暗部の忍が転生して公安ヒーローになる話   作:ぴのっきお

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無個性じゃない

 

休日の公園。

今日も今日とて出久たちは、全員集合して明るい声をあげていた。

 

 

「お前ら、今日はヒーローごっこしよーぜ!」

 

 

リーダー格の勝己のその発言を発端に、賛成賛成と子供達が一斉に手を挙げ始める。

 

 

「じゃあ僕ウォッシュ!」

 

「俺はクラスト!」

 

「えっと、えっと、じゃあ僕はオールマ――もががっ」

 

 

彼らに倣って元気よく手を挙げた出久の口を、背後から覆ったのは友人B。

彼はうんざりしたような顔で「いい加減にしろ」と出久の耳元に囁いた。

 

 

「かっちゃんが今日はいつになくご機嫌なの、見りゃ分かんだろ?変に刺激しないでくれよ」

 

 

つまり彼は、出久がオールマイト役に立候補するのをやめてくれと言っているのだ。

実際、出久と勝己はこれまで何度もオールマイト役を争って、喧嘩という名の一方的なタコ殴りを彼らの前で披露している。

そろそろ学習して懲りるべきだというのが彼らの意見なのだろうが、それでは出久は納得いかないのだ。

 

全員がオールマイトをやりたいのであれば全員でオールマイトを演じればいいし、それが嫌なら順番に回していけばいい。

というのが平和主義な出久の考えで、けれどこの理屈で勝己を説得できた試しは一度もないというのが悲しい現実だった。

 

しかし諦めを知らない出久は、今日も今日とて勇気を振り絞って立ち上がる。

背後の友人Bの手を振り解き、高々と右手を空に伸ばした。

 

 

「僕は!オールマイトが!やりたいです!」

 

 

胸を張って言い切った後、周囲からの非難の視線が突き刺さるのを感じ、少しばかり後悔したけれど、それでも出久は今日こそ勝己を説得するのだと意気込んでいた。

己を鼓舞するように肺いっぱいに空気を吸い込んで――

 

 

「ん。じゃあ俺、アズールな」

 

「「「えええっ!?」」」

 

 

暴言も暴力も飛んでくることなく、さらりと受け入れられてしまった衝撃に、出久を含む子供達の絶叫が響いた。

 

 

「んだよ。今日は譲ってやってもいい気分だったんだよ。ピーピー騒ぐな」

 

 

煩わしそうに両耳を抑える勝己を、出久は驚愕の表情で見つめていた。

No.4ヒーロー『アズール』――超がつくほどヒーローオタクな出久の頭にも、彼女の情報は多くはない。

その謎めいた在り方に反した輝かしい功績の多さに、出久もまた心惹かれはしていたけれど、目の前の勝己のアズールへの執心ぶりは、自分のそれを遥か上回ると感じてしまう。

 

そうなった原因は、言わずもがな先日の誘拐未遂事件の一件だろう。

出久は視界を奪われ、何が起きたのかほとんど理解できていない中、勝己はアズールの活躍の一部始終をその目に焼き付けていたのだから。

 

 

「お!おいお前ら、ちょうどいいところにあいつが来たぞ!」

 

 

一際楽しそうな勝己の声が聞こえたかと思えば、彼が指し示すその先に、とことことこちらに向かって歩いてくる一人の少女の姿がある。

 

 

「人形女ァ!お前、ヴィラン役な!ヒーローごっこ、スタートッ!」

 

 

悪ガキ面で叫ぶや否や、目を丸くして立ち止まった蒼良に向け、勝己は地面の砂利を一握りし、思い切り振りかぶった。

 

 

「喰らえ、蒼翼!死ねぇええっ!!」

 

 

まだ状況を理解できていないであろう彼女めがけて、無慈悲に飛んでいく砂埃と石礫。

けれど、それを見守っていた子供たちも、すぐそばのベンチに腰掛けている保護者たちも、誰も悲鳴を上げたりなどしない。

 

次の瞬間、蒼良は地面を軽く蹴りつけ、驚くべき跳躍力を見せた。

空を舞うように軽々と大人の背丈より高く飛び跳ね、勝己の投げた攻撃を全てかわして着地する。

 

その鮮やかな身のこなしに、今日も今日とて吠える勝己。

そして、見惚れてその場に固まる出久。

 

