ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜   作:カンさん

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第10話

 そういえば配信用ロボ貰ったな、とクロトが思い出したのは朝霧達と焼肉に行って一週間後の事だった。

 

 汐しおの配信以外に対して興味が薄い彼が思い出したのは奇跡に近い。部屋の隅に置かれている段ボールを部屋の中央の丸テーブルに乗せて開封を始める。

 

 そういえば、この前某最新ゲーム機の抽選を当てて開封をしていたな、と汐しおの配信を思い出すクロト。

 ただゲーム機を開封しているだけなのに、何故あんなに面白いのか。不思議だな、と自分の開封風景を見ながら思った。

 段ボールがズタズタである。テープの欠片がそこかしこに貼り付いている。

 煩わしい、と取り出した黒刀で燃やしたクロトは、中に入っていたロボを手に持って掲げる。

 

 銀色の球体に、大きなカメラレンズが目玉の様に中心に嵌め込まれている。

 確か人工知能が搭載されていると言っていたな、と思い出しながらロボの電源ボタンを探す。しかし見当たらない。何処だろう?

 

『探索者コード:20250526J。影森クロトの魔力を感知しました。これより起動します』

 

 クルクルと全体を見渡していると、カメラレンズの反対側の窪みに指が触れた瞬間、魔力が吸い取られた感覚がする。

 一瞬敵対行動をされたのかと、反射的に破壊しようとして、弁償を請求されたら面倒だと様子見するクロト。

 

 淡い光を発しながらクロトの手から離れて浮遊するロボット。ガチャンッと音を立てて四箇所からアームが伸び、手足となる。

 割とコテコテで古風なデザインだな、とクロトが思っているとカメラレンズがグイングインと部屋の中を見渡した後に、クロトへと向けられる。

 

『初めましてクロト様。一週間も段ボールの中に放置してくださりありがとうございました。ダイエット器具を買うも、それで満足して倉庫に投げられる商品の気分を味わう事ができました』

 

 えらい人間味あるロボットだな、といきなり皮肉の言葉を投げ付けられながらそう思った。

 とりあえず挨拶をするクロト。すると、目の前のロボットは暫く停止して、しかしすぐに音声を発する。

 

『……想定していたよりも社交的ですね。データの書き換えを行います』

 

 

 そんなに失礼な人間だと思われていたのか、と少し心外な気持ちになる。

 

『申し訳ありません。謝罪致します。しかし、その様に想定していた原因が存在する事を認知してください』

 

 原因? とクロトが首を傾げると、よくぞ聞いてくれましたと配信ロボットが語り始める。

 

『そもそも私は、特級指定・反人類異世界迷宮探索者の4人を監視する為に国家が制作された背景があります。既存のS級探索者に配布されている配信ドローンとの性能差は3倍以上であり、機能実験を繰り返した結果彼女達の規格外な行動にも耐えられる。シミュレーションにて解が出されていた筈なのですが……』

 

 

 クロトは黙って聞いていた。

 

『あろう事か彼女達は『鉄屑に興味無い』『鬱陶しいですわ』『サンドバッグか?』『消えろ』と私を拒否し、破壊しました。あり得ません。高性能な私を拒絶する彼女達を理解できません。幸い中枢のAIコアが無事だった為事なきを得ましたが……』

 

 話長いな、とクロトは思った。

 

『この件により私の存在価値は無くなり、プロジェクトは凍結。そのまま眠りに着く筈でしたが、クロト様が現れた事により再度起動し、こうしてこの場に配置された次第です』

 

 話を聞き終えたクロトは、一つだけ目の前の配信ロボットに言った。

 

 話が長い。短く要点を抑えて伝えて、と。

 

『特級のせいでお払い箱の私。

 規格外なクロト様を監視する為に私復活。

 これからどうぞよろしくお願いします』

 

 なるほど分かったと、ようやく目の前の配信ロボットの話を理解したクロトは……。

 

 面倒な事になった、とため息を吐いた。

 

 

 

 そういえば名前はなんていうの? ポンコちゃん? と尋ねるクロト。

 

『何ですかそのセンスの無い名前は。まるでポンコツみたいじゃ無いですか』

 

 あながち間違ってない無いと思う、とここ1時間話を聞かされたクロトは思った。コイツ、特級の愚痴しか言わないのである。

 

『正式名称はNeural Observer Automaton。制作チームはNOA(ノア)と呼称していましたので、ノアとお呼びください』

 

