オルクセン憲兵&エルフィンド警官シリーズ「モーリア市の奇妙な死体」   作:椚木

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※この章のみ各登場人物の「戦後」の去就について述べられます。原作最後まで未読の方は、次章まで飛ぶようお願いいたします。


顛末

 事件を巡る法廷とそれを管轄する機関は、未曾有の混乱に陥った。占領下の市民と占領側の将校が共謀した犯罪と隠蔽工作という、前代未聞の事態だ。

 

「この事件のどこまでを我の領域で扱うのか」、「相手側の容疑者の責任を追求できるのか。引き渡しを要求するのか」、「いや待て、そもそもこれは戦争犯罪ではない個人の犯罪だぞ」、「だが将校によって軍の規律が著しく乱されたのは事実だ」

 

 彼我の力関係で言うと、支配者側のオルクセンが圧倒的に有利だ。容疑者の扱いに関しても、オルクセン側に有利な協定が結ばれるだろう。

 

 ただしオルクセン側も、この戦争において魔種族は決して文明的にも人間に劣っていないのだという証明のため、「近代的な裁判が営まれた」という歴史的な事実を残しておかなければならなかった。

 

 それに軍事法廷が開かれるとなれば、当然司法に大勢の軍人が関与することになる。我が国において「歴史的価値」がある近代的な裁判を主導したのが軍人ということになるのは、国家憲兵隊の跳梁を好ましく思わない司法大臣にとっても好ましくない展開だ。

 

 そうした思惑が二重三重にも重なり、迅速な判決が求められる軍事法廷の『バックヤード』で、また別種の暗闘が繰り広げられた。

 

 その間我らが主人公ヘルド曹長は、事件の報告書の作成と軍事法廷に参考人として出廷した以外は、補給路の交通整理と巡回に明け暮れていた。

 

 

 

 退屈な軍部や外交の話はここで取りやめ、その後の登場人物の話をしよう。

 

 

 1週間後判決がくだされたスヴェスデン少佐は不名誉除隊となり、5年間の禁固刑に服した。刑が明けたあとはベレリアント半島で再び商売を始めるも立ち行かず倒産し、その後はキャメロットに渡って音信不通になったとされる。おそらくはそこで名と身分を変え、再起を図っていることだろう。

 

 事件の犯人ディンスィギル・メイシィティンは、モーリア市内の法務局でオルクセン流に訳すと〈臨時裁判〉により懲役刑がくだされ、その後首都での〈制式裁判〉を待つ身となった。

 

 地盤のない立場の弱い者は極刑も視野に入った〈制式裁判〉だが、エルフィンド国家の消失により同裁判も消失し、その後オルクセン統治下で正式な裁きを待つ身となった。

 

 ところが同司法省で「一度刑事裁判で裁かれた者を、再び同じ罪状で裁いてよいのか」という議論が発生。

 

 妥協案として出た「新たな判決に刑に服していたこれまでの期間を勾留分として減算する」がまさにその「一事不再理」に該当するとして取りやめになり、最初の〈臨時裁判〉で下された判決が刑の全てになった。

 

 〈制式裁判〉までの期間を見込んだ極めて軽微な懲役刑に服したディンスィギルは、その後モーリア市からノアトゥンに移り、同地の復興事業に従事した。

 

 戦後から現代に至るまで、スヴェスデンとは1度も会っていないという。

 

 

 ハンツ・ガイヤーホフ中尉は、生きてベレリアント戦争の終戦を迎えた。

 

 戦後は自分の小隊の戦死者たちの家族を一軒一軒尋ねて周り、彼らの勇敢な最期を語り涙する家族を慰めた。本人は「容易に敵と通じ合った」経歴から思想に疑念を抱かれたことで、その後の軍内での昇進は叶わないまま除隊した。

 

 あの日敗残兵に何を呼びかけ何を語り合っていたのか、長らく明かすことはなかった中尉であった。クルツ二等兵の母の死去の後、民族融和事業のNGO団体代表に就任していた彼は、その重い口を開いた。

 

 それは「己の部下を殺した彼女を『許す』」ということ。そしてまた「これから己もまた彼女の同胞たちを大勢殺すことになるだろう」ことへの『懺悔』。

 

 この戦争で産まれた大勢の死が、しかしこの戦争と和平を機に我々の関係が進んでいくことで、いつか報われるときが来て欲しいというものであった。

 

 「開戦して間もないのに、しかも当時の種族観倫理観で出来過ぎの話だ」と人は言う。

 

 実際のところ、時代の変遷に伴う発言の意味合いの変化や、時間の経過による記憶の改ざんなどもあって、明かした内容は実際のそれと相当に変質しているだろう。

 

 ただ、あの時中尉が1人の兵士を救ったことは事実である。

 

 

 その敗残兵は捕虜として後方に移送され、同地で無事に己のパートナーと再会することが出来た。戦後は国家警備隊が解体されたことで、軍役を退き半島北部で害獣駆除の業務を請け負った。

 

 中尉の戦後の発言に関して地元メディアから真偽を確かめられた時「その通り」と肯定の意を示したことについては、一部の守旧派エルフから疑義の声があがった。ただ本人は「あの時は大人しく話を聞いて生き延びた。今度も流れに乗って賛同した。我々は常にそうやって生き抜いてきただろう」と言って片目を閉じてみせたという。

 

 

 アーカム・クロニクル紙特派員アン・バリーはこの戦争を通して従軍記者を務めた。

 

 翌年には第一軍に従軍し女性の身でありながら前線観戦を許可され、あの歴史上名高い「三三四高地」の攻略を見届けた。

 

 

 エミナーシュ・リンドビィルは戦後創設された国家憲兵隊予備隊に志願し、その優秀さを見込まれ将校候補者に選抜された。

 

 「もう軍隊なんて懲り懲りだよ」と同族への体面もあって猛反対した同居者ミリーオラ・カイツェルであったが、帰郷の度エミナーシュが持って帰って来る俸給の厚さに目を輝かせ、じきに不満を漏らさなくなった。

 

 二人の関係は今も続いている。

 

 

 

 そして……

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