遠くの英雄より近くのお姉さんと言うべきか、出久がここ最近心惹かれて止まないのは、アズールでも他のヒーローでもなく、この蒼良だった。

 

 

「人形女!てめぇヒーローごっこだって言ってんだろ!倒れて死ねよ!」

 

「かっちゃんはヴィラン役なの?」

 

「ぶっ殺すぞ!誰がどう見たってアズールだろうが!」

 

 

誰がどう見てもヴィラン顔の勝己が地団駄を踏んでいる。

 

 

「いいか?お前は今、俺の蒼翼を喰らったんだよ!」

 

「でも、アズールは誰から構わず殺したりしないと思う」

 

「あったりめぇだろ!言葉をそのまんま受け取ってんじゃねぇ!」

 

 

勝己の言葉に小首を傾げる彼女の姿は、時々実年齢よりも幼く出久の目に映る。

圧倒的な強さを持ち、けれどふわふわと掴みどころのない不思議な人だ。

 

 

「蒼良ちゃん!僕、何の役か当ててみて!わーたーしーがー来たーっ!!」

 

 

両手をふりふり、ヴィラン役に就任したばかりの蒼良に向かって、精一杯のカッコいい表情を作りながら、出久は飛び出した。

 

 

「オールマイトさんだ」

 

「正解っ!蒼良ちゃん、もしかしてオールマイト好きなの!?」

 

 

リスペクトを感じる『さん』付けに、出久が勢い込んで尋ねてみれば、蒼良はこくりと頷いた。

 

 

「うん、好きだと思う」

 

 

日本国民の九割以上が好きと答えるであろう、絶対的No.1ヒーローことオールマイト。

けれど、彼女の口からそんな言葉が出てくるのは何故だかとても意外に感じた。

 

 

「えっと、蒼良ちゃんって、そもそもヒーローは好き?」

 

「好きでもないし、嫌いでもない」

 

 

そうだ。どこか曖昧な雰囲気を纏った彼女には、こんな回答がよく似合うのだ。

 

 

「蒼良ちゃんは、ヒーローに憧れたことってある?」

 

「ううん、一度も」

 

「じゃあ、蒼良ちゃんはどうしてそんなに強いの?」

 

「訓練してきたから」

 

 

その一言に、出久と勝己の瞳が揺れた。

 

 

「……おい、人形女。てめぇどんな訓練してきたんか、俺に全部教えろや」

 

「全部は無理かな」

 

「あぁん!?強さの秘訣は独り占めってか!?」

 

 

ギャーギャーと騒ぐ勝己と、あしらう蒼良。

その隣で、出久は自分の左胸のあたりを強く右手で掴んでいた。

心臓がバクバクと音を立ててうるさい。

胸の奥底から湧き上がる期待と興奮が抑えきれない。

 

もしもだ。もしも――これから自分も彼女のように訓練を積んでいけば、少しでも近づけるのではないだろうか。

無個性でも、ヒーローのように、彼女のようになれるのではないだろうか。

 

これまでは、ヒーローになるために何をどう頑張ればいいのか、努力の方向性すら分からなかった。

けれど今、出久の目の前には、出久の知る人間の中で最もヒーローに近い人がいる。

 

 

「僕も――っ!!」

 

 

思わず声が裏返るほどの声量を出してしまった出久。

保護者たち含め、皆の視線を一身に集めてしまったことに気づき、顔がボンっと赤くなる。

けれど、出久は止まらなかった。

もう一度息を吸い込んで、落ち着く間もなく口を開く。

 

 

「僕も、蒼良ちゃんみたいに訓練を積めば……ヒーローになれますかッ!?」

 

 

蒼良相手に投げた質問だが、緊張から敬語になってしまった。

返答を待つ時間が怖い。

どうか、どうか自分の望む答えが欲しい。

身体中に力を入れて目を瞑る出久に、彼女はあまりに気安い声で言葉を返した。

 

 

「――うん、なれると思うよ」

 

 

蒼良の返答を耳にした瞬間、出久の時間が一瞬だけ止まった気がした。

すぐには信じられなかった。

ずっと誰かにそう言ってほしかった。

きっと誰かがそう言ってくれる日が来るはずだと、そう願っていた。

 

胸が熱くなり、込み上げる涙と共に、喜びが全身を駆け巡っていく。

嬉しさで視界が滲み、頬を伝う涙が地面に落ちて小さな染みを作った。

 

