FINAL FANTASYⅫ Revengence 作:ナタタク
「ここは…どこだ?」
眼を開けると広がるのは真っ暗な空間。
立っていることはわかり、自分の腕や足以外は何も見えない。
黒いスニーカーと黒いシャツ、青いジーンズ姿であることはわかるが、なぜ今自分がこんな服装をしていて、ここに立っているのかは全く見当がつかない。
ポケットの中から何かか振動するのを感じ、手を突っ込むとそこにはスマートフォンが入っていた。
「僕の…で、いいのか?」
自信のない口調でスマホの電源ボタンを押す。
『The fantasy begins』
ショートメール形式で表示された一文。
送り主の記載はなく、どういう意味なのか何も分からない。
続けて送られてくるメール。
『The twelfth fantasy awaits you』
『It's time to begin』
『I wish you the best of luck』
「なんだよ、これ!何が始まる…って…」
急に催眠術でもかけられたかのような感覚に襲われ、強烈な眠気でスマホを手にしたままその場に倒れる。
何かが近づいてくるのを感じたが、それを確認できないまま青年は意識を手放した。
「しかし…姫様。どこの誰かも分からない男です。服装も顔立ちも、ダルマスカ人とは思えない」
「そんなことはわかっています。ですが…」
「ん、ああ…」
強い寒気を感じると同時に聞こえてくる男と女の声。
姫、という言葉から、どうやら話している女性の方が身分が上なのが分かる。
声が聞こえた方法にゆっくりと顔を向け、重い瞼を開く。
視界には暗がりの中での頼りとなるランタンの火の光が見え、そのそばに茶色い布のマントで顔を隠した女性と鋼鉄の重たい鎧に身を包んだ男が見え、男は視線に気づくとさっそく足音を立ててこちらに近づいてくる。
「目を覚ましたようだな」
「こ、こは…(って、あれ、僕と、同じ言葉…?)」
顔立ちは明らかに外国人に見える彼だが、口にしている言葉は自分にとってはひどくなじみのあるものだ。
どういうことなのか何もわからないまま口を開いた青年に騎士の男は答える。
「ダルマスカ王国内の砂漠地帯だ。貴様はここの近くのオアシスで倒れていた」
「オア、シス…砂漠…?」
足元のところは敷物で完全に隠れていて、土や石が見えない状態だ。
外の音はかすかに聞こえてくるが、それだけでは外がどこなのか判別はつかない。
少なくとも、人気がないことは確かだろう。
「目立った外傷もなく、ただ倒れていたところを拾われた。もし、誰にも見つからずに眠っていたら、凍え死んでいただろう。さあ、質問に答えてもらうぞ。貴様はなぜそこにいた?何者だ?」
「何…者…?」
にらみつけてくる彼に内心おびえる青年はすぐに答えようと頭を回す。
だが、どんなに頭をひねっても彼を納得させるだけの答えは何も出てこない。
一つだけ、答えられるとしたら…。
「レイ…名前は、レイ…」
「レイ…?」
「それ以外は…わからない」
「わからないだと…?」
ますます怪しいと、疑いに満ちた目を男は向けてくる。
こんなことなら、何も答えずに黙っていた方がよかったかと思ってしまう。
胸倉をつかまれた青年は男によって布団から引きずり出される。
青年は意識を失う前と同じ服装をしていた。
「もう一度聞く、貴様は何者だ?偽りがあれば…」
「やめなさい、ウォースラ!」
「…!」
振り返った男は彼女の名前を呼ぼうとしたが、のどから出る直前でひっこめて黙る。
少女はじっとウォースラと呼んだ大男を見つめ、物怖じすることなく口を開く。
「彼は嘘を言っていないわ。それに、おびえている。とても敵とは思えないわ」
「しかし…」
「彼を離しなさい、ウォースラ」
納得がいかないと言いたげなウォースラだが、反論することなくレイを解放する。
そして、一度レイから距離を取るもののテントの壁に背中を預け、そこにおいてある大柄の剣を自分のそばに引き寄せた。
「怖い思いをさせてごめんなさい。私たちにも、事情があって」
「事情…その、ダルマスカって…」
「私たちの国の名前です。もう滅んでしまったけれど…」
「滅んだ…」
顔を隠した布を取った少女は自分の顔を青年に見せる。
薄い金色の肩にかかるくらいの長さのストレートヘアで、グレーの瞳に透き通った白い肌。
整った顔立ちに意識をしっかりしておかないと見とれてしまうほどだ。
「本当なの?本当に…わからないの」
「…。名前以外、何一つわからない。ここがテントの中なのはわかる。砂漠とか、単純なことは言われたらわかる。でも…ダルマスカ王国とか、滅んだとか、そういったことは何一つわからない。そもそもどこで暮らしていたのかも、どうしてあの人が言っていた場所に倒れていたのかも、なんでこんな服を着ているのかもまったく見当がつかない」
思い出せるとすれば、強いて言えば、あのスマートフォンの奇妙なショートメール。
英語で書かれたそれを思い出したレイはポケットに手を入れる。
何かするのではないかと剣を握ったウォースラを無視し、ポケットの中にあったスマートフォンを出す。
「これは…?」
「スマートフォン…知らないの?」
「知らないのって…そんなの、初めて見るわよ。ウォースラ、あなたは?」
「いえ…」
(スマートフォンを知らない…?)
少女もウォースラも首を傾げる様子に、逆にレイはなんでこれのことを知らないのか不思議に感じた。
これが自分のものと断言する自信はないが、少なくとも今では子供でもみんな持っている代物だということについてはわかる。
だが、彼らにとってはそれはそういうものではない。
スマートフォンの電源を入れ、画面を見つめる。
見覚えのある青い画面といくつものアプリのアイコン。
(圏外…ネットも電話も使えない。でも、これは見れるか)
あの暗闇の中で突然自分に届いたあのショートメールがないか、吹き出しのアイコンを押す。
しかし、その履歴には暗闇の中で届いたものも含めて、何一つ履歴が残っておらず、メールも一つ残らず消えていた。
一度最初の画面に戻り、表示されている年月を見る。
「前バレンディア暦…705年…?」
前バランディア暦704年に起こったダルマスカ戦役により、ダルマスカ王国はアルケイディア帝国に無条件降伏を行った。
降伏を決断した当時の国王であるラミナス・バナルガン・ダルマスカだったが、和平に反対した元将軍であるバッシュ・フォン・ローゼンバーグによって殺害された。
王殺しのバッシュは処刑され、唯一の王位継承者であるアーシェ・バナルガン・ダルマスカも自害したことが空中都市ビュエルバの元首であるハルム・オンドール4世侯爵によって発表された。
8人の息子も病や戦乱に中で既にこの世におらず、細君も既に他界していたことで、王位継承者がいなくなったダルマスカ王国は正式にアルケイディア帝国の領地となった。
それから1年が経過した前バランディア暦705年。
アルケイディア人でもロザリア人でも、ダルマスカ人でもない、どこの誰かもわからない青年の出現がイヴァリースに何かをもたらす。