ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜   作:カンさん

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第13話

「魔力の検測は終わったか?」

「座標のズレはどうなってる?」

「空間振動が起きる可能性も考慮しろよ」

「地質調査終わりました!」

 

 

「なんかすごいっすね」

「なんだ、お前は初めてか?」

 

 反転の戦場()()にて、多くのギルド職員が派遣され調査が行われていた。

 そんななか、ギルドに勤めて一年の沼津という男は目の前に絶句していた。そんな彼を上司の刀根山が、かつての自分と同じ反応をしている事に苦笑しつつ問い掛ける。

 

「はい。いや、資料とか配信で何度か見てこういう事が起きるのは知っていたんですけど。実際に目にすると違うというか」

 

 彼の視線の先にはくり抜かれた様にして消滅している地面があった。深さ1kmのクレーター。いや、穴。

 それは、クロトとナユタが激突の末に起きた現象。

 

「実際、ダンジョン黎明期はこういう事故が何度も起きていたらしい。強力な力を持った探索者同士の激突は危険だ。だから法律で探索者同士の私闘は禁止され、犯せば厳罰化される」

「A級やS級に配信義務を課せたのも、こういう事案を起こさせない為でもあるんですよね」

「まぁな」

 

 故に己の欲求で動き、その時の快・不快で誰であろうと戦いを仕掛けるナユタは危険な存在であった。

 

「しかしそうなると、影森クロトは罰せられるのですか?」

「いや、ならない。なにせ相手が特級だからな」

 

 これがもしS級探索者相手なら、国はクロトに何かしらの罰則を与えただろう。それだけ危険な行為を働いたのだから。

 しかし、特級相手との戦闘は等級問わず探索者全員に特例として許されている。

 

 何故なら、国は特級がダンジョン内で()()()()()()()()()()()関与しないと明言している。例え、死んでも、だ。むしろ――。

 

「死んでほしい、って思っているんだよ国は」

「それは……」

「危険な考えを持ち、自分たちの戦力ではどうにもならない制御不能な存在だからな。特別な力に目覚めて、アイツらを殺せたらラッキー……そう考えているのさ」

 

 故に、国は影森クロトを欲する。彼女たちの抑止力として……いや、対抗手段として。

 

「刀根山さん! 調査の結果、烏丸ナユタは生存していると報告あり! 影森クロトもダメージがあるものの帰宅中との事」

「そうか。分かった。ノアからの報告か?」

「はい」

「だったらこのまま監視の継続。しばらく定期報告をする様にプログラムしろ」

「分かりました」

 

 部下からの報告を受けた後、刀根山は沼津に指示を出す。

 

「沼津。お前も穴の中に潜ってこい」

「え、マジですか」

「マジだよ。お前元探索者だろ? だったら行けるよ」

「えー。あそこの魔力、凄い肌にピリピリ来るんだけどな」

 

 ぶつくさ文句を言いながら穴の中に向かう彼を見送って、刀根山は周囲を見渡す。

 ここは最初森林地帯だった。ダンジョンの魔力で影響を受けた自然は急成長する。それにより、豊かな土地になる場合もあれば、現実離れした環境になる事もある。故に国は攻略するダンジョンを取捨選択する。

 今回の反転の戦場も残す予定だったのだが、ナユタの介入で消失。損失は大きいだろう。日本円にして数十兆円程だろうか。

 

「すっかり荒れ地だな」

 

 周囲の木々は枯れて倒木している。まるで全ての生命力を吸われてしまった様に。

 死地となったこの場所が再び生き返るには、ダンジョンが現れるのを待つしかない。その確率の低さに刀根山はため息を吐いた。

 

 

 

『散々でしたね』

「……」

 

 クロトとナユタの大技の激突による勝敗は付かなかった。

 原因はダンジョンが保たなかったから。

 ナユタの一撃でノックダウンしていたボスモンスターは、二人の技の余波で消滅。それによりダンジョンは休眠状態に入るも特級(ラスボス)二人分の大技により全壊。

 結果、二人は弾き出される形で現実世界へと戻された。

 

