原作まで続けられるか微妙です。
そこの所ご了承ください。
荒野の裂け目を越えた先、吹き抜ける風に乗って、鉄と血の匂いが漂ってきた。
セレヴィアンは風の流れを読み取り、目を細める。
「……燃えているな。村か」
ゼーリエも足を止め、険しい表情で言った。
「魔族の仕業だな。……しかも、普通のやつじゃない。気配が濃すぎる」
「“名を持つ”存在か。言葉を使い、人を欺く魔。……まだ残っていたか」
二人は足早に地平を駆け下り、煙が昇る方角――小さな山間の村へと向かった。
⸻
到着した村は、すでに半ば焼け落ちていた。
家屋は瓦礫と化し、広場には無残な死体が散乱している。
まだ生き残っている者たちも、必死の形相で剣を振るっていた。
槍を構えた男たちが、火の粉舞う中で必死に抵抗している。
「おい! 火を! 火をつけろ!」
「もう剣も折れた……! 逃げろ、子供たちだけでも……!」
その中に、魔法を使う者も一人いた。
「《シュティレ・ファング》――小さな火を放つ魔法!」
少女の手のひらから放たれた火球は、魔族の体に触れて……何の効果も与えなかった。
「……無駄か」
セレヴィアンは静かに呟く。
魔族の身体は、まるでそこに“現実が存在していない”かのように火を弾いた。
そこに、男が現れた。
焼け落ちた家屋の影から、ゆっくりと歩み出てくる一人の壮年の男。
貴族のような身なり、整えられた髪、穏やかな微笑。
だが、その背後の空間だけが、わずかに“ねじれていた”。
「……来たな。魔族だ」
ゼーリエが呟く。セレヴィアンも静かに頷く。
男は村人の絶望の叫びを背に受けながら、言った。
「どうか、怖がらないでいただきたい。私は皆さんに希望を届けに来たのですよ」
その声には、奇妙な温度があった。
嘘ではない、だが、真実でもない。
まるで、意図的に“誤解させよう”とするような響き。
「人を欺く……魔族の言葉だな」
セレヴィアンの眼が細く鋭くなる。
「名を教えてやろう」
男は笑う。「ディルファ=ラザル。“真理を捻じ曲げる者”と、誰かが私をそう呼んだ」
村の若者が叫ぶ。「お前が、この村を……ッ!」
彼は飛び出し、槍を突き出す。だが――。
「《シア=ロゴス》」
――偽りの現実を生み出す魔法。
若者の足元が消えた。否、“消えたように見えた”。
彼の視界だけが反転し、錯乱した。槍は空を突き、次の瞬間、男の手によって首筋を裂かれた。
静かに倒れ込む若者。その死を見て、村人たちは膝をついた。
⸻
「やめろ」
ゼーリエが声を張る。
「 ……遊びでやってるなら、今すぐやめとけ。退屈な茶番に付き合う気はない」
彼女は杖を掲げ、呪文を唱える。
「《ヴァーグ・ランツェ》――鋭い岩槍を呼び出す魔法!」
大地から岩の槍が突き上がり、ディルファの足元を貫こうとする。
だが彼は軽く手を振っただけで、視界が再び歪む。
「……わたしには見えないな」
ゼーリエが歯噛みする。
「視覚への干渉系……? いや、もっと根本的に現実を捻じ曲げてる……!」
「魔法ではない。これは“虚構”だ。理の構築そのものに干渉している」
セレヴィアンの声が低く落ちる。
彼は一歩前に出た。
「我が名はセレヴィアン・エル・セノーテ。
龍神の名において、貴様の欺瞞をこの地に許さぬ」
彼が指を振ると、大気が瞬時に凍りついた。
「――来たな、“神代のもの”」
ディルファの声色が変わる。その笑みが、ほんのわずかにひび割れる。
「《絶華の理(ヴァス・セレニカ)》」
セレヴィアンの足元から紋章が展開され、光の花が咲いた。
その花は音もなく散り、周囲の“虚構”を一斉に剥ぎ取っていく。
「……これは……“真実”の干渉……!」
ディルファの体がわずかにぶれた。
彼は一歩、後退する。
「ふふ……今日はここまでにしましょう。
あなた方のような方々に、今はまだ勝てる気がしませんのでね」
そう言い残し、彼は霧のように姿を消した。
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静寂のあと、村人の一人がぽつりと呟いた。
「……あれは、神か……?」
誰ともなく、口々に名を囁く。
「龍……」「竜神様だ」「空から来た救世主……」
ゼーリエは溜息を吐いた。
「伝説の目撃者になってしまったな」
「ならば、語り継ぐに足る存在でなければな。……それも悪くない」
セレヴィアンは微笑を浮かべ、崩れた村を静かに見つめていた。