RollBack ~白エルフ達の最後の努力~【完結】   作:ぼっちクリフ

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RollBack

星暦九五三年、キャメロット外務省は対ロヴァルナ社会主義共和国への牽制策として「ロールバック」という外交戦略を提唱した。これはロヴァルナの支配下にある東星欧諸国を解放し西側諸国に引き込む大胆な外交戦略であり、従来の封じ込め政策とは違い東側との完全対決を指向していた。

 

これに対しロヴァルナもまた「ロールバック」を実施、共産圏を拡大する事で西側へ対抗する事を目指した。

 

そしてその東側の「ロールバック」の対象として選ばれたのがベレリアント半島だった。

星歴九六〇年、ロヴァルナはベレリアント半島内の独立過激派に対し大規模な援助を実施、ベレリアント半島を共産圏に取り込む事を画策した。ベレリアント半島はキャメロットの正面玄関にあたる地域であり、この海域にロヴァルナの原子力潜水艦が遊弋するような事になれば東西の軍事バランスは完全に逆転してしまう。キャメロットはオルクセン連邦に対し断固としたベレリアント半島の独立阻止を求めた。

 

そもそもベレリアント半島は経済圏として一体化している。これは旧エルフィンドの外債償還が関係しており、長い間ベレリアント半島各州にのみ特別税が課されていた影響だった。そのせいかベレリアント半島はオルクセン連邦の中にあっても独立の機運が高い。オルクセン連邦は国家憲兵隊を動員しこの独立運動を潰そうと画策した。

 

これに対し状況を静かに見つめている集団があった。白エルフ族の長老達……いわゆる「ベレリア世代」であった。ベレリア戦争を生き残り雌伏の時を過ごす彼女達は若い白エルフ族の不満が高まっている事、国家憲兵隊内の白エルフの多くが彼女達に同情的である事を知っていた。また人間達の中にもオルクセン連邦のやり方に異議を唱える者達が現れ始めていた、南北センチュリースターの公民権運動家達だ。ある意味白エルフ族最大の庇護者であったグスタフ王は既に亡く、後の権力者たちの必死の同化政策にも関わらず白エルフ達の大半はオルクセンに従いながらも決して同化しようとはしなかった。こうなると他の魔種族達も態度を硬化させる。白エルフ達は魔種族の中で孤立し、「連邦の理想に共感しないくせに庇護に頼る鼻もちならない連中」としてますます迫害は強まっていき、公民権運動と繋がった白エルフの独立運動家たちは諸都市で激しい抗議デモを繰り返した。

 

この状況の中で「ベレリア世代」を中心とする穏健派白エルフ族はオルクセン連邦にささやかな譲歩を願った。ベレリアント半島全体を一地方として公式に認める事、すなわち現在各州に跨っている行政手続きや区割りを一体化しベレリアント州として統一する事を政府に要請。別に自治権を寄越せとも言っていない、行政区の長を白エルフにしろとも言っていない。ただ現在事実上一体の経済圏として成立しているベレリアント半島の区割りを行政面でも適用しろと言っているだけに過ぎなかった。

それでも連邦政府内の意見は割れた。これは独立運動の第一歩だ、白エルフに安易に譲歩するべきではない、グスタフ王の決めた政策を変更するのか……様々な反対意見が出たが、結局賛成派の意見が通った。穏健派白エルフ族の協力が無ければ運動をオルクセン軍が鎮圧しなければいけない可能性があり、それが世論へ与える影響を重く見た事、そしてキャメロットの企業などからも手続きの簡略化が期待できるとして歓迎された結果だった。

 

結局ロヴァルナの画策した「ロールバック」は失敗しあくまでベレリアント半島がひとつの行政区――いわゆる「ベレリアント州」が成立しただけでこの騒動は終息した。ベレリア世代は若い白エルフ達を説得し、それを聞かない者は容赦なく弾圧の対象とした。彼女達は焦らない。オルクセン連邦に決定的な隙が生まれるまで、白エルフ達はじっと機会を待ち続けた。

