フヘンの愛   作:イベリ

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私は、砂藤力道が、好きだ。
もうこの話は【砂藤力道:エボルブ】です。



とーが?ひみこ!


柔の勇者

『さぁ!舞台の整地 も完了!センキュー!セメントス!そして続く第二試合は、骨抜柔造率いる柔の勇者パーティー!さっきの女子オンリーのパーティーとは打って変わって、オールメンズ!逢魔も近接オンリーの制約ありの中!泥臭く、男臭い戦いを見せてくれるのかぁ!?』

 

『エイトくんが試合の時はワタシ、ヒミコが解説に入ります!ヒミコちゃんって呼んでね!』

 

『よろしくぅヒミコちゃん!因みにさっきの戦いのご感想は?』

 

『みんな強くて楽しかったです!』

 

『ご満悦の模様!良かったなぁ勇者達〜!さて!魔王逢魔!既に舞台でストレッチ!圧倒的強者だが、油断はしないってことかぁ!?』

 

『エイトくん、ワクワクしてるねぇ、楽しみなんだねぇ!』

 

数分で整地を終え、既に舞台に立つジャージ姿の詠斗は、ストレッチをしながら3人を待っていた。

 

「っし、いい感じ。」

 

ぐっと体を伸ばし、今か今かとその時を待っていた詠斗は、通路の奥からこちらに来る3つの気配に、ニヤリと口角を上げた。

 

「やっと来たか。待ったよ?」

 

詠斗の言葉にやれやれと苦笑した3人は、前よりも似合うようになったヒーロースーツが、詠斗には少し輝いているように見えた。

 

「おいおい、そんな気合い入れんなよ。」

 

「憂鬱だぜ……お前が相手なんてなぁ。」

 

「まぁ、当たって砕けろだろ?」

 

「ふーん、随分と消極的じゃんか……」

 

『さぁ!第二試合!柔の勇者パーティーVS魔王、逢魔詠斗!開始前の口上をお願いシマース!!』

 

「はぁ、こういうの苦手なんだけどな。」

 

どこか諦観的な3人に、少し不満気に眉尻を下げた詠斗は、そのまま骨抜の言葉を待つ。

 

骨抜はいつも通り、熱のない表情のまま、詠斗を真っ直ぐ見つめた。

 

「……俺はさ、別にそんないい成績収めようだとか、野心があるわけじゃない。負けたって悔しかねぇし、お前相手なら尚更。俺が弱いと思われたって、別になんとも思いやしない。」

 

目が合って、1秒、2秒。詠斗の退屈そうに細められた目が、徐々に開かれる。

 

背後に並ぶ砂藤、円場を見て、再び前を向く。

 

「それでも、俺のせいで仲間まで弱いと思われんのは心外だ。だからなぁ、逢魔。」

 

「骨抜…」

 

「ははっ、そうだよなぁ。お前そういう奴だわ。」

 

少し下がっていた詠斗の熱が、上がっていく。炉心がうるさい程に拍動する。

 

「───────ぶっ飛ばしてやるよ。」

 

短く、それだけを口にした骨抜に、満足そうに口角を上げた詠斗は、続くように嗤った。

 

「ハハッ、嘘が下手だなぁ。」

 

その目に宿る熱は、負けてもいいだなんて思っている男の目ではなかった。

 

詠斗が右の人差し指に嵌めた指輪に唇を軽く落とすと、指輪が強く輝く。爆ぜた光が蛇のように全身を縫い上げ、詠斗の装いを一変させた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「せいぜい足掻きなよ。仲間が、君自身が強者であると証明する為に、ね。」

 

カチカチっ、と腰に下げたプレートが揺れる。失った左側の袖が靡く姿に、微塵も弱々しさなど感じさせず、ただ堂々と勇者たちを見るその姿は、魔王としての風格に満ちていた。

 

会場が、沈黙の熱狂に包まれ、誰もが息を呑む。

 

『うおわ、悪っりぃ顔してんなぁ魔王!てか、君達すげぇナチュラルに変身するよね。』

 

『はぁ〜♡ああいうエイトくんもカッコイイです♡』

 

『全国放送で惚気けないでね。さぁ!では、ミッドナイト!試合開始の合図を!!』

 

その声に、ミッドナイトは鞭を振り上げた。

 

『では、試合を始めます!開始っ!!』

 

試合開始と同時、観客の歓声に紛れるように、目の前にいた3人が地面にどんどんと沈んでいく。

 

