あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
こんな筈じゃなかった。
ロイヤルネイビー所属のkansen、アリシューザは目の前に広がる現状に戸惑いを隠せずにいた。
「なんなのよ、コイツら……!」
思わず声に出てしまうくらいには、彼女の心境は混乱を極めていた。彼女の任務はケビール港を防衛する『潜在的な敵である』勢力。ヴィシア聖座の戦力の拿捕、及び轟沈。楽な任務な筈であった、心情的には世界初のkansen同士の本格的な激突に思う所はなくもないが、負ける道理は何処にも無かった。
元々の人数としてはロイヤルが18人に対し、ヴィシア聖座側は11人と、2倍以上の戦力差が存在する。更には多数の無人艦に加え、この戦いを確実に勝利させる為後詰めとして投入予定である戦艦ネルソン達の部隊と合わさればその戦力差は誰の目から見ても明白であった。
算出する結果は『勝利』の一色であり、この作戦は既定路線のままに執り行われる筈であった。ヴィシアは空母kansenを保有しておらず制空権はこちらのもの。更には元々交戦予定であるとフル武装で控えていた自分達とは違い。ダンケルク達は護教騎士は明らかに戦闘準備が出来ていない。鋼鉄の咆哮は敵を蹂躙し、麗しき女王陛下に勝利の美酒を捧げるものと信じて疑わなかった。
そう、全ては「ヴィシア本国艦隊と鉄血が介入してくる」という想定外が生じるまでは。元々今回の作戦は極秘の物であり、女王陛下自らが立案、主導した電撃作戦である。万全を期すために、情報封鎖も完璧なものであった。
しかし、何故か情報が外部に漏れており。それだけでなく、鉄血が独自の判断でセイレーンを利用した奇襲を仕掛けて来たのである。
『それは良い』
そう、それは別に構わないのだ。
エリザベス陛下達はありとあらゆる状況を想定しており、当然鉄血と本国艦隊の奇襲も少なからず想定していたのだ。無論鹵獲セイレーン艦による逆奇襲は想定外であったが、そんなもの一時的な混乱と損害の犠牲に過ぎない。そしてその代償は、ロイヤルが支払うべき価値がある代物だろう。
最初の奇襲で無人艦に損害が出た。特に補給物資を積んだ大型タンカーの喪失は痛手であり、鉄血と連携した護教騎士達の猛攻と襲いかかるセイレーン艦の群れの相手をするだけでロイヤルネイビーは少なからず損害を受けている。
だが、それも一時的なもだ。すぐさま陣形を整え反撃に転じてみせる。既にヴィシア側は援軍到着前に少なからず損害を受けており、奇襲から建て直しつつあるロイヤルネイビーは彼らを強引に粉砕する事が出来るだろう。
……そう楽観視していた自分を殴りたい…!!!
「なんで!!攻撃が当たらないのよ…!!」
しかし、現実は違った。これまで彼女はセイレーンとの実戦経験及び、対kansen向けの演習を何度も経験してきた。だがそれらの経験と努力を嘲笑うかの様に護教騎士達は明らかに異質な戦い振りを見せていた。
艦隊戦における基本とは連携を取り相手の攻撃を凌ぎつつ、敵の懐に飛び込み砲撃による飽和攻撃が最も効率的と言われている。その為には個々の練度及び、陣形を維持するのが第一だ。事実初戦のダンケルク達は見事な連携でロイヤルネイビーを迎え撃った。だからこそ「ごく普通に」数と装備で勝るアリシューザ達は圧倒する事が出来たのだ。
しかし、敵の援軍は違う。正確には鉄血艦隊な鹵獲セイレーン艦ではなく、ジャン・バール直属の部隊たちの動きが明らかに違うのだ。バラバラでありながら、お互いをカバーするように各々の位置取りを変更し。絶妙なタイミングで艦砲射撃や魚雷攻撃が襲ってくるのだ。戦力的には自分達の方が上回ってる筈なのに、どうしても決定打を与えられずに次々と友軍の損害は拡大していき、その苛立ちに歯噛みする。
魔法でもなく異能でもなく超能力でもない。こちらの攻撃は全て回避され、それと同時に敵の砲弾はまるでこちらの動きを完全に読んでいるかのように寸分違わぬ角度で飛来してくるのだ。こんな馬鹿げた状況があり得ると誰が想像できただろうか?
