼びつけられたこの白エルフの警官は、突然密室空間での異種族との密着を強いられ、可哀想にも先ほどから歯の根が合わぬ様子であった。

 

 そんな部下の不甲斐なさから目を背ける訳では無いが、エルフィスは車窓から外の様子を見やった。そこには被占領という目下の現況を生きるエルフの市民たちの様相がありありと映し出される。

 

 オークという侵入者たちに怯える市民たちの中、ミリーオラから話を聞いた直後でもあっただろうか。「私たちはたくましく生きてやる」という息遣いもまた感じていた。

 

 例えばある建物の前では、そこに待ち構えていたエルフがオークの持っていた荷物を半ば強引にひったくって運んでやっていた。また別の路地では「汚れがついてるよ」なんて言ったのか、兵士の軍靴を磨いているさなかであった。

 

 馬車からは見れないが、たった今通過した食堂でも給仕のエルフが「気の利いた」サービスをしてやって、幾ばくかのチップを態度で無心していた。

 

 一体どこで情報を入手したのやら、早くもやって来た占領地向け日用品を輸送する契約業者の馬車の元に駆けつけ、荷物の積み下ろしを手伝ってのけもした。

 

 支配者から「仰せつかった」仕事を遂行するエルフの圧に押され、気の小さなオークは決して高くない己の給金から、相場を考慮すれば法外とも取れる手間賃を恵んでやる羽目になる。

 

「私たちは命を価値付けられているんだ」

 

 オルクセン軍に流通を抑えられ、食糧も生活必需品も奴等によって与えられるものばかり。それを得るためにオルクセンの「金」が必要だ。で、こいつを得るためにあいつらの為に働いて、その日食ってくだけの何「レニ」だかの僅かばかりの日雇い賃が支給される。

 

 つまり「毎日自分が生きていく為の費用」を、オルクセン側によって定められていることになる。

 

 だからといって毎日汗だくになってあいつらの為の戦地の後片付けだの瓦礫の撤去だのをする。そうやって奴等から雀の涙ばかりの金を恵んでもらう。そんな馬鹿馬鹿しいことやってられるか。それよりもあいつらから直接せしめてやれば良いのだ。と考える者だっている。そいつらにカモと見定められた気の毒な兵士は、自分に施された数分だか気持ち数秒程度の「サービス」の対価として、気がつけば己の月給の十分の一に相当する金額だかを支払う羽目になるのだった。

 

 もちろんこんなのはあくまでごく一部の狭い領域の話だ。大半のエルフはオークを恐れて関わり合いになりたくないと思っている。

 

 オークの側だって駐屯地から出て市内を見物しようなどと言うのは、後方待機中の一部の者に限られるし、現地の住人と敢えて交流しようなどという者は、それこそよほど好奇心旺盛か、巻き込まれ体質のオーク位であろう。

 

 そうであってもだ。120年の途絶は一夜にして崩れ去った。確かに占領された瞬間から、こうして異種族の混交が始まっている。交わりはごく一部の異端、跳ねっ返り、お調子者たちを突端に、ぶつかり合ってしかし崩れることはなく卵と牛乳の様に混ざり合う。やがて交流は、とうとう大衆層でも活発化していくだろう。初めからそうであったように。

 

 その嚆矢はここにもある。オーク憲兵とエルフ警官。これから起こる凶行を未然に防ぐための合同作戦。全ては異種族の交流を、最悪の形でスタートさせないために。

 

 はて、そんな目的で行っていた捜査だったか。エルフィスは内心苦笑する。

 

……ニミイエルが殺害された理由だが、おそらく彼女としては、「潜伏兵」の存在を密告すればそれで良かったのだろう。ただ誤算だったのが、その相手が部下を殺されエルフに敵愾心を抱いていた者であったこと。その潜伏兵が追撃から逃げおおせた殺害者当人である可能性が高く、直接的な接触による確認、あわよくば報復を考えたのだろう。

 

 「告げ口」相手の様子がおかしい、何なら仲間を呼ぶわけでもなく直接会う算段のそのオークを見て、彼の目的が捕縛でなく報復であることに気がついたのだろう。

 

 そうなっては密告者である自分の立場も不味い。自分自身逃亡兵を「告発」することを、周囲に仄めかしていたのだから。最悪敵性存在として自分が秘密警察に送られることになる。

 

 何とかとりなそうと慌てた挙げ句に、邪魔と見られて殺されたのではないか。

 もしそうなら密告者の自業自得の顛末だ。

 

 何れにせよ今の自分たちするべきことは、これから起きるだろう凶行を未然に防ぐことだ。動機を突き止めるのはその後で良い。

 

 

 そうこうしているうちに馬車は目的地についた。

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