ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜 作:カンさん
とある学者はこう言った。ダンジョンは異世界からの侵略兵器だと。
こちらの世界と違う法則で成り立つダンジョンは、ブレイクすると現実へと現れそこに住まうモンスターの侵攻、環境の侵食が起きる。
つまり世界同士の生存競争が、現在地球で起きている現象だ。
そして――ラストダンジョンは、他の
もしかすれば――この地球も、他のラストダンジョンから見れば同じなのかもしれない。
「鬱陶しいな」
時を止め、セツナはノスフェラトゥが逃げながら展開した弾幕を回避し、一歩リードする。
能力を解除すると同時に、背後で爆音。
チラリ、と後ろに視線を向ければクロト達がそれぞれの能力で弾幕をゴリ押しで打ち消していた。一つ一つが通常のダンジョンを崩壊させるエネルギーを有しているというのに。
:凄い光景だ
:当たり前の様に全員あの弾幕を対処している
:化け物だ
【くそ! くそ! くそ! 何なんだこいつらは!】
悪態を吐くノスフェラトゥに、カグラが微笑みながら言う。
「あら? 先に喧嘩を売ったのはそちらでしょう?」
【喧嘩だと? これは戦争だ!】
:戦争? どういう事?
:ダンジョンは異世界迷宮って呼ばれているんだけど、向こうにも人が居て生存競争している説を聞いたが……
:もしかしてガチの話?
:クロト君が異世界人ならあり得るな
カグラの言葉が癪に障ったのか、彼女に向かって集中して弾幕が展開される。
その隙に他の特級たちは前へと進み、カグラは囮にされた事にイラっとする。
しかしダメージを受けた傍から再生し、余裕の表情を崩さない。
【我は幾度も世界と戦い、殺し、犯し、潰し、そして勝利してきた! 我が世界を守る為に!】
――ノスフェラトゥは元は人間だった。
【先に逝った同胞の無念を晴らす為に、我は誓ったのだ――この狂った運命に復讐すると】
尊敬する父が居た。優しい母が居た。よくケンカする弟が居た。甘えて来る妹が居た。
【我はそこの負け犬とは違う――貴様だ! 影森クロト!】
背中を任せる親友が居た。己を導いてくれた師が居た。愛しき幼馴染が居た。
【世界を守れず! 己を守れず! 生きる意味を失った敗北者! 我の眼は、既に貴様の歴史を捉えているぞ!】
しかし、全員死んだ。世界ごと滅んだ。全てをノスフェラトゥに託して。
夢を。希望を。願いを。未来を。過去を。
【我は貴様を否定する! 我は貴様を嫌悪する! 我は貴様を――絶対に認めない!】
それが、ノスフェラトゥを永遠に縛る呪いとなる事を知らずに。
:……そうか、この人も人間だったんだ
:悲痛な叫びだ
:何年……いや、何千年戦っていたんだろうな
ノスフェラトゥの魂の叫びにリスナー達が感化される。
「聞くに堪えんな」
「同感」
:ひでぇ
:流石ラスボスさん
:人の心ないんか?
しかしラスボス達にとってはどうでも良い事らしく切って捨てるその姿に、リスナー達はドン引きした。
セツナが吹雪を起こし、アキラのエメラルドの弾幕がノスフェラトゥを穿つ。
分身体は既にボロボロとなり、今にも消えそうだ。二人の攻撃で勢いよく地面に投げ出された分身体に、ナユタが飛び掛かる。
「おらぁっ!!!」
ズドン! と轟音が響き渡り、分身体が消滅する。
:やったか!?
:はいフラグ
5人は、新たな分身体が襲い掛かると踏んで警戒するが――何も起きない。
いや、それよりも気になる事があった。
:なんだあれ
:洋館?