「悪りぃな、逢魔。俺は、臆病なんだ。」

 

「確実に、堅実にやらせてもらう。」

 

とぷんっ、と完全に地面に沈んだ3人の姿が消え、舞台には詠斗ただ一人が残される。

 

骨抜柔造、個性『柔化』

 

触れた生物以外の物を柔らかくし、地面に潜ったりもできる。雄英高校1年の、推薦組の1人だ。故に彼は、詠斗の中でも優秀な戦士であった。

 

ただ実直に課題に向き合う様は、詠斗としても好ましかった。近接戦、咄嗟の判断に優れ、強化型の個性ではなかったが、個性と掛け合わせれば十二分に通用する。

 

『いきなり3人が地面に沈んじまったぞ!?つーか、あいつの個性的に開幕で舞台全部柔化させてくると思ってたんだけどな。』

 

『ジューゾーくんの選択は正解ですね。開幕で舞台全部を柔化させても、エイトくんは確実に適応します。そもそも、素振りを見せた瞬間に本気でジューゾーくんを潰せばいい。』

 

『骨抜の個性発動より速いのそれ?』

 

『え?はい、私達には加速の手段が何個かありますけど、エイトくんと私はそれを掛け合わせてオールマイトに追いついてました!』

 

『あの人に追いつくのバグだろ。』

 

『逆に私もエイトくんも、あれだけやって漸く追いつける、位だったので、オールマイトはやっぱりおかしいです!』

 

詠斗の想定として、開幕で舞台上全てを柔化してくると予想していたが、良い方向に裏切られた。

 

(柔造の個性は確かに厄介……だが、その程度だ。さて、どう来る?)

 

ワクワクとした顔を隠さぬまま、その時を待つ。

 

5秒、10秒、15秒

 

詠斗の背後の地面が、ぐにゃりと溶けた。

 

ざぱっ、と3つの影が詠斗を囲む様に飛び出す。

 

「おっ」

 

弾き出されるように飛び出した砂藤が、円場が、骨抜が拳を振るった。しかし、詠斗は全方面に目でもついているかのように、しっかりと見ることすら無く、全方面から同時に放たれた攻撃を片手だけで捌き切り、最も厄介な骨抜に肉薄。

 

(地面を柔化っ、いや、間に合わ───────)

 

「覚悟はできた?行ってらっしゃい。」

 

吸い込まれるように骨抜きの胴に拳が突き刺さる寸前。詠斗の拳が見えない壁にぶち当たって止まる。

 

空間にヒビが入ったような様子に、詠斗はなるほどと納得した。

 

「硬成か、いいサポートだ。」

 

「今の状態でヒビ入れるとかどんだけだよクソッ…!骨抜!立て直せ!」

 

「っ、サンキュー…!」

 

即座に後退して柔化させた舞台に潜り込んだ骨抜を見送り、そのまま背後をみれば、誰もいない舞台だけが広がっていた。

 

ほんの少し固まった詠斗は、ほぉ、と呟いた。

 

「なるほど、ピンポイントの柔化ができるようになったのか。これは対策のしようがないな、今はできることが分かればそれでいい。」

 

次の瞬間、詠斗の足元がぐにゃりと溶けた。

 

「オラァッ!!」

 

「おっと、ははっ、いい速度だ。」

 

とてつもない速度で、地面から飛び出してきたそのまま砂藤の拳に足を引っ掛けて飛び上がり。落下の衝撃を乗せて踵を叩きつける。

 

「あっぶねぇ…!」

 

(……なんだ?変な感触だ……あぁ、なるほどね。)

 

しかし、どうにか反応した砂藤は、片腕で防ぐ。詠斗は防がれた違和感のカラクリを理解し、うんうんと頷く。

 

ヒラリと着地した詠斗は、コスチュームに着いた埃を払ってから、砂藤に目を移した。

 

「よく防いだ。それにしても、いきなり個性を使ってくるとはね……僕を倒すのに、3分も要らないってことかな?」

 

その言葉に、力道はポカンとした後に、そーいえばそうだったと笑う。

 

「おいおい!1ヶ月もあったんだぜ!いつまでも俺を、ウルトラマンだと思ってんじゃねぇよ!!───────シュガー・タックルッ!!」

 

「おっ、はははっ。なるほどいいね。時間制限を突破したのか…君の唯一の欠点をまさか1ヶ月で克服してみせるとはね。」

 