『あの獣娘には困ったモノです。全て自分本意で、満たされたらそのまま帰るとは』

 

 クロトとの戦いで戦闘欲求が満たされたナユタはそのまま帰った。性欲も同時に満たされたらしい。

 またヤろうぜ! と晴れやかな顔で飛んで帰る彼女に、流石のクロトも辟易としていた。

 いや、それよりも。

 汐しおが遊んでみたいと言っていたアスレチックとなる筈だったダンジョンが消えてしまった。その事が彼にとってショックだった。

 

『現状、類似するダンジョンは存在しません』

 

 つまり、今回もまたクロトは推しに貢ぎ物を届ける事が出来なかった訳だ。

 落ち込んでいる彼に、ノアは再度警告する。

 

『汐しおの事は、今後も配信内で発言しない事を推奨します』

 

 その言葉にクロトは不思議そうにしながら何故? と問い掛ける。

 このダンジョンに潜る前、ノアから汐しおの名を出さない方が良いと言われていた。特に言うつもりのなかったクロトはその時は何も疑問を抱かずに了承したのだが、こうしてしつこいと感じる程に言われると問い掛けたくもなる。

 

『現在、クロト様は注目されています。多くの人間に。それもその人数は加速的に増えています』

 

 実際、ノアの言っている事は事実であった。

 今回の配信で彼のチャンネル登録者数は10万人から一気に100万人へと増えている。ナユタとの戦闘の切り抜きがSNS上にて拡散され、クロトの異常性が露見した。

 

 特級と互角以上に戦闘しているシーンには多くの人間が魅了されている。特に、S級の武器を使って一矢報いているのがポイントが高い。S級探索者は人気な為、彼らの力を使って特級(ラスボス)を撃退するというシチュエーションが受けが良かった。

 

『ただ、人気になり過ぎたようです』

 

 現在、ノアが観測しているクロトのファンの中には厄介な部類の人間が増えている。

 それを呼称するならガチ恋勢と言うべきだろうか。SNS上にて数が爆発的に増加しているのを確認している。中には過激的な人間も存在し、ナユタの発言に憤り彼女に対する誹謗中傷が凄まじい。ノア的には嬉しいが。

 

 なお、その過激派の筆頭が白銀騎士団の団長、S級2位の白銀ギンガである。どうやら完全に惚れたらしい。ノアは人間は相変わらず非生産的な事が好きだな、と分析していた。

 

 そんなななか、クロトが一定個人に対する好意を公言すればどうなるか。それが異性なら尚更。

 さらに汐しおはVtuberであり、インターネット上が主な活動場所だ。クロトを盲目する者の標的にされてしまえば、彼女のこの先の活動に支障が生じるのは目に見えている。

 

 その結果、クロトが人類に見切りを付けて特級になれば……いよいよ国は彼女たちをどうする事もできなくなる。

 

『……汐しおに迷惑をかける可能性がありますので』

 

 しかし、馬鹿正直にこれらの事実を伝えるべきではないと判断したノアは端的に伝える。

 そんなものか、とクロトは納得してノアの助言に従う事にした。

 元より彼自身言うつもりはなかった。別に認知して欲しいと思ってはいない故に。

 

『……』

 

 ノアは最後検索を掛ける。やはりというか何というか、ネット上の一部で影森クロトの推しを探している人間が多数存在していた。

 彼ら彼女らは女性の探索者だと当たりを付けているようだ。それも等級の低い。

 中には全く関係のない探索者に噛み付いている者も居る。ノアは開示請求を送る事にした。

 

 ノアは、SNSにてクロトの配信チャンネルを告知するアカウントを作成している。そこで一つの注意喚起をした。他者への迷惑行為は、影森クロトの本意ではない、と。

 するとすぐにSNS上にて反応が起きた。これで少しは沈静化するだろう、とノアは分析する。

 

 なお、白銀ギンガの長文のリプは閲覧しないようにした。AIに悪影響を及ぼしかねないと判断した為。

 

 そんな風にノアが裏でこそこそとしている中、クロトはアパートに帰宅。

 しかし、ふと違和感を抱き周囲を見渡す。何かに見られている様な感覚がしている。普段からこちらを監視している人間とは別の、だ。

 

