神殺鎗は、神々の世界に生きる   作:レヴィ

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#16 One more time

「っ……あああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

恐怖心を薙ぎ払うかのように雄叫びを上げながら順手でヘスティア・ナイフを抜き、眼前に構える。

喉が焼け切れるような絶叫を上げてもなお、僕の目の前でナイフの刃がカタカタと揺れていた。

 

「神様も、アイズさんも、僕が守る!」

 

「……へぇ」

 

白髪の男は愉しそうに笑うと、左手の親指で鍔をチンと弾いた。

そして、ゆったりとした動きで、僕のナイフよりも刃渡りが少し長い剣を引き抜く。

暗い闇の中でも、その白刃は鈍く煌めいていた。

 

「一度構えたっちゅうことは、ボクに斬られる覚悟があるんやな?」

 

息が詰まるようなプレッシャー。

とっくに限界を迎えていた僕の精神力は脳内で悲鳴を上げ、吐瀉物が喉までせり上がってくる。

どろっとしたそれを無理矢理飲み込むと、白髪の男からの質問には答えず、いつでも飛び掛かることができるように腰を落とす。

 

「……別にキミに用事があるんやない。ボクはそこの髪の長い女の子に用があるんや。これが最後通告や。下がり。キミの実力じゃ、怪我じゃ済まんよ?」

 

僕に剣先を向けた白髪の男は、剣を握る手とは逆の手をシッシと動かす。

ここで退けば、少なくとも僕と神様は助かるだろう。

だったら。

 

「ベル君……」

 

「ベル……」

 

「神様……アイズさん……」

 

一瞬浮かんでしまった弱音を、僕は頭を振って脳内から消す。

ここで退けば、アイズさんがどうなるか、分かったものじゃない。

もしアイズさんに何かあれば、僕は一生自分を許せなくなるだろう。

 

「……神様。アイズさんを抱えて逃げてください。ここは僕が足止めします」

 

「べ、ベル君!無茶だ!」

 

「ベル!」

 

「そんなに長くは持ちません!だから、早くッ!!!」

 

僕はそれだけ言い残すと、十M程度離れた白髪の男に、低い姿勢を保ったまま半ば奇襲のような形で飛び掛かった。

 

「破道の一【衝】」

 

その瞬間、僕の身体は木の葉のように宙に舞った。

 

 

 

 

 

#16 One more time

 

 

 

 

 

二十一、二十二、二十三。

フレイヤと別れた後に豊穣の女主人へ帰宅したギンは、かれこれ一時間、天井の木目の数を数えていた。

待ち行く人の観察や散歩などで適当に暇を潰してはいたがそれも飽き、ダンジョンに潜る気もなくぶらぶらとしながら豊穣の女主人に到着する頃には、夕陽がとっぷりと沈みかけていた。

豊穣の女主人は開店直後だというのにも拘らず今日も今日とて大盛況で、扉越しにくぐもった喧騒がギンの耳にも入っていた。

 

「にじゅうよ……あれ?数えたっけ、あの形」

 

天井に張られた沢山の材木の木目を数えるも、いつも同じ場所で引っかかる。

どうだったと考えているうちに数えた数を忘れ、そしてまた、初めに戻る。

賽の河原で石を積むかのような行為を繰り返すギン。

 

「いーち、にーい……」

 

四度目のリスタートもめげることなく数え始めたギンだったが、その耳に入っていた表の喧騒がぴたりと止まったことに不信感を覚える。

何か起きたのかと霊圧感知の網を広げると、そこそこ見知った強い霊圧が引っかかった。

 

「これ、オッタルとかいう奴やな」

 

何故ここに、いや、別に食べに来てもおかしないか。

そんな結論を出そうとするギンだったが、バァンと勢い良く扉が開け放たれ、顔面蒼白になったミアがベッドで呑気に寝転がるギンの胸ぐらを掴む。

 

「あ、アンタ!何したんだい!」

 

「なーんもしとりませんけど?」

 

「何もしてないなら、オッタルがアンタの名前を呼ぶはずがないだろう!フレイヤ・ファミリアとの間で何かあったのかい!?」

 