 

ベレリアント半島の共産化に失敗したロヴァルナ社会主義共和国の指導者フルシチョーリフは対象をユーゴスラヴァに変更、後に13日危機と呼ばれる事態を引き起こす事になる。

 

 

星暦一〇二八年

 

オルクセン連邦の内情は急速に悪化していた。6年前の北星洋条約機構への加盟、そして同時に実行された星欧連合加入による移民受け入れ。ただでさえ出生数の少ない魔種族に代わり人間の移民たちが連邦内で急速に力を持ち始め、それに対する反動が各地で起こり始めた。移民排斥運動は過激化し新興政党が「魔種族ファースト」を掲げ躍進、与党は選挙で大敗を喫しオルクセン連邦で建国以来初めての政権交代が行われた。

 

オルクセン新政権は手始めに不法移民20万人の強制送還を開始、最初はオルクセン警察が、後にオルクセン軍まで動員しての徹底的な「不法移民狩り」が行われる。キャメロットをはじめとした星欧連合諸国はオルクセン新政権の強制送還を激しく批難したがオルクセン新政権はこれを国内問題への干渉であるとして黙殺。ログレス・タイムを始めとした星欧の新聞各社はこの不法移民狩りで多数の死者が出たと報じた。そもそも魔種族、とくにオーク族は体格が大きく力も強い、彼らが不法移民を「制圧」する事で武器を使わずとも死者が出るのは当然の経緯だった。グスタフ・ファルケンハインの死からおよそ1星紀が経過した今日、彼が成し遂げた魔種族と人間達との融和は急速に失われつつあった。

 

そんな中で事件は起きた。ベレリアント州ファルマリアで難民支援NPOに所属する白エルフがファルマリア警察から子供の難民を守ろうとした所、激昂したオークの警官がこれを殴打、死亡する事件が発生した。オルクセン内務省はこれを公務執行妨害に対するやむを得ない処置だったと発表する。

 

 

機は熟した。

 

 

白エルフ族が大半の議員を占めているベレリアント州議会は内務省に対しただちに公開調査および警官の持つボディカメラの映像公開を要求。これに対し内務省は警察内部での服務規程に属する事であり国家公安委員会が調査すべきものであると拒否。ベレリアント州各地で大規模抗議デモが発生する事態へと発展した。

 

白エルフ族はかねてからの計画を実施する絶好の機会が到来したと判断した。星暦一〇二八年十一月、国家憲兵隊はベレリアント州各地の都市に集結。オルクセン連邦政府に対してはデモ鎮圧のための出動であると報告した。そして翌日、議会に法案が提出された。

 

 

「ベレリアント州はベレリア共和国として独立しオルクセン連邦を離脱する事の民意を問う選挙を実施する」

 

 

州議会は圧倒的多数でこの法案を可決、ただちに選挙の準備が開始された。オルクセン連邦は茫然とし、次いで激怒してベレリアント州駐留のオルクセン軍に出動を命じようとしたが一足遅かった。白エルフ族が多数を占める国家憲兵隊は州議会に従う事を宣言するとオルクセン軍基地に突入し基地司令と交渉、このままベレリアント州から退去するか不法移民に対する虐殺疑惑で星欧司法裁判所に出頭するかそれとも一戦交えるかを選ぶよう迫った。虐殺犯として扱われるのはごめんだし、内戦を自分達の手で起こす勇気などありはしない基地司令達は全員が退去を選びオルクセン軍は撤退した。白エルフ達の『奇襲』は完全に成功した。ベレリア戦争から150年以上の時が経ち、その間本格的な戦争を経験していないオルクセン軍に過日の栄光は無かった。

 