「おうよ!!んまぁ、そのせいで授業中も眠気に襲われてたんだ!期末試験は頼むぜ逢魔ァ!!」

 

「あー、最近眠そうだったのはそれか、まぁそこは結果次第かな?でも、そういう真っ向勝負。僕は好みだよ。」

 

腕をクロスし、そのまま突っ込んできた砂藤を真正面から受け止める。片手で止めた詠斗と拮抗した時、詠斗の右足が突然、ガクンっと抜け、足が固められる。思わず、おぉっ、と声が漏れた。

 

(まっ、そう来るよね。)

 

「随分繊細になったじゃないか、流石柔軟な男。」

 

「余裕だなぁッ!シュガー・ラッシュッ!!」

 

その場に固定された詠斗にラッシュを見舞うも、まるで未来でも見えているかのように、スルスルと受け流し、回避する。

 

『砂藤のラッシュを平然と回避回避回避ーッ!未来でも見えてんのか魔王!?』

 

『エイトくんの場合はちょっと話が変わってきますが、ああやって完全に避けるのはメカニズムがあります!』

 

『流石対の魔王!って、メガネどっから出した?』

 

「ヒミコちゃんくん!!欲しいのならばあげると言っているだろう!?わざわざ僕がしているメガネをとるなぁ〜ッ!」

 

『ワタシの物は、ワタシのモノ!テンヤくんのメガネも、ワタシのモノ!』

 

「ははは……詠斗くんのジャイアニズムがしっかり受け継がれてるよ……」

 

選手席からプンスコ叫ぶ飯田に向かって、にひひっと笑った被身子はごめんごめんと謝って、メガネをクイッとあげる。

 

『話を戻して……私と訓練してる時、みんなは思わなかった?攻撃が当たらないなぁ〜って。』

 

うんうん、と選手席のヒーロー科全員が首を縦に振って、被身子の問に答えた。

 

『それはね、物の見方が皆とはぜーんぜん、違うから!デデン!マイクせんせーに問題です!』

 

『oh!?イキナリだな!だがいいぜ、何でも来いや!』

 

『目の前から、ヴィランがナイフをもって襲いかかってきました!この時、ヴィランのどこに注意が行きますか?』

 

『そりゃとーぜんナイフだ!』

 

『そうです!正解!でも、私たちは『目の前のその辺』を見ています。』

 

『アバウト!!言語化してくれ!』

 

『言語化が難しいというか……こう、目の前をぼーっと見てると、全体を見る感覚分かりますか?アレを意図的に意識してると、ほんの少しの身動ぎだったり、周りの環境が見えるというか…とにかくそこから次の動きが予測できるんです!』

 

『………恐らくだが『見ている』じゃなく『観ている』って事だろ。』

 

『それです!観るんです!全部を!』

 

相澤の補足にそれだ!と納得したのか、うんうんと頷く。

外野の話に花が咲いているが、ラッシュを続ける砂藤は意味がわからなかった。

 

「見るじゃなくて、観る!?どういう事だよ!?」

 

「んー、こればっかは難しいかな。経験と訓練。僕の場合はまた別のメカニズムだから、真似はできないよ。被身子は3日で習得したけどね。」

 

その場から1歩も動かず、ラッシュを受け流した一瞬の隙に固定されている足元に魔力を集中。暴発を起こしたエネルギーが炸裂し、コンクリを破壊して拘束から抜け出した詠斗は、直上にある砂藤の顎を蹴り上げる。

 

「ぐガァッ!?しゃらっ、くせぇ!!」

 

「はは、やはりか。こっちも随分と器用に、硬くなったじゃないかっ、と。」

 

軽々と追撃を回避した詠斗の蹴りが顔面を穿ち、砂藤の体を軽々と浮かせた。何とか体勢を立て直して構えた砂藤の顔面付近から、ガリっ、バリンッ、と硝子が砕けるような音が響いた

 

「いっつぇ〜……!容赦ねぇのなぁマジで!首吹っ飛んだかと思った…!」

 

「空気の壁を鎧のように成形して纏わせる……それに壁の硬さも桁違いに上がってる…結構本気で蹴ったんだけどな。前までの力動なら、今のでノックダウンしてたと思うんだけど。」

 

やっぱり徒手格闘は苦手だな、と首を振った詠斗。その隙に、砂藤の足元から円場、骨抜が飛び出す。

 

