体育館 放課後 星野視点
「お疲れ様、皆来てくれる?」
「集合!」
練習中、武田先生が坂ノ下商店の店員を連れてきた。
俺たちは挨拶した後、澤村部長の号令で集まった。
「紹介します。今日からコーチをお願いする烏養君です」
『コーチ?』
突然のことに驚いたが、今「烏養」って言わなかったか?
「コーチ? 本当ですか?」
「音駒との試合までだからな」
そうか、武田先生が音駒との練習試合に気合を入れていたのは、この人を連れてくるためか。
しかし、この人はあの烏養監督の……?
「え? でも坂ノ下商店の兄ちゃんだよな? 本当にコーチ?」
「彼は君たちの先輩で、“あの烏養監督”のお孫さんです」
『えぇー!!!!』
部活帰りによく行く店の兄ちゃんが、まさかのOBで、しかも名将烏養監督の親族とは……世間狭すぎるだろ。
「でも、お店の名前、坂ノ下じゃないの? あっ……ですか?」
「母方の実家の店なんだよ」
一番の疑問点は翔陽が聞いてくれて解決した。
本当にこんなことあるんだな。
「時間ねぇんだ。さっさとやるぞ! お前らがどんな感じか見てえから、18時30分からゲームな」
いきなり試合?
「相手はもう呼んである。烏野町内チームだ!」
コーチ一人でここまで段取りが変わるのか。
宮城に来てからは学生主体だったから、大人が指導に入るのは大阪以来で懐かしい。
「あっ、星野君、ちょっと来てくれるかな?」
「わかりました」
武田先生に呼ばれ、コーチの前に行く。
「ん? こいつが道中で言ってた喘息持ちのピンチサーバーか?」
「はい。彼は星野斗真君で、喘息の都合で宮城に引っ越してきましたが、それまでは大阪の強豪校でエースをしていて、全国大会の経験者なんです」
「全国大会? へぇ〜それはすげぇな。今は発作はあるのか?」
「医者からは、1セットフルなら問題ないと言われています。安全策として、3セットマッチなら1セット、5セットマッチなら間を空けて2セットまでと、3月の検診で許可をもらいました」
「そこまで話してるなら大丈夫そうだな。とりあえず今日は1セット参加な」
「わかりました!」
その後は試合まで軽めのアップをして時間を過ごした。
町内会チームのメンバーが集まり始める。
人数が足りないため、リベロに西谷先輩、オポジットに俺が入ることになった。
「まだ人数足りねぇな……あと誰か」
「あー! 旭さんだ!」
「げ、またコイツは」
「旭さーん!!!」
翔陽が体育館の鉄格子に身を乗り出して呼ぶ。
「なんだ、遅刻か! ナメてんのか? ポジションどこだ?」
「え、ウイングスパイカー……」
「人足りねぇんだ! さっさと入ってアップ取れ!」
強引に呼ばれた東峰先輩だったが、先輩たちは嬉しそうだった。
翔陽が体育館の鉄格子に身を乗り出しながら外に居る東峰先輩に呼びかけていた。
「後はセッターか…俺やりてぇけど外から見とかないとな…お前らの所からセッター貸してくれ」
影山と菅原先輩がお互い見た後に菅原先輩が前に出てきた。
「菅原さん!俺に譲るとかじゃ無いですよね? 菅原さんが引いて俺が繰り上げ…みたいな ごめんですよ」
「俺は影山が入ってきて正セッター争いしてやるって思う反面…どっかでホッとしてた気がする」
菅原先輩…
「セッターはチームの攻撃の軸だ。 一番頑丈でなくちゃいけない
でも俺は…トスを上げることにビビってた。 俺のトス、またスパイカーが何度もブロックに捕まるのが怖くて…圧倒的な実力の影山の影に隠れて安心してたんだ…安心してたんだ」
「スパイクがブロックで捕まる瞬間考えると…今も怖い
けど、もう1回 俺にトスを上げさせてくれ 旭!」
そう呼ばれた旭さんも戸惑ってたけど…これは逃げのためじゃない。菅原先輩なりに覚悟しての判断なんだ。
「だから俺はこっちに入るよ…影山 負けないからな」
「俺もっす」
こうして烏野レギュラーVS町内会チーム(俺、菅原先輩、東峰先輩、西谷先輩)の試合が開始された。
