なんやかんやあってちょっと成長したコユキ想定。遺書とかで調べて貰えば出てくるかと。時系列的にはゲーセンより前。
※pixivにも投稿アリ
「先生~! 今日も来ましたよ! 今日も遊び、もとい、お手伝いしてあげますからね!」
最近、ユウカ先輩が私に振ってくる仕事の量が多い。今までは要所要所でしか仕事持ってこられなかったのに。なぜか普通にセミナーの仕事が割り振られている気がする。戦力として普通に当てにされてるというか。
でもそんなことで私は止まらない。元々、セミナーの仕事は誰にでもできる仕事を私に割り当てるから、つまらないのでやりたく無かっただけで。
目的がある今の私──シャーレに遊び行く明確な目的のある私には、何の障害でもない。
という訳ですべての仕事を片付け、シャーレに向かう。……ユウカ先輩の苦虫を嚙み潰したような微妙な表情は、なぜかとても味わい深かった。
……にはは、言いたいことがあるならちゃんと口に出さなきゃだめですよ、先輩?
そんな心温まるコミュニケーションを経て、シャーレとたどり着き、いつもの様に書類に向かって呻き声を発している先生に挨拶を投げる。
”や、お疲れ様。コユキ”
「はい! お疲れ様です、先生! ──今日も私が遊びに来ましたよ!」
”……遊ぶ前に、仕事を手伝ってくれると嬉しいかな”
そう言いながら先生は。お茶でも入れてくれようとしたのか、立ち上がって。やだなあ、冗談ですよぅ。しっかり仕事を終わらせてから遊びますってば。
なんて言葉は。立ち上がった先生がそのまま、くず折れる姿に飲み込まれた。
「ちょっと!? 大丈夫ですか先生!?」
慌てて先生に駆け寄って、体を揺さぶる。シャツ越しにでも伝わる、熱さが、緊急事態だと私に告げる。
「大丈夫ですか!? というか私の声聞こえてますか先生!?」
返事が無い、ただの……
いやいや、そんなの流石に笑えないにも程がある。頭を振り、一瞬浮かんだ不謹慎な考えを振り払う。慣れない光景に驚きつつも先生の額に手をやって。
やっぱり、額はさらに熱い……こういう時はどうすればいいんだっけ……!? 看病なんてしたこともされたことも無いから全く分からない。
救急車? いや、呼吸はちゃんとしている気がする。けどそもそも床に放り出していてはいけないと思う、多分。少ない経験、というよりは知識からどうすればいいのかという対処法を引き出しつつ。
「しっかりしてください先生! とりあえず……!」
ベッドに寝かせよう。その後は……。いや、先の事を考えるより。まずは出来る事を。
混乱をどうにか頭の片隅に置きやり、先生を居住区のベッドまで運ぶ。そこまでしているうちに冷静になり、少しは落ち着いて先生を観察する時間が生まれた。
多分……過労、なんだろうか? それか風邪とか? 混乱していた時には気づかなかったけれど、落ち着いて見ると熱も一般的な風邪くらいだし、呼吸も落ち着いているように見える。
そういえば先生は最近また忙しくなったみたいで、玄武商会あたりにまで足を運んでいたみたいだし。そこから何かごそごそやっていたから。
まあいい。とにかく。病状の判断を素人が行うのは危険だ。なにか私が見落としている兆候があったりしたら目も当てられない。
救護騎士団あたりに連絡して、後私に出来る事……。
そうだ、スポドリとか冷えピタとか。たぶんエンジェル24に売っているだろうから買ってこないと。
どんな症状にせよ、要らないなんて事にはならない筈。そんな風に思考しながら居住区から出て執務室に向かう。端末を取り出して連絡先を参照しつつ──。
執務室への扉を開けた時に見えた、佇んでいる人影が一つ。
「───!」
反射的に肩に下げたマリ・ガンを構えて、射撃体勢を取る。視線の先に目を凝らせば。
「わあ、ちょ、ちょっと待ってください!?」
この格好……もしかして救護騎士団?
