事務所の中は穏やかで、窓の外からは柔らかな陽射しが差し込んでいた。
けれど私の心は、ずっと落ち着かないままだった。
誰かからの視線を感じるのは、決まって外にいるとき。
一人で歩いている時や、プロデューサーさんと一緒に帰っている時。
何気なく通りを歩いていても、背後にぴたりと視線が張りついているような気がする。
あのデートの日。
初めての幸せな時間の中で、ふいに感じたあの視線。
あれから何度も、似たような気配を感じることがあった。
振り返っても、そこには誰もいなかった。
人混みに紛れて、ただ風が吹き抜けるばかり。
最初は気のせいだと思っていた。
偶然が重なっているだけ、そう自分に言い聞かせてきた。
でも――
あまりにも何度も続くから、今日も事務所に来る前から不安だった。
また視線を感じるのではないかと考えるだけで、胸が締めつけられるようだった。
私はノートを閉じて、机に顔を伏せた。
――また、今日の帰りもそうだったらどうしよう。
大丈夫、大丈夫。
心の中で何度繰り返しても、頭の隅から不安は消えてくれなかった。
「……プロデューサーさん……」
思わず口に出してしまった名前が、少しだけ心を落ち着けてくれる気がした。
誰にも言わずに抱え込んでいたこの気持ちを、そろそろ打ち明けてもいいだろうか。
やっぱり私には、あの人しかいない。
こんな私の話にも、きっと耳を傾けてくれるはず。
――しばらくして、扉が開く音がした。
私の名前を呼ぶ優しい声が聞こえて顔を上げると、プロデューサーさんがいつものように穏やかな表情で立っていた。
「あっ……プロデューサーさん……」
自然と立ち上がって、その人のもとへ歩み寄る。
さっきまでの不安が、少しだけ遠のいていく。
私は意を決して、胸の中に溜め込んでいた不安を口にした。
ここ最近、外に出ている時に何度も視線を感じること。
気のせいかもしれないけれど、怖いと思うようになってきたこと。
彼は真剣な表情になって、私の話を最後まで聞いてくれた。
そして優しく、でもしっかりとした声で言った。
「……それは、もしかしたらストーカーかもしれないな。今はまだ決めつけられないけど、しばらくは外に出る時は俺と一緒にいよう。なるべく一人にならないように」
その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
だけど同時に、また迷惑をかけてしまったと思って、自然と目が伏せられた。
「……ごめんなさい。私の不幸のせいで……」
彼はすぐに首を振った。
「違うよ。ほたるのせいじゃない。それより、何か心当たりはあるか?付きまとってくるような人物に」
心当たり――そう言われて、少し考える。
たしか……と、思い出す。
「……そういえば、少し前……数ヶ月くらい前の握手会の時に、ちょっと気になる人がいました」
記憶の奥から、あの男の人の顔がぼんやり浮かんでくる。
「私の何が気に入ったのか、わからないんですけど……何度も握手の列に戻ってきて……変なことを言ってきたり、すごく近づいてきたりして。怖くて……でも邪険にできなくて……」
あの時のことを思い出すだけで、体がこわばる。
好意というより、圧をかけてくるような接し方。怖かった。思い出すだけで、少し手が震える。
プロデューサーさんは真剣な目をして、続きを促すように言った。
「その人は、今はどうなってるんだ?」
私は記憶を辿りながら、でもきちんと伝えた。
「あの時、スタッフさんが気づいて……それで、すぐに会場から出されて……出禁になったって聞きました」
言い終えた時、また胸が少しざわついた。
まさか、とは思いたくない。
でも、心のどこかが、あの日の視線とあの人の目を重ねていた。
「……そんなことがあったなんて、初耳だよ。どうして言ってくれなかったの?」
彼の声は、どこか悲しそうで。責めているわけじゃないのは分かっていても、胸が痛んだ。
「……すみません……。私、こういうこと……わりとしょっちゅうで……。それに、それ以降は見かけなかったから……もう大丈夫だと思ってて……」
小さな声で答えると、彼は深く息をついた後、優しく微笑んでくれた。