元々フレイヤ・ファミリアのトップであったミアは、オッタルがわざわざ豊穣の女主人に出向くという事の異常性に気付いていた。

仕事もしない。昔話もほとんどしない。煙に巻いて何処かへ消える。

そんなギンでも豊穣の女主人の一員であると思っていたミアは、胸ぐらを掴まれても平然としている目の前の男を『もし何かトラブルを起こしているなら、どうにか助けてやらなければ』と、焦っていた。

 

「ま、落ち着き」

 

滝のような冷や汗をかくギンは胸ぐらを掴む手を冷静に押し返すと、木目を数えきれなかったことを少しだけ悔みながらベッドから立ち上がる。

そしてポカンと大口を開けるミアを放って表に出て、カウンターの間で仁王立ちしているオッタルに向かい合う。

 

「久しぶりやな」

 

「あぁ。フレイヤ様が、イチマルに用事があると言っている」

 

「へぇ。尸魂界について何か分かったんか?」

 

「そこまでは俺も聞いていない。付いてこい」

 

【猛者】の突然の来店に静まり返る店内を気にする様子もなく、オッタルとギンは連れ立って店から出て行く。

はじめはバベルに連れていかれると思っていたギンだが、オッタルの足は豊穣の女主人から徒歩で十分程のとある高級料亭の前で止まった。

 

「ここだ」

 

「この中に居るんか?」

 

「あぁ。ここからは俺も入れない。あの方は、イチマルと二人での面会を望んでいる」

 

「へぇ……オッタルはどうするん?」

 

「俺は、あの方が出てくるまではここで待機だ」

 

「けったいやなァ。ま、おおきに」

 

オッタルの忠誠心にギンは首を傾げながらも、言われた通り料亭へ入る。

最上階である五階の最奥にフレイヤの霊圧を感じ取ったギンは、迷わずその扉を開く。

 

「あら、今朝ぶりね」

 

部屋の中ではフレイヤが優雅にティーカップを傾けながらギンに手を振っていた。

ギンは手身近な椅子に座ると、懐から干し柿を出してかじりつく。

 

「干し柿?随分珍しいものを食べるのね」

 

「豊穣の女主人でも言われたわ。そんなに珍しいんかいな?」

 

「そうね……って、こんなことを話しに呼んだわけじゃないのよ」

 

まったく、本当にこちらのペースが乱れるわね。

フレイヤは内心で毒づきながら、一枚の地図を机に放り投げた。

 

「……?何や、これ」

 

「市壁付近の裏通りの地図よ」

 

ギンは地図を手に取り、それを見る。

そこには、壁から一本の赤い線が引かれていた。

 

「その赤い線は、ベルの帰り道よ。ほら、今朝市壁の上で訓練していたでしょう?」

 

「……それで?」

 

「単刀直入に言うわ。この二人を襲撃して欲しいの。もちろん、殺さない程度にね」

 

「嫌や。何でボクがやらなあかんねん」

 

あほくさ。

ギンは地図をフレイヤに押し返すと、瞬歩でその場を立ち去ろうとする。

しかしそんなギンの足を止めたのは、フレイヤの一言だった。

 

「お願いするわ。ねぇ、()()さん?」

 

「……!」

 

「とある情報筋から、尸魂界についての情報を得たわ。この情報が貴方にとってどのくらい有益かはまだ分からないけれど……もし引き受けてくれるのなら、教えてあげる」

 

フレイヤも、市丸ギンという人間を何となく理解し始めていた。

恐らく殺しに躊躇がないながら、進んで殺しをするような狂人ではない。

さらに言えば、かなり頭の切れる人物である。

つまり、交渉の余地は十分にある。

そんな結論のもと、何の考えもなしに私を脅して情報を吐かせるような人物ではないと判断を下したフレイヤの行動は正しかった。

 

「……何でボクや。オッタルでもええやろ」

 

かかった。

内心でほくそ笑みながらフレイヤは紅茶を飲み干し人差し指を立てる。

 

「そうね……まずひとつ。オッタルは目立つのよ。この襲撃の差し金が私でないとバレないなら、バレないに越したことはないわ。ま、バレたらその時だけどね」

 

「つまり、ボクの個人的な襲撃に見せかけたいと?」

 

フレイヤは答えずに中指を立てる。

 

「ふたつ。【剣姫】と勝負になる冒険者は一握りしかいないのよ。最初はアレン……貴方がこの間倒した子にやってもらおうか考えたのだけど、まだ完治していないみたいだから。一応普通に動けるようだけど、相手が相手なだけに、大事を取りたいのよ」

