創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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第二章: 神話の時代
第一話 目覚めの空にて


大地が呼吸を始めるように、風が吹いた。

その風は、懐かしくもあり、同時に異質な気配を孕んでいた。

 

地の奥、世界の理が静かに流れる地層の深く。

そこにひっそりと横たわっていた繭が、光を放ち、ゆっくりと解かれていく。

 

まどろみの終わりとともに、ひとりの少年の姿が現れる。

清廉なる容貌、澄んだ瞳、だがその奥に宿るのは千万年を生きた叡智と威厳。

 

セレヴィアン・エル・セノーテ。

 

かつて創世の時代を歩み、世界を見届けた龍神。

彼は静かに目を開き、空を見上げた。

 

「……変わったな」

 

風の音が違う。

魔力の流れが、かつてより遥かに複雑で、繊細になっている。

 

「世界は、わずかながら理を得た。ならば――再び歩もう」

 

衣を風になびかせながら、彼の姿は光に包まれ、やがて銀鱗の龍へと変じる。

空を裂くような咆哮と共に、巨大な龍神が天へと舞い上がる。

 

世界を、見渡すために。

 

 

 

* * *

 

 

 

長き飛翔の末、セレヴィアンの視界に一つの村が映る。

山間に築かれた、小さな人の集落。

粗末な木造の家々、畑を耕す者たち、焚き火の煙が空へと昇っている。

 

「……人か。理を知らぬ種が、理を育て始めたか」

 

興味に駆られたセレヴィアンは村の外れへと降り立ち、人の姿へ戻る。

そのまま、人気のない林に腰を下ろし、村の営みを観察する。

 

やがて一人の青年が、警戒心を滲ませながらも近づいてくる。

 

「……あなたは、旅人さんですか?」

 

「そうだ。空の流れに導かれ、ここへ来た」

 

「この辺りでは珍しいな……村に寄るか?」

 

「少し、見ていくだけでいい。理がどう息づいているか、確かめたくてな」

 

その返答に青年は首を傾げたが、それ以上は問わなかった。

 

セレヴィアンは数日、村の傍で過ごした。

子どもたちが遊び、老いた者が語り、若者が狩りをする。

そして、時折魔力の制御を試みる者もいた。

 

「《シュティレ》……風を読む魔法、か。だが、不安定だな」

「《リーニエ・ラハト》……小火を生む呪文。原初にしてはよく制御されている」

 

耳に入る呪文の数々に、セレヴィアンは驚嘆していた。

 

「言葉に依って魔を操る……祈りではない。これは、技術か」

 

魔法が“術”となり、“学ぶもの”になっている。

彼にとって、それはあまりにも新鮮で、少しの畏敬すら覚える進化だった。

 

 

 

だが、そんな日々も静かには続かない。

ある日、森の向こうから異様な魔力の波動が押し寄せた。

 

「……魔族か」

 

ただし、それはかつて彼が知るものとは違っていた。

 

 

 

村の中央に、黒い影が現れる。

人型の魔族。深紅の双眸。灰色の肌。

だが、知性がある。目に明確な意志が宿っていた。

 

「我が主の名のもとに、この地を浄化する」

「《インデュラ・フレア》」

 

魔族が詠唱した。

地面から黒炎が噴き上がり、村の家屋を焼こうとする。

 

セレヴィアンは迷いなく、手をかざす。

その指先から光が広がり、宙に繭のような結界が展開される。

 

「汝が放つ炎は、余の理に届かぬ」

 

光が黒炎を吸収し、静かに消す。

 

そして、セレヴィアンは一歩前に出て、魔族を正面から見据えた。

 

「……言葉を持つ魔族。理を超える存在。おもしろい」

 

「貴様、何者だ」

 

「ただの旅人よ」

 

魔族は僅かに唇を歪め、再び詠唱を開始する。

 

「《ラハト・ジヴェ》……焼き払え」

 

空気が赤黒く染まり、炎が弧を描く。

 

だがそれは、セレヴィアンの掌が示した瞬間、空間ごと断ち切られた。

 

「理無き炎に、理を。混沌に、秩序を」

 

彼の声は、まるで詩のように響く。

そして地面から銀の雷が生まれ、魔族の身体を貫いた。

 

沈黙。

 

村人たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

「今のは……魔法か?」

「呪文もなしに……」

「何者だ、あの方は……」

 

セレヴィアンは彼らを見回し、ふと微笑む。

 

「余の理と、汝らの理は異なる。それが、面白い」

 

 

 

そのとき、彼の感覚がもうひとつの魔力の波動を捉えた。

それは遠く、けれど鋭く、澄んでいる。まるで、刃のような魔法。

 

セレヴィアンの目が細められる。

 

「……来るか。あれは“戦う者の気配”だな」

 

風が吹いた。

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