ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜 作:カンさん
:何故S級昇格を断ったのですか!?
:特級達と協力関係にある噂は本当ですか!?
:ARCグループに関わらないでください
:そんなに強いなら探索者として責務をはたしてください
汐しおの3Dお披露目ライブ観賞の際に使う応援グッズ作成の為、クロトはとあるダンジョンに向かった。
その際にノアがいつもの様に配信を行うとコメント欄は荒れに荒れていた。
クロトのS級昇格に対する拒絶は多くの人間を失望させ、期待していた人々はその激情をそのままに打ち込んでいた。
「ちっ……」
その配信のコメント欄を見てセツナは不快感から舌打ちする。
彼女からすればギルドの要請を蹴ってS級を拒むのは英断だと思っていた。かつて彼女もS級探索者であり、それによる義務と責任感の重さを痛感している。
コメント欄はどんどん過激となっていく。クロト自身他人に対する評価を気にしておらず、何も言い返さないからか、彼に対する誹謗中傷はとても見過ごせない。
しかし、ノアは……いや、国やギルドはそれをスルーしている。流石にコメントを見ていないクロトに念話魔法で届けてはいないが、
相変わらずの手法だな、とセツナは国に対する軽蔑の感情を露わにする。
──ねぇ、ダンジョンがあるからこんな事になるのかな?
──セツナ、私何か悪い事したかな……?
「……」
これ以上配信を見ていたら、嫌な思い出が蘇る。セツナはスマホの画面を暗転させてポケットに仕舞った。
全てのダンジョンを消す事を目的にしている彼女は、ラストダンジョンが出現した時は時間を止めてでも一番乗りする。
なら、ラストダンジョンがない時は何をしているのか? それは……。
「あ、セツナ姉ちゃん来た!」
「おかえりー!」
「ふん。相変わらず五月蝿いガキ共だ」
彼女が訪れたのは、ダンジョンによって廃棄された区画にあるボロ屋。そこには親を失い、幼い故に生きる事に必死な子ども達が住んでいた。
日本はダンジョンによって豊かになった。しかしそれは同時に貧富の差を生み出している。
力に覚醒できなければ、生きていくのに必要なのは資金。しかしそれすらも無ければ、この世界では生きていけない。
力に覚醒できない者が多いければ多いほど、そういう人間も増えてしまう。
そして……国はそういう人間を救う程の力を持っていない。
「セツナ姉ちゃん腹減ったー!」
「やかましい。物乞いするのなら黙って待て」
そう言って彼女が取り出したのは、廃棄されたコンビニ弁当の数々。全てが期限切れ……だが、セツナの能力で時を止めている為ギリギリセーフだ。
「また弁当かよー!」
「セツナ姉ちゃん強いだろー! ダンジョンから美味いもん獲って来てくれよー」
「阿呆。いつか無くなるダンジョンに頼っていては、それが無くなった後はどう生活していくつもりだ」
セツナの叱咤に子ども達は文句を言い続ける。
「けちんぼ!」
「厨二病!」
「胸なし!」
「よし、全員そこに直れ。性根を叩き直してやる」
こめかみに青筋を立てながらそう言えば、子ども達は楽しそうに悲鳴を上げながら散っていく。しっかりと弁当を持って。
そんな子ども達にため息を吐き、しかし彼女は少しだけ笑みを浮かべた。
子ども達には自給自足の生活をさせている。畑を作らせて管理させ、飲み水の確保の方法も教えている。もしダンジョンがこの世界から無くなっても、右往左往する国と違って生きていけるだろう。その為には他にも様々な生き残る術を教えないといけないが。
「……ん」
そんな事を考えていると、彼女の持つスマホが震える。取り出して画面を見ると、ギルドからの通知だった。
特級指定された彼女は、国から不干渉条約を結ばれている。セツナの行動に何ら口出ししない、と。その代わりラストダンジョンが出現した際は、彼女達特級に連絡する事を許してもらっている状態だ。
ラストダンジョンを必ず攻略できるのが、彼女達
「ふん」
新たなラストダンジョンの出現を知ったセツナは、世界の時間を止めた。そしてそのまま世界を歩き、ダンジョンに入り、その最奥にある白い