縁下 月島 影山
澤村 日向 田中
⎯⎯⎯⎯⎯⎯ネット
東峰 滝ノ上 内沢
菅原 俺 (西谷) 嶋田
試合開始から数分後、試合は1VS1
「菅さん!」
「スガさん!」
「OK! 滝ノ上さん!!」
縁下さんのサーブを西谷先輩が丁寧に広い菅原先輩に返す。
「ほい来た!」
滝ノ上さんにクイックで決めてコチラが先制点を取る。
「ナイスキー!」
「菅さん、ナイストス!」
「ありがとう、でも町内会チームのサポートあってだけどな〜
さすがベテランって感じだ。俺自身のトスはまだまだだよ」
「…」
「でも、速攻もどんどん使って強気で攻撃組み立てていかないと
また、エースに頼りきりの試合になっちゃうからな」
「スガさん、かっちょよくなったっスね!」
「えっ? そう? 西谷に言われると何か嬉しいな」
「ん?何でですか?」
「いや〜なんて言うか〜あははは」
(スガ、ちょっと見ない間に頼もしくなった。西谷の頼もしさは相変わらずだ。 …なのに俺はフラフラ戻って来て成り行きだけで
またコートに立ってる。情けないと思う。けど…
やっぱり"ここが"好きだ!)
そして、サーブ権はコチラになり、俺からスタートする。
「良し、星野見せつけてやれジャンプサーブ!」
「ウッス!」
俺は相手コートのアウトラインギリギリを目掛けてジャンプサーブを決めた。
ズシン!
ボールは相手コートの後ろの壇上まで跳ね上がる音が響いて町内会チームとコーチは唖然として驚いていた。
「すげぇーぞ、星野! ノータッチエース!!」
「ナイサー星野!!」
「ありがとうございます! どんどんジャンプサーブ打つので!」
次はコートの右奥に居る月島足元目掛けてジャンプサーブを決めた。
「チッ!」
「2点目いただき!」
「星野サーブ凄い音だな、外からでもすごいけど、コートから見ると違うな〜味方だと頼もしいぞ!」
「菅原先輩、ありがとうございます!」
「星野は硬いなー俺の事は律儀に先輩付けなくて良いぞ? 普通に菅原さんやスガさんで問題ないべ」
「いや、1年自分は!?」
「星野は謙虚な男だな! 良いと思うぞ!!」
大阪時代はゴリゴリの体育会系のせいか、烏野のフレンドリーな感じに接するのが中々慣れない…とは言え、徐々に慣らしていきたいな。 西谷先輩も、こんな男らしい人に褒められると嬉しいな。
「先生、確か星野はこの前の練習試合で青葉城西としたんだよな」
「えぇ、第3セットで2対1からサーブで6点連続獲得したんです。もちろんサーブだけじゃなくて色々な事をしてきたんですが…」
「いや、県ベスト4の相手に6点連続出来る時点で星野実力が凄いのは分かったよ」
「やはり、サーブでそれだけ取るのは難しいんですか? 素人の僕からしたらミス無しに出来るだけでもすごいとしか理解出来ませんが」
「まぁ、ミス無しなのも大きい、プロだってサーブミスするし、2点連続取れるだけでもすげえーんだ。 勿論、6点連続なんて、ジャンプサーブ以外色々しないと取れる数字じゃない。 それだけ選手としてのポテンシャルが高いんだろ」
「やはり、全国大会の経験が他の子よりも大きいのでしょうか?」
「だろうな〜、体格も見た限り大きい方じゃない。なのにジャンプサーブの威力は強烈だ。身体全体をしならせるバネ、タイミング、ボールの回転…それが凄いから…」
ズドーン!
相手コート真ん中付近に撃ち込んだボールが力強く跳ねて近場にいた翔陽がビビリ始めた。
「怖ぇ…影山の殺人サーブが可愛く見える」
「あぁ? 俺のサーブが何処が負けてるんだ!」
「でも、決定率は確実に星野の方が上でしょ? まぁ王様はその態度で相手に威圧与えてるけどね」
「あぁ?何だと?」
「お前ら試合中だぞ!」
これで、3点連続取れたけど…今日の試合は俺のアピールが目的じゃない…東峰先輩と西谷先輩がチームに正式に復帰することが1番だ。
とにかく、次は澤村先輩の足元にサーブを打つ!
