鉄血公国。
数年前。突如アズールレーンを離脱し、宣戦布告を行なったこの国に対する評価は様々なものだ。
世界を混乱させる愚鈍な国家。最先端の科学技術を誇る大国。セイレーン打倒の切り札となりかねない存在などなど……主義主張、イデオロギーにより評価や意見は異なるものの一点だけ共通したものがある。
――血は海水(みず)よりも濃く、絆(おもい)は鉄より堅い――
――鉄の規律と血の栄誉。同胞を信じる絆と守ろうとする意思が我らの未来を明るく照らす――
――団結せよ鉄血公国軍人よ。互いを信じ、一人一人が力を尽くし、再び人類に母なる蒼海を取り戻すのだ――
――死力を尽くして軍務に当たれ。決して死なず。決して諦めず。胸に煌めくライヒスアドラーに恥じぬ軍人となれ――
――私は決して貴方達を見捨てない。栄光、威光、調和、自由、正義、忠誠、教義。各国が戦う理由は様々だが、鉄血が重視するのは同胞との絆、常に貴方達の後ろには同胞がいる事を決して忘れるな――
ーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を!!そして鉄血の未来に幸あれ!!!――
それは同胞との絆を何よりも重視するという事実。
全陣営、全国家、全勢力において鉄血公国程、内部からの崩壊がない軍隊はないと言われる程に結束の強さを誇っている。
彼らに裏切りはなく、彼らに疑心暗鬼の種は芽吹かない。彼らにとって同胞とは命を預けるに足る、唯一無二の家族そのものである。
もちろんこれは彼らの総意ではない。しかし、大部分の鉄血公国民の心根であり祖国を護るために命を賭す誓いは鉄血市民の魂に根付いた一種の信念にも近しいものでもあった。
だからこそ鉄血は恐れられていた。アズールレーンを離脱した当初は各国共に陣営代表たる海軍の代表者、ビスマルクが暴走したに過ぎないという認識であった。
しかし、現実は違った。繰り返されるセイレーンからの襲撃を全て抑え、防衛網を構築し、各国にその技術や対価を支払う事で次々とレッドアクシズへの支持者を増やしていく。
サディア帝国が同調し、アイリス教国もまた親アズールレーン派のリシュリュー枢機卿が亡命を選ばざる得ない程にエウロパ大陸に次々と支持者の和は広まっていく。
欧州の代表者たる7つの海を支配したロイヤル王国を打破する可能性を秘めたチャレンジャー。それが鉄血公国であり、ロイヤルネイビーと鉄血海軍が軍事衝突を起こすのも時間の問題だと思われていたのだ。
しかし、ヴィシア聖座と鉄血公国の関係が良好なのかと問われれば現状は頷く事は出来ないだろう。
二国間の間では国境間における領土問題が存在していた上に、宗教もまた違う。何より、急速を増して拡大していく鉄血海軍がアイリスを飲み込むのではないか?という不信感もあってか両陣営の間に交流というものは芳しくないのが現状だ。
更に隣国サディア帝国との間にもヴィシア聖座は少なからず因縁を抱えており、ある意味レッドアクシズは現状その連携性はバラバラであると言わざる得ないだろう。
故にビスマルクは動く事が出来なかった。対セイレーン、対アズールレーンへの防衛網の構築や生体工学を用いた積極的なセイレーン技術研究。それらはロイヤルネイビーですら鉄血本国への攻撃を躊躇う程ではあったが、親レッドアクシズ陣営を表明したサディア帝国にすら技術支援や人材派遣などを行えない程に余裕がないもの。
まして、つい一年ほど前にようやく親レッドアクシズ派閥が過半数を超えたアイリスへの支援など期待出来る筈もない。もしもアズールレーン陣営側が鉄血の支援体制が整っていない間にアイリス本国に侵攻すれば例え防衛成功したとしても甚大な被害を受けることになってしまうだろう。
故にジャン・バールは足掻いたのだ。若手ながらも鬼才と言える程の実力を保つ『相棒』を右腕に選び、綱紀粛正の為の改革、中立組織であった審判邸を表舞台に引っ張り出し、苦難の道を歩むだろう特別計画艦である自身の妹の製造すらも行った。
だが、それでも間に合わない。
座り込み戦争、冷たい戦争と双方で称されたレッドアクシズとアズールレーンの緊張状態はやがて破綻する。その際真っ先にアズールレーン側の主力であるロイヤルに襲われるのはヴィシアだろう。