 

「ばーか。デクは無個性だぞ?無個性のヒーローなんか聞いた事ねぇっつーの」

 

 

白けた顔で勝己に切り捨てられようとも、出久の耳には蒼良の声だけが繰り返し響いている。

 

 

「蒼良ちゃん、お願い!僕を蒼良ちゃんの弟子にして!」

 

「弟子?」

 

「全部じゃなくていい!教えられる事だけでいいから、僕に戦い方を教えて……っ、お願いします!」

 

 

必死さのあまり、出久は頭を振り回す勢いで深く下げた。

対面、蒼良の驚いたような気配が伝わり、しばらくしてこちらに歩み寄ってくる靴先が見えた。

 

断られてしまうだろうか。

受け入れてもらえるだろうか。

勝己ほど才能に溢れているわけでもない、凡人の――凡人以下かもしれない自分が、彼女のお眼鏡に適うだろうか。

 

 

「いいよ。少しだけなら手伝えると思う」

 

「ほ、ホントにっ!?」

 

「おいこら人形女ァ!俺はダメでデクはいいんか!?」

 

「私のしてきた事、全部は教えられないって言っただけだよ。少しだけなら伝えられる。かっちゃんも弟子になる?」

 

「ならねぇ!!」

 

 

勝己の噛み付くような返答に、蒼良が不思議そうな顔をしているが、今のは聞き方がよくなかった。

弟子入りという、自らを蒼良の格下と認めるような行為が勝己に出来るはずがないのだから。

 

 

「出久、貴方は今から私の弟子って理解で合ってる?」

 

「うん!うんっ!よろしくお願いします、師匠!」

 

 

出久が頭をガクガクと上下に振れば、蒼良が一つ頷き、子供たちに視線を巡らせた。

 

 

「私は今から出久に修行をつけてくる。悪いけど、ヒーローごっこは抜けさせてもらうね」

 

「えっ、早速!?」

 

「違った?」

 

「ううん!嬉しい!です!」

 

 

出久はその場でぴょんぴょんと飛び跳ね、喜びとやる気を身体中で表現した。

突然の決定に他の子どもたちは唖然とした表情のまま二人に手を振り、勝己だけは何か言いたそうにしていたけれど、プライドがそれを邪魔したのか結局口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

公園の隅、皆から少し離れた場所で、出久は蒼良と向き合っていた。

 

 

「これは私の感覚なんだけど、前から出久には適性があるような気がしてたの」

 

 

何気ない調子でさらりと告げられた一言に、出久は目を見張った。

何の取り柄もない自分。

誰かの役に立つ個性も、人を惹きつけるカリスマも、何者に対しても怯まない度胸もない。

何も持ち合わせていないそんな自分を、出久は薄らと自覚していたからだ。

 

けれどその代わり、諦めない心と、誰かを守るためなら自分の身すら顧みないほどの勇気を出久は持っていた。

そして蒼良は、彼が友のために己を奮い立たせたあの日の姿を、しっかりと捉えていたのだ。

 

 

「それに――出久、手を貸して」

 

 

戸惑う出久の手を取った蒼良は、その指を丸く握り込ませて、自分の拳と付き合わせた。

触れた瞬間、出久の指先に微かに痺れたような感覚が走る。

蒼良は目を閉じ、その場でじっと動きを止めたまま。

何をしているのだろうかと疑問に思いつつも、出久は黙って待っていた。

 

 

その間、蒼良の脳裏には、以前任務で目撃した光景が蘇っていた。

囚われの人々が集められていた廃墟の洋館。

その中に多くいた無個性の人たちに触れた時、感じ取った豊かな生命エネルギー。

最初は偶然かと思ったけれど、一人、二人と確認するうちに、明らかに一定の法則が存在することに気づいた。

 

 

――個性のない人間ほど、生命エネルギーが豊富なのだ。

 

 

思えば、彼も――俊典もそうだった。

基準値を外れた彼の生命エネルギーを初めて感じた時、蒼良は単に彼が規格外で特別な人間だからだと考えていた。

けれど信頼を築いていくうちに知った、彼が元々無個性だったという事実を踏まえ、蒼良はようやく勘付いた。

 

個性がない人間は、個性を使うことにエネルギーを消費しない分、身体にエネルギーを蓄えているのだと。

もしかしたら個性というのは、本来誰もが持っている身体エネルギーを、特異的な形状や能力として発現させたものなのかもしれない。

 