「わっ! す、すみません! 」
「い、いえ、いきなり姿を見せたのは私ですし……驚かせてすみません……!」
そう言いながら、目の前の人物が更に口を開く。
「私は救護騎士団所属、2年の鷲見セリナと言います」
*
「はあ……これはどうもご丁寧に……?」
名前を聞かせて貰いはしたけど、だからと言って混乱が消える訳ではない。
「あの……その……銃は降ろして貰えると……」
「はっ!? す、すみません??」
そう言われ、銃口を逸らす。
おおよそ敵意が見られないセリナ……先輩? で良いのかな? 二年って言ってたし。こほん。その、セリナ先輩に促されて射撃体勢を解く。
「あの……セリナ先輩はどのようにここに……?」
少しの間入り口から離れていたとは言え、流石に誰かが来るような物音が聞こえれば耳に入る。
それすら聞こえないのに人影が合ったから、銃を構えて警戒した。……のだと、自らの行動に遅れて理屈が追い付いてきた。
「いえ! 私がどのようにここに来たのかはあまり重要ではありません!」
「えぇ……??」
私が言える事ではないのは解ってはいるけど。シャーレのセキュリティに関わるだろうし重要でないことは無いのでは……?
「それより! 先生が倒れられたんですよね! 診察します!」
そうだ。あまりにもインパクトのある登場の仕方をされて思考から飛んでいたが、先生はさっきぶっ倒れたのだ。それをどうにかしに来てくれた、というのであれば。今は疑問は置いておかないと。
「こ、こっちです!」
セリナ先輩を先生の寝ている場所へと案内すると、部屋につくなりてきぱきとした様子で診察をしていく。
「ふむ……ふむ……なるほど……」
そうしてしばらく。先生の診察を行っていたセリナ先輩。なんてことない時間のはずなのに。どうしても不安が拭えない。
脳裏を離れないのは。まぎれもなく、遺書を見つけた日の。
「あれ」が本当の事になってしまったんじゃないかって不安になって。すぐにそんな筈はないと思い直して。
居ても立っても居られない気持ちのまま、セリナ先輩が診断を終えるのを待つ。
「あの……」
「先生、大丈夫……ですよね?」
「このまま目が覚めないとか……そんなことないですよね?」
私を置いていなくなったり、しないですよね?
そんな言葉が、思考の片隅に渦巻いたまま。飲み込むことしか出来なかった。
*
はい、診察が終わりました。セリナ先輩のその声を聴いて、止まっていた思考が働き始める。
先輩はこほん、と咳ばらいを一つして。
「先生の様子からして、おそらく過労と季節の変わり目ゆえの急性上気道炎」
つまり風邪かと。
そう断言するセリナ先輩。
「過労で免疫が落ちてしまったところに風邪が重なった形かと思われます」
「とにかく。今すぐに病院に行かないといけない、というような命に別条のある症状ではありません」
「そうでしたか……!」
本当に。目の前で倒れた時は何事かと思った。
その後先生の様子をみて多分大丈夫だろうとは思っていたけど。
それでも、素人の見分だから。万が一何かあるんじゃないかと思っていた不安が、セリナ先輩の言葉で解消されていく。
「よがったぁ……!!」
「……」
「確かに熱はまた上がったようですが……それも一過性です。ある程度体を休めれば次第に落ち着いていきます」
不安がなくなって、またいつかのように泣きそうになってしまう。
こんなところで泣いてなんかいられないし、流石に初対面の先輩の前で泣いてしまうのも恥ずかしい。
先生が過労で倒れるのは良くある話、らしい。正直どうかと思うけど。けれどそれなら。ここで私が泣き始めるのはどう考えてもおかしい。
何もなかった。あれは私と先生だけの秘密、なのだから。
慌てて目をゴシゴシと擦り、いつもの通りの表情を作る。
いつもどおり、いつも通り。
「……全く! こんなにも生徒に心配かけるようじゃ先生としてダメダメですよ! ね、セリナ先輩もそう思いませんか!?」
そういえばセリナ先輩は私のいつもどおりを知らないな、なんて後から考えた。
「……ええ、そうですね、本当に」
私がわざと軽口を叩こうとしていることが分かったのか、どちらかとあやすような口調で私の話に合わせてくれる。
「……全く本当に仕方ないですけど! 看病してあげようじゃあないですか!」
ね! と。セリナ先輩の方を向く。
あ、そうだ。色々買いこんで来ようと思っていたんだった。
「私、エンジェル24で色々買ってきますね!」
そう言って執務室の入口へ足を向けると。セリナ先輩から声がかかった。
「あ、その点に関しては大丈夫です! 既に買って来てありますから!」
あちらを、と先輩が指をさした方に視線をやると。
体温計、冷えピタ、スポドリ、タオル、食べ物ete……。
一般的にイメージする「看病に必要なもの」がおおよそ全部、ビニール袋に入っているのが見えた。
「??」
……いつ買ってきたんだろう?
