空想パラレル 偶像少女と戯言遣い   作:梔子 整

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「人類みな兄弟」という言葉は明らかに全人類が同レベルにくだらないことを示している。



第一幕 ご都合ラック
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白菊ほたる。

13歳、職業はアイドル。誕生日は4月19日で、左利き、鳥取出身。身長156センチ。体重は42キロ。3サイズは上から77-53-79。血液型はAB。趣味は笑顔の練習とレッスン。

 

ぼくが彼女について知っていたことはこれくらいで、それはすべて彼女に関する資料に書いてあることで、つまり、実質的にぼくは彼女のことをなにも知らなかったことになるわけだ。そんな少女の面倒を見るというのはそれこそ面倒なことになるに違いなかったけれど、依頼なのだからしかたないし、この依頼がされることとなった経緯を聞いて

しまえば断ることなどできなかった。

 

その経緯というのも、ぼくが聞くところ曰く、「休暇も取らず働き詰めでいたほたるPを見ていたアイドルたちが、彼の体調を気遣い、休むように懇願した」というものだ。

 なんと涙ぐましいことだろうか。彼女たちもアイドル活動で負けず劣らず忙しいだろうに、プロデューサーに対する気遣いも忘れぬとは。

しかし、ほたるPはその懇願に対してこう答えたそうだ。

 

「休んでいる暇なんてないよ」

 

なるほど、実に簡潔だ。簡潔に簡潔している。せっかくの好意を無下にする簡潔さだ。そんなことでは仕事人間の謗りを免れないだろう。

 

しかし、アイドル達はそんなことではめげなかった。なんとか彼に休暇を取らせることはできないかと考え、最終的に、アイドル達のお姉さん的存在のちひろさんに相談がされることとなったらしい。

 

どうやらちひろさんも彼の働きすぎを気にしていたらしく、その相談に対して真摯に対応し、彼女たちと一緒に解決策を考えたそうだ。

 

その考えた末の解決策というものが「新たに人を雇う」というものだった。どうやらこのプロダクション、圧倒的に人手不足らしく、前々からその手の議論はされてきていたらしい。

だが、人を一人雇うということは、給与などの人件費がその分かかるということであり、その議論の当初ではとてもそのような余裕はなかったという話だ。だが、それも過去の話。最近では、このプロダクションも軌道に乗ってきたらしく、新しく人を雇うという余裕もできたようで、そんな折に、アイドル達の相談があり、人手を増やすことに決まったそうだ。

 

しかし、そう決まったところですぐに人手が増えるわけではない。新しく雇うにあたって適性を調べなければならなかった。特に、年端もいかない少女たちを相手にすることが多い仕事だ。信用がおけることも重要で、さらに今回の場合は、即戦力になるような人材が望ましかった。

 

だが、アイドル達のほたるPに対する心配を見ているとそうのんびりしているわけにもいかなかった。

 

そんな悩みを抱えていたちひろさんは、当時、ちょうどひと仕事を終えて結果を報告しに来ていた、人類最強の請負人こと哀川潤に対して

 

「そこそこ有能な人材がそこらへんに転がってないでしょうか?」

 

という具合に相談した

 

それに対して哀川さんは

 

「有能なだけでいいんならどこにでも腐るほどいるだろうが。他に条件はないのか?」

 

と返したらしい。

 

「ええ、そうですね……。有能で即戦力になるなら誰でもいいという感じですね。ああ――強いて言うなら」

 

子供に好かれるような人間が好ましいですね、とちひろさんは言ったらしい。

それを聞いた哀川さんは悪戯っぽく笑い

 

「それならぴったりのやつが一人いるよ」

 

と言ったそうな。

 

ここまでがぼくの聞いた話であり、まとめると、哀川さんの言う「ぴったりのやつ」がぼくであり、その推薦もあってぼくはこのプロダクションで働くことになった。勝手に推薦されたぼくにとってはどうリアクションをしていいか戸惑うが、まあどうせ暇だったのでいいか、という感じだ。

 

それに、ぼくが感じたところによると、どうやらちひろさんにはそれ以外の意図もあるようだし。

 

まあ結局、その意図がなんであれ、請負人として依頼は果たすまでなのだけど。

 


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