『指揮官』さえいれば、その戦線は勝利可能だ。
そう、ジャン・バールは確信していた。若き秀才……否、天才は短期間でガスコーニュ製造の為のデータ収集に成功する程、多くのセイレーンを撃退しており。彼ならば例えロイヤルネイビーのkansen達であっても負けることはないと。
だが、リシュリュー派を亡命政権を保護する事に失敗したロイヤル陣営がどう動くのか?とどう仕掛けてくるのだろうかと予想する事は不可能である。
ロイヤル側には『我々に攻撃の意図はなく、ヴィシアは対セイレーン戦に集中したい。我らは形式的には未だにアズールレーン陣営であり、レッドアクシズ陣営への和平の仲介を望むのであれば、我らが動こうと』と第三国経由で伝えてはいるものの、まず間違いなくロイヤルはこちらの提案を封殺するだろう。
なんせヴィシアの仲介を受けるメリットが存在しないのだ。鉄血公国がアズールレーンを離脱した時点でロイヤルは、陣営代表クイーン・エリザベスはレッドアクシズの完全撃破を目標としており、既に枢機卿リシュリューの身柄を預かっている時点でレッドアクシズ寄りのヴィシアとの対話など論外。否、海上戦力が離反によって半減されたヴィシア相手に譲歩する理由など微塵もないのだ。
故にヴィシアにとって、現在はまさに分岐路と言えるような危機的状態である。指揮官やジャン・バールといった優秀な戦力をどこに配備すべきか。指揮官を本国から植民地に移してもいい物なのだろうか?時期は?タイミングは?そして指揮官のいない状態で本国は確実に防衛できるのか?
なまじ、本来歩むべきであった史実と違い戦局を変えかねない程に優秀な人材を確保した事による悩み。この問題の解決策を見つけなければ遠く無い未来に待つのは蹂躙と敗北だけである。
だからこそ、この日。
「…待たせたな、少し連れを連れてくるのに時間がかかった」
「いえいえ~、唐突に押しかけたのはこちらの方ですから」
この日。鉄血から使者としてローンが来訪したという事実は戦乱に新たな風を呼び起こす結果となっていく事だろう。
一切の予告もなく、領海内に船舶とkansenが来訪したという報告を受けたジャン・バールは即座にその人物を監視下に置いた。
アズールレーンの艦艇であれば即座に臨検の上拿捕を行い情報を聞き出すのだが、やって来たのは曲がりなりにも友好国といえる鉄血側の人間だ。下手に敵対行為を行えばただでさえ揺れている国内世論を刺激しかねないと考えた彼女は即座に駆けつけた。
当然、一人だけでは対処しきれないと判断した彼女は彼の存在も要請。指揮官と彼の二人で対応する事となったのだが……
「…………」
「……」
「……ふふっ♪」
来訪した使者、ローンはニコニコと笑みを浮かべたままジャン・バールの横に座る指揮官へと視線を向けている。険しい表情でじっとこちらを見つめるジャン・バールとは違い、指揮官はといえば興味なさげにそっぽを向いたままだった。
警戒も、疑心も、悪意もない。まるで眼中にすら無いと言わんばかりの態度でいる指揮官だがそんな指揮官に対してもなおローンは変わらず楽しそうな笑顔を崩していない。
それどころか、まるで新しい玩具を与えられた子供のように爛々と輝く瞳で彼のことを見つめ続けている始末だ。まるでジャン・バールに眼中すら無さげに指揮官を見つめるローンはそのまま指揮官へと話しかける。
「初めまして、ですね?鉄血所属、重巡洋艦のローン、と申します。出来れば貴方とも仲良くしたいのですが」
「……目的はなんだ?」
だが、そんな挨拶を遮るように低い声を放ち質問するジャン・バール。彼女の問いかけに対してローンは一瞬だけ驚いたような顔をするもののすぐにその表情を消し去り優雅に微笑んで見せた。
そんな彼女に対しジャン・バールは小さく舌打ちをしてから改めて正面の席へと腰かける彼女を見据えて続ける。
「単刀直入に言おう。お前達は何を企んでいる?」
その言葉と共にジャン・バールは机を軽く叩く。それは怒りの感情によるものではなくただ相手に有無を言わせない為にわざと音を立てたのだということは明白だった。
だが同時にそんな彼女の行動を見てもなお、ローンは慌てる事も怯える様子すら見せず淡々とした態度で応じる。