「……そっか。でも、今度からは何でも相談して。ひとりで抱え込まないでさ」
そう言って、そっと肩を寄せてくれる。
そのあたたかさに、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「ほたるみたいに大人しくて優しい子は、変なやつに目をつけられやすいんだから……俺は、それが心配なんだ」
真剣なまなざしと、穏やかな声。
そのすべてが、私の心を守ってくれているようだった。
迷惑ばかりかけてしまう自分が情けなくて、申し訳なくて。
でも、彼がそばにいてくれることに、安心して……。
気づけば、目の奥がじんわりと熱くなっていた。
彼は、何も言わずに私の肩を引き寄せて、そっと抱きしめてくれた。
その胸の中はあたたかくて、優しくて、震えていた心が少しずつ落ち着いていくのがわかった。
――もっと、強くなりたい。
彼に守ってもらってばかりじゃなくて、ちゃんと前を向けるようになりたい。
そんな気持ちが、心の奥に芽生えていた。
――
そして仕事を終える時間になった。
事務所の中が少しずつ静かになり、今日も一日が終わろうとしている。
「お疲れ様にゃー」
「お疲れさまでした♪」
入り口の方から、みくさんと茄子さんの声が聞こえてくる。二人とも軽やかな足取りで帰り支度をしていた。
「杏は?」と彼が聞くと、
「定時ぴったりですぐ帰りましたよ」と茄子さんが少し苦笑まじりに答える。
「……あいつらしいな」
彼はそう言って、楽しそうに笑っていた。
その何気ないやりとりと、みんなの明るい雰囲気が、いつもの事務所を満たしていた。
――あぁ、大丈夫。まだ怖さはあるけれど、私は一人じゃない。
自然と、少しだけ気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
帰り道、私とプロデューサーさんは並んで歩いていた。
駅までの道は、春の風が少し肌に心地よくて、昼間の不安も、少しずつ薄れていくようだった。
「今日の撮影、みくのアドリブすごかったな。あれ、台本になかったろ?」
「はい……急に、猫の鳴きまねしながら歌い出して……私、笑いそうになりました」
「俺も後ろで堪えるの必死だったよ。カメラ止めるわけにもいかないしな……」
彼との他愛もない会話は、どうしてこんなに温かいのだろう。
自然と口元がゆるんで、思わず笑顔になってしまう。
――でも、ふと。
また、あの感覚が私を包んだ。
前方から、誰かの視線を感じる。強く、じっと、見つめてくるような気配。
私は思わず足を止めてしまい、身構えた。
――まさか、また……。
でも、その視線の主は、どんどんこちらへ近づいてくる。
そして、はっきりと見えてきたその姿に、私は思わず目を見開いた。
「……杏さん?」
彼も少し驚いたように言った。
「帰ったんじゃ……?」
「ああ、うん」
杏さんはポケットに手を突っ込んだまま、気だるげに答える。
「新作のゲーム、今日発売だったんだよねー。それ買いに行ってたの」
「……なるほど。だから定時ダッシュだったのか」
彼が納得したように小さく笑う。私も、ちょっとホッとした。
――でもその次の杏さんの言葉に、また息をのんだ。
「にしてもさぁ……ラブラブなカップルじゃん。いやー青春って感じ?」
「……えっ」
思わず、私は声を上げてしまった。
「し、知ってたんですか……?」
杏さんはにやりと笑ったまま、私を見つめていた。
「やっぱりそうだったんだ」
杏さんがぼそりとつぶやいて、口の端を緩めた。
「今の言葉で確信したよ。……かまかけてみたら、案の定って感じ」
私は――しまった、と思った。
軽く投げられた言葉に、反射的に反応してしまったことに気づいて、彼の方を見上げる。
「……すみません……」
バレてしまったことを、私は申し訳なく思って小さく謝った。
彼も少し焦ったように、杏に話しかける。
「杏……よくわかったな」
「んー、なんとなく?」
杏さんは気だるげに肩をすくめて、淡々と続けた。
「最近の二人、なんか空気違ったし。距離感もそうだし……わかるでしょ、そういうの」
彼が言いかけた。
「この事は……」
それを杏さんは、あくびまじりにさえぎった。
