ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜   作:カンさん

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第12話

 烏丸ナユタは、初めて特級指定された探索者である。

 彼女は、特級指定される前から問題児であった。

 

 力に目覚め探索者になってもギルドに従わず、潜らなくていいダンジョンに潜っては荒らし、潜ってはいけないダンジョンに潜っては破壊する。

 さらに他の探索者と遭遇した際は高確率でトラブルを起こし――総勢1万人以上の探索者を引退に追い込んだ。その中にはS級も含まれており、国は、ギルドは、彼女から等級を剥奪し、烏丸ナユタを反人類として特級と名付けた。

 

 そんな彼女がダンジョンを潜る理由に明確な目的は存在しない。

 腹が減った。あのモンスターが美味そうだから潜る。

 ひんやりとして気持ちよさそう。だからあのダンジョンは今日から自分の物。

 面白そうなモンスターを見つけた。殺し合いたいから向かった。

 

 この様に彼女は己の欲求に従って行動する。

 なら、今回ダンジョンに潜った理由は――。

 

「ヤらせろ! 男ぉ!」

「……!」

 

 影森クロトを犯す事。それが、今烏丸ナユタを突き動かしている欲求である。

 ナユタは、これまで出会った男に惹かれなかった。何故なら自分より弱いから。

 己よりも戦闘能力に乏しい雄に、彼女の獣性は働かず、雌の本能が反応せず、路傍の石の様に無価値だった。

 むしろ、己と同じ位階に居る特級(ラスボス)に対して性的欲求を抱いていた。それも戦闘欲求に上書きされていたが。

 

 しかし、ここで初めて己と同等の異性と出会った。

 ならば犯すしかない。あの時から彼女は興奮している。欲求不満だ。ヤりたい。貪りたい。――喰らいたい。

 

「はははははははははははは!!」

 

 笑い声を上げて雷速で襲い掛かるナユタを、彼女と同じ鎖を腕に巻く事で同速度で回避するクロト。

 ノアの映す配信画面では、二条の光がダンジョン内を飛び回っており、リスナー達は何が起きているのか理解できない……普通の配信ドローンなら。

 

:うわ、あのラッシュを全部避けるのか

:避け切れない攻撃は捌いている

:普通なら初撃で死んでいるだろ

 

 何故かリスナー達は何が起きているのか理解できていた。その理由は、ノアにある。

 ノアは配信画面に映る光景を録画、切り抜き、スロー再生をして画面の端に移す事で少し前の攻防をリスナー達に届けていた。それにより、探索者ではない一般人でもこの異常な光景を届ける事に成功していた。

 

:烏丸ナユタ。噂だといつも全裸だと聞いていたから期待してたのに。ガッカリだよ

:ガッツリ全裸だよ、おそらく。鑑定の結果、写っている烏丸ナユタの姿は合成だ。恐らくクロトくんの配信機械が自動で服を生成して修正して映像に出力しているんだろう

:マジ? S級以上に高性能じゃん

 

 鑑定スキル持ちのリスナーの言う通り、ナユタの全裸はノアが隠している。今は黒を基調とした黄色の縁のデザインの道着に身を包んでいる。

 それでも彼女の隠し切れない豊かな実りは配信画面の中で大きく揺れ動いていた。

 

:それじゃあ、影森視点あの爆乳がばるんばるん揺れているのを、生で見れてるの? 羨ましい

:多分そうだけど、あの厄災級の暴力に耐えられるのなら今すぐ代わってやれ

:無理ですごめんなさい

 

 ちなみに、現在クロトへの念話魔法は切っている――余計な情報は、彼の命が危ないとノアが判断したからだ。

 

「あっはっはっはっはっはっはっは! 愉しいなぁ! 男ぉ!」

「……」

 

