憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件   作:Mind β

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第24話:カタコンベ突入

 

トリニティ地下カタコンベ・侵入路

 

 最深部へ続く石造りの階段は、吐息の一つすら吸い込むような黒さだった。

 

 湿った空気と油の匂い。

 天井の導線に沿って、カイザーの簡易照明が青白い光を落としている。

 

 俺は作戦司令室のメインスクリーン越しに、その地下通路を監視していた。

 現場の音声はフィルター越しにも関わらず、すでに緊張を孕んだ声が聞こえる。

 

「こちら特殊作戦中隊第2小隊――侵入口、視認。これより進入する」

 

 小隊長の声は、相変わらず無機質で平坦だった。だがその抑制された音程が、逆に戦場をよく知る者のものだと分かる。

 

 数秒の沈黙の後――カツン、と地下の暗闇の奥から金属を転がすような微かな音が鳴った。

 

「接触音。距離30、正面方位、複数反応」

 

 報告と同時に、赤外線センサーマーカーが跳ね上がる。

 その瞬間、閃光が閃き、曳光弾が雨あられのように特殊部隊に突き刺さる。

 

「コンタクトッ!! 正面から来るぞ!」

 

 青白い照明の先で、十数名のアリウス生が壁の隙間、天井の鉄格子、床の崩れた溝から身を乗り出して現れる。撃っては隠れて移動するヒットアンドアウェイを繰り返し、特殊部隊の進入を遅らせる――アリウス流教育の賜物だ。

 

 しかし、特殊作戦部隊は微動だにしない。

 

「前衛、散開――右1、左2、射線確保」

 

 即座に3人が分かれて前へ跳び、遮蔽を確保しながら狭角の射界を取る。動きにまったく淀みはない。

 

「テンダライザー、制圧弾装填――ロック確認」

 

「確認済、2ラウンド使用許可、制限射撃」

 

「撃て」

 

 命令はただ一語だった。

 

 次の瞬間、乾いた破裂音が連続してカタコンベ内に反響する。連射ではなく、短く、サイレンサーにより抑制された発射音。SAR-4“テンダライザー”の青い雷光をまとう神秘干渉弾が、アリウス生徒たちの肩口や脚部、非致死部位を正確に貫いた。

 

 精密なワンショット。

 神秘に干渉する特別な弾丸は、アリウス生へ激痛と共に意識の酩酊を与え、彼女達を一人一人無力化していく。

 

「制圧弾、効果確認――行動阻害、継続中」

 

「確認。動きなし、回収対象マーキング。次区画へ移動」

 

 部隊は崩れ落ちたアリウス生に目もくれず、戦線の隙間にスッと滑り込むように進行を再開した。通路は狭く、次の防衛線まで十数メートルしかない。

 それでも、部隊は崩れた死角に沿って動き、次の遮蔽へ、次の遮蔽へと一呼吸ごとに進行位置を更新していく。

 

 特殊作戦小隊が三つ目の曲がり角に差し掛かったその瞬間――通路の奥に、密集した影が見えた。

 

「視認多数!」

 

「――伏せろッ!」

 

 指示とほぼ同時、白熱閃光が視界を焼き尽くした。

 閃光弾である。

 

 アリウスが放った即席の制圧手段であり、彼女達の反応速度は速い。先に気づいていたのは部隊のセンサーシステムだった。

 

「白フラッシュ、補正入れろ!!」

 

 個人HUDが自動で遮光に切り替わり、閃光の影響は最小限で済む。

 しかし、続く足音が音の壁となって迫ってきた。

 

「こっちだァァッ!!」

 

「まとめて倒せッ!」

 

 アリウス生たちは暗視・閃光の影響をほとんど受けていない。

 それどころか、恐怖の感情を切り捨てたような動きで、無音のまま一斉に突っ込んでくる。

 

 短刀を構え、跳びかかるように前衛の一人が押し倒され、刃が閃いたその瞬間。

 

「させん」

 

 後衛の射手がわずかに身を傾け、テンダライザーの制圧弾を、斜め後方から狙撃角で発射。弾は正確に刺客の肩関節を打ち抜き、筋神経に電流が走る。

 

 ガクンと腕が脱力し、刃は空を切った。

 

 即座に、倒された兵士も反撃に移る。脱力した腕を掴み、近接戦闘(CQB)用に特注された格闘用腕部パーツをアリウス生の顎に叩き込み、対象を昏倒させて拘束へと移行する。

 

「目標無力化、制圧完了」

 

「行動阻害確認、投擲封鎖展開」

 

 すぐさま小隊は全周への反撃配置に移行。

 1人が右壁へ張り付き、2人が前進方向にフラッシュバン展開、残りの隊員が後背警戒を固める。

 

「左通路クリア!」

 

「右側、ブレイク点確認! 遮蔽2、敵複数――数、7以上!」

 