「企むなんて……困りましたねぇ。私はただこの国との友好関係の為に尽力しているだけなのですが」
そう言いながら両手を広げてみせた彼女だが、とてもそんな風には見えなかった。そもそも、ここに来る途中で聞いた話によれば彼女はこれまで一度たりとも外交官のような活動をしたことが無いというのだ。
それなのにいきなりこの場に赴いたというのはどうしても不自然すぎる。しかも彼女は特別計画艦……国家が自身の科学力、リソースを費やして産まれた産まれながらのエリート。そんなkansenがこの国にわざわざ使者として送り込まれてきたことに違和感を覚えてしまうのは当然だろう。
故にジャン・バールは鋭い目つきのままローンを見据える中、隣の席に座る指揮官はというと……。
「……」
「あっ、今私の胸。チラッと見てませんでした?」
「……すまん…っ」
思い切りジャン・バールより肘鉄を横腹にくらい静かに痛みを堪えていた。復讐に全てを捧げてきた指揮官がこの世様な反応を見せる事に再び舌打ちをするジャン・バールであったがこればかりは男としての生理現象なのだから致し方あるまい。
彼女は赤いメッシュの入った金髪を耳にかけながら微笑んだ。短いスカートから伸びる脚は艶めかしく、テーブルに置かれたカップを持つ手の動きさえ計算されたように滑らでありその豊かな胸は男であれば視線を向けて然るべき凶器である。
それまで、指揮官は眉根一つ動かさずに平静を装っていたがやはり気になるものは仕方ないというものだろう。
「……まぁ別にいいんですけどね?減るものではありませんし」
くすりと笑みを浮かべてそう言うローン。その言葉に無意識にほっと胸を撫で下ろす指揮官であったがそんな二人のやり取りを見ていたジャン・バールだけは苛立ちを抑える為にグッと手を握りしめていた。
「さて……冗談は程々にして。本題に入りましょう」
ローンは優雅に紅茶のカップを置いた。その仕草には隙ひとつない。
「メルセルケビール。貴方がたヴィシアの植民地の重要拠点です。近々ここで『事件』が起きるでしょう」
「……チッ…ロイヤルか」
指揮官の言葉にローンは肯定するかのように小さく微笑んだ。ジャン・バールは苛立った様子を隠すことなく眉根を険しくする。
確かに、今のヴィシアは親鉄血陣営で占められており、アズールレーンの正式な離脱こそ行われていないものの、現在はアズールレーンの代表的な構成国の一つである隣国、ロイヤルとは袂を分かつ状況となっている。
外交ルートに於いてもリシュリューの件があった時点で完全に途絶。最早開戦は避けられない状態とはいえ、まだ水面下での調整段階だ。
少なくとも正式な開戦宣言は出ていない以上、ヴィシアとしては戦力を蓄えつつ出来る限りの開戦阻止。それがダメなら遅延を求めていたものの……ロイヤルは鉄血よりも先にヴィシアに打撃を与える事を優先するようだ。
「宣戦布告は行われないでしょう。恐らくヴィシアの皆様にロイヤルの味方になるか、敵対するかを選択させ。それを引き伸ばそうとした瞬間、交渉決裂だと主砲片手に戦闘するつもりのようですね。」
肩を竦めるローン。だがジャン・バールは彼女に向けて強い視線をぶつけたままだった。そして彼女は静かに口を開く。
「なぜ知っている?いや、それ以前になぜオレ達ににそれを伝えに来た?」
「誠意。ビスマルクさんが言うには……協調国への配慮、らしいですよ?」
その問い掛けに対しローンは困ったように首を傾げるだけで答えようとしなかった。すると今度は指揮官の方が代わりに答えるように言葉を紡ぐ。
「俺達は、同盟国じゃない。お前たち鉄血とは友好的な関係を築いているわけでもない。にも関わらずこのような重要な情報を持ってきたということは……つまり、そういうことだろう」
淡々と言う指揮官を見てローンは嬉しそうに微笑んだ後ゆっくりと彼のほうを見る。まるで品定めするようにじっくりと観察しながら唇を舐める仕草を見せるが指揮官もジャン・バールも険しい表情は崩さない。
なんせ、ローンは今この場で方針を決めろと迫っているに他ならないのだから。ここで自分をロイヤルに売る事でロイヤルと共に歩むか、それともロイヤルの提案を拒絶するのか?
