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「は、はじめまして…白菊ほたるです。実は暗い話で申し訳ないのですが以前所属していたプロダクションが倒産してしまって……すみません……その前も……その前も……。あ、でも私、頑張りますので!!」
……初対面の女の子にこのようなことを言われた場合、どうすればいいのだろうか?
幸いながら、このセリフはぼくが言われたわけではなく、先ほど話題となった少女、白菊ほたるが、初対面の担当プロデューサーに対して、開口一番で言ったものだ。
そのとき、担当プロデューサーは「そ、そうか」などといった言葉しか返せなかったそうだ。
無理もないとしか言えない。いくらぼくが「ぼくの辞書には全ての言葉が載っている」とかなんとか、おこがましい戯言を行使したところで、たった一人の少女の深刻な悩みに対しての箴言など持ち合わせてなどおらず、そのプロデューサーと同じか、それに毛がはえたようなことしか言えないのは事実なのだ。
ほたるちゃんだって何らかの答えを期待していたわけではないだろう。リアクションを期待しての言葉ではなく、だからこれは、警告と宣言、そしてちょっとばかしの気遣いなのだ。「なるべく迷惑をかけず、アイドルとして努力する」ということを言ったにすぎない。
しかし、そのすぎないことをいうのがいかに難しいか。事実をそのまま、事実にすぎない形で口にするのはひどく勇気がいる。戯言を遣い、戯言に遣われてきたぼくがいうのだから間違いない。
普通は笑い話にしたり日常として受け入れたりという濾過が必要なのだ。
いや、そのすぎないことは、果たして褒められたものなのだろうか?
なるほど、たしかにそれは難しいし、普通ではない。勇気をもっての在り方だと言える。けれども、別にそんな道は選ぶ必要がないのだ。簡単で、普通で、臆病な道を選んだって悪いということはないのではないか?
少なくとも彼女の運よりは。
「はじめまして。私はこのプロダクションでアシスタントをやっております千川ちひろです。どうぞよろしくお願いします」
「右に同じくはじめまして。僕はこのプロダクションでプロデューサーをやっている。ここではほたるちゃんの担当プロデューサー、略してほたるPと呼ばれている。プロデューサーと言ってもほとんどマネージャーみたいなものだけどね。よろしくどうぞ」
件の少女、白菊ほたるちゃんが所属するプロダクションの事務所につき、そこで男性と女性に出会った。女性の方は千川ちひろという名らしい。
む……いやこれは……。
……なんだか年上なんだか年下なんだかわからないような容姿をしている。ここはいささかの期待を込めて年上としておき、ちひろさんと呼ばせてもらおう。
男性のほうは……
「どうもはじめまして。えっと、そちらの男性の名前は?」
自己紹介の中に彼の名前が含まれていなかったので聞いたのだが
「今言ったように、ほたるPと呼んでくれればいい。ここではそれが僕の名前だよ」
という言葉を返すのみで教えてくれなかった。
「我がプロダクションでは、アイドルに主軸を置いておりますので、プロデューサーの呼び名は担当している娘によるのです」
親切にもちひろさんが教えてくれた。うん、この面倒見のよさそうな感じ。間違いなく年上だろう。なかなかいい感じだ。
しかし、呼び名が担当している娘によるとはなんとも厄介だ。そんなのは名前が二つあるようなものじゃないか。まるで、ぼくに対する牽制のような制度だ。まったくやりにくくて仕方がない……
「『戯言遣い』は名前がわからないと不安かい?」
……へえ、哀川さんに連れてこられたって点からまさかとは思っていたけど。
「請負人としてのぼくではなく、『戯言遣い』に対しての用があるみたいですね」
とぼくが言うと
「いえいえ、あくまでも請負人としてのあなたに用事があるのです。たまたま二人とも『戯言遣い』を知っているというだけですよ」
とちひろさんが言い
「ま、戯言なしというわけにはいかないだろうけど」
と彼が言った。
「ふうん、でも意外ですね。潤さんの口ぶりでは知人は一人みたいでしたけど、二人とも知り合いなんですか」
ちなみに、今この場に哀川さんはいない。次の仕事があるとかなんとか。いろいろと忙しい人なのだ。まあ、それだけではないようだけれど。
「いや、僕は違うよ。『戯言遣い』の情報は別口から仕入れていたのさ」
「私たち二人が知っていたから、あなたに来てもらったというのはありますがね」
「……そこが謎なんですよね。ちひろさんが潤さんと知り合いだというなら、そちらに依頼したほうがいいのではないですか?わざわざぼくに依頼するなんて、急がば回れって言ったところで、遠回りにも限度があるでしょうに」
初対面の人間にいきなり名前で呼ばれたことに少しばかり驚いたようだが、すぐに気を取り直しちひろさんは返答した。
「いえいえ、知っての通りあの人は忙しい人ですからね。時間を確保するのも大変なのです。それに、今回の件では『人類最強』よりも『戯言遣い』のほうが適任だと考えたものでして」
「それはちひろさんの判断ですか?」
「いや、ちひろさんだけじゃなくて、僕と、このプロダクションの代表さんを含めた3人の判断だよ」
「たった3人の判断で決めていいことなんですかね?ぼくのような、どこの誰だかわからない人間を内部に招くなんて、ほかの方が納得しないのでは?」
特にぼくのような人間に対しては、とは言わなかった。
「とは言ってもね。大体、この事務所にいるのは大抵、僕やちひろさんや代表さん
で、ほかのみんなは出払っていないことが多いんだよね。みんな熱心な働き者なのさ」
「働き者ねえ……。そうすると、事務所にいることが多いあなたは差し詰め怠け者ということですかね?」
「そういうわけではありません。彼は働き者であるが故にここに居ざるを得ないのですよ」
すかさずちひろさんが答えた。
「割り振られる仕事が多くてね、どうしてもここを離れられないんだ。ほたるちゃん以外にも担当している娘がいたりしてね。今回、戯言遣いさんを呼んだのもそれが原因なんだよ」
「ああ、そういえば、ここに連れてこられた目的をまだ聞いてませんでしたね。一体全体、何のご用ですか?」
とは言ったものの、話の流れからして、大体の内容はわかる。哀川さんよりもぼく向きの内容という点でかなり絞られるし。
その質問を待っていたとばかりにちひろさんが答えるまでに、そんなことをぼくは考えていたわけだが、果たして。
「あなたには、彼が担当しているアイドルの面倒をみていただきたいのです」