オルクセン憲兵&エルフィンド警官シリーズ「モーリア市の奇妙な死体」   作:椚木

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血液

「はい、曹長どの。私が駆けつけた時には既に家の扉は開け放たれ……。はい、死体を見つけたあとはすぐ増援の派遣を要請しました。万が一犯人が残っていることを考え、屋内に入る際も最大限の警戒を致しました。無論、入口の一箇所は誰も通していませんので、私が来た時には既に卑劣な下手人は既に現場を立ち去っていると見て間違いありません。ええ、面通しを済ませていますが、通報者は確かに本人です」

 

 死体発見当日、自身に駆け寄ってきた第一発見者のエルフの通報を受けて現場に急行した伍長に、あらためて自ら話しを聞く。

 

「事件後ですか。住民たちの中に不審な人物はいないかと監視しておりますが、特に変わった動きは見られません」

 

 伍長は事件後自主的に周辺住民の監視を行っていたようだ。ヘルドはこの勤勉な部下に礼を述べ、新たな捜査に移った。

 

エックハルト一等兵

トビアス伍長

ヴォルフガング少尉

コンラート曹長

リーヌス大尉

…………。

 

 事件当日の午前中、後方の待機部隊に所属し、外出申請のあった者をリストアップしていく。そして事件発生時どこにいたか明らかである、現場不在証明ともいうべきものを持つ者については、裏が取れ次第候補から抹消していく。その様なしらみ潰しの作業。

 

「ああ、確かに当日儂は外出していたな。北岸の宿営地に設けた酒保に輸送の用があった為、馬車を用立てたが。――任務については記録があるから確認してみると良い。前日に引き続いての補給任務だ。ああそうだな。確かに軍用の馬車を私的に使ったことは認めよう。かつての故郷を70年ぶりに見回る為にな。これに問題がある様なら甘んじて受け入れるよ」

 

「いえ、それは私の管轄外ですので、聞かなかったことに致します。ご協力感謝いたします、スヴェスデン少佐」

 

 聞き込みは補給部隊の隊長の様な、非オーク族の将校にまで及んだ。

 

 

「渡されたものについて、全て調べさせてもらったよ」

 

 かの軍医と顔を合わせたのは、以前の死体安置所《モルグ》の様な陰気臭い場所ではなかった。

 

「反応のあったものが、一本だけあったよ。無論〝痕跡〟が残っているものという前提であるが、これについては洗ったとてそうそう落ちるものではないがな」

 などと軍医が調査結果を嬉しそうに語るのは、市庁舎近くにある我軍が接収した病院施設の待合室である。

 

 

 この頃まだ非公式ではあるが、この世界においてもある捜査手段が産み出されようとしていた。

 

 ある研究の過程で産み出された窒素含有複素環式化合物に過酸化水素水を加えると、暗所ではっきりと見える、青白い光が発せられることが発見された。この時触媒が必要になるが、その触媒として「それ」を用いることができることも、しばらく後の研究で発見された。

 

 触媒の量はほんの僅かで良く、この「反応」を利用することで、何かに付着した「それ」を探知できることが出来るだろうと、期待が高まった。

 

 触媒とはすなわち、生物の血だ。血液に含まれるある成分が、触媒の役割を果たすという。凶器や遺留物に残った血液の存在を、この捜査手段によって割り出せると期待が持たれた。

 

――こちらの世界《地球》では、もう少し技術が発展してから発見されることになる捜査手法だが、国内の研究機関を「ある」研究に従事させた国王グスタフの采配が、技術の進展に影響を及ぼしたのかもしれなかった。

 

 この軍医が如何にして「ルミノール反応」の知見を得たのかは知らないが、ともかくこのその実証実験を、今回の事件で試してみようと提案があったのだ。

 

「ああ、肝心の反応なんだがね。エルフの血でもバッチリ反応したよ。血液の基本的な構成自体はオークや人間種族のそれと変わらないとあって、ますますこの種族への興味が尽きぬよ」

 

……好奇心からの必要が知見を呼んだパターンのようだ。

 

 さて当日外出をしていた者から確実に事件現場にいなかったと断言できる者を除外していき、『容疑者』とされる者が絞られた訳だが、彼らの所持する「銃剣」を任意で預かり、今回の捜査を行うこととした。

 

 この捜査方法を用いるメリットに、まずはそもそも操作手法が一般には知れ渡っていない点。つまり「犯罪の発覚を避けるため、痕跡を消した」などということが考えにくい。

 例えば犯人が犯行の後血液の痕跡を丹念に水で洗い流し、その後乾かした後で適当に戦場の土埃の後を付けておくといった面倒な偽装工作を取ったということは、まずあり得ない。素直に捜査結果を見れば良いのだ。

 

 もっとも反応するのは血痕が微かでも残っていれば良く、丹念に血を洗い流したとて無駄のようだが。

 

 無論血液反応があったとて、それが今回の被害者の者とは限らない。戦場で刺突を見舞った誰かの、あるいは本人の血であったとしても構わないのだ。

 

 だから血液反応があった銃剣を割り出し、その持ち主をピックアップするという方針で今回の実験を遂行するつもりであったのだが、先ほどの軍医の言葉。

 

「反応のあったものが、一本だけあったよ」

 

 つまり、

・当日宿営地を外出しており、なおかつ現場不在証明がない

・所持する銃剣に生物の血が付着している

 

 この2点を同時に満たすのが、一名しかいないという。

 

 軍医は銃剣の持ち主、疑惑の深まった者の名を述べた。

 

「第九山岳猟兵師団所属、ハンツ・ガイヤーホフ中尉のものだ」

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