情報を秘匿せず全てを伝えた上で使者として特別計画艦を送り込んだ鉄血と、有無を言わさず隷属か死かを選択させようとするロイヤル。どちらをヴィシアは選ぶべきなのか?を。
「……我が同胞の為に鉄血の力とならん事を。もし、あなた方がロイヤルと交戦する道を選ぶのであれば。私達鉄血は支援、いえ手助けをさせて頂きましょう。最新鋭の指揮艇、特殊な水兵、生体艤装の提供に戦力の出来る限りの提供など……」
無論、と彼女は指を一本立てる。そして満面の笑みを浮かべて言った。
「あなた方が、クイーン・エリザベスに私を売ることも出来ますよ?私という情報源を活用し。穏便にこの騒動を終わらせようとしてくれるのであれば……きっとロイヤルの女王陛下もきっと御喜びになるでしょうね」
ローンは常に微笑を行っているものの、その覚悟は本気なのだと指揮官達は理解する。自分達がその気になればローンは敵地に売られかねない、そんな状態で使者としてやってきているのだから。
最早選択の余地はない。ロイヤルに対抗するのであれば一分一秒でも早く準備を整えてケビール港に向かう必要があり、ここで危険を承知で使者となったローンをロイヤルに売り払うのは犬畜生にも劣る外道。到底国民にも親鉄血の多い軍部にも受け入れられるはずもない。
(……力がない)
指揮官は改めて祖国の現状を理解する。かつてアイリスは世界に名だたる四大陣営(ロイヤル、鉄血、北帝、アイリス)と呼ばれ絶大な国力で世界をリードしていた。
しかし、セイレーンの出現により北帝は皇帝の権威が損なわれた事により共産主義に染まり北方連合と名乗るも度重なる襲撃によって弱体化。アイリスもまたセイレーンの脅威により国土をボロボロにされ、現在でもその爪痕は手酷く残っている。
今では鎖国を解除し国際舞台の場に出現した重桜や近代化により世界最強の国力を手に入れたユニオンがアイリス、北連の代わりに四大陣営扱い。そう、最早アイリスには……更に分裂まで起きてしまったヴィシア聖座には単独で国難を乗り切る力など残されていない。
たった一人の才覚に優れた若者が指揮官となったとしても現状は変わらない。ヴィシアに出来ることは「スジを通した」鉄血と共に戦い抜く他ない。
情けない。指揮官は思わず悔しげにギュッと手を握りしめる。強者と強者、ロイヤルと鉄血が争う中ヴィシアもまた参加しなければ守るべきものも守りきれない。祖国の現状と己の力の無さ。だが、今は……。
「……情報に感謝する。まどろっこしい事は抜きだ。そちらの要求。求める見返りは?」
「一つ目は『不可侵協定の締結』二つ目は『正式なホットラインの開設』、三つ目は『正式なレッドアクシズ加盟、鉄血公国との同盟の為の前向きな話し合い』です。四つ目は『メルセルケビール防衛戦の我々の参戦許可。五つ目が『両国の国境紛争問題の棚上げ』六つ目が『最新鋭水兵と指揮艇の譲渡によりその運用データ提供』……最後に『互いに人質としてkansenを駐屯し合う』。以上の七つがビスマルクさんがヴィシアに求めるものですね♪」
話が早くて助かりますねーとローンが和やかに微笑む。どの内容も無茶なものでは無く真っ当としか言いようがない。特にこちらに不利が発生するようなものではない。むしろこちらに有利な内容が殆どだ。
唯一気を付けるべき内容は「人質」だろうがそれ以外はヴィシアとしても悪い話ではない。鉄血との交流が始まれば防衛計画や経済的効果も期待できるだろう。
「……分かった。条件を呑もう。鉄血と共同でロイヤルを迎撃する。それで良いのか?」
「ありがとうございます。人質に関しては……表向きは駐在武官ですがそちらに人員の選択はお任せしましょう。それでは早速準備に取り掛かる事に致しますので。こちらも急ぎましょうか?」
ジャン・バールが了承する姿勢を見せるとローンも使命を果たせた安堵感により柔らかく微笑む。しかし、ヴィシアは鉄血にあまりにも大きな借りを負ってしまったと言ってもいいだろう。
