白紙化された地球上での唯一の人的施設、ノウム・カルデアのストーム・ボーダーにて。
新たな特異点が観測された。機動母艦基地内を駆け巡ったその一報に、人類最後のマスターである男、藤丸立香とそのサーヴァントであるカルデア職員マシュ・キリエライトは、管制室までやってきた。
「やぁ。来たね藤丸君、マシュ。早速だが非常事態だ」
「また新たな特異点が発生したという事でしたが、今回はどちらですかダ・ヴィンチちゃん?」
中央管制室に入って口を開いたのはコンソールパネルを操作していた少女、
「特異点が発生したのは紀元前のバビロン市。現在で言うところのイラク南方約90㎞周辺に位置する地域だね」
「バビロン、ですか」
二人の脳裏に第七特異点のことが鮮明に思い出される。神代の聖杯探索は実に苦難の連続だった。
「ああ。だけどこの特異点、どうにも観測データのブレが大きくてね。正確な年代はおろか人理定礎値も常に変動していて、詳しいことが分からないんだ」
「分からない、って?もしかしてリンボの時の平安京みたいなこと?」
藤丸とマシュの脳裏に
「そう。というか、こちらの計測機器のデータの文字列に直接干渉している形跡があるんだよね」
「な————!それは、異常事態なのでは?」
「はい、それではここからは私が」
驚きの声を上げたマシュの前に出たのは、シオン・エルトナム・ソカリス。
「このデータへの干渉、というか違和感にまず気付いたのは両儀式さんでした。なんでも、
このデータをご覧ください、と前置きされて、彼女の口が開かれる。
「計測機器の受容体から入って来た情報は一度データとして記号化されます。科学や魔術で稼働している差異はあれ、カルデアのコンピュータ機器もシステム上この工程はなくてはならないものです。こういったコンピュータに指示を与え、タスクを実行させるために必要なモノ。つまりはプログラム言語、情報言語といったものですね」
「ふむ、成る程……。うん?つまり、どういうことだね?」
「ああ、勿体ぶり過ぎました。ゴルドルフ所長、此処からですので。つまり、カルデアへのデータ干渉をしているのはこの言語、そのものであると言えるのです」
「え……?言語だけで、このカルデアに攻撃を?」
「いえ、マシュさん。これは攻撃ではないのでしょう。あくまで呪詛返しの延長線上にあるだけのもの。この言語の本質は別にあります」
シオンは、この言語を『視た』式の直感、否、彼女の肉体と繋がっている「」の反応を思い出す。
「おそらくこれは、『統一言語』です」
「と、統一言語!それは本当かね!?」
分かりやすく狼狽えたゴルドルフ所長。対して、人類最後のマスターは首を捻っていた。その様子を見て、彼に助け船を出したのはダ・ヴィンチちゃんだった。
「ああ、藤丸君。旧約聖書の『バベルの塔』の伝説は知っているかい?」
「たしか、天高く塔を建てていたら、言葉がバラバラにされたってやつだよね?合ってる?」
「はい。その認識の通りです。それは神代において全てのモノが共通して話していた、カタチのない言語。神代では皆が統一言語を知っていたから会話が成立したのですが、現代ではただの独り言になってしまう、そんなものです。ですが、その本質は『万物に共通する意味の説明』を可能とする言葉です」
眼鏡の弦をくいっと持ち上げて、シオンはすらすらと言葉を続ける。
「存在論的なヒエラルキーとして、モノが世界に存在する時には、『世界に存在するモノ』がモノの上に位置しています。世界に意味を伝える統一言語によって『世界に存在するモノ』に話しかけられ意思を伝えられると、『それに否定する』ということが『世界に存在することの拒否』になるため、抗うことができない……まぁ、魔術師的に言うと分かりづらくてセンスがナイナイ。凄い分かりやすく言えば全てのものに作用する最強の催眠術と思っていただければ!」
「時計塔にも一人、
中央管制室に一瞬、沈黙が訪れた。
「そう、そこで今回の特異点の場所になるんだよ。バベルはアッカド語で神の門、つまりバビロンのことだ。このことが無関係とは思えない。藤丸君。分かっていると思うけど、今回も十分に注意してね?」
「分かりました!」
「はい、一緒に頑張りましょう、先輩。私も陰ながらカルデアでオペレーター等のバックアップをお手伝いします!」
「今回の特異点は、マシュを同伴させることができない。幸い、現地に同行することのできるサーヴァントは割り出せたから心配しないでね。あ、噂をすれば……」
シュイン、と自動ドアが開閉し、マスターの前にやって来たのは三体のサーヴァント。
「わたしを よびましたね? マスター マシュ」
「ティアマト!わぁ、よろしく!」