 了解ノア、とクロトが素直に返事をするとノアは嬉しそうにレンズを点滅させる。

 

『素直なのは良い事です。性根が捩れていると私の事をポンコツ呼びし、あまつさえ破壊する愚行に走りますからね。クロト様は、私的にポイント高いです』

 

 ノアの事を誰がポンコツ呼びしてるのか、聞かなくても想像できたクロトであった。

 クロトは聞きたい事があった。ノアは配信用ロボと言っていたが、今現在も配信しているのか、と。

 

『いえ現在はしておりません。流石にプライバシー侵害ですので』

 

 それなら安心した、とクロトは私生活を覗かれていない事実にホッとする。流石に四六時中他者に見られていると思うと息が詰まる思いだったからだ

 

 ……実際は、この私生活も録画されダンジョンギルドに送られている。ノアはその事を知らない様にプログラムされている為、今後クロトがその事を知る事は無いだろう。

 

 それにしても自分が配信者か、とクロトは感慨深げに呟く。

 汐しおの配信を楽しむリスナーの一人として、まさか自分がその様な立ち位置に立つとは思っていなかったのだ。

 

『クロト様は配信に興味がおありのようですね』

 

 ノアの言葉に肯定し、彼は如何に汐しおが素晴らしいのかを語る。

 彼女の存在がリスナーの自分たちにとって如何に尊い存在なのかを。

 

『なるほど……では、これでどうですか?』

「……!?」

 

 クロトは驚愕した。先ほどまでノアから発せられていた合成音声が、突如汐しおの声になったから。

 いったい何をしたんだ? そもそもどうやってやったんだ? 凄くない? と目を見開く。

 

『インターネットに接続し、汐しおのアーカイブを閲覧し、彼女の声帯を模写しただけです。データがあれば老若男女問わず出力可能です。何ならこの様な事も可能です。

 クロトくん! いつも応援ありがとう! しお、すっごく嬉しい!』

「!?!?!?」

 

 今度は口調まで模写し、クロトの名を呼ぶ汐しおの声。クロトはびっくりし過ぎて横転した。あと凄くドキドキしている。普段変化に乏しい表情が大いに乱れ、さらには赤面していた。

 

『クロトくん、気に入ってくれた? 良かったらずっと、しおが一緒に居るよ?』

「――」

 

 勘弁してください、と蚊の鳴くような声で言うと、ノアは音声と口調を元の物に戻した。

 

『意外と初心なのですね』

 

 日常生活にて、汐しおが常に話しかけて来る状態は彼にとって刺激が強かった。

 AI舐めていたな、とクロトは戦慄する。高性能を自称するだけの事はある。

 

『ご希望なら汐しおモデルの疑似生体の製作も可能です。性行為も可能ですので、人間特有の劣情をぶつけたいのならダンジョンギルドに要請致します』

 

 勘弁してくれ、とクロトは疲れ切った声で言った。というより、お願いしたらそんな事までするダンジョンギルドにクロトはドン引きする。

 そこまでするのか? と。何故そこまで自分に固執するんだ。

 

『それだけダンジョンギルドはクロト様を手中に収めたいと考えているのです。何故なら――』

 

 ピンポン、と家の呼び鈴が鳴る。そこでクロトとノアの会話は終了し、彼は扉を開ける。

 ノアは再度の勧誘に邪魔が入ったな、とAIが思考する。

 彼女が起動した際、ダンジョンギルドから早急に彼をS級に昇格する言質を取る様にと指示が届いていた。どうやら、ギルドが焦る何かが起きているらしい。

 

 汐しおの声帯模写は想定以上に効果があった為、今後もその方面で攻めるかとプログラムしていくノア。

 

「お邪魔しますわね、影森クロト様」

『――警告。クロト様。即刻、その危険生物を退去させる事を推奨します』

 

 しかし、そのデータも全て吹き飛びそうな程にノアはその声に危険信号を出す。

 

「あら。感じた事のある魔力があると思えば、あの時のポンコツでしたのね。もっとわたくしの熱でドロドロにして差し上げれば良かったかしら」

 

 困惑した表情でクロトが招き入れたのは、特級の一人紅蓮魔劫――火ノ神カグラ。

 彼女の視線とノアのレンズが交差する。

 

『相変わらずサディスティックおっぱいお化けですね。痩せてください』

「ふふふ。最近のAIは品が無いですね」

 