「くっ……!?」
再び背筋に怖気を感じ、即座に横に回避運動に入る。すると今までアリシューザがいた空間を掠めて砲弾が通過していった。放たれた方向に思わず目を向ける。その一瞬が致命的なミスだと知る事もなく。
「帰ってください…!」
背後から響いた凛とした声にハッとして振り返ればそこにはすでに眼前まで肉薄した駆逐艦型の褐色肌のヴィシアkansenが零距離から火砲を叩き込んでくるのが見えた。その紅蓮の業火を避ける余裕はなく。至近距離からの直撃を受けてアリシューザは盛大に吹き飛ぶ。
「きゃぁああ!!」
熱風が肌を焼き、痛みが全身を駆け巡る中、必死に意識を保ちながら態勢を立て直そうとする。しかし、容赦ない追撃の嵐の中、体勢を立て直す暇もなく彼女の身体はそのまま海面へと叩きつけられた。凄まじい衝撃が身体に走る中、朦朧とする頭の中で何とか体を起こそうと藻掻くもその腕に力が入らず。逆に強い眩暈が襲い掛かってきて上手く動くことが叶わない。
「このっ……!」
意識はあるものの、完全にこちらの装備はイカれたようだ。魚雷発射管は誘爆によって主砲と対空砲を残骸に変換し、無数の破片が散らばっている。
「くっ……まだ……終わらない……終わらせない……!!」
「アリシューザさん!?」
それでもなお、闘志を失わず立ち上がろうとするアリシューザだが、同じく僚艦であった駆逐kansen、フォックスハウンドが慌てて彼女を支える。そして周囲を警戒する様に目を走らせれば、自分と同じように傷ついた友軍が味方の援護のもと後方へと離脱していく姿を目にしてしまった。
(これは…そんな…!?)
自分と、同じように。
その瞬間、アリシューザにゾワリと悪寒が走る。彼女達は「同じ様に」魚雷発射管の誘爆が原因で武装を失い、「同じ様に」戦闘不能となり、「同じ様に」僚艦に担がれて後方へと離脱している。
(手を…抜かれ…違う!これは…!)
「離して!フォックスハウンド!出ないとフッドさん達が…!!」
もはや浮上する事すらままならず、フォックスハウンドに抱えられるように移動するアリシューザの脳裏に最悪の想定がよぎる。傷ついたkansenは皆前衛艦であり、その多くがあの褐色のkansenに仕留められたものだ。
無人艦や本国艦隊の連中がターゲットを追い込み、あの褐色kansenが近づくまでの猶予を稼ぐ。そして、音もなく。限界まで接敵彼女がゼロ距離砲撃でこちらの魚雷発射管のみをぶち抜いて戦闘を不能にし……わざわざロイヤルの他のkansenに回収される位置への吹き飛ばしている。
ヴィシア聖座の狙いは明らかだ。それは摂政フッドと攻撃部隊隊長であるアークロイヤルの轟沈。バナナの皮を剥くかのように一枚、また一枚とこちらの戦力を削ぎ落していき……その果てに待ち構えるのは言うまでもないだろう。
───『再現』は失敗に終わり、全ての計画は破綻する。
戦わなければ。護らなければ。そう必死に身体を動かそうとしても半壊した艤装は最早自分の言うことを聞いてくれず、唯々鉛のように重くなっていくばかりであった。
「やらせん…駆逐の妹達は…!」
「ここで、やられる訳は…!」
戦況は最早絶望的だ。鉄血艦隊によりヴァリアントとネルソンは足止めされ、アークロイヤルとフッドを守る護衛や無人艦は全滅。次々と砲弾が降り注ぐ中、二隻は必死に持ち堪えるがそれも時間の問題だ。
「あり、えない」
王家が誇る最大戦力であり、クイーン・エリザベスが心血を注いで鍛え上げた精鋭たちの猛攻に為す術もなく追い詰められていく。
主砲が一つしか存在しないジャン・バールにより歴戦の猛者であるフッドは最早満身創痍であり、その頑強な装甲も次々と砕かれる始末だ。そしてそれはアークロイヤルも例外ではなく、褐色と鉄血のkansenとによる息の合ったコンビネーションによって遂に限界を迎える。
「降伏か死か、返答は?」
「…くっ…」
「殺せ、ジャン」
冷徹なヴィシアの降伏勧告に応えられる筈もなく、無慈悲な砲弾が二人に迫っていく。
「……ぁあ……あっ……?」
身体中が燃えるように熱い。喉から吐瀉物が溢れ出て、それが咳と共に口からこぼれ落ちた。視界は赤く染まり、耳鳴りと共に平衡感覚さえ狂っていくのを感じる。もう指一本動かす力すら残っていないというのにそれでも尚命乞いをするように助けを求めようとする自身の滑稽さに思わず笑ってしまいそうだ。
……今、この場にいる戦えるkansenは既にいない。女王陛下に勝利の報を伝えねばならない者が……この世を去ろうとしている。
アリシューザにとっての敗北の味は、鉛のように重たく苦くてどこまでも虚しかった。
────天の裁きよ!