オルクセン連邦政府はこれを分離主義者の蠢動であるとして直ちに鎮圧しようとしたが、事ここに至りついにキャメロットおよび星欧各国がオルクセン新政権を見限った。星欧連合に加盟しながら移民および難民の迫害を繰り返し権威主義的な主張を振りかざすオルクセン新政権に対し各国は民主主義の手続きを守る事を要求し、またベレリアント州議会の要請によりキャメロット、グロワール他各国より選挙監視団が派遣される事となった。これは星欧各国がベレリアント半島の独立投票を公認した事を意味している。オルクセン内部ではベレリアント問題に関する初動対応をしくじった新政権に対し批難が殺到、基盤の弱い新政権は退陣を余儀なくされた。代わって旧与党が政権に返り咲き連立政権が成立したが、ベレリアント州の選挙に介入するには時間が足りな過ぎた。

 

明けて星暦一〇二九年、ベレリアント州にて独立の可否を問う選挙が実施された。投票率80%以上を記録しその中で独立は71%の支持を受け承認、ここにベレリア共和国が成立した。キャメロット、グロワールなどの国が承認したがオルクセンは断固として独立を認めず、即日議会で「ベレリアント州の独立を永遠に認めない」との宣言を採択する。グスタフ・ファルケンハインの理想である魔種族統一国家はここに終焉を迎えた。

 

 

「まだ彼女は来ないのか」

 

「あの御方が迎えに行ったそうです」

 

トゥイリン・ファラサールの質問にファンリエン・ヴェルナミアが答えた。間もなく始まるというのに彼女はまだ来るのを渋っているのか。

 

2人は今日の「計画」を密かに支援した人物だった。キャメロットやグロワールに対する交渉窓口を紹介し、密かに白エルフ族以外の議員に根回しし、資金を提供先を斡旋した。けれども中心人物ではない。「計画」の中心人物は、あの戦争を生き抜いた者達……「ベレリア世代」と呼ばれる白エルフ族だった。

ベレリア戦争の終結から既に150年以上が経っていた。それでもベレリア世代の白エルフ達は生き残り、アイデンティティを持ち続け、いつかベレリアを取り戻すべく雌伏を続けた。星暦960年の「ロールバック」騒動で最初の一歩を踏み出した彼女達は星欧各国に根回しをし、白エルフ族で密かな連帯を行い、この独立計画を実施する時を待っていた。

そして今日ついにその悲願が成就する。『挿し木』はついに新しい樹として根を張り葉をつけたのだ。

 

「貴女が来なくてどうするのですか」

 

呆れたような口調で部屋に入ってきたのは王女エレンミア・アグラレスだ。彼女は「計画」には関わっていない。新時代には王家は必要ない、それよりも白エルフ族は自分達で立ち上がらなくてはいけないと判断した故に遠くから見守る事を選んだ。その後ろから入って来る、一人の白エルフ。まるで12、3歳の少女のような外見をしたその人物は呆れたように集まった者達を見回した。

 

「何だ、まだやってるのかお前達」

 

TVでは式典が始まった様子を映している。ベレリア共和国の建国記念式典では多数の花火が打ちあがり歓声が巻き起こっていた。白エルフ達の悲願が、その150年以上にわたる努力が、今日報われるのだ。

 

 

ダリエンド・マルリアンの評価は未だに白エルフ族内でも割れている。

しかし、ベレリア共和国の建国宣言には以下の言葉が記された。

 

 

我らベレリアに生きる民全ては過去の過ちを繰り返してはならない

 

全てベレリアに生きる者は他者を排斥し己のみの利益を追求してはならない

 

世界でもっとも優れた者であるべく研鑽を重ねよ

 

世界でもっとも美しくあるべく謙虚であれ

 

世界でもっとも完璧であるべく努力せよ

 

今の自分が全て正しいと思わず、明日の自分を誇る為に

 

研鑽せよ、謙虚であれ、努力せよ

 

弥栄!

 

 

~完~




本作はこれにて完結となります。
短い期間ではございましたが、お付き合い頂き本当にありがとうございました。

良ければ評価や感想、読了報告のポストなどを頂ければこれに勝る嬉しさはございません。
何卒よろしくお願い申し上げます。


最後に、素晴らしい原作を生み出した酒樽先生にもう一度、最大限の感謝を!
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