超次元サッカーではなく魔術的サッカだった件について 作:SOSさん
「魔法」と聞いて、どのようなイメージを抱くだろうか。
原理が良くわからない不思議な力。
我々の世界にはない異世界の力。
等価交換を原則とする科学に近い力。
などのようなイメージがあるだろう。であれば、「超次元の力」という言葉を聞いたときはどうだろうか。
我々では理解もできないような未知の力。
我々の世界とは異なる世界の力。
発達しすぎた科学の力。
などのように、両者に抱くイメージはあまり変わらないのではないだろうか。であれば、超次元が魔法や魔術に変わったところで、あまり変わらないのではないだろうか。
最初に感じたのは、深い空虚感だった。
次に、ただの暗闇。意識はあるのに、何も見えない、何も感じない、ただ漂っているような感覚。死んだのか? 死んだような感覚はある。何故、どうやって死んだのかは思い出せないが。我思う故に我あり。に従えば、とりあえず存在はしているはずだ。
そうやって暗闇の中で考えていると、体感十分程度で自然と意識は落ちていった。
次に意識が覚醒したとき感じたのは光だった。まるで、氷水を浴びせられたような感覚だった。暖かい、閉ざされた闇の中にいたのに、突然すべてが剥がれ落ち、強烈な光と音に晒された。冷たさ。重力。空気。
ここは一体どこだ!?
理解に一拍遅れて思考が追いつく。目はまだほとんど見えず、耳に届く音もくぐもっている。それでも、泣き声だけは鮮明に響いていた。自分の泣き声だ。無様に、反射的に、叫んでいる。喉が痛い。肺が熱い。だが、息ができる。生きている。
「泣いてるのね。」
声。女性の声だ。近くで聞こえる。自分は泣いているのか。いや、泣かされていると言うべきか。呼吸のための本能的な反応だ。
肉体は明らかに未発達で、思うように動かない。手を握ることすら満足にできない。筋力も制御も不十分。声帯の調整もできず、言葉を発することも無理だ。いや、俺は今どこにいる? ここはどこだ?
と、思った瞬間、目の前にぼんやりと浮かぶ光景が広がった。目の前に白い天井が見えた。これは……病院?
……そうか、これは「出生」か。つまり、転生したということだ。
記憶は明確に残っている。死の瞬間も、その後の空白も。そして今、自分は明らかに「赤子」として、この世界に存在している。少なくとも、前の世界とは異なる環境にいるという実感は不思議とある。
誰かが俺を抱き上げている。暖かい手。包まれる感触。
母親だ。俺の、新しい母親。その女性の声が耳元に届く。涙混じりの微笑みが、視界の端に滲んで見える。まだぼやけていて、顔なんてはっきり見えやしないのに、なぜだろう。胸の奥がきゅうっと締めつけられる。
「ようこそ、この世界へ。」
男の声。おそらく父親。彼の手が俺の小さな額にそっと触れる。重たい瞼を一瞬だけ持ち上げると、彼の目が見えた。涙ぐんでいた。
まるで、俺の命そのものを祝福してくれているかのようだった。
違和感と安堵と、深い感動が、波のように胸に押し寄せる。俺は……もう一度、生き直すのか。この小さな体で、また一から。
(……これ型月世界かぁ)
そんな感想を抱いたのは、この世界に転生してから一ヶ月が経った頃だった。死んで目が覚めたと思ったら、赤子になっていた。
そんな転生したという事実をどうにか飲み込み、取り敢えず赤ん坊のフリをして、どう生きていくべきか、ベッドの上で考えていたときに両親の話が聞こえてきたのである。
「……最近の時計塔の動向は何と?」
「アーチボルト家の神童がまた新しい理論を発見したそうですよ」
などのように、やれ時計塔がどうとか魔術の系統がどうとか話している。しかも、たまに聞き覚えの有る単語も聞こえてくる。であれば魔術師の家系に転生してきたということだろう。
魔術師。
「根源」へ至ることを渇望し、そのための手段として魔術を用いる者。根源への挑戦者であり、魔術というあり得ない事に挑む学問を学ぶ者。根源への到達は一代程度の研究では不可能であるが故に、代を重ねて研究を子に継がせ続け、より強い魔力を持つ子孫を作り、子孫もそれを繰り返す。
転生してきてから、あの両親が魔術的なものを使用している様子は確認していないが、もし本当に魔術師なら色々と面倒だ。
型月世界といえば厄ネタ満載の世界である。もちろん自分から厄ネタに突っ込んで行かない限りはそこまで悪い世界でもないこともあるのだが、おそらく魔術師の家系に生まれたのであろうことを考えると、それもどこまで避けられるか不明である。
(……これ型月世界か?)