「……」

『どうなさいましたか?』

 

 ノアの問いに答えず、クロトは違和感の正体はこの先だな、と判断して己の部屋に入る。

 

「遅かったな、影森」

 

 すると、本来なら居ない筈の存在がクロトの帰宅を出迎えた。

 ノアはその姿を映した瞬間、AIが警告を示しすぐにギルドに報告しようとし――ノイズが走り、機能が停止する。

 

『!”#$%&’()(’&%$#”』

 

 異音を鳴らしながら落ちていくノアをチラリと見て、壊れていない事にホッとする。弁償を求められたら困るからだ。

 

「そいつはうるさいから黙らせた。わたしが帰る時には元に戻る」

 

 そう言って彼女はクロトの家にある湯飲みで緑茶を啜る。

 まるで我が家で寛ぐ様に、クロトに対して不遜な態度でそう言うのは――特級(ラスボス)の一人。颯麟破刃の空閑アキラ。

 

「突っ立っていないで座れよ影森」

 

 彼女は最も嫌われている探索者である。

 

 

 

 

 二年前、東京にて凄惨な事件が起きた。

 当時、二大クランとして有名だった【暁の旅団】と【常闇の牙】の全メンバー、さらにギルド上層部14名が殺害。唯一の生存者と思われる人間は、ラストダンジョンの出現に巻き込まれて行方不明となり──100人を超える人間が一夜にしてこの世を去った。

 

 その首謀者の名は空閑アキラである。彼女はこの事件によって特級指定されると共に、最も忌むべき探索者として有名となった。

 

「わたしの目的はとあるラストダンジョンをブレイクさせる事だ」

 

 アキラはその為だけにダンジョンに潜る。到底受け入れられる目的では無い。国やギルドは、アキラの行動に最も注力している。

 

 しかし彼女を国やギルドは捕捉できない。どんな魔法を使っても、どんなスキルをつかっても、どんな高性能な機材を使っても、まるでそこに存在しないかの様にアキラを捉えられない。

 

 現在、アキラがクロトの家に居る事に気が付いている者は居ないだろう。外から見てもアキラの姿は目視できない。魔力による探知も不可能。

 

 完全ステルス。それが現在国が把握している彼女の力の一端。

 

「随分と様々な勢力から勧誘されている様だな。

 氷室セツナ。ダンジョンギルド。白銀騎士団。火ノ神カグラと、その女に繋がっている奴の母親、並びに千火桜嵐。

 ARCグループは、過去に貴様に助けられた者が多いらしい。恋愛ごっこの延長で貴様を求めている。烏丸ナユタも似た様なものか? アイツは獣だから知らんが。

 他のクランは単純に貴様の能力に目を付けているらしい。

 裏社会でも貴様は注目の的だな。夜道には気を付けろ……と言いたいが貴様なら問題無いだろう」

 

 いきなり捲し立てられてクロトは混乱した。知らない名前と知っている名前が一気に羅列されても、洪水の様に情報を叩き込まれても、理解できる訳が無い。

 

 しかしアキラは別に構わない。というより、クロトに現状を理解して貰いたいと思っていない。

 

 彼女はシンプルに己の能力を示しただけだ。己の情報収集能力の高さを。国やギルドよりも、暗躍している火ノ神家よりも、誰よりも情報戦で優位だと示している。

 

「影森。わたしが一番お前を上手く使える」

「……」

 

 物じゃないんだけど自分、と不満そうな顔をしてそう呟くと、馬鹿か貴様はとアキラは鋭い目で彼を睨んだ。

 

「このまま適当な勢力に取り込まれれば貴様は飼い殺しにされるだけだ。だが、わたしは違う」

 

 アキラは、己の力で調べたクロトのある秘密を口にする。

 

「お前は──」

「──」

 

 それは、かつてクロトが諦めた生きる希望其の物。しかし、何度も試して無理だと悟り……彼はこの世界で生きていくしかないと己を納得させた。

 何故知っているんだ? と戸惑いの表情を浮かべる彼に、まだ人間味が残っているのかと内心笑みを浮かべるアキラ。

 