全ては国家の存続と護教騎士としての務めを果たす為。牙を持たぬ人々の剣となり、盾となり。なにより大多数の国民を見捨てた姉、リシュリューの行動が間違っていたと証明する為に。ジャン・バールは右腕の青年と共に歩み続けるのみ。
「では……そろそろ失礼させて頂きます。準備もありますので」
そう言うとローンはスカートの裾を軽く持ち上げ優雅にお辞儀をする。彼女が退出しようと背を向けた時、「待ってくれ」と指揮官が声を上げた。
彼女は振り返り彼を見つめる。だが特に気にすることもなく指揮官へ視線を合わせる。彼女はにこやかな笑顔を保ったまま黙って彼の言葉を待った。
「感謝する。あんたがいなければこの国はどうなっていたかわからない」
頭を下げた指揮官に対してジャン・バールも同じ様に立ち上がり、敬礼を鉄血の使者である彼女に行ってみせる。
「ありがとう……本当に助かった」
「………………」
感謝されるのは慣れていないのか少しだけ頬を染めたローンが恥ずかしそうに俯く。だが彼女は何も言わず、そっと部屋を後にするのであった。
「ところで……意外だな。お前が女体に興味があるとは」
ローンが去った後、不機嫌そうにジャン・バールは指揮官を睨む。だが彼はいつもの仏頂面に戻りながら首を振った。
「あの服装と乳だ。仕方ないだろう」
「……お前」
余りにもストレートな物言いにジャン・バールも怒りを通り越して困惑を隠せない。セイレーンへの復讐にその身を捧げる修羅。それが相棒への彼女から見た評価であったと言うのに。
ドン引きや失望に微かな嫉妬が入り混じった目で睨みつける様に指揮官を見つめる。しかし、指揮官からそんな彼女を無視して放たれた言葉は色々な意味で予想外であった。
「あの乳は本物か、偽物か。仮に偽物だとすれば小型の拳銃等を隠している可能性もある。そう考えていただけだ。他意はない」
「……は?」
何を言ってるんだこいつは?本気で理解できないといった風にジャン・バールは呆然と彼を見つめるがそんな彼女に構わず指揮官は淡々と説明を続ける。
曰く彼女の胸は大きいものの垂れておらず形も整っている。しかも弾力が非常に強くまるで水袋のように柔らかい。さらにあの軍服越しでもわかる位に重量感があって張りもあり、明らかに普通ではありえない質量を持っているのではないか?
ヴィシアにもダンケルクやガリソニエールの様な巨乳のkansenは存在しているが全員胸元を開いた服装である。しかしローンは下半身こそ無防備ではあるが上半身はきっちりと着込んでおり、あの豊かな双丘が果たして本物か偽物か判別するのは困難。それでは偽物だとすれば、仮にジャン・バールの暗殺を狙った者であればナイフや小型拳銃等を隠すには持ってこいだろう。
そこまで言い終えた指揮官を見て彼女は我に帰る。そして思わず額に手を当てた。あぁもうこの馬鹿は何を語り出したのかと思えば……。
「つまりお前は……あの女の乳に見惚れていたのではなく、それがフェイクかどうか調べようとしていたわけだな?」
「そうだ」
当たり前だろうと言わんばかりに断言する指揮官にジャン・バールは思わずため息が出た。全く……なんでこんな馬鹿野郎を好きになってしまったのか。
「とはいえ余りにも凝視しすぎた様でローンには誤解を与えた様で……こちらのミスだ。今後は乳に武器を隠し持った女には細心の注意を払うようにする。特に豊満な乳房を持つkansenの場合はだ」
「そうか……」
もはや、何を言っても無駄だと悟ったジャン・バールはそのまま黙って机に突っ伏す。本人としては大真面目に暗殺の危険性について説明したつもりだったのだろうが……やはりル・マルスを直属の部隊に入れた事は正解だったと改めて安堵する。
この男は文字通り復讐の為に思春期の全てを捧げ指揮官としての技能を伸ばし続けたが協調性やデリカシーと言った物は欠片もない。防衛部隊の選抜や武器弾薬の確保も含め後数日。その期間にマルスとの交流により少しでも人間らしさを取り戻してくれれば御の字であろう。
Xデーまでの一週間、さまざまな陣営の思惑が交差する中ジャン・バールはもう一度指揮官の脇腹に肘鉄を当てつつ。思考を陣営代表へと切り替えるのであった。
