創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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第十一話: 寂寥の涯にて

風が止んでいた。空は白く、雲は遠い。

大地は深い静けさに沈み、あらゆる命の気配が、どこか遠くで眠っているようだった。

 

世界の果て――それは誰も到達し得ぬ境界。

地の理はねじれ、空は重く、時間さえも沈黙している。

 

セレヴィアンは、静かにそこへ立っていた。

旅路の果てに辿り着いたのは、始まりと終わりが交錯する場所。

まだ名前のない谷。誰の記憶にも残らぬ黄昏の地。

 

 

 

「……ずいぶん歩いたな」

 

それは、誰に語るでもない、独り言。

けれどその声には、確かに、満ち足りた静けさが宿っていた。

 

風精たちと交わした戯れ、聖獣との問答、

魔の長との激闘、そして感情なき魔族の出現――

それらすべてが、脳裏をよぎる。

 

「世界は変わってゆく。善し悪しではなく、それが自然だ」

 

自分がこの地に生まれ、理を観て、理を試し、歩いたこと。

その足跡が、この世界に微かでも影響を与えてしまったこと。

 

それに気づいたとき、彼の中でひとつの答えが定まっていた。

 

「だからこそ、余はここで退こう。……今はまだ、世界が己の意思で歩くべき時だ」

 

その決意に、迷いはなかった。

 

 

 

足元の岩に、セレヴィアンはそっと腰を下ろす。

 

手をかざすと、空間に微細な粒子が舞い、光の繭が形を成し始める。

それは魔法ではない。龍神という存在そのものが紡ぎ出す“眠りの契約”。

 

大地と、空と、風と、火と――

この世を成すあらゆる元素が、彼の眠りを許し、受け入れてゆく。

 

 

 

「風よ、我を包みて吹け。

星よ、我が夢を見守れ。

命よ、争うな。理よ、眠れ」

 

声は穏やかで、深く、あまりにも静かだった。

 

ひとつ、またひとつ、精霊たちの気配が集まる。

光の粒子となり、繭を織る糸となり――

 

やがてその姿は、ひときわ大きな光の繭に包まれていった。

 

 

 

眠りに落ちる直前、セレヴィアンは最後に、空を見上げる。

 

そこに確かな星々はまだなかったが、彼の瞳には未来の光が映っていた。

 

「……いつか、この地を、誰かが歩くだろう。余が知らぬ理を、誰かが紡ぐだろう。

その日が来たら、目覚めよう。今度は、旅人として――」

 

微かな微笑みが、彼の唇に浮かんだ。

 

そして、完全なる沈黙。

 

 

 

大地が息をひそめ、空が明滅する。

時がひとつの円環を閉じるように、龍神は世界の理の中に沈み込んでいった。

 

 

 

こうして、神代の黎明を見届けたセレヴィアンは、

長き静寂の中へと身を委ねる。

 

それは、“終わり”ではなく、“間(あわい)”。

世界が次なる姿へと進化する、その片隅で。

 

 

 

――第1章「始まりは人知れず」 完

 

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