自分でも分かる程に引きつった笑みを浮かべながら、先輩へ視線を戻す。すると、何でもない事かのようにセリナ先輩が口を開いた。
「先生が倒れた時に周りに人がいることは分っていましたから。それに、このタイミングで先生が倒れるということはおおよそ過労だろうと見当はついていたので」
つまり。
先生が倒れた時に人がそばいることを察して、あらかじめ必要なものを買ってきていた? という事?
あの時執務室には二人しかいなかったのに?
「先生がおひとりで倒れていたなら急行したんですけどね。面倒を見てくれる方が傍にいたので、私は必要物を調達してきました!」
「こちらも看病に必要になりますから!」
にこにこと優しい笑顔を浮かべて、そんなことを言う。
????
……
…………
………………。
いや。考えるのはやめよう。
そもそも、キヴォトスには普通には考えられないことを平気な顔して行う人たちが横行しているんだから。
戦闘力がやけに強すぎるゲヘナの風紀委員長だのミレニアムの
横領したお金で都市を一つ建設したりとかやってのけた
最近ではゲーム開発部にとんでもない武器背負ってる子が入部していた。ユウカ先輩がよく可愛がっているのを見かける。
更に言うなら先生がシャーレに赴任したタイミングで矯正局から脱獄した七囚人、なんてのもいるとか。
何をすれば矯正局行きになんてことになるんだろうか? もっと悪戯レベルで済ませておけばそんなことにはならないのに。
ともかく。
この先輩も多分そういう人たちと同じ人種なんだろう、きっと。
私なんかが考えても到底思いもよらないような
「あ、ありがとうございます。じゃあ私は看病のお手伝いしますね!」
プロ、というかせっかく救護騎士団所属の人がいるんだから。私がでしゃばるよりセリナ先輩に任せた方が良い。
そう思ったんだけど。
「…………」
「セリナ先輩?」
先輩はなぜか私をじっと見て。
「『救護が必要な場に救護を』」
「……これは私達、救護騎士団の団長が良く使う言葉なんですが」
救護騎士団団長と言えば。私でも聞いたことがある。戦場に現れては勢力の区別なくその場の全員をぶちのめし、倒れ伏した人々を隊員たちが治療していく、というあの。
「おそらく」
「この場においては。あなたが先生の事を看病する」
「それが『この場に必要な救護』だと思うんです。黒崎コユキさん」
え?
それは一体。浮かんだ疑問を投げる間もなく、セリナ先輩は矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。
「一応、看病について必要なことをこちらのメモにまとめておきました。おそらく大丈夫だと思いますが、何かあれば私に連絡をください」
「すぐに。駆けつけますので。……先生の事、よろしくお願いしますね?」
優しく微笑みながらそう言葉を残すとセリナ先輩は、一礼して去っていき。
「あ、ちょっと……」
引き留めようとした言葉は、もう私の耳にか届いていなかった。
というか、私名乗りそびれてたのに名前知ってる……。怖……。
*
貰ったメモといつの間にか買い揃えられた看病セットを先生の部屋へ運び込みながら。先ほどのセリナ先輩の言葉が脳裏をよぎる。
この場に必要な救護……。どう考えても先生の体調の事だけを指しているようには思えなかった。
多分。私の心情というか、心配というか。そちらも見抜いたのだろう。
「そんなに分かりやすいですかね、私……」
そう呟きながら準備を続ける。道具は全部あるし、さっきセリナ先輩が一通り熱を測ったりはしていたから……。
看病セットの中からスポドリを取り出し、先生の枕元へ。ついでにタオルで汗を拭ってあげる。
まだ額も熱いし、かなり辛そう。
えーっと、メモには……。
……うん。やっぱりさっきセリナ先輩が一通りやってくれてる。
後は定期的に熱を見たり汗を拭いてあげたり……かな。
とりあえず喫緊でやるべきことは無くなったが。
なんとなくこの場から離れ
セリナ先輩からお墨付きを貰っているとは言え。すぐには不安が消える、という訳ではない。
「ほーんと、心配かけてばっかりなんですから……」
あ、そうだ。ユウカ先輩に今日はセミナーに戻らないって連絡しないと。ちゃんと一報入れないと怒られちゃう……。
……。
……。
悪戯って訳じゃないけど。たまにはこれくらい、良いですよね?
