※原作とアニメのクロスオーバー
原作の“魔王“とアニメの“勇者“の話
セラどろ色は薄め

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pixivのかなさんの「クロス・ワールド」が発想の元になりました。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13041306



第1話

「あっはっは、何か大仰な玉座がありますよ」

 『謁見の間』と名のついた部屋。それなりの広さに禍々しい構えの玉座がでーんと据えられていた。現在の“大魔王“と“魔王城の面々“を知っていると笑ってしまう。

 漫画マニアが出歩いたり引きこもったりしていて大魔王らしい露出をほとんど見たことがないし、ここもしばらく使われた様子はなさそうだ。

「ほら、どろしーちゃん」

 部屋の明かりを消して間接照明を点ける。部屋と僕たちは紫や緑に妖しく照らされた。

「そうしてるとホント、魔王っぽいわ。ううん、本当に魔王なのよね」

「やめてくださいよ」

「魔王の仕事をしてるのに今さらじゃない」

「アレと血がつながっているなんて認めませんからね」

「あっほら、こんなのもあるわよ」

 その辺を漁ってたどろしーちゃんに何かを被せられた。

「うわっ、なんですか!?」

 急に視界が遮られて、あわてて外す。

「マスク、ですか」

 いかにも魔王っぽい顔付きの被り物だった。そういえばアレがこのマスクを被って東京に現れたことがあったっけ。威厳を保つためなのか素顔を見せないためなのか。

「ほらほら!」

 どろしーちゃんは僕を玉座に座らせ、仮面を被せて笑う。

「ふふっすごい、本当に魔王だわ……きゃあ!」

 どろしーちゃんの腕を引いてヒザに乗せる。

「じゃあ魔王は魔王妃を従えましょうか」

 ついでにPOM、と魔法で服を変える。

 胸元が開いて大胆にスリットが入ったタイトなドレス。毒々しい紫色で魔王妃にふさわしい。

「……もう!」

「後は勇者でも来れば完璧ですね」

 そんなことを言ってると入口の辺りがポウ、と光りだす。

 魔法陣のようなものが光で描かれ、人影が3つ浮かび上がった。

「えっ、ここが大魔王の城?」

「暗いぞ」

「気をつけてください!」

 そこに現れたのは……

「チャチャ?」

「しいねちゃん!」

 ついでにリーヤ君も居た。

 そう、そこに立っていたのはいつもの三人組だった。でも、何かおかしい。

「チャチャさん! 大魔王ですよ!」

「ええっ、いきなり!?」

 慌てる二人の横でリーヤ君は首をかしげている。

「えっと、えっと……そうだ変身!」

 チャチャは胸に下げていたアクセサリーを掲げる。

「愛よ!」

「勇気よ!」

「希望よ!」

 

「…………」

 

 三人はポーズを取ったまま動きを止めている。

「ええっ、ホーリーアップできない!?」

「も、もう1回やってみましょう!」

「おう!」

 三人は同じ口上でポーズを取るが、どうやら思った効果がなかったらしい。

「どうしようどうしよう!」

「よし逃げるぞ!!」

「扉が開きません!?」

 三人は一所懸命ドアを押しているけど、手前に引かないと開かないんですよねソレ。力づくで開かないようにちょっとした魔法もかかっているようだし。

「……あのー、何してるんですか」

 パチン、と照明を明るく切り替える。

 三人は振り返り、こちらを見上げた。

「え、あれっ、あれが大魔王なの?」

「なんか小さくないか?」

「たしか5メートルって聞いたはずですが」

 三人はこっちを見て戸惑っている。

「セラヴィー、マスク」

「あ、そうでした」

 魔王のマスクを外すと三人とも目を丸くする。

「セラヴィー先生!!」

「ええっ!?」

「先生が大魔王だったの!?」

「意外な展開です!」

 リーヤ君は再び頭をかしげる。

「待ってチャチャさん、お師匠様まで居ます。あれ、でも髪が黒い? それにお師匠様がセラヴィーさんとあんなにくっついているなんておかしいです! 油断させるためかもしれません!」

 ああ、そんなことを言うからどろしーちゃんがヒザから降りてしまった。

 二人はリーヤ君を見る。

「うーん、二人ともセラヴィーとどろしーの匂いだけど、セラヴィーとどろしーともちょっとだけ違うんだよなあ」

 違うと言えば、明るい中で見た三人も違っていた。

 幼い。

 うらら学園に通っていた頃ぐらいに見える。

「……セラヴィー先生、なの?」

 チャチャがおそるおそるたずねる。

「確かに僕はセラヴィーですが、あなたたちも僕の知っているチャチャとは違うようですね」

「……どういうこと?」

 

 