・ヴィシアの立場
アズールレーンを離脱せず、かといってレッドアクシズにも加入してない中途半端な状態。とはいえ国内が親レッドアクシズに染まりつつあり、親アズールレーン筆頭であったリシュリュー枢機卿が亡命した今レッドアクシズの加入は秒読みと言えるでしょう。しかし現実問題、レッドアクシズに加盟した所でアズールレーン。というか、唯一の欧州のアズールレーン構成国の強国であるロイヤルに睨まれるのは確定であり、ジャン・バールが望む、望まないは別として最早レッドアクシズに加盟する以外の道はないでしょうね。
・宣戦布告なしの戦闘
ゲーム内でのメルセルケビール海戦の描写を参考。正式な国家への宣戦布告ではなく「服従か」「ユニオンへの亡命か」「自沈か」を迫り、それを即座に受け入れないのであれば攻撃すると言うかなり乱暴な振る舞い。これはロイヤルが潜在的な敵であるヴィシアを早期の内にどうにかしておきたいと言う焦りがあったとはいえこれによりヴィシアとロイヤルの関係は修正不可能な程に悪化するのでした。ゲーム内ではその後和解を行う為に使者のイラストリアスが謝罪していたとはいえ……相手がヴィシア屈指の常識、いや良識の持ち主と言えるラ・ガリソニエールでなければふざけるなとイラストリアスにブチギレてもおかしくない程の言動でもあったりしますし。ゲーム内の主人公と言える指揮官がいなければきっと和解と不可能だったでしょうね。
まとめると
ロイヤル的には仕方ない事で、内心嫌だったがそれでもヴィシアの戦力を削る為に仕方のない事だと強行し。ヴィシア的にはいくら親レッドアクシズとはいえ交渉をまとめる時間も与えず、数多くのkansenから慕われているダンケルク達を問答無用で殺しかけた時点で絶対に許さない。
そんな状況がゲーム内のメルセルケビール海戦でしたが……
・ローンの立場
メルセルケビールに参戦する援軍であり、鉄血が差し出した人質でもあり、ホットラインを作るためのパイプ役であり、レッドアクシズから送り込まれた監査役でもある。それがローンちゃんの立場ですね。重要で何かあれば即座にロイヤル、セイレーンどころか味方であるはずのヴィシアにまで攻撃されかねない貧乏くじと言えますし。そんな任務に彼女を選択する程にはビスマルクもローンの事を信頼していたりします。
なおローンの性癖や内面などはもちろん把握済み。その上で今回はもっとも任務を果たしてくれる人材はといえば彼女しか選べませんでした(フリードリヒママも居ますけど本土防衛のための最終切り札ですから)
・指揮官
デリカシー皆無と言われていますが今回はちゃんとローンちゃんのおっぱいをガン見したことに反省するくらいの礼儀を見せる事に。
おっぱいをガン見したのはあのデカパイ本物か?武器がなんか仕込んでジャン・バールを殺してヴィシアを乗っ取ろうとする可能性も0ではないのでは?と過剰に警戒していただけで性的な意味でローンちゃんを見ていた訳ではありません。だめだこのバカ…早くマルスを摂取させないと…
・作者の本音
もっと、ラブコメとか日常パートも行いたいのに現状ダイスの女神様が許してくれない……
次回はいよいよ本格的なメルセルケビール海戦の前の小休止の話。少しずつタイムリミットが迫る中、指揮官は誰と交流するのやら?
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指揮官のAIイラストの感想はどうでしょうか?
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イメージ通り
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なんかイメージと違う
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その他(こっちの方がいいよ!と提供など)