「今回はティアマトさんが行かれるのですね!これはかなりの過剰戦力ですマスター、特撮映画ばりの大怪獣決戦になってしまうかと!」
藤丸たちの賞賛にむふー、と大きな角の生えた頭部を反らすラーヴァ/ティアマト。ドバイでも白と黒のキングプロテア対戦が起きたことは記憶に新しい。目をキラキラさせる少年少女がいる一方で、寧ろ、特異点にいる存在は何なんだ……と今回の特異点に戦々恐々し始めるゴルドルフ。彼の近くにいたネモ・マリーンが大丈夫かと尋ねながら彼のお腹を摩っていたり、ネモ・ナースが胃薬を用意したりした。
「ロウヒも来たんだぁよ、ムッコ!」
「バビロン……、まさか私があの英雄王の治世の地に赴くとは。これも何かの縁というヤツか」
「ロウヒ、エミヤまで!」
鹿の角を持つ小柄な身の丈の少女、そして赤い衣を身に纏った浅黒い肌の偉丈夫の姿を見た人類最後のマスターの顔は、安心したようでかなり明るい。
「良し、皆揃ったね。それじゃあ、レイシフトを始めるよ」
「では先輩、マシュ・キリエライト。オペレーターとしての任務を開始します!」
ポホヨラの女主人にして卓越した魔術の腕を持つ魔女、ロウヒ。未来から世界の危機を救うためやって来た錬鉄の英雄、エミヤ。原初の母ティアマトを含めたこの三人が、藤丸立香と共に異聞の世界へと旅立った。
カルデアがやって来た、という事で
この特異な異聞帯に呼び出されて幾千年。我が愚兄と同じボディスペックであるが故か、我は(千里眼などというろくでもない機能を搭載された)サーヴァントの体で未来を視た。
結論から言えば。この世界、初めから本当に詰んでいる。並行世界を見渡しても、こうなった世界は無かったな。いや、来なかったからこうなったと言えるのだが。真逆であるが近いのは、太平洋とイギリスの異聞帯だろうか。
「七つの特異点、四つの虚構の断章。七つの異聞帯、そして四つの清算の呼び声。人の身でありながら世界を救い、そして打ち倒したマスター、藤丸立香か。愚兄……いや、賢王となった兄が自ら認めた者など、それだけでも珍しいにも程がある」
「おやおや?珍しいねぇ女帝ギルガメッシュ、面白いことでもあったかな?」
私が市政を運営するバビロン都庁、その一室に花弁が舞った。鈴を転がすような声音が鳴る。丁度いい。
「
「えぇ。私、丁度君からの仕事を終えてきたところなのだけれど。茨木童子とかは暇してたと思うよ?」
「関係ない。アサシン、この自称
「はい」
我がこの世界に召喚されてから、計画達成の人員として英霊召喚を試みた。結果、我の配下として呼ばれたサーヴァントは全部で八騎。
バーサーカーが二体と、キャスター、ルーラー、アサシン、アーチャー、ライダー、そしてプリテンダーが一体ずつ。何故か日本出身者が多かった。前世的なものが縁だったりするのだろうか?
「やだー!私この世界のサブスクの続き見るんだい!」
と言うか君こそプリテンダーじゃないかー!と、奴は忍者に引きずられながら叫んでいた。我も五十歩百歩のロクデナシなのは認めるがな。
というか女マーリン、貴様千里眼で現代を見渡せるはずだろうが。何故こっちの世界の物語にハマっているのだ?
……あれか。本家本元の作品追っていたら供給が一時的に止まったせいで、暇潰しに二次創作投稿サイト覗いたら、これが案外悪くなかった、的な感じか?
うむ。考えるのやめよう。
「……グランドクソ女のことはカルデアと対面すれば何とかなるだろう。我のすべき準備としては、ルーラーの管轄である杯の塔と、迎撃要員の金狐コンビの支援要請の振り分け、ライダーとアーチャーの防衛戦線の維持……。よし、次だ!」
窓ガラスの外、我の眼下に映る市勢。メソポタミア様式が混ざった近代ビルが立ち並び、整備された住居区画を縫う道路には、二十二世紀にも近しい技術の粋……ヴィマーナ等を元にした車両や浮遊器具が行き交っている。
……やり過ぎの感半端ない。人のことホント言えんな、我ぇ……。
「はぁ……」
東京都庁によく似た塔、カ・ディンギルの最上階で思わずため息が漏れていた。
カルデア現地到着組。
「ねぇエミヤ……。これって」
「……嗚呼。見紛うことなく、テレビアニメでよくある未来都市だ。英雄王の蔵には、猫型ロボットの道具のような原典もあるという事らしい」
「? おかあさん わかいこのすきなもの わかってないみたいです ふかく」
「凄いんだぁよ。神代だからか神秘の秘匿通り越して未来に来てるんだよ」
ここアトランティス並みじゃん!藤丸立香は心の中でそう叫んだ。
女帝ギルガメッシュが呼んだ英霊
・理想郷の淑女
・勝利の女王
・正義の黄金
・狐の巫女
・島原の指導者
・半魔の忍者
・羅生門の鬼
・鬼種の女武者