 チャチャたちは平行世界のチャチャだった。

 よく似ているけど、彼女らの世界では大魔王が世を支配するためにチャチャを亡き者にしようとしているらしい。

 今は大魔王を倒すために旅を続けている途中だとか。

「で、『魔王城』って矢印が指してあった魔法陣に乗ったわけですね」

「うん」

「そんな怪しげなものにホイホイ乗っちゃいけません。ワナかもしれないんですから」

「ごめんなさい」

 平行世界のチャチャもうっかり者のようだ。この子たちが国を救わなければならないとは、向こうの僕の気苦労を思うと同情してしまう。

「それで、さっきの呪文を唱えると変身するわけですか」

「うん。ダメだったけど」

「世界が違うからでしょう。その聖なる力が必要ないですから」

「こっちの世界に大魔王は居ないの?」

「一応居ますが……あくまで肩書の1つ、って程度で、アレが世界を支配するなんて本気で思ったことはないでしょうね」

 実力だけなら出来るかもしれないけど、漫画マニアで良かったと言うべきか。

「ねえ、あんたなら向こうの大魔王ぐらい軽く倒せるんじゃない?」

「うーん、たぶん倒せるでしょうけど」

「倒せるんだ……」

 しいねちゃんがつぶやく。

「でも、やっちゃいけないと思うんです」

「どうして!? この子たちが大変な思いするぐらいなら、倒しちゃえばいいじゃない!」

「そーだそーだ!」

「それはダメなんです」

「なんでよ!?」

 首を締め上げるどろしーちゃんの手を外しながら説明する。

「チャチャにはチャチャの、僕には僕の使命があるんです」

「使命……?」

 チャチャは胸のペンダントに手をあてる。

「僕が倒せるって言ったのは、その世界の理(ことわり)から外れているからで、君たちの世界の”セラヴィー先生”が僕と同じ力を持っていてもたぶんムリだと思うんですよね」

 チャチャたちはキョトン、とした顔で聞いている。

「君たちには悪を倒す聖なる力が与えられている、”セラヴィー先生”はそれをサポートする役割を与えられている。その道筋を無視して僕が横から倒したらその世界がどうなるかわかりません」

「でも、外から来た人間が敵を倒す物語もあるでしょう」

「それだって『外の人間が世界を救う』とかの伝説があるはずです。それはその世界に組み込まれているものなんですよ。君たちの世界にそんな言い伝えはありますか?」

 チャチャとリーヤ君が首をかしげ、しいねちゃんは少し考えた後に首を振る。

「聞いたことないです」

「そういうことなんですよ」

「納得いかないわ」

「僕だって心苦しいです」

 こんな子供たちに国の命運を握らせるなんて無茶な話だ。物語ではよくあることだとしても、間接的とはいえ関係者となってみると簡単に受け止められない。彼らがその使命を受け入れているのは「その世界の住人」だからだろうか。……単に深く考えてないだけな気がしないでもないけど。

 改めて三人に向き合う。

「君たちの世界は君たちが救うしかないんです。そのために”セラヴィー先生”や”どろしーちゃん”も精一杯サポートするはずですし、僕たちも応援しています」

「うん。よくわからないけど、がんばってみるわ」

 チャチャは胸元のペンダントに手を当てて、神妙にうなずいた。

 

「ところで、先生たちはなんでそんな格好してるの?」

 自分の姿を思い出したどろしーちゃんは魔法で着替えようとするけど、僕の魔法を打ち消すことは出来ない。

「ちょっと、コレ戻しなさいよ!!」

「ええー。もったいないなー」

「いいから!」

 ぎゅうう、とつねられて仕方がなく着替えさせた、昔よく着ていた魔女の格好に。ついでに僕も久しぶりにローブに着替える。

「エリザベスは? こっちの世界には居ないの?」

「居ますよ」

「こんにちはチャチャ」

 POM、と魔法でエリザベス(?)を出すと子供たちは安心したようにホッと息を吐く。

(まだ持ってたの)

 どろしーちゃんはジト目でこちらを見る。

 魔界にムリヤリ帰された時に寂しさのあまり自分を囲むようにエリザベスをいくつも作った。エリザベス本人は自立してしまったけど、ほかの子たちを処分するなんてできなかった。

「知り合いの城に『謁見の間』なんて面白いものがあったから、ちょっとコスプレしてみただけです」

「じゃあ先生のお城じゃないの」

「ええ、全くもって、ちょーっとした知り合い程度の人の城です」

 どろしーちゃんは何か言いたげにコチラを見る。

「服もすごく似合ってたわ」

「本当に大魔王かと思っちゃいました」

「実は大魔王だったりしてな」

 どろしーちゃんはずっとこっちを見ていたけど、別れる彼らに要らぬ情報を増やすこともないので、そしらぬフリをした。

 

 