 地下通路は入り組み、まるで迷宮のようだった。

 コンクリートと石造りの層が混在し、通路同士が直角・斜角で交差しており、射線と視界が常に切れる。

 

「……不味いな、囲まれるぞ」

 

 明らかに敵の数が多い。

 1〜2個小隊ほど、これまでの襲撃と比較にならない規模だ。

 

「センサーパルス、全周送信」

 

「確認――敵分散、左後方にも接近中。全方位で押し出してくる構えだ」

 

「……トンネルファイトを仕掛ける気か」

 

 カイザー特殊作戦部隊が最も嫌う状況の一つ、不明構造下での四方包囲。

 だが、その対応すら既に訓練済だった。

 

「戦術B-6、マニューバEで展開。煙幕、遮蔽設置、センサーダミー配置」

 

 指揮官の指示が即時に通達される。

 

「了解。スモーク1投下」

 

 敵の視界を遮断し、自分たちはセンサーマップと音響検知で対応。

 煙の中から別方向に迂回・交差して、敵を挟み込む逆包囲陣形が展開されていく。

 

 ――コツ。

 

 この緊迫した交戦の数秒後、空気を裂くような足音が、地の底から響いた。

 

 小隊の一人が思わず呟く。

 

「……これは……誰の足音だ?」

 

 硬質で、しかし生身の肉体とは思えない重みがあった。

 音はこちらへ真っ直ぐ向かってくる。そして、暗闇の奥で赤い光が揺れた。

 

「退け」

 

 低く、通路に重く響き渡る声。

 次の瞬間、闇が裂けた。

 

 狂気そのものの笑みを張り付かせたまま、彼女は光速の如き踏み込みでアリウスの最前列に突っ込んだ。

 

「死ねェッ!!!」

 

 彼女の蹴りが通路の床を粉砕し、アリウス生の身体が壁ごと吹っ飛ぶ。壁の石垣が砕け散る乾いた音が、数え切れないほど響く。

 

「ひ……ッ!?」

 

「な、何だこいつ……!!」

 

 恐怖を抱いたのはアリウスの方だった。

 同時に、特殊作戦小隊の兵士が直前ブリーフィングで見た顔と名前を思い出し、呟いた。

 

「剣先ツルギ――なるほどな。これがトリニティの戦略兵器か」

 

 銃弾が彼女に降り注ぐ。

 だが、ツルギは全てを無視して突き進む。

 

「キアハハッ!! 殺すゥッ! 死ね死ね死ね死ねェッ!!!」

 

 進路上のアリウス生を次々と薙ぎ倒し、最奥に居た隊長格の生徒の額に銃口を押し付け、至近距離で引き金が引かれる。

 

 その時、脇の通路に居たアリウス生が咄嗟にグレネードをツルギに向けて投擲する。衝撃を与えて動きを止める算段なのだったのだろうが、彼女に通常の戦術は通用しない。

 

 僅かな投擲音に反応したツルギは咄嗟に振り向き、愛銃でグレネードをまるで野球ボールかのように打ち返し、アリウスの部隊は自らが投げたグレネードの爆発により吹き飛ばされた。

 

「て、撤退しろッ!!」

 

 戦術的な不利を悟ったか、はたまた単純に戦意を削がれたのか、アリウスの部隊がカタコンベの奥へ撤退を開始する。

 

 だが。

 

「――な、何だ!?」

 

 突如、その通路の天井が崩落した。

 砕かれた石片がアリウス生へ降り注ぎ、石片に混じって人影が落下してくる。

 

「――救護ッ!!」

 

 地面が砕けるほどの衝撃。

 アリウス生が数名、跳ね上がって吹っ飛ぶ。

 

 ミネが、盾を突き立てて落下してきたのだ。

 

「救護騎士団の蒼森ミネ……なぜ上から?」

 

「申し訳ございません。お恥ずかしいことに、途中で道を間違えてしまいまして……」

 

「な、なるほど……」

 

 なぜか上から降ってきたミネに特殊作戦小隊の隊員が疑問を投げかけると、ミネが気まずそうに頬を掻きながらそう答えた。無論、隊員は道を間違えたからと階層を物理的に突破してくるミネにドン引きだが、彼女はそんなことは知る由もない。

 

「ミネ団長、間に合いましたか」

 

 瓦礫の下敷きになっているアリウスの部隊を一瞥しているミネに、後ろから駆け寄ってきたマシロが声をかける。彼女もまた、大型の対物ライフルを構え、撤退するアリウス生へ狙いを定めている。

 

 ツルギが前線を切り裂き、ミネが盾で道を切り開く。

 

「各員、ツルギとミネの後ろに続け! 通路突破!」

 

 彼女達に援護された特殊作戦部隊が、一気に通路を掛け、出口まで一気に走り出す。遂に、カイザーとトリニティの連合部隊が、アリウスの地に足を踏み入れようとしていた。

 

 

 作戦開始から20分。

 

 カタコンベ防衛ライン、突破。

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