東方遺骸王   作:ジェームズ・リッチマン

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 神主と玉緒ちゃんが妖怪と戦って勝利したらしい。

 らしい、と言うと伝聞調だけど、これは少し正しくないな。

 私は魔法で終始観ていたわけだから。

 

「しかし、あの複雑な結界をよくもまあ器用に操るものだ」

 

 私は小屋の壁に映していた“投影”によるライブ映像を消し、唸る。

 脳裏に焼き付いているのは先程までの緊迫した戦いだ。

 

 退治屋側は常に魔法や術で相手を的確に追い詰め、ルーミアという妖怪は強大な力を持ちつつも、あえなく戦闘技術の差によって敗北した。

 ルーミアの操っていた力は能力だ。妖術というほど術に偏ったものではない。なので私の興味を引くタイプの個体じゃなかったんだけど、あそこまで徹底して自分の能力で戦えるのはいっそ感心するほどだ。昔ながらの古き良き魔族というやつだ。

 

「神主か……良い結界だったな」

 

 画数を増減させながら次の術に繋げるのは実に見事だった。そのタイミングも良い。

 やはり彼も職業柄慣れているのだろう。ルーミアが自ら生み出した妖怪特有の傲りや隙をよくわかっている。早期決着を焦らず、着実に仕留められる段階まで相手を弱らせ、泳がせたのも好印象だ。

 あと星魔法のリスペクト……あれ良かった……とても良かった……。

 

 で、もう一人。玉緒ちゃんの方。

 彼女はまぁ……なんだ。

 普通に力が強いねって感じである。

 使ったのは赤化水銀の球体。というよりこれちょっと前に私が漁村の近くで絡んできた人にあげたものだな。それを色々あったのか、今は彼女が受け継いでいるようだ。

 赤化水銀は退魔の力を持った触媒だ。そのままでの伝導率は非常に優秀だし、実際これをぶつけるだけでほとんどの妖怪の力は無効化できるだろう。

 それに加えて玉緒ちゃん自身が本来持ち合わせている高純度の霊力。どちらかというとこっちの方が異様だ。

 赤化水銀の操作にあれだけの霊力を注げばそりゃルーミアの攻撃だって完封できるだろうさ。ルーミアの方ももう少し魔法を知っていれば打開できたかもしれないんだけど、それを言ったらしょうがないか……うーむ。

 

 ……神主も玉緒ちゃんも、ふたりとも良い魔力を持ってるんだよな。

 素質だけなら両者とも素晴らしいものを持っている。

 惜しいものだ……まぁ、魔力というよりは霊力だし、魔法の扱いそのものはミマの方が断然上手だから、この際選り好みはしないけどさ。

 大宿直村。実に豊かな村である……。

 

 

 

 退治屋たちはルーミアの撃破により、今回の“鉄鼠騒動”の解決とした。

 鉄鼠ってなんぞやと思われるかもしれない。私もよくわかってない。なんか村にねずみが出たんだそうである。

 

 ……ふむ。記憶を探ってみると、資料で読んだことがあったな。

 動物としてのねずみが妖怪化したものか、あるいは呪術によって呪いを帯びたねずみなども鉄鼠に当たるようだ。今回のはどういうわけか、後者の呪われた方が村にやってきたそうである。

 鉄鼠自体の退治はミマと明羅のベテラン組がさっさと片付けてしまったらしい。

 もう一体いたそうだが、そちらはルーミアの手によって殺されたそうな。

 で、ルーミアが神主&玉緒ペアと衝突したと。なんとも運のない話である。ネズミ退治かと思ったら大妖怪と当たることになるとは二人も思っていなかったに違いない。

 

 だがそれでも二人は切り抜けてみせた。

 それまでは玉緒ちゃんもまだまだ半人前扱いだったのだが、今回の件でだいぶ村の評価を得ることになったらしい。

 

 疲労困憊の二人は村のみんなに、主に心配を通り越して憔悴しかかってたミマなどに手厚く迎えられた。

 神主は自分で歩けないほどに弱っていたので、無理もないことだろう。ただそれも、自身の霊力が底をついたことによる反動が主だ。ちょっと魔力が調整されれば治るだろう。

 

「お疲れ様。これを飲むといい」

「うむ……?」

 

 村に戻ってきた退治屋たちは、今日の夜に宴を催すそうだ。誰も彼も大きな災厄を退けたことで舞い上がっている。

 私はそんな中、億劫そうに戻ってきた神主に声をかけた。

 

「なんだ静木殿、これは……」

「なに、薬だよ。飲むと良い。楽になる」

 

 彼は私特製のミニ火焔式土器に満たされた無色透明の液体を訝しげに見ている。

 

「変わった形の器だな」

 

 むしろ器の方を見ていたようだった。それはそれで嬉しいけども。

 

「どれ」

 