「5年前になって貴様は数度ダンジョンに潜った。ギルドはその記録を正しく認識していなかったが──影森、貴様……ラストダンジョンを何度か単独で踏破しているな?」

 

 アキラの問いにクロトは頷く。

 いや、クロトはこの世界で探索者になる前からあの領域を見慣れていた。だから、朝霧達の様に戸惑う事も恐れる事も無かった。……恐れは目の前のアキラや他のラスボスが原因だが。

 

「納得だ。アレだけ能力を()()させているのなら、むしろ当然だろう」

 

 アキラは前々からラストダンジョンの不自然な消滅を察知していた。他の特級が攻略していなかったのは把握済みで、ならば自分達以外の名も知らない強者が動いてると予測し──あの日にクロトを見つけた。

 

「影森クロト。もしわたしに力を貸すのなら、かつて貴様が捨てたたった一つの生きる希望。それを取り戻させてやる」

 

 アキラの誘いに、クロトは──はっきりと断った。

 

「……理由を聞いても?」

 

 この世界で生きたいと思える新たな希望に出会ったから。

 その簡潔な答えにアキラはため息を吐く。予想通りだと。

 

「汐しおか。……惜しいな。もう一年、わたしの方が先に貴様と出会っていれば──いや、可能性の話をしても仕方ない、か」

 

 アキラは今回の勧誘は諦めた様で立ち上がる。

 

「もし心変わりしたら配信でわたしの名を呼べ。すぐに駆け付ける」

 

 クロトは気が向いたら、と気のない返事をする。それに彼女はふん、と鼻を鳴らす。特級の中で彼女が一番クロトの事を理解しているのかもしれない。

 

「ああ、そうだ」

 

 彼女は去り際にふとクロトに問い掛けた。

 

「わたしの武器も()()コピーできたか?」

 

 アキラの問いに、クロトは部屋中に視線を巡らせて最後に彼女の背に向ける。

 その一連の行動こそが答えであり、アキラは面白そうに彼に言った。

 

「使っても良いが()()()使え。情報は武器なんでな」

 

 分かった。とクロトが答えると満足したのかアキラは立ち去った。

 

 

 

 

『やはり空閑アキラは危険です。早急に排除すべきです』

 

 特級の中では話しやすかったけど? それにあまり悪い人には見えなかった。

 クロトが素直に感じた印象を口にすると、ノアは語調を強めて否定した。

 

『彼女は多くの人間を殺害しています。加えて、ラストダンジョンのブレイク化などという人的にも経済的にも悪影響を及ぼす目的を持っている事自体危険です』

 

 そう言われてしまえば、クロト自身反論できない。過去のダンジョンブレイクによる被害は、何れも人々の生活、親しき人、愛した人、輝かしい人生を奪ってしまっている。

 

 15年前のダンジョンブレイクによる事故では、都市丸ごと人が生死不明となっている。帰って来た者は居ない。

 

 しかしクロトは言う。彼女が何故ラストダンジョンをダンジョンブレイクさせたいのか。それを知っているのか。

 

『──国、並びにギルドは把握していません』

 

 だったら、とクロトがアキラの真意を確かめるべきだと進言するも……。

 

『いえ、()()()()と上層部は判断しております。クロト様が覚えておくべき事は彼女が人類の敵である事です』

 

 そう断言されてしまい、彼はそれ以上アキラについて語るのは辞めた。

 

『クロト様。そろそろ考えて頂けましたか?』

「?」

『なにって……S級昇格の件ですよ』

 

 そういえばそんな事も言われていたな、とクロトは思い出した。

 あまり気乗りはしないが、別に昇格しても良いかなと考えている。理由は特にない。

 しかしそうなると、再び勧誘合戦が起きそうだと彼は思った。特級たちのお誘いも苛烈になるのだろうか? と考えるのはナユタの一戦が原因。

 

『それでは次の相談に移るでござるよ!』

 

 ぼんやりと考えて、ノアへの返答に困っているクロトの耳に推しの声が届く。とりあえず配信見た後に答えるか。彼はそう決めて意識を配信に向けた。

 