最早ロイヤルへの逆転の見込みはない。戦況はヴィシア・鉄血連合により最早撲滅戦の様相を呈している。後続の無人艦隊と前進のロイヤル艦隊は蹂躙され、唯一の希望であったネルソンたちは辿り着くことはできない。クイーン・エリザベスの「賭け」は徒労に終わった。残されたのは僅かな兵力で善戦する摂政たちだけ。
……そのはずだった。
突如として来襲した砲弾は雷撃のような轟音と共に
海面へと炸裂する。刹那、凄まじい衝撃波が巻き起こり、辺り一面が白煙に覆われる。
「!?」
「な……なんですか!?」
ヴィシア聖座と鉄血艦隊は驚愕と共に視線を向けた。
白煙が晴れればそこに鎮座するのは堂々とした威容を放つ、たった一人のkansenの姿であった。ポシュ…と気の抜けるような音共に彼女の背後から何かが切り離される。ロイヤルが開発中であった試作用の緊急展開用ブースターだ。正確にはロイヤルではなく……旧アイリス教国より離脱した「彼女達」が開発した装備である。
「……ざけるな……」
威風を放つkansenに言葉を失う戰乙女達であったが、憎悪と敵愾心を隠さない、殺意に満ちた声が戦場に木霊する。この世の全ての呪詛を込めたようなその言葉の主はヴィシアの指揮官だ。
彼の視線の先にいたのは見覚えのある顔、袂を分かった『祖国』の象徴とも呼べる人物。何よりも数千万人の国民の命と、相棒であるジャン・バールの心を踏み躙った諸悪の根源、憎しみの源泉の一つと言える『存在』そのもの。
『リシュリュー級戦艦一番艦 リシュリュー枢機卿』
怨念を超え、怨讐に満ちた邂逅が今ここに実現した。
「何故お前がここにいる!!!!!」
美辞麗句を並べ護るべき国民を見捨て。
国軍や政治中枢の過半数を引きつれて亡命。
そして『アイリス』の的である筈のロイヤルネイビーを救う為に自分達に火砲を向ける。
恨んでいた。許せなかった。覚悟はしていた。だが、リシュリュー枢機卿の突然の乱入は。鹵獲セイレーン艦の投入やダンケルク達の負傷により溜まったストレスを一気に沸騰させるものだった。
「……間に合い、ましたか…下がってください、御二方とも」
「貴女は…いえ、わかりました」
「……くっ、すまない…!」
そんな指揮官の声を無視し、リシュリューはアークロイヤルとフッドに声を掛ける。声を掛けられた両者は互いに顔を見合わせるも素直に指示に従い、苦虫を噛み潰した表情で撤退を選択した。
無論、侵略者は逃がさんと言わんばかりに鉄血艦隊やダンケルク達は即座に交戦を再開しようとするも、頭上より突如来襲した戦闘機『グールドゥ・ルスールGL.2戦闘機』のハラスメント攻撃とリシュリュー本人による艦砲射撃の雨により、それは叶わなかった。
「ベアルン、か……大方お前だけが先走り。ベアルンが先に射出した艦載機で撤退の支援をさせたと言うところだろうな」
その戦闘機の正体に気が付いたのか、ジャン・バールはギリギリと歯軋りをしながら呟く。一方のリシュリューはというと先程までの威圧感はなりを潜め、悲壮感を漂わせて重々しく口を開いた。
「…こんな形で再開する事になるとは、思いませんでした…あなた達には」
「それはこちらの台詞だ、リシュリュー!!何故お前がここに来た…!!」
ジャン・バールの質問に枢機卿は答えない。その様子が指揮官の憎悪をさらに増大させていく。
「それと……無沙汰しております、指揮官。いえア─」
「黙れ、今更どの面下げて俺たちの前に姿を表しやがった?この売国奴が」
「……そう言われても仕方がありませんね、貴方達の怒りはもっともです。ですが……」
そこでリシュリューは言葉を区切ると、こちらを睨み付ける指揮官へ視線を向ける。そしてゆっくりと瞼を閉じ、深呼吸を繰り返すと再度目を開く。
「私の役目は貴方達を止める事。ジャン・バール。引いてください」
────お前は何をいっているんだ?
