創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

14 / 26
第三話: 道なき空を歩む者たち

朝霧が晴れ、陽光が大地を柔らかく照らしていた。

小さな村に差し込むその光は、まるで新たな時代の訪れを告げているかのようだった。

 

村の者たちは、まだ昨夜の出来事を消化しきれていない。

突如現れた魔族。空から降り立った異邦の神。

そして、紅き眼を持つエルフの少女――ゼーリエ。

 

それは伝説が現実の姿で歩んだ一夜だった。

 

村の外れ、崖際に佇む二つの影。

 

セレヴィアンとゼーリエが並び立ち、広がる森と山脈を見下ろしていた。

 

「……よく寝たか?」

 

不意に声をかけたのはゼーリエだった。

普段の尊大さは影を潜め、どこか穏やかな響きがその声にはあった。

 

「眠りは取った。夢は見なかったがな」

 

「そりゃ神さまみたいな存在が夢を見るとは思えないな」

 

「見るぞ? 時折、過去の幻影のような夢を」

 

「へぇ……意外だ」

 

セレヴィアンは答えず、空を仰ぐ。

 

風が吹き、衣を揺らす。

そのまま、彼は歩き出した。ゼーリエも続く。

 

 

 

* * *

 

 

 

村を離れて半日、二人は人の足で届く限界を越えた山道にいた。

 

「しかし、旅ってのは退屈だな。私は移動魔法を使えるけど、あえて歩いてる」

 

「道を歩むという行為そのものに意味があると考えているのだろう?」

 

「……なんで分かる?」

 

「言葉の節々からな。汝の好奇心は、出会いそのものを求めている。移動手段にはこだわらぬ」

 

ゼーリエは唸るように笑った。

 

「やっぱお前、面白いな。……で、観察者としてはこの時代、どう見える?」

 

「理は育ち、呪が言葉になり、祈りが技術に変わっている。

そして人は魔を恐れながらも、制御しようとしている」

 

「ふむ」

 

ゼーリエは立ち止まり、一本の枯れた木の幹に手を置いた。

 

「人はな、恐れを超えて知るために魔法を使ってる。私はそれが面白くて魔法を学んだ」

 

「汝の魔法、精緻だった。見事な構成と発動の速さ。あれも詠唱術なのだな?」

 

「うん。《レストア・アーツ》――失われた建造物を再構成する魔法」

 

彼女が小さく呟くと、地面の奥からかすかに光が漏れた。

やがて、苔むした地面から石材が組み上がり、小さな神殿の一部が姿を現す。

 

セレヴィアンは目を細め、その魔法構造を感じ取る。

 

「言葉によって定義され、系として処理された理……なるほど、これは確かに“知の理”だな」

 

「お前の魔法は何なんだ? 詠唱もないし、意図すら見えない」

 

「魔そのものに語りかけるのだ。名を呼ぶことなく、ただ響かせるように」

 

「つまり、祈りか。ある意味、真逆だな」

 

セレヴィアンは微かに笑った。

 

「ならば、面白い出会いだったということだ」

 

「同感だよ。……面白い、実に」

 

 

 

道は続く。

やがて、二人は古い遺構の残骸にたどり着く。

 

地面に埋もれた石柱、砕けた文様。

風化した壁画には、かつて存在した何者かの影があった。

 

ゼーリエが手をかざすと、魔力が反応する。

 

「……ここ、何か封じられてる。いや、結界の痕跡か?」

 

「魔族のものではない。だが……近いな。理が似ている」

 

「遺跡の記録が欲しい。悪いけど、少し見て回るよ」

 

セレヴィアンはそれに頷き、周囲を見回す。

崩れた柱の隙間から、小さな魔物の気配が走った。

 

その一体が飛びかかってくる――

 

「《ヴェルク・シャイネ》!」

 

ゼーリエの声が響き、魔物は目を灼かれ、そのまま倒れ伏した。

閃光魔法の応用技。視覚を一瞬で奪う。

 

セレヴィアンは静かに観察していた。

 

「汝の魔法、実に速やかで美しいな」

 

「……賛辞として受け取るよ。あんたの魔法は……うん、逆に怖いよ。静かすぎて」

 

二人はふと見つめ合い、そして微かに笑った。

 

 

 

太陽が傾き、空が黄金に染まる。

 

二人の影が遺跡の石畳に長く伸びていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。