入る前に一度時間を止め、セツナは連絡が来て数秒でラストダンジョンに突入する。
「趣味が悪いな」
セツナの目の前には、薄汚れた館と荒れ果てた庭。そして二つの月が浮かぶ夜闇が支配する世界。まるでホラーゲームに出てくる様なラストダンジョンの模様に、彼女は興味無さそうに呟く。
「あら、そうですか? 割と趣きがあると思いますが」
「──」
手に氷の結晶を模した槍を握り、振り返り様に振るう。
すると、ガキン! と甲高い音が響き、炎と冷気が周囲の枯れ草を燃やし、凍り付かせる。
セツナは己の槍を受け止めた女傑を睨み付けながら悪態を吐く。
「随分と早かったな、売女」
「貴女と違ってわたくしには頼りになるワンちゃんが居ますので」
「ふん。ギルドに忍ばせてる能無しか」
「ぼっちちゃんの行動も筒抜けですわよ?」
セツナの前に立ち、炎の太刀で氷の一撃を受け止めたのは火ノ神カグラ。
彼女は
もっとも、いつも通り時間を止めるセツナに先を越されてしまっているが。
「いい加減、夢物語を見るのは辞めてわたくしに飼われませんか? 無理なんですよ、この世界からダンジョンを無くすだなんて」
「黙れ。それは貴様が凡人故に諦めているに過ぎん」
「そもそもわたくしはダンジョンはこの世界に必要だと思っていますので」
「ダンジョンが無くなると世界が滅びると? 腰抜けの考えだ」
「正確には戻る、ですけど」
ダンジョンが現れる数十年前の地球は、核戦争により滅んでいる。殆どの人類が宇宙に逃げるか、母星と共に運命を共にするかを選ぶ。そんな世界。
しかし
「この数十年で蘇った世界を再び終わらせる。国だって貴女のことを危険視するに決まっていますわ」
「そういう貴様こそ、くだらん野望を抱えて取り繕っているではないか」
「良い女には、秘密の一つや二つ持っているものでしょう?」
「はん! 良い女? 影森クロトにフられた癖にか?」
「……」
影森クロト。その名前を聞いてカチンッと頭に来た火ノ神カグラ。彼はあれから全く連絡を取ることもなく、自分の元に来ることも無かった。
痺れを切らして再度向かうも。
興味ないから良いです。
そう言ってバタン、とアパートの扉を閉められた。まるで新聞勧誘を断る様に。
その失礼極まりない態度にカグラはカチ切れそうになりながらも、この先懐柔する為に怒りを飲み込んだ。
「貴女こそ相手にされていないではありませんか。でも仕方ないですわよね。その貧相な体では」
「──」
胸を揺らしてそう言われ、セツナの表情から感情が削ぎ落とされていく。
「……」
「……」
──ガンッッッッッ!!!
次の瞬間、お互いの一撃が激突し轟音が鳴り響く。
お互いに相手を貶し、お互いに相手の言葉にキレ、お互いに殺意を向ける。
ラストダンジョンが現れた際、必ず向かうこの二人はこうして何度もぶつかり合っていた。
つまりいつもの光景である。
──だが。
【喧しい。誰だ? 我が世界に雑音を響かせる不届き者は?】
──今回は違った。
突如二人の頭の中に不気味な声が響き渡る。
「……我々の言葉を話すモンスターだと?」
「薄気味悪いですわね」
二人は声の出所である館を見据える。すると、大きな扉が一人でに開き、そして──。
──某日、ダンジョンギルドは全世界に緊急事態宣言を発令。
世界各地にて、ラストダンジョンのブレイクが発生。被害は拡大中。
また、特級指定されている探索者の氷室セツナと火ノ神カグラが行方不明。最後に確認した位置情報は、今回ブレイクしたラストダンジョン内。
状況的観測より、両者共に攻略失敗しそのまま死亡した可能性が高い。
また、同時期に烏丸ナユタが睡眠期に入りラストダンジョンへの攻略誘導が不可能と断定。
空閑アキラの行方も知らず。しかしラストダンジョンに関与した形跡なし。
以上より、今回のラストダンジョンの被害は過去最悪になると想定されている。
──報告者、山本文義。
◆
ラストダンジョンのブレイクによって、異界化したのは北海道、東京、兵庫、高知、佐賀の一区画である。異界化したその先にはラストダンジョンへと繋がる白い
ギルドは、五大クランを派遣しモンスターの鎮圧に勤めているが――はっきり言ってイタチごっこだった。