端末を取り出し、ユウカ先輩へモモトークを送る。
【すみません、今日はちょっと長引きそうなので。セミナーには寄らずに直帰しまーす!】
【私に振られた仕事は全て終わってますので、問題ないですよね!】
ピロンと。送信音だけが響いた後、通知をすべて切った。着信音とか、アラームとか。そういうので眠りを妨げない様に。
……なんとなくだけど、もう返信が来てる気がする。既読を付けるとさらに返さないといけなくなるので、画面は見ないようにした。
端末を机に置き、椅子に座り直す。
「治るまでちゃんと看病してあげますし、騒がしくなんてしませんから」
私も、先生の役に立たせてください。
*
それからは定期的に先生の様子を見て。熱を測ったり、汗を拭ったり。
熱は最初より下がって、体調も比較的安定し来たのか。少しは楽になった様に見える。
その様子を見て、私も緊張が解けて。椅子に座ったまま──。
───
────
─────
「んあ……?」
ふと意識を戻す。ぼんやりと霞がかった思考で考える。戻すということは、意識を失っていたという事。
もしかして私、寝ちゃってました……!?
一気に覚醒した意識を時計に向け、標準を合わせると……時刻は午前一時頃を指していた。
最後からおおよそ2時間くらい?
すぐに先生を見る。
……!
少し呼吸が浅い。慌てて額に手を当てる。……先程までと熱さは変わっていない。のに。少し顔色が悪い。それに、うなされてる。
耳をすませば、何かをつぶやいてる? ……だけど、意識して発声しているわけではない為か聞き取れない。
どうしよう。起こす方が良いのか起こさない方が良いのか。経験が少ない私では判断がつかない。
そうだ、こんな時こそセリナ先輩の残してくれたメモを見よう。確か症状ごとの対策とかが書いてあったはず──。
そう思いメモを見ようとしたところで。明瞭になった先生のうめき声が耳に入る。
”──ごめん”
先ほどまでも、ずっと謝っていたのだろうか。声にならない声で、何回も。
ダメだ。起こそう。風邪がどうとか症状がどうとかじゃなくて。これ以上うなされる先生を見ていられない。
肩を掴んで、顔を近づけ、揺り動かす。流石に大声で叫ぶわけにはいかないけど。
「先生! 起きてください、先生!」
そうして二度三度と。声をかければ。
”…………コユキ? ”
先ほどまでの不明瞭な謝罪とは違い。しっかりと私の名前を呼んでくれた。
いつもより力は入っていないし、掠れてもいる。
「良かった……! すっごいうなされたんですよ……!」
”うん……ごめん……”
まだ少し朦朧としているみたい。それに依然として表情が暗い。ただうなされていたじゃなくて、やっぱり悪夢でも見ていたのかな。
「とりあえず、少しでも水分取って……また休んでください」
ぬるくなったスポドリをコップへ注いで、先生の口元へ運べば。ゆっくりとだけど、飲み物を飲んでくれる。
その後に見えた。いつもの先生ならあまり見せない、不安げな表情。相当に悪い夢だったのだろうか。
思わず先生の手に私の手を重ねて、強く握る。
少しでも不安が軽減されてくれれば。もし私が風邪を引いた時に、こうされたら嬉しい。そう考えたら、自然と体が動いていた。……やって貰った記憶なんてどこにも無いけど。
ああでも、今なら。もし私が風邪を引いたら、先生がやってくれるかな。
「大丈夫ですよ、先生。どれだけひどい夢でも見たのか分かりませんけど、私が傍にいてあげますから」
”ああ……ありがとう……”
そう一言だけ呟くと、先生は再び目を閉じた。顔の熱っぽさは変わっていないけど、それでも。
先ほどまでより幾分か表情が明るい。
すぐに寝息が聞こえてくる。
「おやすみなさい、先生」
再び眠り始めた先生の手は離さないまま、そう声をかけた。
そのまましばらく先生の様子を伺っていたけど、どうやら本当に落ち着いてきたみたい。
熱も下がって来てるし、呼吸も落ち着いている。何より、もううなされていない。
