創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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白銀の都編 後編


第十四話: 歪んだ月影の檻 下

夜の帳が白銀の都を覆っていた。

月は天頂にあり、その光が街路を静かに照らしている。だが、その下に広がるのは“真実”ではない。

隠された地下、偽りの秩序の下に沈む、歪んだ理――

 

セレヴィアンとカラムは、再び教会施設へと足を運んでいた。

昼間とは異なり、巡回する衛兵の数は少なく、聖堂裏の小門から侵入するのに時間はかからなかった。

 

「本当にやるのか……?」

 

カラムが小声で尋ねる。

 

「記録と現実に齟齬があるなら、それは“記録の方”が歪んでいる。正すためには見るしかない」

 

淡々とした口調。だがその眼差しは鋭い。

セレヴィアンは錠に魔力を指先から流し込むと、構造の隙を突いて音もなく開錠した。

 

階段を下りると、鉄の匂いが鼻を刺した。

 

 

 

地下には石造りの広間が広がっていた。

壁には古代文字の刻まれた封印式。

中央には球状の魔導装置が浮かび、青白い光を脈動させていた。

 

その周囲には、動かぬ“人影”が並んでいた。

 

「……人形か?」

 

カラムが目を細める。

 

それは人間に酷似した姿をしていたが、どれも表情がなく、魔力の糸に繋がれたまま、機械のように立ち尽くしていた。

 

「人間の思考と感情を“模倣する術式”だな。精巧だが、本物とは程遠い」

 

セレヴィアンが魔力を流し込むと、球体の内部に映像が浮かび上がる。

 

――《記録 第72期:感情制御実験結果》

――《対象:魂断の禁術 応用個体群》

――《結論:制御失敗。記憶封鎖・廃棄指令発動》

 

「これは……禁術じゃないか。人の感情を制御しようと……?」

 

「この都は、“理性”を神にしたのだ。だが理性のみに寄った結果、“命”を失った」

 

セレヴィアンが天井を見上げる。

 

「外側の秩序と内側の歪み。その乖離こそ、この都の本質だ」

 

そのとき――

 

「侵入者だな?」

 

低い声が響いた。

 

魔力の風が駆け抜け、ふたりの前に男が姿を現した。

教会の神官服を纏ったその男の身体には、魔力の紋様が浮かんでいた。

 

「君たちにはここで、“静寂”を与えよう」

 

「……自らの理を守るために、真実を口封じしようというのか」

 

セレヴィアンが一歩前に出た。

 

「それは“信”ではない。恐怖と独善だ」

 

神官が手を掲げる。

 

「《拘束の封霧》――空気中の魔力を封じ、行動を束ねる魔法!」

 

空気が重くなり、圧縮された魔力が足を縛り付けるように纏わりつく。

 

だが――

 

「虚空刃の舞(こくうじんのまい)」

 

セレヴィアンが詠じると、目に見えぬ刃が霧を断ち、空間を穿った。

 

その一撃に神官はたじろぐも、すぐに続けた。

 

「《月影の裂槍》――月の魔力を槍に変え、穿つ魔法!」

 

「雷閃の結晶陣(らいせんのけっしょうじん)」

 

空間に浮かぶ魔法陣が光を帯び、相殺する。雷と月光が打ち消し合い、音を立てて爆ぜた。

 

カラムも前に出る。

 

「《水殻障壁》――水の膜で全方位を防御する魔法!」

 

怒涛の攻防。

セレヴィアンは気づいていた。この神官――人間ではあるが、禁術により肉体が魔術的に“強化”されている。

 

だからこそ、彼は言った。

 

「おまえの信じた神は、理性か。秩序か。それとも、力か?」

 

「我らが信じるのは、“この都の永遠”だ」

 

「……ならば、永遠に沈め」

 

「星礫の連環(せいれきのれんかん)」

 

天井から降り注いだのは、煌めく光の雨――

結界の内にのみ作用する“魔力の解体”を促す結晶粒子。

 

神官の魔力防御が崩れ、一瞬の隙が生じた。

 

そこに、セレヴィアンの掌が置かれる。

 

「封鎖」

 

力ではなく、“観察と解析”による封じ。

魔術的構造を分解し、動きを止めた。

 

神官はその場に膝をつき、静かに倒れた。

 

 

 

セレヴィアンは球体の魔導装置に目を向け、魔力を流す。

 

「記録は……全て抹消されたようだな。残っているのは、抜け殻だけだ」

 

「これからこの都は……」

 

「誤った理を、いつか誰かが正す。だがそれは我ではない」

 

セレヴィアンは背を向けた。

 

「観察は終わった。去るぞ」

 

 

 

***

 

 

 

翌朝――

白銀の都の門を抜け、ふたりは再び広い街道へと出ていた。

 

「……なんだか、夢みたいだったな」

 

カラムが呟く。

 

「“永遠”という言葉は、美しすぎる。だが、凍った理の中では命は育たぬ」

 

セレヴィアンはそう言いながら、遠く空を見上げた。

 

旅は続く。

都を越えたその先に、理の果てがあるならば――

 

彼はきっと、それを見に行く。

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