ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜 作:カンさん
地球と
電力だけでは誤作動を起こし、ネットワークでも異常が多発。後に魔力の影響を受けない……否、魔力を利用して作動する科学と魔法の融合した製品が作られた。
その最たるものが配信用ドローンや、探索者の装備である。魔力もしくは電力で能力を発揮する武器は彼らにとっての生命線だ。
現在では、車や電車も魔力が用いられており、生活の基盤となっている。
『その点、私はハイブリッドかつ燃費が良いです。自動で魔力を用いて電力を、電力を用いて魔力を生成可能となっております』
ノアの説明を受けながら、クロトはとあるダンジョンに向かっていた。
彼が目指しているダンジョンは【反転の戦場】。重力が一定時間で逆転する中、強力なモンスターが多数出現するS級のダンジョンである。何故クロトがそのダンジョンに向かっているかと言うと……。
『この前読んだ漫画でさ、重力の向きが変わるネタがあったんだけど、アレ楽しそうだよね。アスレチックみたいで』
:確かに見てて楽しそう
:しおちゃん結構アクティブだよね
:攻略済のダンジョンなら、時々モンスター湧かなくて一般人向けの体験施設になったりするよ
:採掘系ダンジョンにもなったりする
『へー! そうなんだ! 実際無いの?』
:まだ攻略されてないね
:該当するダンジョンはあるけどS級
:攻略は当分先かも
『そっかー。探索者さんたちの活躍待ちだね!』
そんな雑談が汐しおの配信で行われたいた。ならば行くしかない。推しの為にS級ダンジョンをクリアしてやる。そう意気込んで彼は話題に上がったダンジョンに向かった。
「お待ちしておりましたクロト様」
目的のダンジョンに通じる
何故だ? と首を傾げていると浮遊して着いて来ていたノアが言った。
『私がギルドに報告致しました』
「そう言う訳です。現在、ダンジョンに潜っている他の探索者は居ませんので、気にせずに攻略なさってください」
ギルドは、クロトの集団行動への忌避感や戦闘時の周囲への影響を考慮して人払いをしたらしい。
真の狙いは、クロトの能力の解明をする為の環境整備だが。
その事を知らないクロトは有難いかも? と思いながらひとまず礼を言って
『クロト様。これから配信を開始致しますがよろしいですか?』
そう言えば配信義務が課せられていたな、と思い出すクロト。しかし彼は困ったな、と眉を潜める。すっかり忘れていた為準備していない。そもそも何をすれば良いのか分からない。ただノアを渡されただけ故に。
『ご心配なさらず。配信活動は全てこちらで行いますので、クロト様はいつも通りにダンジョンの攻略に努めてください』
そうか、助かる。そう言ってクロトは
『――クロトチャンネル起動。配信を開始します』
:お
:始まった
:話題の新英雄!
:特級倒したってマジ
:待ち望んでいたぞ影森クロト
探索者の配信活動は民衆に大いに受けた。特に探索者になる資格のない人々、魔力に覚醒していない者たちにとって現実離れしているが実在する非日常に魅了される。
今ではダンジョン配信者専用の動画配信サービスサイトが設立され、多くの人々が視聴し、多くの探索者が配信している。
そんな多く存在するダンジョン配信者たちだが、大きく分けて三つに分かれている。
一つは能動的に、つまり自らダンジョン配信をしている者たち。彼ら彼女たちはダンジョンの攻略よりもその道中の冒険や感動、そして己の活躍をリスナーに向けて発信する事を主に活動している。故に配信を意識したチャンネル作りや容姿、装備、ダンジョンの選択をしている。
だからか、等級は低い者が多く、A級以上はそこまで存在しない。
そんな彼らは各種SNSで配信告知をし、リスナー達を獲得した後逃がさない努力をする。
もう一つはギルドから義務付けされた探索者だ。
過去に問題行動を起こした者は常に行動を監視され、場合によってはリスナーの通報により拘束される事がある。実際に迷惑行為や犯罪行為を働いていた者が、早期発見と通報により未然に防がれた事案がある。
彼らの配信は事前にギルド側が発表している為、野次馬で見る者、義憤から監視する者、ストレス解消の為に犯罪者予備軍を使って遊ぼうと配信を覗く者とそこそこに存在する。
そして最後に、等級がA以上、もしくは戦闘能力が一定以上認められた者たちの配信だ。
ダンジョン探索者の配信では、彼らの配信が最も人気である。
立場、強さで認められた人間という認識はリスナー達に好感を覚えさせ、そして難易度の高い上級のダンジョンの攻略は――作られた演出よりも、想定された人間ドラマよりも、安心感のあるエンタメよりも、人々を魅了する。
死ぬかもしれない。今日この日居なくなるかもしれない。
しかしその苦難を超えていく英雄譚に人は焦がれていく。故に、A級やS級の配信は常に期待されている。
こちらはクランが主導で配信告知する場合もあれば、逆にしない場合もある。個人で活動している探索者はあまり告知せず、チャンネル登録をしているリスナー達がSNSで拡散する事が多い。
クロトの場合は、ノアが配信告知用のSNSのアカウントを作成して事前に告知していた為待機していたリスナーの人数は1万人を超えていた。
そして配信を開始して5分で同接人数は3万人となっている。
:あの時と同じ姿だ
:アイエエエ!!ニンジャ!ニンジャナンデ!?
