ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜   作:カンさん

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第15話

 

 ギルド長、蔵内ムサシは険しい顔で指示を出す。

 

「……各地の戦況の報告を」

「はっ。北海道ではARCグループのS級探索者3名が重傷、A級探索者12名が重傷。B級以下は軽傷。戦線の維持が困難だと判断し、現在は本土に帰還。現状、最もモンスターの侵攻が進んでいる地域となっています」

「沢島恭介S級探索者と石動大地S級探索者を派遣させるしかない」

「神の眼と黒斧を、ですか……確かにその二人に任せるしかないですね」

 

 蔵内に北海道の戦況を報告した職員は、すぐ様部屋を後にする。これから彼が連絡を取るのは、S級3位の変態とS級1位の暴虐武人。今回の事件で初動から動かなかった事からも、ギルドの要請にあまり頷かない問題児である。

 大金、もしくは情報を売って働かせるしかない。

 蔵内は次の戦地の情報を職員から聞く。

 

「佐賀では天呪の法団が戦線を維持しています。しかし、それも時間の問題かと」

「追加戦力、並びに補給を怠るな」

「承知しました」

 

 佐賀は問題ない、と蔵内は判断する。

 

「高知では千火桜嵐が全てのモンスターを討伐。現在は(ゲート)に戦力を投入し、攻略中との事」

「……私は(ゲート)内への侵入は許していないのだが……まぁいい」

 

 相変わらずの独断専行をするクランに蔵内は頭痛がするが、今回は戒める時間も欲しい。放置する事にした。

 

「兵庫ではD.R.A.G.O.Nが後一日もあれば制圧できると報告が来ています」

「分かった。しかしくれぐれも油断はしない様に通達しろ」

「はい」

 

 流石は政府直轄のクランだと評価しながらも、過去に何度も特級に喧嘩を売って壊滅させられた実績から釘刺しを徹底する様に指示を出す蔵内。

 

 そして、最後に……。

 

「東京では――例のあのモンスターの攻略に苦戦しています」

「……そうか」

 

 今回の全国五ヶ所に異界化侵攻現象を引き起こさせたイレギュラーモンスター――【不死の王・ノスフェラトゥ】。

 このモンスターは驚く事に、こちらの世界の言語を理解し、使用し、こちらにコンタクトを取って来た。

 

 毎月100万人の生贄を差し出すのならば、種の存続を許す、と。

 

 当然その様な言葉に首を縦に振る国ではなかった。即刻白銀ギンガ率いる白銀騎士団にて討伐を試みるが――未だにできないでいた。

 

「不死の王、か……」

 

 ノスフェラトゥの出現から、既に1週間。その間白銀騎士団は絶えずこのモンスターと戦い続けていた。

 白銀騎士団は、その所属する探索者の人数の多さを利用して全部隊をローテーションして攻め続けた。それにより長期戦闘を可能にしたのだが……。

 

「デタラメな能力だ」

 

 この一週間で手に入った情報は、相手の能力のデタラメさだ。

 ノスフェラトゥには物理攻撃が効かない。魔法攻撃はS級クラスの威力が無ければダメージが入らない。時間経過による自動回復がある。一定のダメージが入ると再生能力をし、一気に回復する。

 

 そして――一度受けた攻撃の完全耐性能力。

 これにより、初めは有効だった白銀ギンガの魔法無効化の能力が乗った聖剣ジ・オリジンの斬撃が、今では全く効かなくなっている。

 現在は、魔法部隊を軸に様々な魔法を使用する事でダメージを与える作戦を実行中。無効化できる攻撃は一度に一種類の様で、そこに白銀騎士団は希望を見出そうとしているが……。

 

「……特級が敵わなかった相手に、我々は勝てるのか?」

 

 火ノ神カグラ。氷室セツナ。空閑アキラは行方不明。ギルドの見解としては既に敗北している。

 唯一残っている烏丸ナユタは起きる気配なし。

 

 今だけは、動いてくれと思わずにはいられなかった。

 

 そして。

 

 人類が生き残るのに、最後に残っているワイルドカード。

 