「大丈夫だって……言いふらしたりしないよ。めんどくさいし」
そう言いながら、いたずらっぽく笑った。
「ただ、意外だなーって。プロデューサーの相手がほたるってとこが」
私は胸の奥がひやりとするのを感じながら、それでも杏さんの笑顔に、どこか安心していた。
茶化すようでいて、でも一線は越えない――そんな彼女らしさが、少しだけ救いだった。
そして彼は少し真剣な表情で、彼女に向き直った。
「でもさ、最近……ほたるのこと、尾行してたんだろ?内緒にしてたのは悪かったけど、ほたるが不安がってたんだ。だから、そういうのは……もうやめてくれないか」
彼の言葉に、私は思わず彼女の顔を見た。
だが、彼女はきょとんとしたように首を傾げた。
「え?なにそれ?杏、今日たまたま通りがかっただけだよ。尾行とか、そんなの知らないし」
彼女の言葉は、からかいの色もなく、本当に心当たりがないようだった。
じゃあ――あの時も、あの時も、今日以外の全部は……彼女ではなかった?
背筋が冷たくなった。あの視線の正体が、杏さんだと知って少しだけ安心していたのに、それが思い違いだったなんて。まだ、終わっていなかったのだ。
私たちをじっと見ていた誰かは、今もどこかで――
心臓がどくん、と重く打つ音が耳の奥に響いた。彼の隣にいながら、私はまた、あの日々と同じように不安の中に引き戻されていく気がした。
「なんかあったみたいだね。どういうこと?」
少しだけ真剣な顔になった彼女が、立ち止まって尋ねた。
彼は、今までに起きた出来事――私が最近感じていた不安な出来事を話し出した。
デートの時から感じる何者かの視線、そして以前の握手会のトラブルでの、その男の存在についても彼女に説明した。
話を聞き終えた彼女は、ふと空を見上げて小さく呟いた。
「ふーん、そんな事があったんだ。初デートの時から……ねぇ」
「杏じゃなかったとすると……やっぱりストーカーの可能性が高いな」と彼がこぼすと、彼女は少し考え込むような顔をした。
「うーん、今の所は何とも言えないよねー。でも、また何かあったら教えてよ。協力くらいはしてあげるからさ……飴玉くれたら、だけどね」
「安いな……」
彼が少し笑って肩をすくめると、私はほっとして頭を下げる。
「ありがとうございます……杏さん」
「いーよいーよ。こう見えてもほたるよりも年上だし、頼ってくれていーからね」
そう言って彼女はドヤ顔を見せると、ポケットからゲーム機を取り出して気ままに手を振りながら歩き出す。
「じゃ、ゲームあるから帰るねー。あんまり遅くなんないようにしなよ」
そう言って彼女は去っていった。
背中だけが見える距離になっても、どこか頼れる雰囲気が残っていた。
「……でも、やっぱり警察に相談した方がいいんでしょうか」
彼の隣を歩きながら、私は不安な気持ちを隠せずにそう尋ねた。けれど彼は、少し首を振ってから静かに答えた。
「まだその人物の姿も見てないし、実害がないと警察は動いてくれないんだ。今の段階では……難しいかもしれないな」
それはきっと正しい判断だった。けれど、私は気持ちが沈んでしまって、自然と声が小さくなった。
「……そうですよね」
つい肩が落ちてしまう。それに気づいた彼が、そっと私の歩調に合わせながら優しく話しかけてくれた。
「だから、なるべく人通りのある大通りを歩くようにしよう。時間が遅くなりそうな時は、今日みたいに俺がそばにいるから。安心してよ」
その言葉に、少しだけ胸の奥が温かくなった。不安は完全には消えないけれど、彼がいてくれる――それだけで、私はまた前を向ける気がした。
――
それから、しばらく経った日のことだった。
今日のレッスンも終わって、事務所にいた私は、もうすぐ帰る時間になっているのに、まだ立ち上がれずにいた。
彼に言われた通り、できるだけ一人で外を歩かないようにした。
遅い時間になりそうな時は、彼が一緒にいてくれたし、人通りの多い道を選ぶようにも心がけていた。
……なのに。
人混みの中でも。
彼と一緒にいる時でさえも。
どうしても、誰かの視線を感じてしまう。
周囲を見渡しても、上手く隠れているのか、姿は見えない。でも……確かに誰かに見られているのは間違いなかった。
……誰……?