「大丈夫か砂藤。前衛はお前しかいないわけだ、倒れてくれんなよ。」

 

「あぁ、問題ねぇ!でも、鎧また頼む!あれがねぇと一撃瀕死でシャレになんねぇ!」

 

「おうよ!『エア・ボーグ』!」

 

新たなサポートアイテムである中央に穴の空いたマスク型の機械を装備し、砂藤を即座に武装させる。

 

『おぉ〜!コーセーくんは、仕上げてきましたね。人に装備させるのは凄く苦労していましたけど、実践に使えるレベルに落としてくるなんて、凄いです!』

 

『はいここでPR!彼の個性は『空気凝固』!吐き出した空気を固めることができる!しかぁし!それだけで魔王の攻撃を防げるか!?否!そのためのサポートアイテムだ!では、発目リスナーよろしく!』

 

プレゼントマイクの紹介により解説席に登場したドレッドヘアの少女が、元気に声を上げた。

 

『ご紹介に預かりましたサポート科1年、発目です!B組の円場くん君の個性は便利ですけどもっと硬度と火力が欲しかった!そこで私のベイビー『ソリッド・プレス・バイザー』の出番です!吐き出した空気を固める円場くんの個性に、圧縮のプロセスを加えるサポートアイテム!口腔前方の超小型コンプレッサーで吐き出した空気をミリ単位までギュギュギューっと超圧縮して、並の衝撃じゃビクともしない超高密度で空気を凝固できます!さらにさらに機能はそれだけじゃありません!さぁ!円場くん!私のベイビーで活躍してください!あなたの活躍で私のベイビーの優秀さ、私の技術力を世界に知らしめるための実戦テストです!!』

 

そう言いながら、彼女の目は観客席にいたサポート会社のメンバーに釘付けだ。

 

彼女の様子に、若干ゲッソリしている円場は、たはは、と苦笑した。

 

「こんな時に売り込みかよ…でも、見せてやるよ。砂糖!骨抜!」

 

「おうよ!」

 

「わかった、確実に行くぞ!」

 

今度は地面に潜る奇襲ではなく、真正面から向かう2人に、詠斗は半身に構えて、手刀を作る。

 

その姿と相対した砂藤と骨抜は、剣を幻視した。

 

(本当に剣を構えてんじゃねぇかって気迫…!)

 

(無いはずの剣がまるでそこにあるかのように感じてくる…!)

 

『だがッ!!』

 

2人は、同時に左右から果敢に攻めた。

 

砂藤と骨抜の攻撃を、まるで細剣で捌くように受け流し、高速の貫手が空を裂いた。

 

「っ!!!」

 

「柔造は癖が治せていない。フェイントに反応しすぎだよ。」

 

「ぐがぁっ!?」

 

「骨抜っ!?」

 

「ほら、よそ見してていいのかな。」

 

蹴り飛ばされた骨抜に気を取られたが、なんとか顔面スレスレで貫手を回避した砂藤は、ぱっくりと切れ血を流す頬に一瞬ゾッとした。

 

(───────関係、あるかッ!!)

 

だが、その恐怖を踏み潰し、臆すること無く前に歩み出た。

 

(逢魔の攻撃でいちばん怖ぇのは点の攻撃!まだ即席で穴もある円場の鎧を完全に宛にできねぇ今!俺が出来んのは、ひたすら前に進んで逢魔の『点』攻撃を潰す事……!)

 

詠斗の攻撃は速く、間を埋めるのが美しい程に上手いため、隙がないように見える。しかし、斬払う『面』の攻撃ではなく、威力が最も高い突き、所謂『点』の攻撃には引く動作がどうしても発生する。

 

(ほかの攻撃は無視しろ!だが、突きだけは打たせねぇ!)

 

手刀、足刀を体で受けながら、的確に詠斗の貫手だけを潰していく。

 

耐える、耐える、ただその時まで。

 

この1ヶ月、ヒーロー科の全員が過酷な訓練を積み、強くなったとはいえ、それでもこの男に勝てると思うほど思い上がってはいなかった。

 

だからこそ、一泡吹かせるくらいは、足掻いてやりたかった。

 

足刀を体で受けた次弾、腕を引いた詠斗の攻撃を潰さんと、砂藤が前に踏み込み、突き出すタイミングを肩の動きから見切り、拳を突き出す。

 

(ここッ!!)