そんな感想を抱いたのは、この世界に転生して三年が経った頃だった。
本格的に魔術を習う前に、両親から見せたいものがあると連れられ、とあるサッカースタジアムに来ていた。
自分の目の前に広がっているのは、「フットボールフロンティア」という中学サッカー日本一を決める大会の決勝戦である。
そう、サッカー日本一を決める大会のはずである。魔術的なものは関係ないのではないだろうか。
「お前の興味がサッカーにあるか分からなかったからな。だが、魔術を習うとすればこれは必要なことだ」
まぁ確かに転生してからスポーツ的なものに興味を示したことはなかった。スポーツ観戦などもしていなかった。
それにしても……戦っている学校名に心当たりがある。
帝国学園vs木戸川清修
フットボールフロンティアという大会名を聞いた時点で抱いていた疑念は、学校名を聞いた時点で確信に変わった。
(これ型月世界じゃなくてイナイレ世界じゃね?)
たしかに超次元ではあるが……サッカーの試合が魔術に関係があるとは一体?
目の前に映る空は、いつもの青ではなく、鈍色の雲が渦を巻いている。
空気そのものも、ただの空気ではない。サッカースタジアム全体に得体の知れない力が目に見えない形で広がっている。肌で感じる。
そして、今、試合の決定的瞬間が訪れようとしていた。
一人の司令塔が目を閉じ、集中する。その手がサッカーボールに向かい、勢いよく蹴り上げた。
「――デスゾーン開始。」
ボールが空中に放たれ、急激に上昇する。天高く舞い上がったボールは、まるで重力を無視するかのように、宙を引き裂いていく。
その瞬間、周囲にいた三人のストライカーがボールを三角形の形に囲むように一斉に空中に現れる。空中で回転しながら滞空しているその姿は、まるで祈祷師のようだ。彼らの体から、強烈な魔力が渦巻き、ボールへと流れている。
回転する彼らからボールへ向かって強烈な重力が発生し、三人の中心にあるボール周辺の空間が圧縮される。圧縮された空間の中を揺蕩う魔力はボールを包み込み、見る者はその力がもたらす圧倒的なエネルギーを感じ取れるだろう。
ボールは重力の中心となり、周囲の空間がまるで引き寄せられるように収束する。ボールはただの物体ではなく、今や引き寄せる力そのものであり、どこまでも強力な重力がその表面を包み込む。ボールの質量が急激に膨れ上がり、圧力が放たれる。今このとき、ボールは小さな星となったのだ。
「「「デスゾーン!!!」」」
ボールは三人に一気に下に蹴り落とされた。異常な速さで加速し、まるで隕石が降ってくるような勢いで、ボールは激しく降下を始めた。周囲の空気が引き裂かれ、その速度はもはや、目で追うことさえ困難なほどだ。
その一撃は、もはや単なるシュートではなかった。重力の法則を無視して進むそのボールは、まるで何もかもを呑み込むような力でゴールに迫る。
「タフネスブロック!」
対するゴールキーパーは果敢にもそのシュートを胸を張って受け止めていた。
後に知ったことだが、全身の魔術回路を全て肉体強化に回して耐えるというシンプルな技で、シンプル故に技の担い手の力量次第では鉄壁を誇る技であるらしい。
しかし、今回はそこまでではなかったようだ。一瞬止まったかに見えたボールは、そのままゴールキーパーを吹き飛ばし、ゴールネットに突き刺さった。
「ゴール!!」
ネットが揺れ、フィールド全体が震える。空気が歪み、場の空間が一瞬で引き裂かれるような感覚が広がる。そのシュートの余波がフィールドを包み込み、観客の心を震わせたのだ。
そのシュートは、もはやサッカーの枠を超えた技だった。重力そのものを操る力を駆使して放たれた一撃は、恐ろしい魔術の具現化だった。
「決まったぁああああ!!これぞ帝国学園が誇るシュート技!!デスゾーンだぁあああ!!」
「流石は帝国学園。ストライカー3人による加重結界魔術を統合させた見事なシュートです」
そんな実況解説が流れてくる。
型月世界において、神秘とは秘匿するべきものではなかったのか。少なくとも全国放送されているであろう大会で、神秘を晒すような真似は許されないはずである。
しかし、両親に特に問題にしたような様子はなく、ごく普通にスポーツ観戦では使わないような言葉を使っている。
「最近の帝国は趣向を変えましたね。優秀な魔術師を生み出すには良い手段かもしれませんが、根源を目指すには不向きでしょうに」
「いや、あの司令塔の格好……類感魔術の一種だろう。カーンの王を模すことで、最終的には究極の一を目指そうとしているのかもしれない」
「いまさらそんな使い振るされた手段を?カーン文明ほどの科学力を帝国が有しているとも思えませんが」
「最近の帝国は科学力を重視している。御影専農を傘下に入れたのもその一環だろう。数十年単位から数百年単位に計画を変更させたのかもな」
……いや、現実逃避はやめにしよう。
(こいつらサッカーで根元目指そうとしてやがる!)
デスゾーン
皆さんご存じデスゾーン。
空中にあるボールを三角形の布陣で囲んで回転している様はなかなかにシュール。今作では、三人が回転しているのは星の自転を模しているため。ラストデスゾーンの映像を見ていたらそういう解釈になった。
タフネスブロック
鍛え上げた肉体と、強化の魔術と、気合いで耐える技。使用者により技の強度は天と地ほどの差になる。
フットボールフロンティア
イナズマイレブン世界における中学生サッカー日本一を決める大会。この第一話での決勝戦は、原作無印開始から11年前。