 今日の配信では、汐しおがお悩み相談室100本ノックという企画をしていた。制限時間以内に全て捌く事ができれば告知ができる。そんな企画だ。

 これまでの配信で、汐しおの元にはたくさんの相談内容が寄せられている。真剣なものやくだらないもの、セクハラじみたものまで。彼女は一つ一つを適した反応と返答を返していた。

 

 そんななか、一つの相談内容が読み上げられる。

 

『社畜戦士さん書き込みありがとうございます! えっと【私今の会社に5年勤めているのですが、急に上から昇格を求められています。昇格したら色々と待遇が良くなるのですがそれでも不安で……。それと他の企業からもスカウトされていてどうしたら良いのかわかりません。助けてください】。あー、これは……』

 

 クロトはなんか自分と似ているな、と思った。

 

:あ、これは……

:急な昇格は怖い

:単純に人員不足からの役職の補填って事もあるからね

 

『ソウダネー。ソウイウノコマルヨネー』

 

 汐しおの声から感情が失われた。どうやら過去に色々とあり、それを思い出してしまっているようだ。

 

『うーん。社畜戦士さん的には現状維持が良いのかな? あまり乗り気じゃなさそうでござる。スカウトに対しても。役職つくと色々としがらみがあるし、今を満足しているのなら別に昇格しなくても良いと思うでごさるよ』

 

:それな

:スカウトあるなら、もう少し様子見しても良いかも

:無理はよくない

 

 なるほど、流石しおちゃんだ……とクロトは感心した。

 ノアはこれ不味いのでは? と心配になる。実際、その予感は的中し、後日ギルド職員の元に一通の電話連絡が入る。

 

 

 

「はい、もしもし山本です。……おお! 影森様! 連絡してくださったという事はS級に――はい? 役職がつくとしんどい? 今を満足している? だから昇格しない? いや、何か勘違いしてませんか? あの――」

 

「……うちはブラック企業ではないんですけど!?」

 

 そんな彼の悲鳴がオフィスに響き渡ったとかないとか。

 なお、命がけの戦場はなかなかのブラックだと誰も彼に言わなかったとか。

 

 

 

『――はい! これで終わりでござる! しお饅頭の皆、ここまで付き合ってくれて感謝でござる!』

 

:おつかれー

:色々とあったな

:とりあえずセンシティブな内容送った奴、あとで屋上

 

 無事に100本のお悩み相談を終えた汐しおに、彼女のリスナーであるしお饅頭たちが労いの言葉を送る。クロトも5万スパチャを無言で送った。

 

『さて、配信前から焦らしていた重大告知でござるが……』

 

:焦らされ過ぎて焼き饅頭になってしまった

:なんだろうね

:もしかしてあれか?

 

『なんと! この度! ついに――3Dモデル実装でござる! そして、そのお披露目ライブを行う事になりました!』

「――!」

 

:うおおおおおおお!

:3D来たぁああああああ!

:待ってた……この時を、待っていた……!

 

 3Dによるライブ配信は、Vtuberにとって一つの目標地点である。

 汐しおも長い間待ち望んでおり、またリスナー達も彼女の晴れ舞台を夢見ていた。

 その夢が今、叶おうとしている。クロトもまた待ち望んでいた未来であり、その告知を聞いた瞬間喜びに目を輝かせた。

 

『詳しい情報は後日SNSにて発信するでござる! 色々と準備しているから待っていて欲しいでござるよ!』

 

:絶対その日休む!

:何が起きてもリアタイしてやる!

:ダンジョンブレイクしても見てやる!

 

 クロトは気分良さそうにお気に入りの炭酸ジュースを飲む。今日は気持ちよく寝る事ができそうだ、と。

 S級昇格とか、有名なクランの勧誘とか、特級とか、それら全てどうでも良くなってしまった。彼は鼻息交じりに夕食のもやし炒めを食す。素朴な味が、今はドラゴン肉よりも美味しく感じた。

 

 そんなクロトの背中を見て、ノアは人間はやはり単純な生き物だと結論付けた。

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