超空軌道交通管理隊 ―〝異世界サービスエリア〟異常事態、急行せよ―   作:えぴっくにごつ

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臨時4便:「―当事者確認 状況聴取―」

 侵外と渥美は、句野の案内を受けてSA施設内の裏手、スタッフオンリー区画へと回っていた。

 案内で辿り着いたのは、そのスタッフオンリー区画の内の従業員用食堂。

 すでに主な利用時間である昼食の時間は過ぎ、本来なら落ち着きの内に在るはずのその場は。しかし今に在っては少なからずの喧騒に巻かれていた。

 

 まず見えるは、何名かのSA施設の関係各職員が動き回る光景。

 事務所、整備清掃関係、展開する販売店などの従業員などなど。見るからに手空き人員が片端から呼ばれたという様相で、そんな各々が急き動き回っている。

 

「あれは――」

 

 直後に渥美が気に留めたのは、その職員各員に囲われるまた別の人々だ。

 

 人数は10名弱。その内訳は老若男女・子供と幅広い。

 しかしいずれも共通して見えるは、その全員が汚れたボロ布同然の衣服を纏い。そして酷く傷つき疲弊した様子が見える事だ。

 もちろんSA関係職員には見えず、利用者のそれでもない。

 そしてSA各職員が忙しなく動き回る理由は、その人々の救護手当て、ケアのためであった。

 

「この世界の、か」

 

 それを見て侵外と渥美はすぐに気づき、そして侵外はその旨を零す。

 人々は、この異世界惑星の住民だと。

 

 そしてその異世界の住民らしき人々を囲う食堂の中心から、少し離れたところに。また様相の異なるいくつかの人影があった。

 

 一人は、お店のロゴの入ったエプロンが目を引く、飲食店の制服姿の20代前半程の青年。

 制服はユトロンSAに入る食事処のもので、それから青年がSA施設職員である事が分かる。

 

 そしてもう一人は、このSA施設におよそ似つかわしくない容姿風貌をした十代後半の少女。

 真っ白の長い髪に、黒色のワンピース衣服。

 そして何より目を引くは、その背より生える二対の『翼』。

 白鳥のような純白の翼と、コウモリのような漆黒の翼。それがクロスするように生えているではないか。

 まさに天使と悪魔の混在したような姿。

 この異世界の、それも人外の者であることは明確だ。

 

 そしてその二人に寄り添うように居る、シェパードの面影のある犬が一匹。

 

「あの人が?」

「えぇ」

 

 その二人と一匹の姿を一旦見た後に、渥美が句野に一言尋ねる。そして句野からは肯定の一言が返る。

 見えた内の、天使と悪魔の特徴を持つ少女が。今のSAを取り巻く騒ぎの中心であろうことは、容易に推察できた。

 

 侵外と渥美、句野はその二人と一匹の元へと歩み近寄る。

 まず食事所店員の青年が、侵外等管理隊の到着に気づいて軽く会釈。

 天使と悪魔の特徴の少女は、身を少し硬くする様子を見せたが。それには青年が「大丈夫」と声を掛けた。

 

「お疲れ様です、管理隊の者です」

「お疲れ様です、ここの食堂の従業員です。お手数をお掛けしてすみません」

 

 渥美が管理隊を代表して挨拶と身分を述べ、青年はそれに詫びる言葉と合わせて返す。その事からも、青年がまた何かの事情を知る立場であることが察せた。

 

「外の状況について通報を受けて来たのですが――店員さんは事情をご存じなのですか?」

「はい――説明させていただきます」

 

 まごまごしていてもしょうがないと、渥美は単刀直入に尋ねる。

 そして青年はそれに肯定。説明の言葉を紡ぎ始めた。

 

 

 青年の説明により。天使と悪魔の特徴の少女の、そして手当を受けている人々の正体が明らかとなった。

 

 まず少女の正体は、その姿の通り――神族、そして魔族。

 名を、クアクレスと言うそうだ。

 恋の落ちた神族の男と魔族の女の間に生まれた、天界と魔界からすれば禁忌の子。

 ここまでの月日を匿われ育ってきたが、数月前についにその存在を見つけられ。からがら両親の手によって逃がされたが、それから数か月は地上で逃亡の身の上であったという。

 

 そして現在SA職員等から手当てやケアを受けている人々は、各地――現在SA施設を囲う各勢力の元で隷属させられていた、脱走奴隷だという。

 少女とはまったくの偶然でその道すがらに出会い、逃避行の道地を共にすることになったのだと言う。

 

 そんなその少女と人々は昨晩。SA施設の側で行き倒れている所を、従業員の青年に発見されたと言うのだ。

 

「正しくは、見つけたのはこの子だけどね」

 

 その説明の途中で、青年――桜井と名であるという彼は、補足の言葉を紡ぐ。

 正しくは一番最初に少女たちを見つけたのは、今に桜井たちに寄り添うシェパードの面影のある犬であったそうだ。

 その子はまた異世界の地から流れ着いて、SA施設の近くに住み着いた元は野良犬であり。しばらく前からSA職員の皆で世話をしているのとのこと。

 その犬が行き倒れの少女達を見つけ、閉店後の施設点検に赴いていた桜井を導き、発見に至ったのだという。

 