増援の鉄血艦隊及びローンは想わず叫びたくなるを堪えるしかなかった。ロイヤルに亡命し、祖国を侵略する連中を肯定して守ろうとした同胞達に引けと命令する。余りにも言葉足らずであり、余りにも配慮のない言動。指揮官はリシュリューを売国奴だと痛烈に批判していたが、それに頷かざる得ないのだから。
そんな鉄血側の心境など露知らず。リシュリューは静かに言葉を続ける。
「此処であなた達と争う理由はありません。あなた達がフッド達を沈めれば、本気で女王陛下はアイリスを潰そうするでしょう。官民問わず艦艇は沈められ、護教騎士は轟沈し、各地は火の海となる。そんな未来を私は望んでいません」
「………ふぅ………」
上辺だけの言葉。心が伴ってない本音ではない言葉。元とはいえ最も祖国で尊敬された国家の指導者である枢機卿に護教騎士達もどうするべきか?と困惑するが、指揮艇越しから聞こえて来る地獄の底から響き渡るような深い息の音に顔を青褪めさせる。
「……そもそも、だ。お前が抜けなければ…そっちの連中がいれば、そもそもこんな状況には、なっていないんだ
それだというのに今更オレを止める為、と介入しに来るのか、お前は!」
それはジャン・バールも変わらない。祖国と自身を裏切った姉に怒りでもなく、困惑でもなく。何よりも失望の感情が胸中で渦巻いている。失望と、言い表し難い感情により生まれた沈黙の空間の中にジャン・バールの、慟哭にも似た怒号が響き渡る。
「お前は!何を言っているのか理解しているのか?ダンケルク達を殺しかけた屑共ではなく、オレ等の方を糾弾するのか!?アイリスを分裂させ!お前達が国防に穴を開けたせいで!!今この瞬間にも!セイレーンが民衆を惨殺しようとしているんだぞ!?」
突如軍の過半数が離脱した事の混乱は惨憺たる物であった。本国だけでなく世界各地に存在する植民地エリアも含めればアイリス教国の防衛範囲は相当な物。ギニア、アルジェリア、マダガスカル、インドシナ……世界に存在する殆どの植民地が現在セイレーンとの侵食を受けている。その数は未曽有の大災害と同等の被害であり。アイリス国民は現在阿鼻叫喚の様相を醸し出しているのだ。
第一次セイレーン大戦にてシーレーンが壊滅し、沿岸地帯は火砲に晒された記憶はまだ癒えない。毎年の様に鎮魂祭に参加していたリシュリューとてその事は理解しているはずなのだ。
「わかって、います」
リシュリューは沈黙している。自身の置かれた境遇を鑑みて、如何に自分が罪深い行いをしてきたのかを痛感しているのだ。今更どんな言い訳をしようが、一度放ってしまった弓矢は二度と戻ることはないのだ。
「────問答はもう充分でしょう」
それまで無言であったローンが手を上に上げると、それまで沈黙していた鹵獲セイレーン艦達が逃げるロイヤルネイビー達に追撃を開始する。援軍であった鉄血の指揮官達も同様に補給を終え、ハラスメント攻撃を仕掛けてくる戦闘機を撃ち落としていく。
雰囲気は最早最悪だ。枢機卿は道を譲る気配もなく、かといってレッドアクシズ達も止まる通りはない。相手の事情は如何あれ傀儡、国賊と化したリシュリューや、間も無く参戦するであろう離脱者達との決着はもはや剣を交える以外に方法はないのだから。
『これより追撃戦に移る。貴軍は祖国の防衛と叛逆者の捕縛を優先されたし』
電報がヴィシア側の指揮艇に届く。結果的にこちらを騙した責任と、リシュリューを捉えるのはヴィシア側であるべきだという政治的な判断。或いはこの地獄の様な姉妹が醸し出す空気感に耐えきれなくなっただろうか?