そして今、拳を合わせることで、蒼良はその仮説を確信へと変えた。

出久の中には、常人よりも遥か豊かな生命エネルギーが蓄えられている。

 

 

「……やっぱり」

 

 

蒼良が拳を離して呟くと、出久は目をぱちくりと瞬かせ、慌てて尋ねた。

 

 

「あ、あの、蒼良ちゃん?何か分かったの?」

 

「出久は……自分が無個性だと思ってたんだっけ?」

 

「うん……だって、病院でも個性が出ないって言われたし……」

 

「あのね、出久。貴方は無個性じゃないよ」

 

 

その言葉に、出久は息を詰めるようにして硬直した。

 

 

「私と似た、身体強化系の個性がある。気がつかなかっただけで、きっと前からあったんだと思う」

 

「ぼ、僕に、個性が……?」

 

 

震える声で聞き返す出久に、蒼良は小さく頷いた。

 

 

「そう。今まで誰も気づかなかったのが不思議なくらい」

 

 

その瞬間、出久の瞳が大きく揺れ、頬に再び涙がこぼれ落ちた。

何度も何度も拳を握りしめては開き、自分の手をじっと見つめている。

 

 

「僕にも……個性が……個性が、あるんだ……!」

 

 

噛み締めるような小さな声。震える指先。

彼の心の奥底で、長年抱え続けていた劣等感や絶望が、一気に溶けていくのが蒼良にも伝わってきた。

少しの沈黙の後、出久がゆっくりと顔を上げた。

 

 

「ねぇ蒼良ちゃん。この個性のこと、まだ誰にも言わないでいてもいいかな……?」

 

 

出久の真剣な眼差しに、蒼良は首を傾ける。

 

 

「どうして?」

 

「僕、みんなを驚かせたいんだ。かっちゃんや、お母さんや……僕を諦めかけていた人たちをびっくりさせたい。ちゃんと個性を使いこなせるようになってから、お母さんを安心させたい!かっちゃんの隣に並んで立ちたい……!」

 

「分かった。出久がそうしたいなら、私は何も言わない」

 

「ありがとう、蒼良ちゃん!僕、頑張るよ!」

 

 

その瞳に、これまで見せたことのない強い決意を宿した出久。

蒼良は静かに頷き返し、小さな弟子の決意を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

「……ばっかみてぇ。あんなんで強くなれっかよ」

 

 

しかめっ面の勝己が、公園の隅を睨みながら呟いた。

出久が蒼良に弟子入りしてからはや一ヶ月。

毎週末、他の子供達が集う遊具から少し離れたひらけたスペースにて、座り込んで向き合っている二人組。

 

いったい何をしているのかまるで分からないが、二人は時々拳を突き合わせたり、会話を交わす以外には、基本的に無言でただ座り込んでいる。

蒼良は相変わらずの涼しげな表情で。

出久は何故か眉を寄せた、苦しげな表情で。

 

正直意味がわからない光景だが、あれが一線を画す強さを有する蒼良考案の修行法だというのなら、何かしらの意味はあるのかもしれない。

気にならないと言えば嘘になる。

 

けれど、そこに混ぜてもらうのは勝己のプライドが許さなかった。

声をかければ負けだと、そんな風に意地になりながらチラチラと二人に視線を投げては、何か盗めるものがあれば即座に吸収しようと二人を監視している。

しかし今のところ、一ヶ月経った今も収穫は何一つない。

いい加減にしろと言いたいところだ。

 

 

 

 

 

「――出久、大きく呼吸して。空気を深く吸い込んで、それからゆっくり吐き出すの」

 

 

蒼良の穏やかな声に、出久は真剣な顔で頷いた。

公園の喧騒から離れた静かな場所で、二人は地面に座り込んでいる。

出久の最初の課題は、『チャクラを練る』ということだった。

 

蒼良によれば、出久の中にはまだ使われていないエネルギーが沢山あるらしい。

そのエネルギーを感じて引き出し、身体の中を巡らせるのがポイントだという。

 

 

「今度は自分の身体の中をよく感じてみて。お臍の辺りに何か暖かいものがあるでしょ?」

 

 

蒼良に言われる通り、出久は目を閉じて意識を集中する。

腹に手を当て、自分の奥深くをじっと探ってみる。

 