掌から伝わる高い体温が。先生に安心してもらうために握っていたのに。なぜか、私にも安心感を与えてくれる。
その心地よさに段々と眠気を誘われて。
先ほどとは違い、心のどこかでその睡魔に逆らうことをやめて。
私も、今度こそ眠りに落ちてしまった。
───
────
─────
……て。……きて、コユキ。
起きて、コユキ。
「───はっ!」
いつの間にか眠ってしまっていた自分の意識を起こす声。いつもの、優し気な、聞きなれた声。
”おはよう、コユキ”
「……あっ、えっ? あれ? おはようございます?」
顔を上げてみると、昨日とは打って変わって元気な様子の先生。うん。熱もなさそうだし、顔色も明るい。
「よかった……すっかり回復したみたいですね」
”うん、おかげさまで。本当に世話になったね。ありがとう、コユキ”
昨日、ほんの少し目を覚ましていた時はあまり意識がはっきりしていなかったみたいだけど。
「昨日の事覚えてます?」
”ううん、実はあんまり。だけど多分私が倒れて、それをコユキが看病してくれてたんだよね? ”
流石に状況を見ればそれくらいは。先生はそう言って、朗らかに笑った。
*
本当に、本当にもう。
迷惑をかけるのは(不本意だが)私の役回りだったはずなのに。なんだか最近は先生に心配ばっかりかけられてる気がする。
「えぇ、そうです! 本当に、ほんとーに心配したんですからね?」
”それについては本当にごめん”
素直に頭を下げてくれる。流石にちょっと言い過ぎたかも。先生だって倒れたくて倒れた訳じゃないんだから。
「あっ、いえ……。わ、私も私一人で看病してたんじゃないですし」
「セリナ先輩にも手伝って貰ったというか……手伝われていたというか……」
”あー。セリナも来てくれてたんだ。後でお礼言っとかないと”
……。いや、間違いではない。間違いではないんだけど。表現の差異にちょっとした違和感を覚えて、背筋がムズムズする。
あれは、来てくれたというか。「最初から居た」。という表現のほうがしっくりくる。
そんなことを考えていたら、 先生が私の思考をを読み取ったのか。
”まあ、うん。言いたいことはわかるよ”
……先生が知らないはずも無いか。
閑話休題。
”とにかく、本当にありがとう、コユキ。昨日の事はあまり覚えていないって言うのはさっきも言った通りなんだけど”
”でも、昨日見た夢の事ははっきり覚えてるんだ”
”それがどうしても怖い夢でね。……その夢から、コユキのおかげで抜け出せたんだ”
やっぱり、ひどい夢を見てたんだ。あんなにうなされてたくらいだし。
「ちなみに、どんな夢だったのか聞いても?」
……なんとなく、想像はつく。
先生は一瞬逡巡した様子を見せたのちに。
”……生徒達がいなくなる夢を、ね”
静かなトーンで、そう言った。
”どういう訳か、かなりリアルな夢だったんだ。夢っていうあやふやな状態じゃなくて”
”まるで、本当にあった光景をそのまま脳内に流しているような”
それは。 この前の先生の話と照らし合わせるなら。本当に、あったことなんじゃ。ここではない別のキヴォトスで。先生ではない『先生』が、終焉に至った未来。
なぜか先生は。その光景を見てしまったのでは。
”…………多分。コユキの想像したとおりだよ。理由は相変わらず不明だけどね”
”私が勝手に一人でその光景を想像してしまっただけかもしれないし。何か別の理由があったのかも”
夢の詳細を話にはしなかったけど、かなり堪える内容だったのは間違いない。
”正直見たくない光景だった。でも自分だけじゃあ目を覚ますことが出来なくて。ひとりずつ失われていく光景を見ているしか無くて。……そんな時に、コユキの声が目を覚ましてくれたんだ”
”かなり、ほっとした”
……良かった。あの時の判断は間違っていなかった。
”その後も、多分私は。もう一度眠るのが多分怖かったんだと思う。でも、ほら”
そう言って先生は。手を。
私が握ったままの、手を。指し示した。
…………。
…………。
…………!!