 

しかし

 

「狙い自体は悪くないが、やりたい事が見え見えだ。」

 

腕を引いたまま、砂藤の攻撃を軸をずらして、避けた詠斗の右腕がブレた。

 

砂藤の時間が、ゆっくりと流れる。顔面に迫る拳。ソレは間違いなく砂藤の頭部を守る空気の鎧ごと自身の意識を砕くという確信があった。

 

ドパンッ、と拳が激突する音が響く。崩れ落ちるはずの砂藤の前に、勇者が割って入った。

 

「───────ぐぁ…が…ッ…」

 

「骨抜ッ!!?」

 

詠斗が円場の鎧、そして砂藤の耐久量を加味して調整した拳が、何の防御のない骨抜の顔面に突き刺さった。

 

眼底にめり込んだ拳から伝わる感触で、顔面の骨が砕けていることを理解した詠斗は、すぐさま回復の術式を流し込もうとして、それを骨抜自信に止められた。

 

「……おれ、達は……ッ…勇者、だぞ…魔、王さまよぉ…ッ!」

 

「………そうだね。僕は魔王で、君達は勇者……この時間だけでも、それに徹するとしよう…!」

 

ガシッと、詠斗の腕に絡みついた骨抜が叫ぶ。

 

「今だあぁっ、つぶ、らばァァァッ!か"ま"せ"ぇ"ぇ"っ!!!」

 

詠斗の真横、その地面から一気に飛び出した円場に、詠斗はこの戦いで初めて脅威を感じた。

 

瞬間、円場の口元前方にとてつもない熱エネルギーを感知する。

 

円場の個性『空気凝固』は、吐き出した空気を自在に固め、障壁や盾を作り出すサポート向けの個性。彼の個性の性質上、吐き出すというプロセスを挟まなければ固められず、尚且つ作り出す壁の強度は肺活量に依存する。

 

発目のサポートアイテムは、その肺活量の限界の問題を全て解決した。吐き出す際に外部から強い圧力をかける事で圧縮の過程をプラス、作り出す空気の塊の密度を極限まで満たし、強度を底上げしている。

 

さて、ここで問題となるのが発目の言葉だ。『強度と火力を両立する』事について。サポートの個性としては1級だが、火力が物足りない円場は、発想を変えた。

 

やる事は変わらず、使い方だけを変えればいい。

 

凡そ15cm四方の空気の塊を30気圧以上に圧縮し、その空気を一気に解放した場合。その空気の塊は、即席の強力な爆弾へと変化する。

 

凝固した15cm四方の空気塊の密度を30気圧以上にするなど、人間には不可能だ。せいぜいが0.3気圧程度。

 

『円場くんの個性で作る空気の壁の圧力には限界があります、しかし、私のベイビーによる圧縮を加えることで、彼の壁は鋼鉄に変わり───────同時に、最も恐ろしくインスタントな兵器にもなる!』

 

だが、異端の天才が、凡そ常人の肺活量の約100倍以上の圧力を実現した。

 

15cm四方の正方形に形成した空気の塊。圧縮し続けたその塊は、爆弾そのもの。その空気を一気に解放。同時に、砂藤達と自身の間に壁を作る。

 

(不味い、コレは───────)

 

「『エア・バースト』ォォォォッ───────!!」

 

空気の爆弾が、詠斗の目前で炸裂する。舞台を覆い尽くす土埃が舞い上がった。

 

圧縮の過程で生じる、断熱圧縮によるとてつもない熱エネルギーを逃がすために、マスクの排熱機構から蒸気が吹き出す。

 

どさりと倒れかけた骨抜を支え、砂藤と円場は前方に構えた。

 

あれしきの攻撃が、彼に通じているのか?本当に?

 

尽きない疑念を抱えたまま、2人はその場を動けなかった。

 

数秒の沈黙が、永遠のように引き伸ばされる感覚を味わった。こんな経験は、雄英の受験当日以来だろう。

 

しかし、彼らの願いは、残酷にも打ち破られる。

 

 

 

 

 

「───────危ない危ない。僕じゃなかったら死んでたよ?」

 

 

 

 

数秒の後、土煙が晴れたその向こう側には、舞台ギリギリに吹き飛ばされた詠斗が、白銀に輝く左腕を突き出していた。

 

詠斗を初めて吹き飛ばしたとは言え、左腕1本で防がれた事実が、2人に更なる絶望を叩き付ける。

 