 全然楽しくない、と嫌そうな顔で呟きながら横に避けると同時にナユタの拳が壁に突き刺さる。

 ガン! と陥没し、次にガゴン! と大きな亀裂が走り、バガン! と壁が崩れる。

 拳の一撃、遅れて魔力の衝突、最後に雷への変換による内部破壊。ナユタは一つの拳で三つの攻撃を発生させていた。

 

 特に狙っていない。通常攻撃がただそれだけという事。

 付き合ってられないな、とクロトは大きく回避する。

 

「おいおいおいおいおいおい! つまらない事するなよ!」

 

 拗ねた表情でナユタは叫び、

 

「だったら、これでどうだ――走れ! 雷蛇!」

 

 彼女が拳を前に突き出すと、腕に巻いている鎖が勢いよく伸びる。

 

「――!」

 

 その速度は、ナユタの雷速移動よりも速い。つまり、クロトよりも速い。

 クロトは地面に着地して急な方向転換をする事で回避を試みるが……。

 

「無駄だぁ! オレの蛇は何処までも追い駆けるぞ!」

 

 ナユタの言葉通り、伸びた鎖は勢いを止めることなく鋭角に方向を変えてクロトを追い駆ける。

 それを見たクロトは驚いた表情を浮かべてさらに回避する。しかし、ナユタの鎖は緩まない。まるでその長さに限りはないと言わんばかりに。

 

「……っ」

 

 クロトは回避は無理だと判断して、反転して蹴りを放つ。

 ガン! っと鈍い音が鳴り鎖は弾かれ――そのまま空中を急角度で曲がり続けて、クロトの反対側から襲い掛かり……そこで初めて、彼の頬に直撃した。

 

「捕まえたぞ!」

 

 態勢を崩したクロトに、一瞬で距離を詰めたナユタは反対の拳を腹部に叩き付ける。

 くの字にクロトの体が曲がり、彼の口から血が吐き出される。その際にナユタの頬に血が付着し、彼女はそれをペロリと舐め取って――ますます興奮した。

 

「あははははははははははは!」

 

 グルリとクロトの胴体を鎖が巻き付き、ナユタはそのまま腕を振り回した。

 鎖の先で拘束されているクロトはまるでオモチャの様にダンジョンの壁や天井に激突する。

 

「……!」

「墜ちろ!」

 

 そして最後の仕上げと言わんばかりに、ナユタは地面が陥没する程に大地を踏みしめ、鎖が伸びた腕を思いっきり振り下ろす。

 結果、音を置き去りにする程の速度でクロトは地面に叩き付けられ――轟音。そして衝撃。ダンジョン内が大きく揺れ、大きなクレーターが作られた。

 

 それを見たリスナー達は悲鳴を上げた。

 

:いやああああああああ!

:クロトくぅううううううん!

:クロト君! 耐えてくれ! 今白銀騎士団が向かっている!

:これだからラスボスは嫌いなんだ。気分で人を壊す

 

 ナユタの暴力性が遺憾なく見せつけられたその光景は、人々に怒りと恐怖を抱かせる。

 しかし誰も止められない。故に特級。

 しかし誰も歯向かえない。故に特級。

 しかし誰も抗えない。故に特級。

 

 彼女たちに狙われたが最後、無事で済んだ探索者、モンスターは存在しない。

 

 

 

 

 故に。

 

「――ああ。やっぱりお前、最高だよ!!!!」

 

 影森クロトの異常性が浮き彫りになる。

 ナユタの猛攻で服はボロボロ。上半身が裸になり、素顔が露わとなった彼は――明確な苛立ちを表情に浮かべて、ナユタに反撃を試みる。

 

 両腕にはナユタの鎖を。左手にはセツナの槍を。右手には聖剣ジ・オリジンを。

 

「時間でも止めるか? 男ぉ!」

 

 その通りだよ、そう呟いたクロトは世界を凍り付かせる。

 その世界で一人だけ動ける彼は、ナユタの背後に立ち右手の聖剣を振り下ろす。

 斬撃が当たる瞬間、能力の制約により時が動き出す。

 