「――影森クロト」

 

 彼が居なくなって既に5日経っている。

 

 

 

 

『みんな、ごめんね。楽しみにしていたのに』

 

:気にしないで

:こればかりは仕方ないよ

:歴史的最悪な災害だから

 

『うん。そうだようね。でもやっぱり……悲しいし、悔しいよ』

 

:うん……

:ダンジョンはこの星を生き返らせたけど、同時に奪ってもいるんだよね

:だから宇宙から帰ってくる人類は割と少ない

:日本以外の土地はまだ死んでいるしね

:石動大地は帰って来た人類の子孫だけどね

 

『……私、本当は探索者に憧れていた時期があったんだ』

 

:それは初耳

:あ、メン限で言ってたやつか

 

『うん。友達がダンジョン災害で怪我しちゃって、なにくそー! とモンスターを倒したいって、ダンジョンを攻略したいって。そうすれば敵討ちじゃないけど……抵抗はできるって示したかった』

 

:うん

:そっか

:そうだよね

 

『でも、私にはそういう才能がなくて。周りの人達は覚醒して……あ、無理なんだなって』

 

:全員がなれるわけじゃない

:それに、なれても才能の差がある

:簡単に死んじゃう世界だし

 

『……それでも私は――泣いている誰かを救いたかった。あの時泣いているあの子を助けたかった! その力が……欲しかった』

 

:しおちゃん……

:……うん

:悔しいよね

 

『だからライブファーストにスカウトされて、Vtuberになって……私の配信で救われたって言ってくれる皆には感謝しかできなくて、だからライブでその気持ちを少しでもかえし、たく……て!』

 

:泣かないで

:わかってる。わかってるから

:しおちゃんは悪くないよ

 

『――ごめんなさい。こんなことを言う為に、今日枠と取った訳じゃないのに。こうしている間にもたくさんの人が頑張っているのに。私のことばかり……!』

 

「……」

 

 暗闇の中、彼はキーボードを叩く。

 

:君はたくさんの人を救っている【クロトカゲ】

:大丈夫だよしおちゃん

:みんな、わかっているから。しおちゃんの事好きだから。

 

 彼は想いを綴る。届かなくても良い。ただ刻み込む為に

 

:俺も救われた。だから恩返しさせて欲しい【クロトカゲ】

 

 チャットを打った後、クロトカゲ……否、影森クロトは珍しく最後まで推しの配信を見ることなくスマホをしまった。故に知らなかった。

 

『――クロトカゲさん。いつもありがとう』

 

 自分に向けた推しの言葉を。

 

 

 

 

 特級案件対応課。通称、特対課。

 ダンジョンギルドに設立された特級(ラスボス)最深領域(ラストダンジョン)に関する事案を受け持つ部署である。

 山本文義はそこに所属しているが、彼はこの仕事に対してやりがいを感じた事はなかった。原因は、特対課の周囲からどのような評価をされているかにある。

 

 特級やラストダンジョンといえば、人類が太刀打ちできない存在であり、同時に存続に置いて最も注意しなければならない存在だ。故に、本来なら特対課の仕事は重要視される……筈なのだが。

 

「おま! そこでメテオするなよ!」

「いや、普通にするだろ」

 

「それでさー、彼氏がさー」

「えーあり得ないじゃん」

 

「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ」

「もぐもぐもぐもぐもぐ」

 

 周りを見渡さなくても、真面目に仕事をしている者は皆無。各々好きに行動しており、とても社会人とは思えない。

 

 特対課は、左遷された無能な人間か変人しか集まらない巣窟。それが、ギルド内での立場だった。

 何故そうなってしまったのか? 理由は特級たち、ラスボスにある。

 彼女たちは個人でこの世界の全戦力と戦争し、打ち克つデタラメな力を有している。故に国は彼女たちを止める事が出来ない。ならば監視だけはしようと特対課が設立されたが……。

 

「あ、氷室セツナが一瞬で移動してる」

「時間止める奴追うの無理だろ(笑)」

 