……暖かいもの。

自分の身体の奥で、ほんの少しだけだが何かが鼓動しているような気がする。

 

 

「うん……ある、気がする……」

 

「それが出久の個性。自分だけのエネルギーだよ。それを優しく掴んでみて」

 

 

蒼良の声に促されて、出久はぎゅっと目を閉じ、腹の奥の温かさに意識を向ける。

掴むという表現はまだ難しいけれど、確かにそこにあるのは感じ取れる。

 

 

「……できた、かも」

 

「上出来。今度はそれを身体中にゆっくり流すの」

 

 

蒼良が淡々と指示を出す。

出久は一生懸命に、自分の腹から全身に暖かい何かを流してみようと努力する。

しかし、温もりは少し広がったと思った途端にすぐに消えて失われた。

 

 

「あ……なくなっちゃった……」

 

「大丈夫。最初はみんなそう。少しずつでいいんだよ。出久はまだ小さいし、ゆっくり覚えていこう」

 

 

蒼良の声は落ち着いていて、焦る出久をいつも穏やかに支えてくれる。

だからこそ出久は悲嘆に暮れることなく、もう一度、何度でも挑戦しようと決意を新たにするのだった。

 

 

 

 

対面、向かい合って座る少年のつむじを見下ろしながら、蒼良はふと蒼炎の少年を思い浮かべた。

年齢も、置かれた環境も異なる二人を比較するつもりはないが、やはりあの少年は特殊な一例だったのだろうと思考する。

わずか一年で手を使わずの木登りまで習得しかけている彼の成長速度は、やはり類稀なるものだった。

 

目の前でうんうんと苦戦している出久に、決して才能がないわけではないのだ。

むしろ、抱えている潜在エネルギーは出久の方が大きいのだから、大器晩成型とも言えるだろう。

 

 

「ねぇ蒼良ちゃん。蒼良ちゃんはいつも個性を使う時、どんな感覚なの?具体的に教えてほしい」

 

 

『ヒーロー分析ノートNo.3』――表紙にそう書き記されたノートと鉛筆を手に、出久が背筋を伸ばしながら質問を投げかけてきた。

燈矢を直感型と称するなら、出久は専ら分析型だ。

まだ五歳という年齢ながらも、こうして情報収集と情報整理の大切さに気がついている熱心で聡い子供なのだ。

 

 

「そうだね。お腹の奥底がこう……」

 

「こう?」

 

「ぎゅーってなって……」

 

「ぎゅー?」

 

「ぶわーっと広がっていく感じで……」

 

「ぶわー?」

 

「出久。私には師匠の才能がないかもしれない」

 

 

思えば、どちらかと言うと蒼良も直感型に近いのだ。

昔は出久のように頭で考えてチャクラを操っていたような気もするが、もはや今となってはこれは呼吸するにも等しい感覚で、それを言葉で説明するのは存外難しい事だった。

 

真面目な顔で、拙い文字で、ノートにぎゅー。ぶわー。と書き込んでいる出久を見ていると、師としての不甲斐なさが込み上げてくる。

蒼良にしては珍しい感情、申し訳なさと反省の念だ。

 

 

「実戦ができるようになれば、私も役立てると思うんだけど……ごめんね、出久。現時点で、私は役立たずかもしれない」

 

 

早速自信を失った様子の師の姿に、出久は「そんな事ない!」と声を張り上げた。

 

 

「僕、蒼良ちゃんがこうして一緒に特訓に付き合ってくれて嬉しいよ!一緒にいるだけで心強いよ!いつもありがとうって思ってる!本当だよ!」

 

 

それが紛れもない彼の本心なのだろうと、伝わってくる熱量がそこにはあった。

真摯な目つき。前のめりな姿勢。蒼良の存在を肯定し、感謝すら伝える言葉。

もしも今、蒼良の翼が背にあったなら、それはどんな動きを見せていただろうか。

 

 

「……ありがとう。一緒に頑張ろうね、出久」

 

「押忍!蒼良ちゃん、他には何か抑えておくべきポイントはない!?」

 

「そう言えば、一番大事なものを出久に伝え忘れてた」

 

「一番大事なもの!?」

 

 

目をかっ開き、握る鉛筆にさらに力を込めた出久に、蒼良は自信満々にユーモアの重要性を説き始めるのだった。

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