全速力で追撃に移る鉄血艦隊を見て焦る様にリシュリューは火砲を向けるが、ジャン・バールから放たれた至近弾が海面を泡立たせる。
「……引かない、というのですね」
「今更なんだ、今更何を思った?いや、何も思わなくていい。お前の答えは既に決まっていて、お前が今すべきことも決められている。ならば……!」
リシュリューの瞳は揺らいでいる。目の前に広がるのは自らの選択によって引き起こされた事態。その中心に己自身が居て。今まさに自身の手で同胞に裏切りを重ねているのだ。そんな中でも彼女の目はまだ輝きを失わず、絶望に打ちひしがれるわけでもなく凛とした視線を前へと向け続けていた。
それが何よりも指揮官を苛立たせる。なぜそんな目をしていられる。祖国を裏切っておいて、ジャン・バールとクレマンソーの気持ちを踏みにじっておいて、エリザベスの傀儡に堕ちてなお迷いを孕みつつ輝きを失わないリシュリューの瞳に心底腹が立っていた。
だというのに。だからと言うのに。
「……指揮官、その…私は…!」
ル・マルスは喉から搾り出すかの様に苦しんだ声を上げる。彼女程ではないが、モガドールやガリソニエールといった一部を除き他のkansen達もリシュリューを前に明らかに迷いを隠せない。
リシュリューはただの陣営代表ではない。政治的にも宗教的にも国家の指導者と言い切れるほど絶大な権力の持ち主であり、同時に多くの国民から慕われていた慈しみの象徴。かつて敬愛した人物を目の前にしてその武器を振るうことへの躊躇いが、彼女達を蝕む。
それは何よりも軍人としては許せない光景だ。しかし、指揮官はそれを否定することは出来なかった。寧ろ彼女たちのそんな葛藤を抱くことを羨ましいと思ってしまうのだ、そしてそれを是としてしまう以上、自身もまた彼女達と同じように……。
『マルスはダンケルクを護衛しつつ下がって指揮艇を守れ。ダンケルクはこちらで補給。ガリソニエール達はケビール港の防衛を優先しろ』
「……ごめん、なさい」
期待と覚悟、責務を果たせず気を遣われた事を理解してしまったマルスは項垂れながらダンケルクと共に指揮艇へと下がっていく。
ガリソニエールやモガドールといった審判邸の面々であれば、リシュリューを相手に戦えるだろうがプロヴァンスやブルターニュなど主力艦がフッド達に痛めつけられ、ベアルンが控えてる以上、参戦可能な彼女達は後方に下がらせざる得ない。
「あらあら、本気ですか?指揮官さん」
「……勝てばいいんだろ」
唯一、(監視役の為に)追撃戦に参加しなかったローンが指摘する。鉄血としてはさっさと数の暴力でリシュリューを捕縛すべきだと強く迫っても良かったというのに。ローンはそれ以上の言葉を口にせずジャン・バールと肩を並べて見せる。
お互いの信念の為に敵対し合うリシュリューとジャン・バール。姉妹として、陣営代表として因縁の決着をつけようとする中、ローンの存在は明らかに異物であったが知った事ではないと言わんばかりに彼女は手を擦り合わせる。
「まったく、不本意です。本当に、遺憾ですよ」
この様な悲劇が引き起こされている元凶は一体全体どこの何様のつもりなのか?この最悪な舞台の脚本家は、悪魔はきっと高みの見物をしているに違いない。それが神や運命という名の存在であれば八つ裂きに引き裂きたいと、ローンが怒りを込めれば彼女の生体擬装も感情の高ぶりに反応してグルル…と唸り声をあげている。
卑劣なロイヤルだけを確実に葬り去る為に描いたビスマルクの狙いは今や陣営同士、姉妹同士が戦場で殺し合う。悲劇の序章となってしまった。本心を口にしない枢機卿の裏ではまず違いなく小さな女王の影がちらついて見せる。
果たしてどんなやり取りがあったのだろうか?想像するだけで嫌悪感に襲われてしまい、ローンは思わず口内を噛み締める。しかしながら、結論に到達するためにも必要な工程であることに変わりはない。
(もしかして……指揮官さんがマルスちゃん達を下がらせたのは、戦意を喪失しているからではなく、指揮官さんなりの優しさなんでしょうか?)