「なるほど――では、外の勢力はあなたとあの人たちが目的ということですか」

「はい……」

 

 渥美の確認の言葉に、クアクレスは今も不安の色を浮かべながら肯定。

 

「あ、あの……!申し訳ありません、私たちのせいで……しかし、どうかあの人たちは……ええと……!」

 

 次にクアクレスが発したのは、謝罪と、整わぬ様子でのそんな言葉。

 しかしそこには、自らが原因となりユトロンSA施設が軍勢に包囲されてしまった事を詫びる色が。

 そして、せめて自らと共に逃げ延びて来た人々の保護を求める懇願の色が、探らずとも察せた。

 

「落ち着いてください、大丈夫」

 

 それに渥美は、静かな口調で宥める言葉を返す。

 

「外の集会の危険性と、皆さんの身の処遇を懸念されているのですね――」

 

 そして渥美は、クアクレスの意図を察している事を言葉にして見せ示し、そして説明を始める。

 

 先んじて、逃げ延びて来たクアクレスと人々の処遇については、外交の域に入り。

 これより超空コミュニティの外交省へと持ち込まれ判断が講じられる事から、現状にあっては確実な事は言えない事。

 しかしクアクレス等が命の危機から逃れるために逃げ延びて来た、亡命者の定義にあてはめられる事。そして超空コミュニティは亡命者の保護に注力しておる事から、庇護下におかれる可能性は低くないことが、補足として説明された。

 

「そうですか……」

 

 それを聞いたクアクレスの顔は、しかし未だに晴れない。

 それは一応は説明されたが確実ではない以降の身の処遇に。

 いやそれより何よりも、現在進行形でSAを包囲する軍勢の脅威を何より懸念し恐怖してのそれが、ありありと見れた。

 

「ここはすでにSA施設、こちらの権利敷地内です。その内にいる皆さんの安全は守られます」

 

 それにも一応の補足は述べる渥美だが、やはりクアクレスの顔色は晴れないままであった。

 

「――ところで、認識遮断が無効になっている理由は?」

 

 無理も無い、と。一連の現状の限りの説明はとりあえず終えた所で。

 今度は侵外が、話を変えて別件を尋ねる言葉を句野等に向ける。

 

 今先にも言及されたが、SA施設には外部からの認識を阻害する認識遮断施設によるフィールドが張られているはずなのだ。

 しかし現在に在っては外部の集会軍勢はいずれもがSAを認識し、その眼と得物の切っ先を軒並み向けている。

 このことから認識阻害が無効になっている様子は明らか。侵外の言葉はその詳細を尋ねるものだ。

 

「あぁ、それは……――」

 

 それに、困ったなといった色で答えたのは桜井。

 そして桜井は一度クアクレスや人々を見た後に、足元に居る犬のその子に視線を落とした。

 

 先んじて説明しておくと、認識阻害機能はその構造機構から。魔法魔力や異能といったものに、それらを有する存在に身体・精神的影響を与える特性を持った。

 それが、逃げ込んで来たクアクレスや一部の魔法異能を持つ人々に。当初、頭痛や気分の悪化などの影響を及ぼす問題が出てしまったと言うのだが。

 

 なんと犬のその子は、真っ先にその以上と、それが認識阻害施設の影響である事に感づき。

 人より小柄な犬の身を利用して、立ち入りが制限される認識阻害機械機器の置かれる区画に忍び込み。

 器用にケーブル類を外してしまうなどして、認識阻害機構をダウンさせてしまったのだという。

 

 それによってクアクレスたちへの影響は収まったが、代償としてSAの認識阻害が無効となり。

 ケアクレスたちを血眼になって追いかけて来ていた各軍勢に、SA施設は発見され現在の包囲される状況になったのだという――

 

「――また、賢いやらかしをしてくれたな」

 

 一連の経緯を聞いた後に。侵外はそんな呆れた言葉と視線を、その犬の子に向ける。

 

 犬の子のそれは、かなりのやらかしではあるのだが。

 しかしクアクレスたちへ身体への捨て置けぬ影響を、排除するための行動であったことから。SA関係者の句野や桜井も、その犬の子に困った色は見せつつも強く叱ることはできない様子で。

 桜井は困り笑いをうかべつつも、その犬の子の頭をポフポフと撫でてやる。

 そんな犬の子当人、いや当犬は。

 まるでやるべき一仕事やってのけたかのように、頭を撫でられながら「フンス」と鼻を鳴らしていた。

 

「成程、状況はわかりました。とりあえず詳細は、分駐さんや管理事務所他の到着からですね」

「やはりですか」

 

 一連の確認が取れ、渥美がそう発して。句野も想定していたようにそう言葉を返す。

 これ以降、管理隊である渥美と侵外ができるのは。各所への報告、状況経過の観察、軽度の警戒程度だ。

 それ以上は、他の各部署部門の到着を待つ必要がある。

 

「侵外くん、管制にはボクから一報しとくよ。侵外くんは危機管理アプリに状況写真上げて、管理事務所に電話しといてもらっていい?」

「了解、かかります」

 

 そして、とりあえず今やるべき、及びできる範囲の各種諸々を行うべく。

 渥美と侵外は算段を交わし、それぞれの行動へと掛かり始めた。

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