創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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第三話: 聖獣、空より来たる

――空が、まだ空でなかった時代。

そこに広がるのは、無限の深淵。

世界は名を持たず、地に名前はなく、天に星はなかった。

 

ただ、“存在”があった。

その中央に立つは、セレヴィアン・エル・セノーテ。

 

「……魔法とは、理の再構築に過ぎぬものかもしれんな」

 

彼はひとりごちる。

先に創り出した術式、それによって招かれた異形の魔物。

因果は複雑に絡み合い、意図なき世界すら応じ始めていた。

 

その様相に、彼は強く心を動かされていた。

恐怖ではない。歓喜でもない。

ただ――知識欲である。

 

「我が創るものは、すでに世界へ波紋を投げ始めた。

 ならば、この反応をさらに観測せねばなるまい」

 

手をかざす。

魔素の流れを読み、今度はより精緻な術式を描く。

 

「《大系構造式・改》――基盤より、築き直そう」

 

この時、セレヴィアンは魔法体系という構造を初めて確立した。

術式は単発ではなく、連続し、関連し、相互補完される“理の網”となる。

 

炎は熱を、熱は拡散を、拡散は風を、風は流れを生み――

彼の術は、すでに世界の現象すら模倣し始めていた。

 

その構築に数世紀を費やす。

この時間に、彼は無数の失敗を重ねた。

だがその都度、彼は立ち止まらなかった。

一歩ずつ、確実に進む。

 

ある日、空にひび割れが走った。

世界の虚無に、突如として出現した“光の傷痕”。

それは時空の歪みではなく、何かが“外”から入ってくる兆しだった。

 

セレヴィアンは即座に立ち上がる。

 

「……この流れ、これは……」

 

それは、まるで“空”という概念そのものが歪んでいるようだった。

そして、裂け目から姿を現したのは――

 

巨大な白き獣。

六つの翼を持ち、全身を聖なる光に包まれた、

まるで神話に登場する天馬のような姿。

 

しかし、それは馬ではない。

その眼差しには知性が宿り、背中の翼は空の概念すら拒むかのような神々しさを持っていた。

 

セレヴィアンはしばらくその姿を見つめ、そして名付ける。

 

「……“聖獣グラン=ヴァルド”。

 我が言葉が届くならば、応じてみせよ」

 

聖獣は鳴き声ひとつあげぬまま、ゆっくりと地に降り立った。

まるでセレヴィアンの呼びかけに応じたかのように。

 

「……知性を持つか。あるいは、共鳴か」

 

その瞬間だった。

 

再び――空間が歪む。

 

今度の歪みは、先ほどの聖なる気配とは正反対。

黒く、毒のように濁った空間の破れ。

 

そこから現れたのは――

全身を鎧のような黒鱗で包んだ異形の獣。

四肢を持たず、漂うように宙を動く、魔素の塊。

 

「……影喰らい《シェイド・ドレイク》か」

 

セレヴィアンは静かに言う。

この存在は、先に彼が無意識に発生させた負の魔素に反応して、

歪んだ空間から自然に発生したものだと理解していた。

 

“理”が存在すれば、必ず“異端”が生まれる。

これは、彼自身が望まずとも生じる宿命のようなものだった。

 

「来い」

 

影喰らいが雄叫びをあげる。

魔素を収束し、空間を裂くような波動を放つ。

だが、その瞬間。

 

「《連環構築式・雷鎖》」

 

セレヴィアンの詠唱とともに、

無数の雷鎖が空間に奔り、影喰らいの身体を束ねた。

 

しかし、影喰らいはそれを引きちぎり、なおも突進する。

その凶暴さに、セレヴィアンの眉がわずかに動く。

 

「……では、初めて使おう。“連続発動式”。」

 

彼は指を鳴らした。

 

「《雷鎖・拡大術式》」

「《重力場・収束》」

「《崩壊圏・集中》」

 

3つの術式が、同時に空間に展開される。

雷鎖は数を増し、重力場が影喰らいを地に押さえつけ、

最後に“崩壊圏”がその身体を内側から引き裂いた。

 

影喰らいは断末魔のような叫びをあげ、

濁った魔素へと還元されて消えた。

 

しばしの静寂のあと――

 

聖獣グラン=ヴァルドが、静かにセレヴィアンに歩み寄る。

その巨大な頭部を、セレヴィアンの眼前に差し出す。

 

「……理解の証、か」

 

セレヴィアンはその額に手を添え、そっと目を閉じた。

 

その瞬間、互いの思考が微かに交錯した。

 

名もなき世界において、

初めて言葉を介さず“心”で通じ合った瞬間だった。

 

「ならば共に在れ。聖なる獣よ。

 我が創るこの世界に、お前の存在もまた、必要だ」

 

グラン=ヴァルドはひとつ、誇らしげに嘶き、

その身体を光へと変えて、セレヴィアンの周囲を飛び回る。

 

こうして――

セレヴィアンは“聖獣”という新たな可能性を知った。

 

魔法、精霊、そして獣たち。

彼は知る。世界が、動き始めたということを。

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