 セツナの時間停止能力は、相手に攻撃が当たる瞬間解除される。その一瞬があればナユタは反撃が可能だ。

 雷速で振り返ったナユタは拳を突き出し――衝突した瞬間、彼女の能力は全て解除された。雷により速度強化も、肉体活性も、自動反射による未来視じみた先読みも。

 

:聖剣ジ・オリジン。白銀ギンガが白竜王アルビオルスの素材から作った聖なる剣。そして、そこに宿っているのは、おそらく白銀ギンガの能力『魔法無効化(マジックキャンセラー)

:対魔法系モンスターに最強でありながら、最上級の素材の剣を使う事で数多の敵を斬り捨ててきた最強格

:本来なら、魔力差で特級には効かない筈だけど――クロトくんが使えば、S級の力も届くのか

:――私の武器がラスボスに

:うそ、しゅき

 

 聖剣の力で無防備になったナユタに、クロトは遠慮なく蹴りを放った。

 しかし、ナユタはすぐに何が起きたのか把握してガードするが勢いを殺せずにダンジョンの壁に叩き付けられた。

 

「――かは!?」

 

 ナユタは痛みに顔を歪めて血を吐き――己がダメージを追っている事実に驚き……笑った。

 たった一発の蹴りが己の命を脅かしている。これまでそんな事ができたのは同じ特級たちのみ。男で成し遂げた者はいない。しかし、クロトはやってのけた。

 

 ああ。嬉しい。ああ。楽しい。ああ。気持ちい。ああ――最高だ。

 

「――男ぉおおおおおお!」

 

 聖剣ジ・オリジンの効果は触れている時のみ。故にナユタはすぐさま全身に雷を帯びて、再度クロトに突っ込む。

 

「オレの、物になれぇええええええ!」

「……」

 

 断る。たった一言でナユタの求婚を袖にして、聖剣と槍を影に収める。

 そして次に取り出すのはダイヤモンドで作られた大斧。

 

:あれは、S級一位石動大地の天砕き

:確か地属性だったよな

:重力を操る力があるはず

:まさか

 

 ナユタとの戦闘中も重力の変動は起きていた。しかし、二人が縦横無尽に高速で移動する為、効果は表れていなかった。

 しかし、クロトが取り出した斧は――星の力を、重力の力を吸収し、操り、天を砕くほどの力を発揮する。

 その力は――S級探索者の中で、唯一特級たちを警戒させる破壊力を持っていた。

 そんな力をクロトが使えばどうなるかは――見て明らかだった。

 

:やばい。クロトの周りが歪んでいる

:このダンジョンの重力を全て集めているのか?

:まさか、あの技を使うのか?

 

「――面白い。面白いぞ男ぉ!」

 

 ジャラジャラとナユタの鎖が彼女の腕に巻き付いていき肥大化していく。まるで巨大な腕の様に。そこから雷が放出され、ダンジョン内を照らしていく。

 

「パワー比べか? いいぞ! そういうの! 大好きだ! その斧とヤるのも久しぶりだ! あん時みたいにガッカリさせるなよ!」

 

 彼女は、思いっきり後ろへと下がった――雷速で、ダンジョンの入り口まで。そしてそのままダンジョンの最下層に居るクロトに向かって助走距離を駆け抜けて――彼女の代名詞であり、国に付けられた災厄の技を解き放つ。

 

 ――崩・天・獄・雷!!!

 

 対して、クロトは集めた重力を圧縮し疑似的な宇宙の風穴を作り出し、こちらに向かってくる猛獣に解き放った。それは、人類最強の究極兵器。

 

 ――ブラックホール・フィニッシュ。

 

 天を崩す地獄の雷と、宇宙で抗えない最悪の黒がダンジョン内で激突し――配信画面は白く染まり何も映さなくなった。

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