やっぱりストーカー……?
それとも……週刊誌の人とか……?
でも……私は、まだそんな……知名度のあるアイドルじゃないのに……。
頭の中が、ぐるぐるする。
次々に浮かんでくる不安に、呼吸が少しだけ速くなる。
考えれば考えるほど、怖くなってきて。どうしてこんな事に……って、自分を責めてしまいそうになる。
――だめ。落ち着かないと。
心の中でそう言い聞かせても、焦りと不安が、じわじわと胸の奥を蝕んでいくのだった。
――そんな時、プロデューサーさんと杏さんが戻ってきて、私の前に立った。
「やっぱり、まだ……つけられてる感じがするのか?」
彼がそう尋ねて、私は小さくうなずいた。
「はい……なんだか……まだ、ずっと、誰かに……」
言いかけたところで、杏さんがじっと私を見つめた。
「初デートの日から……だったよね?その日の事、詳しく教えてよ」
私は一瞬迷ったけれど、いつもより真剣な目をしている杏さんを前に、ゆっくりとうなずいた。
あの日、予想外に雨が降っていたから、予定を変更してプラネタリウムに行って……不幸で服が汚れてデパートで買い物を……そして帰り際に誰かからの強い視線を感じた事。
彼のお姉さんのお話だけは、さすがに伏せたけれど、それ以外はできる限り思い出しながら丁寧に伝えた。
「へーそんな感じだったんだ。てかデートでプラネタリウムとか、ロマンチックすぎでしょ。……でもプロデューサーは、ほたるの不幸体質の事も計算して、雨降った時のデートプランもちゃんと考えときなよねー」
杏さんがちょっと笑って、彼を肘でつつくような仕草をした。彼はばつが悪そうに小さく笑った。
「いや、面目ない……」
そんな彼を見て、私は慌てて首を振った。
「いえ……そんな……プロデューサーさんが謝らなくても大丈夫です。私の不幸が悪いので……それに、服もコーディネートしてもらえましたし。私、あの日は幸せでした」
杏さんはふっと笑った。
「ま、ほたるが幸せならいっか。……で、その時に買ってもらった服、あれから着たりしてないの?見た事ないけど」
杏さんのその言葉に、胸がちくりとした。
あの服を、私が着ない理由……今だに暗い色の服装をしているのには、わけがあった。
「えーと……せっかくのプレゼントなんで……ちょっと、勿体無くて……」
そう言いながら、足元を見つめた。
だけど、それだけじゃないことも、ちゃんと伝えたかった。
「それに……明るい色の服って、まだちょっと……恥ずかしいというか……」
そう言った途端、彼の声が聞こえた。
「俺は、全然似合ってると思ったけどな……」
視線を上げると、彼が少しだけしゅんとした表情をしていて、胸がぎゅっとなった。
あの服、気に入ってくれていたんだ。ちゃんと、わかってたのに……私は、慌てて首を振った。
「い、いえ、着たくないわけじゃないんです。ただ……まだ勇気が出ないだけで……」
言いながら、自分でも情けなくなってくる。
でも……また着たいって気持ちは、本当だった。
あの服を着たときの、少しだけ自分に自信が持てた気がしたあの感じ――あれを、忘れたくない。
そんな私たちを見て、杏さんがあきれたような顔で言った。