未だ無傷。骨抜の犠牲、少なくない砂藤のダメージだけを残し、1ポイントも取ることすら出来なかった。

 

「だが、誇れ勇者。君の献身が生んだ数秒が、僕の本気を引き出した。」

 

精細で繊細な、魔術的な意匠を刻んだエングレーブ。繊細な指の動きすら、金属の擦れる音が微塵もない、完璧な造形。

 

いっそ恐ろしい程に美しく、美術品だと言われてもおかしくない義手のお披露目。詠斗自身、まさか1回戦で出すことになるとは夢にも思っていなかった。

 

「試運転は上々かな。耐久性も問題なし……」

 

左手を開閉し具合を確認しながら、さて、と口角をあげた。

 

「これは、僕なりの敬意だ。」

 

その瞬間、詠斗から放たれる圧力が爆発し、目の前から消え去った。

 

トンッ、と2人の間に降り立った詠斗に反応する前に、砂藤の全身を拳打が打ち付け、残っていた鎧を砕き貫通した拳に悶絶し膝を着いた。

 

(さっきまで、加減ッ……されて…っ!!)

 

「砂藤ッ!」

 

「硬成、火力を得たのはいいが、そのあとがお粗末に過ぎる。」

 

そのまま横面を蹴り抜かれ、声を上げることなく場外まで吹き飛んだ円場は、ぐったりと意識を飛ばした。

 

倒れ伏す骨抜の顔に最低限の治療を施し、砂藤を見やった。

 

「さて……柔の勇者パーティーの戦士よ。まだ、抗うか?」

 

詰みだ。もう勝ち目は無い、体術でも上回ることができず、策も尽きた。

 

会場が息を呑み行方を見守る中、膝を着いた戦士は、立ち上がり、無言のままに構えた。

 

その瞳に、未だ尽きぬ炎を滾らせながら。

 

「俺は、あんまし頭良くねぇからよ。ぶっ倒れる時も、負ける時も、前のめりって決めてんだよ…っ!何よりッ!!ヒーローが降参なんざしねぇだろぉがぁっ!」

 

「───────大正解だ、力道。」

 

死に体の戦士の咆哮。その熱にあてられた詠斗の口角が、無意識のうちに上がる。

 

懐から取り出した砂糖をガリッと噛み砕いた砂藤の肉体が、ボンッ、と膨れ上がる。

 

「甘い決着は許さない、燃え尽きる程の最後にしよう…!」

 

そうして、詠斗がミッドナイトに目線を送り、ひとつ頷く。ミッドナイトはその意図を悟り、好みの展開に体をくねらせながら、鞭を構える。

 

「行けぇッ砂藤!!負けんじゃねぇぇぇぇぇッ!!」

 

「魔王をぶっ飛ばせ砂藤ッ!!」

 

「砂藤君ッ!!やっちゃえッ!!」

 

『やっちまえ砂藤!魔王に一泡吹かせてやれぇッ!』

 

『おい、偏向実況すんな。』

 

「いーよ、魔王は嫌われ者だ。それに、アウェーくらいのハンデが無いとね。」

 

会場が砂藤のコールに包まれる。

 

砂藤が詠斗の一挙一動を見逃すまいと、穴が空くほどに観て(・・)いた。お互いの存在以外を邪魔な存在と脳が無意識のうちに判断し、それ以外が希薄になる。

 

歓声も、クラスメイトの応援も、全てが遠く、くっきりと浮き彫りになったかのように感じた。

 

(俺って、こんなに集中できたんだな……みんなの声が、一人一人聞こえる。)

 

死に体の中、極限の状態に置かれた砂藤の体は、過剰なアドレナリンの分泌により、所謂ゾーン状態に入っていた。

 

自分の体を流れる血液の動き、筋肉の動き全てが手に取るように理解できた。

 

初めて己の体と真摯に向き合った砂藤は、体の隅々までを感知できるようになって漸く、個性が生み出すエネルギーを知覚した。

 

(……これか、これが個性の生み出す、エネルギー……)

 

どう動かせばいいのか、どう使えばいいのかを、砂藤は無意識のうちに理解していた。

 

『えっ!?』

 

『うぉわぁ!?急になんだ!?』

 

『……嘘、リキドーくん、個性エネルギー操作してる…!?』

 

「マジか……終わらせるのが勿体なく感じてきたよ。」

 

