創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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白銀の都編 中編


第十三話: 月光の書庫と沈黙の聖堂 中

夜が明けきらぬ頃、白銀の都の空には月が薄く残っていた。

 

その冷たい光を背に、セレヴィアンとカラムは都市の中心部へ向かっていた。

行き先はふたつ――図書館と聖堂。

どちらもこの都の“知”と“信”の象徴だった。

 

 

 

石畳の路地を歩くふたりの前に、巨大な建築が現れる。

鋼鉄の柱と磨き込まれた白大理石が交差する、白銀の都の中央図書館。

扉の前には教会関係者と思しき衛兵が立ち、入館証の提示を求めていた。

 

「身元確認……?」

 

カラムが眉をしかめたが、セレヴィアンは躊躇なく、偽名の入館証を提示した。

 

「“ゼフィル・エントル”と申請してあるはずだ。カリオストロ商会経由だ」

 

「確認できた。入館を許可する」

 

重々しい扉が音を立てて開く。

ふたりが足を踏み入れると、そこには重層構造の巨大な書架が広がっていた。

 

天井は高く、陽光が入らぬ構造。

代わりに魔力による浮遊燈が設置され、無数の文献を穏やかに照らしている。

 

「すげぇな……本の海だ」

 

「この都の記録は、全てここに集められている。……だが、“何が”記録され、“何が”失われたかは、読まねば分からぬ」

 

 

 

セレヴィアンは最上層へと続く螺旋階段を上り、古書閲覧区へ向かった。

そこにあるのは、公的な歴史書ではなく、忘れられた民間文献や禁書に近い記録――

 

彼は、時間をかけてその中の幾冊かを選び出す。

 

 

 

――『月光の間にて見たる影』

――『魔を祀る者たちの記録』

――『銀の塔に集う賢者会議録』

――『第七の魔印――記憶抹消に関する報告』

 

カラムが首を傾げる。

 

「……難しそうな本ばかりだな」

 

「記されているかどうかより、“記されたものが何故、残されたか”を見る」

 

セレヴィアンは手早く頁をめくりながら、重要な箇所に目を走らせていく。

 

文献には断片的な記述があった。

 

「“第三の層にて、動力源を封じたること”」

「“沈黙せし神代の理を、再起動してはならぬ”」

「“銀の民は、永劫に触れてはならぬ”」

 

断片の数々が、やがてひとつの像を成す。

 

この都市――白銀の都は、古の禁術、あるいは神代の魔術に触れている。

だが、それを“技術”として昇華する過程で、何かを切り捨てた。

 

“感情”か、“魂”か、それとも“神性”か――

 

セレヴィアンの眼が鋭くなる。

 

(ここは、知の極地などではない。……切り落とされた欠片の棺――)

 

 

 

***

 

 

 

昼過ぎ、ふたりは図書館を出て、すぐ隣の聖堂へと足を運んだ。

 

白い尖塔、十字架に似た意匠、祈りの歌がほのかに響く空間。

だが、そこに満ちていたのは安らぎではなく――“無感情な秩序”だった。

 

「ようこそ、旅人よ。……何の導きを求めて?」

 

穏やかに声をかけてきたのは、神官を名乗る青年だった。

一見すると礼儀正しく誠実に見えたが、その瞳には、揺らぎが一切なかった。

 

「この都の信仰体系について学びたくてな。記録の閲覧を望む」

 

「それは構いません。ただし、閲覧できるのは“許可された文献”のみ。神意に反する記録は封じられています」

 

(……神意、か)

 

セレヴィアンは教団の中心部へ進みながら、僅かな魔力の波を感知する。

 

地下へと続く小さな階段。

そこには鉄扉があり、衛兵が立っていた。

 

扉の向こうからは、奇妙な“魔力の濁り”が微かに感じ取れた。

 

「セレヴィアン、あれ……」

 

「……ああ、感じるな」

 

魔族の魔力とは違う。

これは“模倣された神性”、あるいは“禁忌の再現”に近い。

 

「無断立ち入りは禁止されています。こちらから先は教会関係者のみの区画です」

 

衛兵の言葉に、セレヴィアンは何も言わずに後退する。

 

(強引に入るのは得策ではないな。……別の手段を探る)

 

 

 

***

 

 

 

その夜、宿に戻ったセレヴィアンは筆記を続けていた。

 

「どうだった?」

 

カラムがベッドに転がりながら聞く。

 

「この都市は、見せかけの静寂と秩序のもとで、“本物の理”を封じているように思える」

 

「……どうするつもりだ?」

 

「まずは、地下構造の探索だ。あの扉の奥に、真実がある。……次は“実地”で確認する」

 

月は既に天頂を越えていた。

 

“理”を求める旅は、いつも静かに、その核心へと迫っていく――

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