「ねぇプロデューサー……何ちょっと拗ねてんの?てかほたるも、明るい色の服着ても全然変じゃないんだからさー、着ればいいのに」
からかうような声。でもその奥に、ちゃんと優しさがあるのが、わかる。
――いつか、堂々とあの服を着て、彼の隣を歩けるように……なれるといいなと思った。
「んー、やっぱその日から着てないのか……」
杏さんがぽつりと呟いた。
その横顔は、いつもの無気力そうなものじゃなくて、ほんの少しだけ真剣に見えた。
何か考えているのかな……と、私は小さく首をかしげる。
服がどうかしたのかと私が尋ねようと口を開きかけた、その時――
「ま、今までの話を聞いててさ。ちゃんと清い付き合いしてるのがわかったから、よかったよかった」
そう言って、杏さんはけらけらと笑った。
その笑顔は、なんだかからかっているようで、でも少しだけ安心してくれているようにも見えた。
「当たり前だろ。ほたるは高校生なんだからな。ちゃんとプラトニックな関係だって」
隣で彼がそう言って、私は思わず頷いた。
もちろん、ずっとそういう関係でいたいと思っているってわけじゃないけど……でも、彼がちゃんと私のことを考えてくれてるのは、わかっていた。
「えー?ちゃんと高校卒業するまで、一線超えないでよー」
杏さんがまた、茶化すように言って、私は顔が熱くなるのを感じた。
でも、私はちゃんと答えなきゃいけないって思って顔を上げた。
「……大丈夫です。それに今は……プロデューサーさんが隣にいてくれるだけで……私、幸せですから」
その言葉は、私の心から出たものだった。
本当は、もっといろんな不安もある。怖いこともある。だけど――
彼が近くにいてくれるだけで、それが全部、少しだけ和らいでくれる気がした。
「おぉー、眩しいくらい純粋だねー。ま、ほたるが大人になったら年の差なんて今より気にならなくなるよ」
そう言って、杏さんは私と彼の顔を交互に見ながら、いたずらっぽく微笑む。
「えーと、プロデューサーってほたるの何個上だっけ?たしか茄子と同い年だったよね?」
「そうだな。俺は今23だよ。だから8……いや、もうすぐ7歳差になるか」
彼の言葉に、胸の奥が軽く跳ねた。
「私の誕生日、ちゃんと覚えていてくれてたんですね……嬉しい」
小さな声でそう呟くと、彼は優しく微笑んだ。
「もちろん覚えてるよ。4月19日……もうすぐだな」
彼が、私の誕生日を覚えていてくれた――その事実が、胸の奥でふわりとあたたかく広がった。思わず顔が緩んでしまいそうになるのを、必死で抑える。
「だから、ほたるに不安な気持ちのまま、誕生日を迎えてほしくない。早く何とかしないとな」
まっすぐにそう言ってくれる彼の声が、少しだけ強くて優しくて、心に沁みた。
「なんか彼氏っていうより、ほたるのお兄さんって感じだよね」
杏さんが肩をすくめながら、呆れたように笑う。
「でも、ほたると付き合うにはプロデューサーみたいな誠実な人じゃないとね。うん、お似合いだよ」
私は思わずうつむき、両手を胸元でぎゅっと握りしめる。
「……はい。ありがとう……ございます」
言葉にした途端、顔が熱くなってしまった。
まだ事件は何も解決していない。それでも――こんなふうに、あたたかい空気に包まれる時間が、少しだけ不安を忘れさせてくれるような気がした。