:ふむぅ。やはり何度も鑑定しても普通の服だな
高速で流れていくコメント欄を見ながら、ノアは尋ねる。
『クロト様。コメントは読みますか?』
ノアの機能を使えば、クロトの視界にコメント欄を映し出すことが可能。しかしクロトは興味がない為断る。
『それでしたら、音声による読み上げを行いましょうか?』
モンスターに気づかれない? 天井に立ちながら問い掛けるクロト。
『念話魔法により、クロト様に直接お届けしましょう。ただ、全てのコメントを送るのはお勧めしません』
膨大な量で脳がパンクするという欠点がある。それが念話魔法。しかしそれ以上に、ノアはチラホラとクロトに対する誹謗中傷の書き込みがあるのを確認していた。それを馬鹿正直に彼に届けるつもりはない。
恐らく彼の活躍に嫉妬している有象無象だろう。ノアはギルドに通報し、その後の対応を任せつつクロトに提案した。
『こちらで
「……」
『別になくて良い? いえいえ。クロト様も出発前に言っていたではないですか、配信に興味があると。推しのあの方と同じ業界に入れるチャンスでもあります』
「……」
ただ単に、しおちゃんも配信していたなと呟いただけなのだが。
しかし興味があるのは事実の為、特にクロトに強く拒絶する意志はない。彼はそのままノアの提案を受けた。
そして、リスナー達は自分たちのコメントがクロトに届くかもしれないと知ると、各々伝えたい事を書き始める。
:朝霧のおっさんを助けてくれてありがとうございました!
:ファンになりました!これから応援します!
:あの黒い武器は固有能力ですか? 教えて欲しいです!
:何処かクランに入るつもりはありますか?
:S級で気になる人は居ますか?
クロトの頭の中に次々と質問が入り込んでくる。未知の経験に驚きながら、クロトは横に壁に着地した。
故に思わず聞かれた事に対して素直に答えてしまった。
どういたしまして。ファン? そうですか。あれは固有能力。名前は
一息でそう言って、クロトは襲い掛かって来た猿型のモンスターを影で作った剣で斬り捨てる。
グギャ! と悲鳴を上げて猿型モンスターは地面に落ちてそのままダンジョンに吸収されて消えた。
そんななか、ノアは成功したとほくそ笑む。
ノアはクロトに無作為にコメントを選ぶと言ったが実際は違う。知りたい情報を得る為に、都合の良いコメントをあえて聞かせる事で彼に自然と語らせるのが目的だった。
実際、クロトの固有能力の名前と能力を直接聞き出すことができた。どうやら初めての出来事で、普段から語らない己について口走ってしまうらしい。
:こっきはんらん? なんか物騒
:む、さっきの武器は私のジ・オリジンだな
:物真似。なるほど、そういう系統か
:エアリアルモンキーが一撃で
:さっきから重力の向きコロコロ変わっているのに余裕だな
クロトは、みんなそんなに能力知りたいのか? と不思議に思いながら能力の詳細を語る。
複写可能な武器の数は現在10個までで、クロトはネットの切り抜き動画で気に入った武器を複写してストックしているらしい。だからS級の……そして、特級の武器を、力を行使できる。
そこまで詳細に語っているクロトを見てノアは思った。
これ、素直に質問していれば答えてくれたのでは? と。
しかし同時に常軌を逸した能力だと分析する。特に、特級の武器を、見ただけで複写できるそのデタラメさが……。
:チートやん
:強すぎる
:なるほど、鑑定したら目が潰れる訳だ
:ぜひとも私の騎士団に入って欲しい
:団長おるやん。それに神の眼もいる