「……でも、帰るにはどうしたらいいのかしら?」

 三人は入口のあたりを振り返る。

「魔法陣がありません!」

 光の魔法陣は彼らがやってきたと同時に消えてしまっていた。

「大変っ! 帰り方が分からないわ!!」

「どーしたらいいんだ!?」

 三人はバタバタと慌てている。

「来た時の魔法陣は覚えてますから、何とかなるでしょう」

「セラヴィー先生すごーい!」

「本当に何でも出来るんですね」

「イヤミなやつよね」

「ホメてくれてもいいじゃないですか〜」

「あーハイハイ、すごいすごい」

 どろしーちゃんがおざなりに頭をなでてくれるのを見て、三人が目を丸くする。

「あいたっ」

 居心地悪そうにべちっとおデコをたたくと、どろしーちゃんは離れてしまった。

(あんなのセラヴィー先生じゃないわ)

(やっぱり、だまされているのかもしれません)

(でも変態は変態だぞ)

 子供たちはひそひそと小声でしゃべっている。向こうの僕はまだ表面を取り繕っているらしい。

「あんたたちの”先生”がどんなか知らないけど、たぶん中身は一緒よ」

「そうなの?」

「でも若返った時を思い出すと、あんな感じでしたよね」

「変態だしな」

「何か偉そうなこと言って先生ぶってても、本当は寂しがり屋の情けない男なんだから」

「どろしーちゃん……」

 (元)世界一だ魔王だと持ち上げられても、どろしーちゃんだけはいつも何者でもない僕を見てくれる。

「抱きつくな!」

 殴られる僕を見て、子どもたちはまた遠巻きにヒソヒソと話し出した。

 

 

 来た時の魔法陣を参考にして向こうに送る魔法陣を描く。試してみなくとも失敗はないだろう。彼らの物語が「大魔王を倒す」なら、ここはただの寄り道、戻るための道筋は描かれているだろうから。

「チャー子、犬、頑張って。応援してるわよ」

「うんっ」

「犬じゃねーぞ」

 どろしーちゃんはしいねちゃんに向き合う。

「しいねちゃん……」

 弟子をぎゅっと抱きしめる。

「大丈夫、しいねちゃんは世界一の………ううん、私の世界一の弟子だから、きっとなんとかなるわよ」

「はい、お師匠様」

 二人は見つめ合い、うなずいた。

 こういう時は師弟の結びつきに嫉妬する。僕たちが心と体で結ばれても、それ以上のものがあるように思ってしまう。むしろ体の結びつきがない分、神聖で揺るぎないものに感じられた。

 

「リーヤ君、しいねちゃん、チャチャを頼みます」

「当たり前だろ」

「はいっ!」

 それぞれと握手する。

 しいねちゃんは僕の左手に目を留め、「あ」と小さく声をもらした。左手を隠して笑いかける。たとえ一時的でも指輪を外すことは考えられなかった。

 しいねちゃんはどろしーちゃんを見、こちらを見上げる。

「……お師匠様をよろしくお願いします」

「もちろんです」

 続けてチャチャに向き合う。

「チャチャ、持ち前のその明るさで進んで行きなさい。でも気を引き締めていくんですよ」

「はいっセラヴィー先生!」

「応援してるわ、チャチャ」

「ありがとうエリザベス。私がんばるわ!」

 両手を握りしめて無邪気に笑う。

 その頭に手を当てるとこんなに小さかっただろうか、と思う。送り出すことしか出来ないもどかしさを、そっとしまい込んで笑い返した。

 

 

「じゃあね!」

「またな」

「ありがとうございました」

 子供たちが光の中に消えていくのを二人で見送った。

「頼りないけど、本当に大丈夫なのかしら」

 どろしーちゃんの手をそっとにぎる。

「信じましょう。僕の知っているチャチャたちだって、そんなにヤワじゃないはずです」

「……そうね」 

 笑いかけると不安そうに結んでいた口元が緩む。

「そういえば、さっきの『僕の役割』ってのは何なの?」

「それはやっぱり……」

 彼女の両手を取る。

「どろしーちゃんと愛し合う、しかないですよね」

「……聞くんじゃなかった」

「世界が変わろうと、僕らは絶対に結ばれる運命ですから」

「はいはい」

 どろしーちゃんの腰に手を回して抱き寄せた。

「ちょっと、こんなところでやめてよ」

 そう言いながらも大きく抵抗はしない。

「どろしーちゃん……」

 頬に手を当て、その美味しそうな唇にかぶりつこうとした時、明るい光が差す。

 入口に再び光の魔法陣が描かれ、人影が浮かび上がった。

「…………あのね、『本当の魔王城』なんて書いてたから」

「チャチャが入ったならオレも行かないわけがないだろう」

「僕は止めたんですよ」

 そこにはつい先ほど消えたはずの三人が立っていた。

「まったく、君たちは……」

 頭を抱える。

 本当に大魔王を倒せるのか、とてつもなく心配になった。


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