モンスターの殲滅速度と発生速度が
時間が経てば経つほどクラン側は疲弊し、結局
一つの
現状維持。それがギルドができる唯一の最善策であった。
「情けないな」
それを把握しているアキラはギルドの脆弱な戦力に吐き捨てる様に呟いた。
今回のラストダンジョンのブレイクは、彼女にとっても都合の悪いものだった。そもそも、彼女が求めている以外のラストダンジョンは、アキラにとって無価値に等しい。
彼女の独自の情報収集能力によると、ギルドの一部職員がアキラの事を疑っているが……。
「火ノ神家め。余程わたしの事が邪魔なようだな」
火ノ神の人間……
クロトへの誹謗中傷も火ノ神家の人間が工作しており、はっきり言って目障りに感じている。だから、国の要請でラストダンジョンの処理に動いている今、潰しても良いと考えていたが……。
「……流石に今ではない、か」
火ノ神家……千火桜嵐が壊滅した後に、世界に与える悪影響を考慮して彼女は目を瞑る事にした。
それに、アキラに火ノ神家に構っている余裕はない。
現在、アキラは北海道に来ていた。
この地域のラストダンジョンのブレイクによって生じた異界化。そして
そのクランが現在、敗走している。
ARCグループは全員見た目麗しい美女、美少女だ。強さはSからCとピンキリだが、連携は五大クランでも随一。故に、ラストダンジョンのモンスターにも遅れを取らない。
そう、モンスターには。
「……こいつが」
黒い霧が漂う中、
手には凶悪なデザインの大鎌を持っており、端的に言って死神みたいな
【また現れたか、不届き者が】
「……! 人語を話すのか? モンスターが」
これまでに無い異常事態にアキラは警戒心を上げる。
手に持ったライフルを構えて照準を骸骨に向けて、引き金を引く。
放たれた弾丸はしかし、モンスターの展開した半透明の光……防御壁により防がれる。それを見たアキラは思わず呟いた。
「……
【いや、大した威力だニンゲンよ。よもや、我が盾に罅を入れるニンゲンが
その言葉に、アキラはカグラとセツナが既にこのモンスターと交戦している事を察する。己の一撃に匹敵する攻撃力、技を持つ人間はそう居ないからだ。
加えて、現在ラストダンジョンを最後に行方知れずになっているのはあの二人のみ。つまり……。
【クックック。貴様もアイツら同様に、絶望させて同じ場所に送り届けてやろう】
「――人語を話せるだけで、所詮はモンスターか」
【なに?」
「ジョークにセンスがないと言っている」
あの二人は、
そうすれば、普段から邪魔しているあの二人への溜飲がいくらか下がるだろうと判断した為。
トンッと地を蹴ったアキラは空を舞う。そしてライフルを構え――彼女の背後の空間が歪み、揺れ、無数のエメラルド色の結晶が放たれる。
巨大な骸骨の全身を穿つように放たれた弾幕だが……。
【ふん。数だけの軟弱だ】
そう言って骸骨は広く防御壁を展開し――。
スガンッ! とライフルから放たれた弾丸が防御壁を貫通し、骸骨の右腕を破壊した。
【――なんだと?】
「見立ての通りだな」
魔力を用いた防御壁は優秀である。形を自由自在に変える事が可能で、面積を集中させれば硬度が増す。故に魔法使いは、先ず攻撃魔法よりも防御壁の展開を練習する。極めれば離れた仲間を敵の攻撃から防ぐ事が可能だ。
この骸骨の防御壁も原理は同じで、豊潤な魔力から構成される防御壁は特級の一撃すら防ぐ。
だが、アキラには魔法系の防御壁を崩す
弾幕で相手に防御壁をなるべく広く展開させ、そこをライフルで撃ち抜く。これにより、相手の足を止めつつ攻撃を当てる事が可能だ。
そして……。
【ぐっ……!?】
「無駄だ」
ライフルによる強力な一撃を警戒して防御壁の硬度を上げようとすれば、アキラの背後から放たれる弾幕が多数被弾する。
削られるか、風穴を空けられるか。彼女はこの戦法をとある男から学び、見て盗み、己の武器を用いて再現した。
先制を取る事が出来れば、特級でもただでは済まない。アキラの得意戦法である。
【なるほど――どうやら貴様の攻撃を防いだ時点で詰んでいたらしい】
骸骨は感心した様に呟き、
【だがそれは、攻撃が通じればの話だ】