「俺が取る!」
澤村部長がレシーブして、田中先輩が影山にトスをあげた瞬間には…
バーン!
「よっしゃー!」
「うしっ!」
「すげぇー飛んだな」
「すんげ〜ドンピシャなトス!」
あのトンデモ速攻で同点になった。
「それにしても澤村部長や西谷先輩のレシーブ力半端ないな…」
角間中学時代のブロック&レシーブだったチームに居ても遜色ないくらい安定してる。 高校バレー凄いっと実感する。
「おっ…おっ…おっ」
「ふふふふっ、ふふふふ」
コーチは、トンデモ速攻に沈黙してる中で武田先生はニヤニヤしていた。
俺はリベロの西谷先輩と交代してコートの外に出た。
コート見ると、東峰先輩が震えていた。
「思うよ…何回ぶつかったとしても…もう1回打ちたいと思うよ」
「それなら良いです。それが聞ければ十分です」
突然の2人のやり取りに混乱したが…西谷先輩の安堵した顔を見ると、どうやら仲直しは出来たみたい。
(俺の仕事はただ、ひたすらに繋ぐこと)
「日向ナイッサー」
「あっやば!」
「げっ! ネットイン! カバー頼む、!」
「ロン毛の兄ちゃん頼むぜ!」
翔陽のサーブがネットに当たりギリギリの所を嶋田さんがレシーブして、内沢さんが東峰先輩に向けてトスをあげた。
(空はスパイカー達の領域で、俺はそこで戦えないけど…)
「止めるぞ!」
「命令しないでくれる?」
「本気で行くっス、旭さん!」
(繋げば…繋いでさえいれば…きっと、エースが決めてくれる!)
東峰先輩のスパイクは影山・月島・田中先輩の3枚ブロックに阻まれたが、ブロックした影山が仰け反る程の強烈なスパイクに影山含めた1年メンバーは驚いていた。
ブロックされたボールは西谷先輩がブロックフォローで、ボールが上がった。
スパイクで弾かれたボールをコートに当たる直前のブロックフォローにこの場にいた全員が驚いていた。
「おっ! 上がったぞ!!」
「ナイスフォロー!」
「壁に跳ね返されたボールも俺が繋いでみせるから!
だから…だからもう1回トスを呼んでくれ! エース!!」
「カバー!頼む!!」
「オーライ!(どうする? 誰に上げる? 多分レフトからのオープンが確実…でも、もう1回旭に上げて…また、止められたら)」
「菅原さん、もう1回!決まるまで!!」
「ドSだねー王様」
(苦しい時やレシーブが乱れた時ラストボールを託されるのがエース…分かってる分かってるけど…トスを待ってない旭にトスを上げて3枚ブロックと勝負させるなんて!)
(スパイクが打てるのはトスが上がるから…トスが上がるのはそこに繋ぐレシーブがあるから…そのスパイクを打つのだって俺だけじゃない…皆がそれぞれの仕事をしていたのに…俺は)
「オーライ!」
「嶋田さん!」
「スガー! もう1本!!」
あの大人しめの東峰先輩が大声でボールを呼んだ。
(あぁ、エースが待ってるトスを読んでる。 ネットから少し離した高めのトス…何本も…何本も上げてきた旭の得意なトス
単純なこのトスにでも精一杯、丁寧に)
「君、向こうのチームに肩入れしてんの?悪いけど、また止めるよ」
「当然だ、手なんか抜いたら何の意味もねぇー」
「うわぁぁぁ(涙目)」
(頼もしい背中の守り…俺の為に一番打ちやすいトス…
不足なんてない、単純で当たり前の事を、いつの間にか忘れていた
俺は一人で戦ってるんじゃない!)
菅原先輩が上げたトスを東峰先輩は先までの自身の無い動作ではなく力のあるスパイクが…
(打ち切ってこそ…エース!)
先までの俺のジャンプサーブ以上に大きな音を響かせた。
「これが烏野のエース!」
俺は2人の先輩の活躍に心躍らせた。