その操作を可視化できる詠斗と被身子が、砂藤の変化に気が付く。

 

残り7分50秒、仲間も倒れ、自身も死に体の極限状態に置かれ、後退を許されない状況が、砂藤力道という戦士の覚醒を促した。

 

睨み合いの中、ミッドナイトの滴る汗がコンクリを濡らした時、鞭が振り下ろされ、同時に駆け出した。

 

『───────ッ!!!』

 

舞台の中心で激突した両者、数瞬の拮抗の後、押したのはやはり詠斗だった。

 

「個性のエネルギー操作をこの土壇場で身につけたのは評価に値するよ、君の個性は特にそれが難しいからね。だが、所詮付け焼き刃。僕を上回るには、まだまだだねッ。」

 

「がぶッ!?〜〜ッしゃらくせぇ!!」

 

殴られたダメージを無視して、そのまま詠斗の両腕を押さえつけ、身動きを封じる。

 

(このパワーは…!!)

 

想定外のパワーに驚愕する詠斗に、頭を勢いよく振りかぶって、ヘッドバット叩き込む。

 

「ぐっ…!?」

 

とてつもない頭突きに、一瞬頭が揺れ、初めて詠斗が押された。

 

初めて、詠斗に攻撃らしい攻撃が通った。

 

『クリーンヒット!勇者パーティーに1ポイント!』

 

ミッドナイトのポイント加算の宣言に、会場がさらに湧く。

 

もう一度、と砂藤が頭を叩き付ける瞬間に、真下から砂藤の頭を蹴り上げ、拘束から抜け出す。

 

追撃に身体を沈めた詠斗の真上振り上げられた砂藤の筋肉が、更にパンプアップする。

 

(両腕にエネルギーを集中させた…!!不味い!)

 

そのまま振り下ろされた両腕を、クロスガードで防いだ詠斗は、本日二度目の驚愕を見せた。

 

(───────5倍?バカ言うなよ、これは10倍以上の…!!)

 

激突の瞬間、30m四方の舞台の端までひび割れる程の衝撃が叩きつけられた。

 

『はぁ!?砂藤のヤツ!あんなにパワーあったか!?舞台がバッキバキになったぞ!?』

 

『本来あいつの個性は、おおよそ自身の鍛え上げた肉体の5倍程度が上限…今の一撃は恐らく、エネルギーの操作で筋力の強化を両腕に集中させたんだろうが……明らかに過剰だ…元の倍率が増えている以外考えられん…渡我、何か………渡我?』

 

訝しむ教師2人、相澤が仕組みを知るだろう被身子に声をかけるも、彼女は試合に釘付け。いいや、正しくは、楽しそうに戦う詠斗をジッと見ていた。

 

「うおっらぁっ!!」

 

「危ない危ない、大振りは隙だ。」

 

「わぁかってんだよんな事はよぉ!!」

 

真下からの大振りのアッパーを後退することで避けた詠斗は、タイミングを見きって前身。空振りの隙を着いたが、フェイク。空振りの勢いのまま回転、遠心力とパワーを上乗せした一撃が、詠斗の手刀と激突し、両者の腕が弾け飛んだ。

 

(体勢を立て直さねぇと───────いや……!)

 

(体勢を立て直し、着実に───────いいや。)

 

仰け反った2人は、1度仕切り直すことを考えたが、全くの同時に重心を前身に移動。互いにコンクリを踏み抜いて、再び拳と手刀を振るう。

 

(押し切る!出し切る!コイツに喰らいつく!!)

 

(いい……これだ、コレこそが…僕が求めた闘争…!!)

 

ふたつ、よっつ、むっつ、徐々にスピードを上げながら激突する両者の手刀と拳。しかし、続いたラリーの均衡が崩れ落ち、がくりと、砂藤が突然膝を着いた。

 

ピタリとそれに合わせて動きを止めた詠斗は、この楽しく燃え尽きるような戦いが終わることを悟った。

 

「………終わりか、力道。当然だ、君は僕の攻撃を受けながら戦った、少なくないダメージの蓄積があったはずだ。加えて過酷な状況で個性の連続使用……当然の帰結だ。」

 

「ははっ、はぁっ、はぁっ………もう、勝った気かよッ…!まだ、まだだろ……ッ!」

 

震える膝で、うつらうつらと立ち上がった砂藤に、残念だと言わんばかりの目で見つめた。もう少し、あと少しだけあの戦いが続けばと、そう思わずにはいられなかった。

 

しかし

 

どっ、どっ、どっ、と膝を叩き闘志を再び燃え上がらせる、健気な姿に、詠斗は苦笑しながら構えた。

 

「元気は?」

 

「いっぱい、だぜ!!」

 

詠斗も砂藤も、気づいている。次が最後の一撃になると。バッ、と距離を取った詠斗が砂藤が、次を悟った。

 

(次で仕留める。)

 

(次でぶち抜くッ…!!)

