創神のセレヴィアン   作:眠りの竹月

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第六話: 神々の沈黙

地上に存在するあらゆる事象の“根”を求め、セレヴィアンは西へ向かった。

 

目指すは**“天頂の霊峰”**――

世界創成の最初期に隆起した大地の要。

神々の力が最も色濃く宿り、未だ“理”が形を持って眠る場所である。

 

その山は、周囲に生き物を寄せつけぬ霧に包まれ、

風すらも途中で消えるという。

 

故に、そこは「神の墓標」とも呼ばれていた。

 

 

 

セレヴィアンは山の麓に立ち、しばし空を見上げた。

 

「……此処には、言葉も概念も届かぬ“原初の意志”が眠るはずだ」

 

肩に止まる精霊――ソリスがわずかに震え、警戒の気配を伝える。

 

それに気づくと、セレヴィアンは微かに笑んだ。

 

「怖いか? ……いや、当然か。私とて、未だ“彼ら”の理には届かぬ」

 

それでも、と彼は続ける。

 

「知る必要がある。魔法とは、生命とは、理とは何か……それを知りたいのだ」

 

そして一歩、また一歩と霊峰へ足を踏み入れる。

 

 

 

その瞬間だった。

 

世界の音が消えた。

 

風は止み、空気の振動すらも消え、

ただ沈黙だけが支配する世界がそこにあった。

 

それは“自然が拒絶している”のではない。

むしろ、すべてが存在を止めたかのような静寂。

 

セレヴィアンの歩みが、空間そのものを歪ませるような錯覚を生む。

 

やがて、山の中腹に至った時――

 

そこに、“何か”が在った。

 

それは姿形を持たず、声も放たず、ただ「概念」として存在している。

 

“神核”――

世界創生と同時に、天より零れ落ちた“法の塊”。

 

それは見えない。だが、確かに“在る”。

 

セレヴィアンは膝を折り、静かに頭を垂れた。

 

「……我は創世より歩きし者。名をセレヴィアン・エル・セノーテという」

 

名乗りは、この存在に意味を持たないだろう。

それでも彼はそうした。

自己を確立することで、“理”との接触を可能にするために。

 

そして――その時だった。

 

大地が脈動した。

 

地面が震え、空が裂けるような轟音が、思考の中に直接響く。

 

いや、違う。

 

それは“音”ではない。

これは――概念の投影。

 

【貴様ハ……我々ノ、外ニ在ルモノ】

 

セレヴィアンの頭に直接、言語化できぬ“意味”が流れ込んできた。

思考を超えた対話。存在と存在の交感。

 

セレヴィアンはその圧倒的な“重さ”にわずかに息を詰めた。

 

だが――その重圧すら受け止めて、静かに応じる。

 

「我は観察者。理を侵さず、ただ知りたいと願う者だ」

 

【知識ハ、理解ニ非ズ】

 

「それでも、私には理解が必要だ。

 魔法を、命を、そして貴様ら“神”の成り立ちを」

 

一瞬、空間が歪んだ。

“神核”が微かに揺れ、何かを検討するような反応を見せる。

 

そして次の瞬間――

 

彼の目の前に、“視えざる輪”が現れた。

 

それは魔法陣のようでありながら、魔素を一切帯びていない。

因果律の式図、言うなれば“世界の仕組みそのもの”を視覚化した存在。

 

セレヴィアンは目を細め、それに手を伸ばす。

 

すると、輪が脈動し、彼の指先に紋様が刻まれた。

 

それは世界構造に触れるための鍵。

 

魔法ではなく、“理”そのものを動かすための象徴。

 

セレヴィアンは胸の奥に熱を感じた。

それは恐れや驚きではなく――

 

「……これは、“創造の魔法”に近いな」

 

彼が初めて得た、“神の力”の片鱗だった。

 

しかし、その力を使うつもりはなかった。

それはただ、観測と記録の手段として必要なもの。

 

彼は静かに立ち上がると、改めて霊峰に礼を示した。

 

「感謝する。貴様の沈黙は、万の言葉に勝るものだった」

 

神核は、それに応じるように空気を揺らし、

やがてその存在を“透明”の中へと還していった。

 

 

 

こうしてセレヴィアンは、創世以来初めて“神に近い存在”と接触を果たす。

 

それは魔法を超えた、“理の観察”の第一歩。

 

そして彼の旅は――

再び、混沌へと向かっていく。

 

 

 

その夜、セレヴィアンは山の麓で焚火を前にしていた。

肩のソリスが、微かな光で彼に語りかけるように震える。

 

「……疲れたか。私も、少しだけ……な」

 

彼は火を見つめながら、ほんの少しだけ柔らかな口調で呟いた。

 

「次は、魔族の原種だろうな。……今度こそ、戦いになるかもしれん」

 

夜空が静かに降りてくる。

 

静寂のなか、焚火の音だけが、命の証として揺れていた。

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