 クロトは言った。とりあえず何か飲む? と。

 内心面倒な事になりそうだと辟易しながら。

 

 

 

 

 座布団を敷き、その上で正座をして湯飲みで緑茶を飲む真っ赤な着物を着た美少女。

 そんな男なら誰もが視線が釘付けになる光景がクロトの目の前で広がっている。

 ノアはまるで遊女みたいだ、と発言しようとして警告音が響いたため押し黙った。

 

「先ずは自己紹介を。わたくしは火ノ神カグラ。先日はお世話になりました。影森クロト様」

 

 これはどうもご丁寧に、と言いつつクロトは首を傾げる。自分、彼女に名前を言ったっけ? と。

 

「調べさせて頂きましたわ。貴方の出自、探索者歴、等級、住所年齢戸籍……ただ、あの能力は公言していないのか、正確な情報は得る事ができませんでしたが」

 

 ストーカー? と思わず呟くとノアが肯定する。

 

『その通りです。この女は特級指定され、火ノ神家から追放されても尚独自の人脈を構築し、様々な情報を収集する女狐です』

「品が無いポンコツですわね。聞いた通りですわ――わたくしが忍ばせた火種(スパイ)の言う通り」

『……やはり間者が居ますか、我らがギルドに』

 

 実際はギルドだけではない。カグラに心酔し、彼女の為に命を投げ出しても良いと考えている人間はたくさんいる。彼女はそういう人間を使い、五大クランを始めに様々なクランや、裏社会の組織にも火種(スパイ)は既に撒かれており、カグラの元には様々な有益な情報が入っている。

 

 故に、ラストダンジョンが出現した時には真っ先に情報を得る事ができ、最速で攻略に向かう事ができる。

 もっとも、時間停止能力を持つセツナに毎回先を越されてしまうが。

 

 そんな彼女だからこそ、カグラは知る事ができた。国が、ギルドがクロトを何とか手に入れようと躍起になっている事を。

 さらにセツナが彼に接触し自分の物にしようと動いている事を。

 

「さて、影森クロト様。今回お尋ねさせて頂いたのは、是非ともわたくしの夢を叶えるお手伝いをして欲しいのです」

「……?」

 

 夢? とクロトが問い掛けるが、そこに割り込むようにノアが罵る。

 

『何が夢ですか【全てのダンジョンを支配、管理し、地球を征服する】など正気の沙汰ではありません』

「凡人が理解できない事を、AI如きが理解できるとは思っていませんわ」

 

 カグラは、ダンジョンは可能性だと常日頃から言っている。神が人類に与えた恵。しかし残念ながら人類はそれを上手く活用できていない。資源として使うので精一杯。

 

 ならば自分が上手く使ってやろう。その為のプランは既に作っている。

 そんな彼女の考えをギルドは傲慢かつ危険な思想と判断し、火ノ神カグラを特級指定にした。

 

「氷室セツナとは直接お会いされたのでしょう?」

 

 そういえばそうだった、とセツナの事を思い出すクロト。結局返答していないが、良かったのだろうか?

 

「あの女は、わたくしと正反対の夢を抱いています。到底叶う筈がないのに」

 

 セツナは全てのダンジョンを消す事を目的に行動している。すると必然的に、ダンジョンを支配・管理したいカグラとは衝突する羽目になる訳で、特級内で彼女たちはすこぶる仲が悪い。

 そもそも特級自体全員仲が悪いが。

 

「その様子だと、彼女の夢に興味がないみたいですわね。安心しましたわ」

 

 カグラは内心、クロトがセツナに靡かないか心配していた。クロトの能力が想像通りなら、自分の野望を遂行するのに切り札にも、大きな障害にもなり得る。

 もしセツナと手を組んでしまえば、自分の()()野望を達成する前にダンジョンが消えてしまう。それは避けたい事態だ

 

「クロト様。もし、わたくしの話に興味がありましたら、この招待状に書かれた場所に来てください。もちろん、その鉄屑は廃棄してから」

 

 そう言ってカグラは深い胸の谷間から一つの封筒を取り出す。

 胸元が大きく開いた着物の美少女のその行為を普通の男子が目にすれば、瞬く間に彼女の奴隷となる程の色気があった。

 

『下品な女です』

「体の持たないロボ風情に理解できる世界ではないのでしょう」

 

 ノアの罵倒を聞き流しながらカグラは招待状を彼に手渡す。

 受け取ったクロトはその封筒を不思議そうに見ていた。

 