その答えの正解をローンは知ることはなかった。
「あなたの言うことは、正しい。ですがそれでも…私はやれる事とやらねばならぬ事をやるしかありません…全ては、アイリスの為に」
「……最早、言葉は不要だ」
「ええ、それぞれのモノのために…」
『始めよう』
譲れない信念の元に剣を抜く二人。一人は未来の偶に剣を抜き。もう一人は今の為に牙を剥く。相容れない姉妹は互いの主張を通すべく今その刃を交えんとするのであった。
難産でした…この辺りの描写は、原作が優れているからこそ辻褄合わせやどうすれば面白くなるのか?を考えるのが大変です。
・アリシューザ
アリシューザは本来であれば実はこの戦場で轟沈してもおかしくはありませんでした。ですがヴィシア側が一人を戦闘不能状態として放置することで僚艦により離脱せざる得ない状況に追い詰めたからこそ生存し、ガラ空きになったアークロイヤルとフッドを確実に仕留めるという指揮官の策略は枢機卿の乱入によって破綻することに。ですが仮にごく普通に指揮をとった場合確実にアリシューザ達は自分たちを犠牲にしてでもフッド達を守る為に妨害と肉壁を兼ねたはずですので、判断自体は間違ってはいません。
・ローン
リシュリューの援軍によって姉妹同士で結果的に殺し合うハメになり、内心頭を抱えています。現在潜んでいた鉄血の指揮官達は逃げ出したフッドやヴァリアント達を追って追撃中。とはいえ、ベアルンのハラスメント攻撃を見る限りリシュリュー派(自由アイリス)の援軍が来ることはもはや確実なので姉妹同士の因縁の対決に乱入してでも急いで枢機卿を撃破しようとしてますが…
・ジャン・バール
恐らく一番泣いていい人。枢機卿は本心を言わずに侵略者に加担するわ、ローンがセイレーンをばら撒いて指揮官の心の地雷を踏みまくるわ、この戦いが終わった後も碌なことが起こらない現状にイラついているわでもう胃はボロボロです。
・指揮官
今回のノベライズで実は一番書く事に苦戦をしている人物。というのも本作では彼視点のお話はメルケルケビール海戦以降と決めており、その本心や感情の揺さぶりを第三者視点からしか書けない為。いつかは彼の過去パートなども含めてやってみたいですね。
・元ネタの判定
鹵獲セイレーンを見て激怒する指揮官を見て(本来は戦場で初見でこれを見て激怒したのだがノベライズでは予め伝えられていた事に)
dice1d10=10 (10)
1~3.ダンケルクに声をかけられた
4~6.マルスが寄ってきた
7~9.ぐえ、何すんだジャン・バール
10.*おおっと*←ファンブル
*おおっと*
dice1d10=10 (10)
1~3.通信…いや、演説…!?
4~6.……あら、少しお話しすぎちゃいましたかね?
7~9.…あなたの話を聞いた上でこうなったのは謝罪します、とローンが声を…
10.*おおっと*←ファンブル
ローンが謝罪したり、本来の歴史のように枢機卿の演説が戦場で流れたり、ロイヤル側がボロボロながらも追加部隊により第二次戦闘が始まる選択肢が外れてファンブルに
dice1d3=2 (2)
1.……あら、フッドさんが殿、ですか
2.…は?なんでここに…!?←まさかの枢機卿参戦
3.鉄の心
こうして、本来の歴史であれば枢機卿がロイヤル本国でリシュリューが自由アイリス宣言をぶち撒ける場面でまさかの枢機卿本人が戦闘に参加して、侵略者側であるフッドやアークロイヤルを離脱させる事に。完全に歴史が崩壊して姉妹同士で殺し合う本編よりも酷い展開になってしまうのでした。ちなみにヴァリアントやネルソン達は離脱しています。
この戦いに勝利してもヘタをするとリシュリューが死ぬ上に、将兵に少なからず動揺が走るのも確実。そしてヴィシアは最早鉄血と共に歩むしか道はなく……ヴィシアからすれば何の為に戦ったんだ言いたくもなるでしょう。
次回は枢機卿vsジャン・バール+ローンペア。本音を口にしないお姉ちゃんにキレる妹と一般通過ゆるふわお姉さんが襲い掛かります。
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イメージ通り
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なんかイメージと違う
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その他(こっちの方がいいよ!と提供など)