 

フレイヤは薬指も立てる。

 

「みっつ。襲撃と言っても、殺して欲しくはないのよ。ただ、【剣姫】に釘を刺し、ベルの今の実力を知りたいだけなの。貴方なら、上手いこと手加減できるでしょう?」

 

「ボクの斬魄刀の能力を知ってて言うてる?当たり所悪いと死ぬで、あの子」

 

「ざんぱ……あぁ、その曲刀ね。別にその能力を使う必要はないわ。というか、ベルにはなるべく傷をつけないでちょうだい。貴方が少し上、程度の勝負を演出して欲しいわ」

 

「……」

 

襲撃。懐かしい響きや。

瀞霊廷に旅禍が侵入してきた時以来の言葉に、ギンは何となく懐かしい気持ちになった。

 

「引き受けてくれるのなら、私の知る情報を貴方に渡すわ。どう?」

 

「……しゃァない」

 

そう言いながら地図を懐にしまい込んだギンに、フレイヤは目尻を歪ませた。

 

「やり方は貴方に任せるわ。そろそろ終わる頃でしょうし……」

 

フレイヤはそう言うと、窓の外に視線を向ける。

すっかり暗くなった空には、月が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい。明らかに。

市壁内部階段を降りている辺りから、ベルは違和感を感じ取っていた。

三月。大気が寒いのは当たり前である。

だが、それより、階段を一段降りるたびに身を焦がすような冷気が迫ってくる。

 

「べ、ベル君?ヴァレン何某君?怖い顔してどうしたんだい?」

 

あまり気付いていなさそうなヘスティアを庇うように、ベルとアイズで挟み込んで階段を下る。

そしてベルが市壁内部から外へ出た瞬間、違和感は確信へと変わった。

歩きたくない。進みたくない。そんな本能が、ベルの脳内でけたたましい警鐘を鳴らしていた。

 

「ベル……大丈夫?」

 

「は、はい……あれ?」

 

頷くベルだが、ここで、夜とはいえ辺りが暗すぎることに気付いた。

 

「魔石灯が……壊されてる?」

 

鋭利な刃物で貫いたかのように破壊された魔石灯の残骸が、あちらこちらに転がっていた。

どうして。ベルに、一瞬の隙が生まれた。

 

「縛道の六十一【六杖光牢】」

 

そんな詠唱と共に、物陰から光る矢がベルに向かって発射された。

 

「えッ……」

 

「ベルっ!」

 

ベルに直撃する寸前、アイズがベルの前に割り込んだ。

そして素早くレイピアを抜き光る矢を切り裂こうとするが、矢はレイピアをすり抜け、アイズの身体に直撃することとなった。

 

「あ、アイズさんっ!」

 

「ヴァレン何某君!?」

 

ドッと膝をついたアイズに二人が駆け寄る。

 

「何……!?これ……!?」

 

身体の前にレイピアを構えたまま指先一つ動かせなくなったアイズは、憎々し気に唇を噛む。

 

「……」

 

物陰からその様子を見ていたギンは、ニマァと口角を上げた。

予定通りや。と、言わんばかりに。

 

「あれ。男の子の方に当てたはずやったんやけどなァ」

 

しかしそんな感情をおくびにも出さず、あくまで失敗したように、飄々と。

物陰から現れた自分を見たベルの目が絶望に染まっていく様に、ギンはうんうんと頷く。

見えとるみたいやな。霊圧上げて正解だったわ。

 

「ま、ええわ。ちょいとオハナシしようや」

 

憎き藍染が『勇気』と呼ぶ、あの、強い眼。

確かな実力を持った黒崎一護とは少し毛色が違う、未だ弱いながら、絶望や強敵に抗わんとする強い眼。

 

あの眼をもう一度見ることができれば、ボクは、何か見つけられるかもしれない。

 

だから、もう一度あの眼を見せてや。

 




四日市三太郎さん、りんくすさん、カフェさん、CroWolFさん、kdzudklさん、バゲバゲさん、belldさん、ルーオークさん、satakeさん、ボールドさん、銀兎さん、egurumanieさん、サーモンさん、Yutakaさん、chateauさん、ラッキーりーさんさん、石油さん、Acedia-49さん、シリコンドルさん、イルリードさん

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