おそらく今頃、クロトの能力についてネット上にて談義されているのだろう。あの日から彼の能力について考察する者が多かった。
ギルドでも彼の能力の解明に躍起になっていた為、この配信を見ている研究者チームは祭り状態に違いない。
「……?」
クロトは、送られてくるコメントのほとんどが驚きに満ちている事に不思議に思いつつダンジョンの奥に向かう。
その後をノアは追いながら、この先の彼の未来に少し同情した。
少なくとも推しの配信をのんびり見る。そんな平穏な日常は……いつか壊れるだろう。そう分析結果を出して。
:エアリアルモンキーしか出てこないね
:そもそもこのダンジョンで真面に戦えるのが、翼なしで飛べるエアリアルモンキーだけだから
:この前ボスモンスターに入った探索者居たけど、エアリアルモンキーボス個体だったよ
次々と襲い掛かるエアリアルモンキーの大群を斬り捨てていくクロト。
見た目は空色の毛皮を持った猿だが、手には様々な武器を持っている。しかし彼らの特徴はその多種多様な武器ではなく、重力の向きが変化するダンジョン内の環境を自由自在に活用できている事だ。
このダンジョンがS級認定されているのも、このエアリアルモンキーの厄介さに起因する。
しかしクロトにとってはエアリアルモンキーは脅威ではなく、淡々と攻略していく姿にリスナー達は魅了されていた。
:初めは能力頼りだと思ったけど、普通に基礎能力高いね
:
:いや、私のジ・オリジンを使っている際に私とは別の動きをしている。彼にとって、他者の動きは模写する程ではないのだろう
:鑑定で見た感じ、確かにできるけど使ってないね
:大御所二人が普通にリスナーとして居座っているの面白すぎる
頭の中に流れて来るコメントに内心クロトは驚いていた。ここまで自分の能力が理解されているとは、と。
人が魔力に覚醒した際に得られる異能力を、ギルドはスキルと呼称している。
スキルは人によって千差万別あるが、大きく分けて二つに分類されている。
一つは魔法系スキル。事象に干渉し、様々な効果を発動させるこの魔法系スキルは深めれば深める程に強力になり、同じ魔法系スキル持ちと一定範囲内にて活動する事により使用できる魔法の種類が広がっていく。
白銀騎士団の犬飼と大槻の様に二人の異なる魔法使いが、一つのパーティに配属される背景にはそう言った理由もある。
もう一つは強化系スキル。こちらは魔法と違って範囲が広く、人によっては明確に傾向が別れる。
例えば朝霧はタンク系統のスキルを獲得している。敵の注意を惹き付けるデコイ。敵から受けるダメージを減らすスキル。一定時間自動で肉体を回復させるスキル等々。
風間は槍術。前川は暗殺系スキル。
この様に、まるでRPGの
:魔法系スキルに目覚めて、あえて近接武器揃えて魔法剣士タイプにする人も居るよね
:昔から剣術習ってた人は、居合切りの時に魔法使ってトリッキーに戦ったりするよ
そして、時にスキルは次の段階に進化――否、覚醒する。
まるでスキルと魔法が合体したかのように、所有者に合わせた様に強化されたスキルを、
:クロト氏の
:影の魔法にしては強すぎるし、スキルにしては万能すぎるからな
:誰か名付けたんだ?
:特級の武器を模写している時点でS級以上だよね
:え? 特級模写しているの!?
最後に頭の中に入って来た驚いているコメントに、クロトはこれの事? と両手に持っていたS級の武器を破棄して、セツナの槍を取り出す。
:出すのなら予め言って欲しい。また目玉が弾ける所だった
:うわ、見た事ある槍だ……
:美しくも禍々しいな。黒いから余計に
:時止めれるの?