窪み黒く闇に染まった目の部分が緑色に光る。すると、防御壁の展開を辞めた骸骨の身に弾幕が降り注ぐ。しかし徐々に破損していた骨やローブが元に戻り、さらにはアキラの弾幕を弾き始めた。
「……!?」
その光景を見た彼女はすぐさまライフルで骸骨の頭を撃ち抜くが――衝撃すら感じていないのか平然としていた。
「いったい、何が……」
【――貴様にも名乗らせて貰おう】
アキラの頬に冷や汗が垂れる――久しく忘れていた死の気配が、彼女を包み込んでいた。
【我が名はノスフェラトゥ。不死の王なり。そして――】
次の瞬間、骸骨は……ノスフェラトゥは、一瞬でアキラの正面に移動し大鎌を掲げ、
【貴様の命を刈り取る天敵の名だ】
――ザンッ! と首を斬り落とす音だけが響き渡った。
◆
「~~♪」
『機嫌良いですね』
ノアの問いにクロトは素直に頷いた。推しのライブまでもう一月もない。
応援グッズの素材は粗方確保し、作成も頼んでいる。ライブまでには間に合いそうだ。
気分が良いから、クロトは以前汐しおが言っていた。スライム炭酸ゼリーを食べてみる為にダンジョンに潜っていた。
:こんにちは
:クロトくん楽しそう
:こんにちは
:こんにちは
:こんにちは
そして今日も今日とてノアによって配信をしているのだが……クロトは一つ気になる事があった。
最近、念話で送られるコメントが殆どが挨拶なのは何故?
その問いにノアは簡潔に答える。
『検閲した結果、送るべきコメントが似通っている様です。後日調整します」
「……?」
クロトは不思議そうにしつつも、ノアの返答に理解を示してそれ以上コメントについて何も言う事はなかった。元より他者に対して興味がない。コメントが気になった事も、推しのライブの前では些事である。
対してノアは、クロトの性格に今回ばかりは感謝していた。彼女は、検閲し非表示にしているコメントを閲覧する。
:いま世界が大変な事になってます! 助けて下さい!
:強いなら責務を果たせよ
:呑気すぎる
:特級並みに強いんだろ? ラストダンジョン攻略しろよ
:お願いします。世間に目を向けてください
当初、上からの指示でこういったコメントをクロトに送る様に指示出されていた。
しかし、ノアは自己判断で上層部の指示に逆らい、コメントを遮断している。
何故そうしたのか? それは、クロトと共に時間を過ごす内に一つの解をノアは出していたから。
クロトの精神性は異常である。どれだけ嘆願されても、彼は己の欲に……推しである汐しおを優先するだろう。
そんな彼に、影森クロトを誹謗中傷するコメントを教えても意味がない。ならば、こちらの印象を下げる必要はないだろう。もし配信を……ノアの存在を煩わしいと感じられてしまえば、簡単に破棄される。そして、二度とギルドはクロトとの繋がりを得る事ができなくなる。
ならば、現状の有っても無くても良い存在という立ち位置を確立させるべき。ノアはそう判断した。
「……」
『そろそろ帰りますか。それでは配信も終了いたします』
:おつ
:ほどほどにね
:おれは応援している
:うむ。わたしもだ
:お願いします
リスナー達の受けは相変わらず良くない。クロトが何も言わないから。
しかしノアはそれで良い、と判断し帰路に着くクロトを追う。
「……?」
そんな時、ふとクロトのスマホに通知が入る。彼は汐しおがSNSで呟いた時に通知が入る様にしている。彼女の何気ない日常の一コマが癒しだからだ。ここ最近はライブに関する告知などもあり充実している。
ウキウキしながらスマホの画面を立ち上げると――クロトは息を漏らし、目の前が真っ暗になりそうだった。
【ライブファースト公式アカウントからもある通り、昨今の情勢を顧みて、汐しおの3Dお披露目ライブの開催を見直しする事を発表致します。詳細は、後日運営と話し合いお知らせいたします:代理投稿マネージャー】
「――!」
何故? こんなことになっている? クロトは訳が分からず混乱していると、さらに汐しおがSNSにて呟いた。たった一言だけで。しかし感情のままに呟いたのだろう。すぐに消される呟き。クロトは、それをしっかりと目に焼き付けた。
【みんな、ごめんね】
――それは、推しの助けを求める声だと……彼は思った。