 私が背中を押さずとも、神主は疑いもせずに薬を飲み干してみせた。

 なかなか度胸のあるお人だ。ミマだったらもう少し疑っていただろう。

 

「……!」

 

 そして一口飲んで、効果は劇的だったようだ。

 私は体感として経験し得ないものなので推測するしか無い感覚だが、きっと“一瞬で治る風邪薬”を飲むとこんな感じになるのかもしれない。

 

「これはっ……すごいな、静木殿……! 瞬く間に楽になった……!」

「ふぉっふぉっふぉ」

「きっと高価なものだっただろう……どう礼をしたらいいものか」

 

 気分は隠居中の薬屋婆さんの気分である。

 ま、ただの希釈した魔力増幅薬だ。君たちが歩いてきた魔法の森に自生してるキノコとシダがあれば作れるものだから、礼はいらぬ。

 

「いや、礼をしないわけにはいかん。……静木殿、身体に障らぬようであれば、どうだろう。あなたも宴に来てはくれまいか」

「おーいこら神主! あんた体調大丈夫なの!?」

 

 神主の後ろからミマが駆け寄ってきた。甲斐甲斐しいことである。

 彼女は心配そうに神主の顔色を伺っているが、そこに思っていたほど蒼白な気配がないことに拍子抜けしているようだった。

 

「ああ、平気だよミマ様。私は一人で歩けるしな。すぐに宴の方に行かせてもらうさ」

「無理してないだろうね?」

「もちろんだとも。はは、心配性だなあ。……では、静木殿。是非また向こうで! ミマ様も!」

「うおーい?」

 

 そんなことを一方的に喋って、神主はすたこらと村の中心部へと走っていってしまった。

 

「……なにしたのよ?」

 

 彼の姿が遠ざかった後、ミマはこちらへ疑り深い目を向けてきた。

 

「いや、体調悪そうだったからね。薬を上げたんだよ。そうしたら元気を取り戻したようだ」

「薬ぃ? ……まぁ薬師っぽいし、持ってるんだ」

「そこそこね。何か必要だったら私が処置しようか?」

 

 魔法的に治療することもできるし、普通に外科手術だって可能だ。

 なんなら人間よりも他の生物相手の手術の方が詳しいまである。

 むしろ内服薬を使わずに全て外科治療で治したりもできる。

 治療が必要ならば私を呼ぶと良い。私の治療はこの上なく効果的なのだよ。

 

「……いや、遠慮しとく。まあ、神主のこと助けてくれたのなら私からも礼を言うよ。……弟子だからね。ありがと」

「どういたしまして。……ところでミマ。神主と玉緒ちゃんのことだけど」

「ん? ……あー」

「さっきちらっと二人を見たけど、そう仲が悪そうには見えなかった。仲直りでもしたのかな」

 

 ミマは周囲を見回して、頬を掻いた。

 

「……多分ね。今回の仕事で、二人とも良い連携ができたんだと思う。……良かったというには、ちと災難すぎだとも思うけどさ。けど、結果は良かった」

 

 実のところ私は映像で見たので知っている。

 戦いの中で、神主と玉緒ちゃんはそこそこの信頼関係を築けたようだった。

 で、気になるのはその後の話だ。

 

「しかしそうなると、私がミマに渡したお酒はどうすべきだろう」

「あっ、あー……これ、ねえ……」

 

 風呂敷から取り出されたのは、700mlほどの手作り日本酒の瓶である。

 私が莫大な魔力を湯水の如く使って取り寄せたこのお酒は、神主と玉緒ちゃんの仲が悪いのをどうにかするために用意したものだ。

 その二人が酒を酌み交わす前に仲直りしている。これはちょっと虚しいことである。

 

「……せっかくだし、宴に持っていかせてもらうよ。あははっ、逆にちょうどよかったかも」

「ぬーん。酒が絆を育むことを証明したかった」

「まあまあ、でも今日は良かったよ。……神主も言ってたけど、あんたも来てちょうだいよ。宴」

「ふむ。私は飲み食いはしないけど、それでも良いのかな?」

 

 にごり酒も熊肉もそんな好きじゃない上に顔も見られるとちょっと不都合があるしで、面倒だから気は進まないんだけど。

 

「そう言わないでよ。安心しなって。あんたみたいな訳有りの人外も、村じゃ何人かいるからさ。大丈夫、ばれそうになったら私が助け舟を出してやるから。楽しもうよ」

 

 ……そこまで誘われたら、むしろ行かねば失礼というものだな。

 

「ありがとう。私にこれほど親切にしてくれたのは、やっぱりミマが初めてだよ」

「なーにしみじみ言ってんの。大丈夫、あんたはそこまで悪いやつじゃないってわかってるよ。最近はあんたのこと、薄々信じ始めてるからさ」

「薄々なんだね」

「そりゃもう、胡散臭いからね、あんたは」

 

 そうか……。

 でもほんの少しでも懐を開いて信用されるのは、嬉しいものだよ。

 

 


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