:この前してたよね
できるよ、とクロトは言って時間停止能力を発動。
そのまま目の前から迫って来た100体のエアリアルモンキーの眼前に氷の槍を生成。しばらく歩いて通り過ぎた所で能力を解除。
途端、エアリアルモンキーは悲鳴を上げる暇もなく首から上を潰されてダンジョンに吸収される。
:ホントだ、止めてる
:え? 今の止まったの? 拘束系のスキルや魔法ではなく?
:氷室セツナの時間停止能力には空間的な効果範囲がある。範囲内の全てを術者以外停止されるが意識は止まらない。配信用ドローンも同様に。だからさっきまでの光景になる
:そうなるとエアリアルモンキーは自分が死ぬまでの工程を見せられているのか
:こわすぎ
クロトはこの能力を切り抜き動画で見かけてから積極的に使っている。ダンジョン攻略で便利だから。
他の
:時間停止とか対策無理じゃん。最強すぎる
:それに対応できるのが他のラスボス様たちなんだよな
:え? どうやっているの?
:火ノ神カグラと空閑アキラは分からないけど、烏丸ナユタは動ける様になったらそのまま避けてる
:それができないから、さっきのエアリアルモンキーは死んだのですが
規格外の力には、規格外の力で対処するしかないのだろう。
コメントを聞きながらクロトは拳銃を取り出してエアリアルモンキーを倒していく。全て眉間に当てている。
:ホント、色んな武器を使いこなしているな
:最強じゃね?
:S級は勝てそうにないね
:S級一位のあの人なら行けるんじゃね? 特級相手にも良い所まで行くし
:人類最強だからな
クロトは、気になるコメントがあり思わず呟いた。
特級を相手に戦いたくない、と。
彼の言葉にコメントは加速していく。
:流石に無理か?
:まぁ所詮は猿真似って事か
:偽物が本物に勝てない道理はないぞ
:本人が無理って言ってるじゃん
:無理とは言っていない。したくないって言っているだけ
クロトは模写した武器を通して彼女たちの強さを正しく理解している。
同じ武器を使って戦えば、絶対に勝てない。経験の差もあるが、一番の理由は――彼女たちは常に成長している。
その言葉にコメント欄は一瞬止まり、再び加速した。
:それマジ?
:勘弁してくれ
:ただでさえ現時点で全人類の力使って倒せない判定出てるのに、さらに強化?
:ナーフしてくれ
:冗談だと言ってくれ
何故そんな冗談を言う必要がある? クロトは不思議そうに問い返した。
以前ダンジョンで遭遇した時、セツナ相手に彼女の能力を使用した。その時の手応えから彼女の方から強い魔力を感じ取っていた。
今はその時のセツナの武器をストックしているが、おそらく次に会った時はあの時よりも強くなっているだろう。
そしてそれは他のラスボスにも言える。次に遭遇し、戦闘となった場合クロトの保有している武器では互角以上に立ちまわる事は不可能である。
『クロト様。どうやら最下層に辿り着いたそうです』
重力に翻弄されながらもエアリアルモンキーを倒し続けたクロトは、大きな扉を開けて中に入る。
そこには巨大な大猿が玉座に座り、こちらを睨みつけていた。その毛皮は夜空の様に黒く、放つプレッシャーはこれまでの猿たちの比ではない。
クロトは、さっさとコイツを倒してこのダンジョンをアスレチックに変えてしまおうと影から武器を取り出し――。
――ドォン!!!
しかし、その前に雷光が走り、雷鳴が轟き、全てを破壊する稲妻がボスモンスターの頭上がから落ちて来た。
そして、生じた土煙を薙ぎ払いその姿を現わしたのは――。
:!?
:!?
:烏丸……ナユタ!?
:ラスボス……!?
:どうして今ここに……?
崩天獄雷。
彼女は相変わらずその身に何も身に着けず、その豊かな胸部装甲を揺らしながら獰猛な笑みを浮かべる。
足元に居る瀕死のボスモンスターを足蹴にして部屋の壁に叩き付けた後――彼女は雷と共に走り出し、鎖で覆われた腕でクロトに殴りかかった。
――ガキン! と先ほどの轟音よりも大きな音を立てて二人が激突する。
そしてナユタはグイっと顔を寄せて叫ぶ。
「ヤらせろぉ! 男ぉ!」
いきなりこれか、とクロトは獣のような彼女に嫌そうな顔をした。