 先ほどの光景には心底驚かせられた。あんなアニメみたいな事が現実に起きるのか、と。

 封筒を見ても特にクシャクシャになっていない。しかし人肌くらいの温かさは感じる。スンスンッ、と匂いを嗅ぐと女の子特有の良い匂いがした。味も確認するか? と舌を出した所で、クロトは後頭部を思いっきり叩かれた。

 

『何をしているのですかクロト様?』

 

 どうやら彼の奇行を止めたのはノアだったようだ。機械だから倫理観のハードルが低いのかもしれない。

 そんな事を考えつつ、つい気になって……と答えると、心なしかノアのレンズが冷たくなった気がする。元々ロボだから温度は無いが。

 

「ふふふ。面白い方ですわねクロト様」

『余裕そうにしていますが赤面を隠せていませんよ』

「おだまり」

 

 カグラにも人並の羞恥心はあったようだ。実際、クロトの奇行に内心荒れに荒れていた。

 

「それではわたくしはこれで。また会いに来ますわ」

『来なくて良いですよ』

「それとも、わたくしの場所に来て下さるのかしら?」

 

 ノアを無視し、妖艶な表情でクロトを見るカグラ。しかし、クロトは気が向いたら、と素っ気ない答え。しかし彼女はそれすら面白そうにしながらクロトの部屋を出る。

 

 外に出た彼女を出迎えたのはリムジン。執事であろう男性が出迎え、カグラはそれを当たり前の様に受け入れ中に入る。同時に、車内に取り付けられた通信機から通知音が響き、カグラは手に取る。

 

「はい、カグラです」

『お疲れ様。わらわの愛しき娘よ』

 

 リムジンが静かに走り出すなか、カグラが話しているのは彼女の母である火ノ神カグヤ。

 

『どうだった? 彼の者はわらわ達の同士になり得る逸材か?』

「力は確実に。しかし、性格などは掴み所のない男でした」

 

 カグラは男受けのする肉体をしている。大きな胸。柔らかそうな臀部。スラリと伸びた手足。ため息が出る程に白い肌。女としての魅力を十二分に発揮できる様に、胸元や太ももを露出した着物を着ていたのだが……クロトからは()()()()()視線を全く感じなかった。

 

『ふむ。引き続き、その影森クロトなる者の篭絡に励め』

「はい」

 

 そこで通信が途絶える。今の会話は誰にも聞かれていないだろう。もしこの会話を外部の人間が聞けば驚く。何故なら、カグラは火ノ神家から追放されている筈なのだから。

 

 火ノ神家は、ダンジョン黎明期から最前線で攻略をする名家である。代々探索者を輩出しており、故にこそ国から警戒されている集団でもある。

 現当主でありカグラの母であるカグヤは五大クランの一つ、千火桜嵐のクランリーダーだ。国に貢献しつつギルドとの仲はよろしくない。ダンジョンの独占や他の探索者への恫喝行為が多いからだ。

 それでも知名度は高い為、世間では人気のクランだ。所属している探索者が見た目麗しい男女で構成されているからだろう。

 故に、カグラが特級指定された際はネットでは炎上し、テレビのニュースでも連日報道された。カグヤが彼女を追放した事で事なきを得た――筈だった。

 

「相変わらずお母さまは勝手ですわね」

 

 ――火ノ神カグラが特級になったのは、全てカグヤの策略である。

 ダンジョンを支配し管理する。それは火ノ神家の抱く野望であり、カグラはその手駒に過ぎない。彼女が特級になる方が都合が良い為カグラは特級となった。

 

 つまり、カグラがクロトを勧誘したのは火ノ神家の意志でもある。クロトがクランに所属したくないという情報を得たカグヤは、カグラに彼を篭絡する様に指示を出したのだ。

 

 ――もっとも。

 

「ふふふ――必ず手に入れてみせますわ」

 

 火ノ神家とは関係なく、カグラはクロトを欲していた。

 彼女が欲しいと思ったから。彼女が必要だと思ったから。彼女が――クロトを他に盗られる訳にはいかない、と彼の価値を重く見ているから。

 

 その為には手段を選ぶつもりはない。

 カグラの手にあるスマホの画面には、とある配信者の映像が流れていた。

 

『こんしおー! ライブファースト所属の汐しおです! 今回はですね――』

 

 火ノ神カグラは何でもする。全ては己の野望の為に。

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