「あっいやっこれはその何と言いますか先生が不安そうでしたので!?」
今熱があるのは間違いなく私だ。一瞬で顔が熱くなったのが分かる。手を握ったことが恥ずかしいんじゃなくて。
これだけ長く会話していたのに、いまだに握ったままなのが。
それを全く疑問にも浮かべていなかったことが。
「手を握ったまま今の会話をしていた」ことが。
指摘された今でも手を放そうとしていない無意識の自分が。
恥ずかしいなんてもんじゃない。
そんな私の様子を全く意に介さず、先生が言葉を続ける。
いい年して恥ずかしいんだけどね。先生は少し照れながらそう言って。
”手を握ってくれたから、怖くなくなったんだ。そこだけは、はっきりと覚えてる”
”だから。本当にありがとう、コユキ”
「───」
心の底からの安心した。……目は口程に物を言う、なんてことわざがあるけれど。そんな目で、顔でそんなことを言われたら。
どれだけ恥ずかしさが胸中に合っても。答えないわけにはいかない。
「……ええ! どういたしまして!」
リンゴみたいに真っ赤な顔のまま、先生を正面から見据えて。そう応えた。
その後少し雑談したのち。
そろそろ学校へ行く時間じゃない?
先生のそんな言葉を聞いて、はっと時計を見る。普段の起床時間よりはかなり早いけど、シャーレからミレニアムへの移動時間を考えると丁度いいかも。……色々バタバタしていたし、向こうでシャワーでも浴びておきたい。
「……じゃあ、そろそろ行きますね、私。先生もすっかり良くなったようなので」
”うん、わかった。今回は……今回も、ありがとうねコユキ”
”何かお礼がしたいんだけど……あまり内容も思いつかないから。もしよければ、何か考えといてくれないかな? ”
私に出来る事なら何でもいいよ。あまりにも気軽に先生はそう言った。
……先生はもっと、自分の発言に気を付けた方が良いと思う。
こんなの他の誰かに聞かれたら、先生だけじゃなく(言われた)私もちょっと危ないことになりかねない。
そんな内心を隠して。
「にははは~! おっと先生、そんなこと言っちゃっていいんですかぁ~! 言質取りましたからね!!」
「何させられても文句言わないでくださいよ!」
そう軽口を叩く。
「あはは……あんまり無理はさせないでくれると嬉しいけど」
ちょっと引きつった笑みを浮かべてはいるけど、撤回するつもりはないみたい。
なら。
「なーんて。先生がそう言うなら、もうお願いは決めました」
”え? もう? ”
「はい!」
意外だったのか、先生がきょとんとした顔をしている。そんな表情だけでも、意表を突いた甲斐があったというものだ。
「もし、私が風邪を引いたら。その時は先生が看病してください! 一から十まで! 甲斐甲斐しく! ちゃんと桃缶もつけて!」
「絶対ですよ!」
先生はさらに拍子抜けした顔をした後。笑って答えてくれた。
”───分かった。その時は私が責任をもって看病するよ”
先生のその言葉に満足して。
「じゃあ私はそろそろ本当に行きますね」
”うん。行ってらっしゃい、コユキ”
「はい! また遊びに来ますね、先生!」
挨拶を交わしながら、外へと向かう。……遠ざかる傍ら、執務室の中から。
「やば……昨日の仕事全然終わってない……」
そんな先生のつぶやきが耳に入る。……丁度いい。また私が遊びに来る口実になる。
サクッと手伝って。先生と遊ぶ時間に変えてやろう。そう言えば最近はゲーセンにも行けてなかったな。
ボドゲをやるのもいい。 きっと、何で遊んだって面白いに違いない。
そんな風に、今度は何をして遊ぼう。なんて次の楽しみを脳裏に浮かべながら、私はシャーレを後にした。