「火ノ神カグラの位置情報偽装されてない?」

「これ、噂のスパイに邪魔されてるじゃん」

 

「烏丸ナユタ、今何してる?」

「寝てる。一ヶ月は起きないんじゃない?」

 

「空閑アキラ何処に居るか分からねー」

「そもそもギルド以上の技術持ってる相手を捕捉できる訳ないよね」

 

 監視すらできない。監視しても意味がない。それが特級。故にラスボス。彼らの仕事に意味はなかった。

 ならばラストダンジョンの出現や計測をしようとするも、すぐに特級……特に氷室セツナが攻略してしまう為、これもまた意味がなかった。

 

 その結果、特対課は特級の動きを日報で報告し、時折発生したラストダンジョンを誰が攻略したのかを調べて、これもまた報告するだけの部署となっていた。

 当然やりがいはなく、此処に配属された人間は自主退職するか、堕落して寄生する者、後は個人的な目的で残る変人のみに分かれる。

 

 山本はとある仕事のミスによりこの課に配属され、真面目に働いて返り咲こうとしていた。無理なのに。

 頭の片隅では理解しつつも彼は精力的に働き――一つの変化が起きた。

 

 影森クロトの発見である。

 

 ギルドは彼をどうしても手に入れたかった。しかし機嫌を損ねて五人目の特級にはしたくなかった。そこで取った手段は、特対課に対応させる事。

 もし問題が起きればトカゲのしっぽ切りができる様に、上層部は考えた。そこでスカウトマンとして選ばれたのが山本だった。彼は特対課の中で最も真面目に働いていたが故に、成功すれば部署異動も検討をすると言えば、彼は断ることなく意欲的に引き受けた。

 

 ――しかし結果は失敗。

 影森クロトはS級昇格を断り、配信ではリスナー達が彼の誹謗中傷をしている。現在、ギルドの情報部が対応しているが火消しに苦戦しているらしい。

 

 だが、山本はどうでも良かった。

 

「あぁああ……やる気がでない」

 

 ノアを渡す事に成功したが、失敗は失敗。彼の部署異動の話は無くなった。そもそも在ったのかすら怪しい。

 山本はすっかり不貞腐れてしまった。

 

「山本さーん。こっちでケーキ食べます?」

「いらん。甘いのは苦手なんだ。てか、仕事しろよ」

「仕事しろって言われても、することないですよ。計測器を眺めるだけですし」

 

 そう言われて、山本もまた目の前のモニターに視線を移す。そこには魔力の異常値を常に出し、使い物にならなくなった計測器があった。

 

 現在、世界は混乱に満ちている。

 ラストダンジョンのブレイクにより、世界各地で異界化侵攻が起きている。五大クランを筆頭に多くの探索者がこのイレギュラーを鎮静させようと動いている。

 

 そして、特級探索者三名の所在不明。

 記録から、氷室セツナと火ノ神カグラは今回のブレイクしたラストダンジョン内に居た筈だが……都合が良ければ彼女たちは死んでいる。しかし、これまでの実績からその可能性は低い。傷を負って何処かで回復に努めているのだろう。

 

 空閑アキラは元から捕捉できていない。今回のラストダンジョンに関与している痕跡がない為、静観している可能性が高い。もしくは、彼女が今回のイレギュラーを起こした可能性もある。

 

 烏丸ナユタは睡眠期に入っている。彼女は欲求に従って動く為「寝たい」と思ったら、目覚めるまでずっと眠り続ける。最長で一月眠り続けていた記録が存在する。

 なお、邪魔をすれば死んだ方がマシと思える程の暴力の嵐に晒される為、ギルドは近づかない様にしている。

 

「世界は大変だっていうのに、俺たちは暇だな」

 

 不貞腐れた彼はそう言って、天井を仰ぎ見る。

 もう自分が何をしても変わらないと諦めて。

 

 ――PRRRRRRR。

 

「なんだ? 電話?」

 

 しかし――彼が渡した一つの名刺が、山本の人生を変えるきっかけとなった。

 通知には【影森クロト】と記されていた。

 

 

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