創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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第二話: 紅き眼の少女

戦いの終わりは、静寂という名の余韻を連れてやってくる。

 

黒炎に焼かれた大地の焦げ跡は、まるでこの村が抱える脆さと儚さを象徴しているようだった。

家々は一部崩れ、子どもたちは怯えた目で空を仰ぎ、大人たちでさえ言葉を失っていた。

 

だが、その中心に立つ少年だけが、別の時間を生きているかのように、ただ静かに佇んでいた。

 

セレヴィアン・エル・セノーテ。

 

龍の姿で世界を巡り、この地で人という存在を見つけ、観察していた“神”は、

いま人の姿で村人たちの営みを静かに見下ろしている。

 

その眼差しは温かくも冷ややかで、どこまでも静謐だった。

 

やがて、彼は天を仰いだ。

感じ取っていた、もうひとつの異質な魔力が近づいてくる。

 

鋭く、美しく、濁りなく整えられた魔力。

 

それは風と共に訪れる。

 

木々が揺れ、草が靡き、地の空気がわずかに震える。

 

そして現れたのは、一人の少女だった。

 

銀色の髪が風に舞い、紅い双眸が鋭く空を睨んでいる。

細身の身体に纏われた法衣は、動くたびに魔力の波を孕み、静かに鳴動していた。

 

——その名を、後の世は語る。

**“大魔法使いゼーリエ”**と。

 

だが今はまだ、若き彼女が、自らの力をもてあそぶように振るう時代。

 

ゼーリエは、焦げた地と倒れ伏した魔族の亡骸を見下ろし、軽く息をついた。

 

「……ふむ。来てみれば、すでに済んでいたとはな」

 

その声音は涼やかで、どこか退屈そうでもある。

 

だが、目は違った。

セレヴィアンを一目見るなり、その双眸は彼を射抜いた。

 

「……お前が、やったのか?」

 

「然り。余が払った」

 

ゼーリエは数歩近づき、そのままセレヴィアンを見上げる。

紅の瞳が、無遠慮に彼を値踏みしていた。

 

「魔族を呪文も使わずに消し飛ばすとは。……ふふ、面白いな。人間じゃないな?」

 

「人の理には属さぬ。旅人であり、観察者よ」

 

「名は?」

 

「セレヴィアン・エル・セノーテ」

 

「聞いたことのない名だな。だが、記憶に残る響きだ」

 

彼女の口元がわずかに綻ぶ。

 

「私はゼーリエ。魔法使いだ。まぁ、これでも結構な使い手でね」

 

「感じ取った。汝の魔力は、整っている。鋭く、美しい」

 

「ふふ、わかるか。お前、見る目があるな」

 

ゼーリエはゆっくりと腕を組んだ。

そして、先ほどまで戦闘の緊張にあった空気とは打って変わって、妙に柔らかい調子で問いかける。

 

「なあ、お前、少し私と一緒に来ないか?」

 

「……目的は?」

 

「知的好奇心。お前のような存在がどう動き、どう思考し、どんな魔法を使うのか……興味が尽きない」

 

「随分と率直だな」

 

「私は常に率直だよ。隠し立てする意味もないしな。……それに」

 

ゼーリエの瞳がふと細められる。

 

「強い者と旅するのは、楽しい。単純な話だ」

 

セレヴィアンは、しばし沈黙した。

 

目を閉じ、風を感じ、焼けた大地の匂いを肺に入れる。

 

「……理が進んでいる。人が言葉で魔法を操り、魔族すら詠唱を用いている」

 

「その驚きは、私の魔法でも増すかもな」

 

「試してみるか?」

 

「ふっ、良い冗談だ」

 

ふたりの間に、ささやかな笑いが生まれる。

 

それは、時代と種を超えた者たちの、最初の“対等な会話”だった。

 

「同行、断る理由はない。余もまた、汝に興味を持った」

 

「決まりだな、セレヴィアン。……これから面白くなる」

 

ゼーリエは背を向け、ふと振り返る。

 

「行こう。道はないが、行く先はある」

 

その言葉に、セレヴィアンは一瞬、遠い過去を思い出す。

 

(……道はなくとも、空はある)

 

静かに微笑み、彼は彼女の背を追った。

 

こうして、世界が新たな理に包まれつつある時代に——

龍神と魔法使いの、長い旅が始まった。

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