 

ダメ押しだと角砂糖を口に放り込んで、気持ちだけでもドーピングを行う。

 

(力道の全身を巡る個性エネルギーの活性が下がっていく……残りは、5秒か……最後まで、楽しもう。)

 

砂藤のタイムリミットまで、残り5秒。

 

同時に駆け出す。

 

(小細工はやめだ…真正面から、正々堂々…!)

 

(通じねぇ小細工は考えんな!!真っ直ぐ行ってストレート!わかりやすいじゃねぇか!!)

 

残り2秒

 

奇しくも同じ考えで突っ走り、同じ軌道で拳を振るった。

 

瞬間、激しい拳打の音と共に、遅れて暴風が吹き荒れた。

 

両者共に譲らず、踏み込み、拳を振りぬいた。

 

残り0.5秒

 

「来いよッ!!逢魔ァァァッ!!」

 

「───────君に、感謝を。」

 

残り、0秒

 

足元でエネルギーを爆発させ、一瞬で砂藤の懐に入り込んだ詠斗は、敬意と感謝を込めて、土手っ腹の拳を叩き込む。

 

砂藤の分厚い腹を突く重い音が会場に響き、観客達も目を背けた。

 

白目を剥いて、明らかに気絶した砂藤が、後ろに倒れる寸前。詠斗が手を掴んで引き寄せた。

 

「……負けても、前のめり…だっけ。嫌いじゃないよ、そういうの。」

 

優しく、前のめりに地面に下ろした様子を見届けて、ミッドナイトが鞭を振るった。

 

『骨抜君!円場君!砂藤君!戦闘不能!よって勝者!!魔王『逢魔詠斗』ッ!!!』

 

一気に湧く会場、仲間を守った骨抜、リーサルウェポンとしての役割を果たした円場、前衛として最後まで戦った砂藤、その3人に等しく賞賛と健闘を讃える拍手が送られ、詠斗の圧倒的な強さに対する畏怖を含む拍手が響き渡った。

 

ポーズを取ることもなく、詠斗は舞台から去っていく。彼にとって、この余韻を邪魔されるなど不快でしか無かったから。

 

「……ノート、纏めておかなきゃ。」

 

あー、楽しかった、と微笑んだ詠斗は、この後の戦いも楽しみでならなかった。

 

『この戦いでも魔王は一撃のみを許して余裕の優勝!!この最強の問題児達を倒す猛者は現れるのかぁ!?』

 

『現実問題、チームを組んだ上でこれだけ差があるんだ……今のヒーロー社会における頂点を知るのもいいだろう。』

 

『つーかよぉ!イレイザー!オイオイオイオイオイッ!!!すげぇ試合だったぜ!?何度でも言おう!ほんとにコイツら1年かぁぁ!?だがリスナーども!聞いて驚け試合はまだまだ前半戦!これからも、コイツらに驚き慄けぇっ!んじゃ早速!次は魔王妃!ヒミコちゃんの領地に踏み込む勇者たちの選出だぁ!』

 

『魔王妃!なんかちょっといいかも!』

 

ガサゴソとくじを引いたプレゼントマイクが、引いたくじ、そこに書かれていた文字は

 

 

 

 

 

【爆撃】の2文字

 

 

 

 

 

『続いての勇者パーティーは、コイツら!!爆豪勝己率いる!【爆撃】の勇者パーティー!!』

 

『ゲェッ!!?イヤァァァ!!』

 

「はぁ!?なんの文句があんだこの団子頭!!」

 

『全部です!全部文句があります!カツキくんはかあいく無いし、ネイトくんは………………うん。』

 

「ハッハッハッ!!?渡我さん!?僕君になにかした!?」

 

『次の試合は10分後!!それまでいい子で待ってろよ、リスナー共!そいじゃあ選手共!準備しまくりやがれ!!』




ワタシはッ砂藤力道ガッ、スキダァッ!!!
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