創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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白銀の都編


第十二話: 沈黙の門、白銀の都 上

霧が晴れた先に、それはあった。

 

陽光に白く輝く、高く聳え立つ城壁――

まるで鋳造された銀の塊を積み上げたかのような荘厳さと、人工的な冷たさを宿す城塞都市。

 

「……これが、“白銀の都”か」

 

セレヴィアンが立ち止まり、視線を巡らせた。

 

周囲の山岳を切り崩して築かれたこの都市は、魔族の侵攻を受けぬよう重厚な外壁を四方に張り巡らせ、門は一つきり。天空には監視鳥が旋回し、壁上の兵士たちは無言で弓を携えている。

 

カラムが唸った。

 

「こりゃ……想像以上に閉じた場所だな。まるで、誰も入ってくるなって言ってるみたいだ」

 

「実際、そうなのだろう。理が崩れかけた地では、人はまず“囲う”ことから秩序を作ろうとする」

 

門前の広場には、数十人もの旅人たちが野営をしていた。

簡素な天幕、焚き火の灰、擦れた声の交錯。入城を求めて日を待つ者、追い返されて落胆する者、すべてが“余所者”として扱われていた。

 

門番の男が槍を構えたまま告げる。

 

「入城には身分証と紹介状が必要だ。それがなければ、入れられん」

 

カラムが小声で囁く。

 

「おい、どうする? 無理に突破するような場所じゃないぞ」

 

セレヴィアンはひとつ頷いたのち、壁の隅で地図を広げる旅人たちに近づいた。

 

「一つ、聞きたい。……この都で通用する身分証、あるいは紹介状の取得手段は?」

 

老いた商人が驚いたように目を見開いた。

 

「お、お前さん、ずいぶん妙な話し方をするな。ま、いい。紹介状は都市内の商会から発行されるが、それには信用が要る。身分証は貴族の推薦か、教会の認可だな」

 

「教会……」

 

セレヴィアンはその響きに興味を示した。

 

彼の知る“教会”とは、神の力を祀る場ではなく、“人が神を模そうとした意志”の結晶だった。

 

「つまり、都市の内外で価値の基準が隔てられているということか」

 

「まぁ、そういうこった。内と外、民と貴族、神に近い者と、地べたを這う者とよ」

 

男は皮肉を込めた笑みを浮かべた。

 

 

 

***

 

 

 

その日の夜、カラムが小さな焚き火を起こしながら呟いた。

 

「セレヴィアン、お前……どうしても入りたいのか? ここ」

 

「この都市に、不自然な魔力の流れを感じる。……見過ごすには、密度が濃すぎる」

 

「そうか……そういうことなら、俺はついてく」

 

セレヴィアンは短く「感謝を」とだけ告げ、静かに夜を見つめた。

 

 

 

翌朝、ふたりは変装を整え、再び門を訪れた。

 

セレヴィアンは長い銀の髪を束ね、深い灰色の外套に身を包んだ。

カラムは旅の薬売りを装い、彼を“従者”として振る舞う。

 

持っていた古い書簡の一枚に筆を走らせ、それを偽の紹介状とする。

 

「……魔法、じゃないのか?」

 

「魔術は“世界を捻じ曲げる”技術。これは、“世界のまなざしを騙す”技だ。全く異なるものだよ」

 

城門前にて、番兵が書面を受け取り、何度か疑いの目を向ける。

 

「……ふむ、“カリオストロ商会からの推薦”……か。通れ」

 

門が、ゆっくりと軋む音を立てて開かれた。

 

その瞬間、セレヴィアンは視界の色調が変わったような錯覚を覚えた。

 

冷たく、静かで、計算された秩序。

 

これが、“人の文明”の結晶か――

 

 

 

***

 

 

 

都市内部は石畳が敷き詰められ、幾何学的な街路に建物が整然と並んでいた。

 

城壁沿いには衛兵が巡回し、各所に教会の支部が設けられ、鐘の音が時間を告げている。

 

「静かすぎるな」

 

カラムが呟いた。

 

「人が多い割には、声がない。何かが抑圧されてる……そんな感じがする」

 

「この都市には、“抑えられた理”がある。人の手で整えられた静寂――それは、脆いものだ」

 

セレヴィアンは視線を巡らせた。

 

“感じる”――これは知覚ではなく、神に近い観測者の本能に近い。

地下、あるいは都市の中央付近。魔力が淀み、静かに漏れていた。

 

その夜、ふたりは中央区に近い宿を取り、翌日に備えた。

 

「明日は、“図書館”と“聖堂”を訪れる。記録の中に、この都市の“核心”があるはずだ」

 

「了解。あんまり喋らん方がいいなら、そうするよ」

 

カラムは笑いながら横になった。

 

セレヴィアンは窓を開き、月を見上げた。

 

(この静寂の中に、果たして“善”はあるか――それとも、ただの虚無か)

 

 

 

白銀の都は、静かに眠っていた。

 

だが、その白の下に潜むものは、まだ目を覚ましていなかった。

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