:多分ノスフェラトゥの本拠地。別の言い方をすると……思い出の家
クロト達の視線の先にボロボロの屋敷がある。セツナとカグラが初めてこのダンジョンに入った時に見つけたものだが……。
「どうやら此処に連れて来たかったようですわね」
カグラの呟きは正解で、空間が軋むほどの魔力が場を支配する。
先ほどまでの分身体とは比べ物にならない程の濃密で、昏く、冷たい――死の気配。
「――これだけは使いたくなかったんだがな」
:!?
:さっきの化け物みたいな声じゃない!?
:声フェチだから分かるけど、これは美少年の声です
全員が声のした方へと顔を上げる。
そこには、白い髪に赤い瞳を持った幼さすら感じる美少年がそこに居た。
その身には黒いローブを纏っており、その背後にはノスフェラトゥが――10体。
この少年が何者なのか? という疑問は誰も抱かない。その魔力が雄弁に正体を語っているが為に。
:もしかして今までのは本気じゃなかったパターン?
:いや、鑑定で視たところ魔力の揺らぎが凄まじい。これは急激な成長をした時に見られるものだ
リスナーのコメントの通り、ノスフェラトゥは己の体を
「どうやら、これまで蓄積させていたラストダンジョンを全て飲み込んだみたいですわね」
「貴様らみたいに狩った傍から飲み込む訳がなかろうが」
カグラの発言とノスフェラトゥの返す言葉に、リスナー達は違和感を覚える。
:どういう事?
:ラストダンジョンを飲み込んだ?
:……なるほど、そういう事だったのか
:知っているのか、神の眼!?
鑑定スキルを持っているリスナーは、今日初めて理解した――特級たちの強さの秘密に。
:以前から考察されていたが、恐らく彼女たちは単独でラストダンジョンを攻略した事で、一つの世界をその身に宿しているのだろう
:ん?
:どういう事?
:つまり――。
ダンジョンは全て魔力で形成されている。その質量の差によってモンスターの強さや環境の過酷さ、そしてドロップする宝のレア度が変わる。
そして、それはラストダンジョンも同様だが……このラストダンジョンを攻略した時、ある条件を満たすと不思議な事が起きる。
一つ、ラストダンジョン内に侵入した人間が一人である事。
一つ、ラストダンジョンが求める
その資格はラストダンジョンによって異なるが大抵は碌でもない。
例えば、負の感情を限界まで抱えていた人間の遺体を祭壇に捧げ、その首を落とした者。
例えば、親殺しの罪を背負い、さらなる罪を犯す意思を持って、己の胸に太刀を突き刺した者。
例えば、清浄なる乙女である証を示し、その身を余すことなく晒した者。
例えば、大きな喪失を抱きつつも、執着心を捨てずに世界よりも個人を優先した者。
例えば――世界に捨てられ、新たな世界を望んだ者。
この2つの条件を満たすと――その者は、その
適合した者には超常の力が授けられる。息をする様に時を止める事ができる。絶対に朽ちない肉体を得る事ができる。不死の肉体を得る事ができる。運命を断つ力を得る事ができる。全てを飲み込む闇の力を得る事ができる。
:S級が勝てる訳がない――我々は選ばれなかった人間だから。
そして、ノスフェラトゥは愛しき人々の死によって力を得た。
「僕は負けるわけにはいかないんだ。死んでいった皆の為に」
ノスフェラトゥが手を掲げた瞬間、空間に穴が空き、そこから黒く染まったエネルギー状の茨が飛び出す。
狙われたクロト達は回避行動に移る。カグラでさえも。当たったらやばい、と本能で理解していた。
標的を失った茨がダンジョン内の地面に突き刺さると、腐食してそのまま朽ち果てる。まるで猛毒の様だ。
「ふん。当たらなければどうという事は無いな」
時を止めてセツナはノスフェラトゥの背後に立つ。そのまま己の槍を背後から突き刺そうとするが――。
「ちっ」
時間停止を解除した瞬間、襲い掛かる茨をセツナは跳び退がる事で回避した。
やはり意識まで止める事ができないのは不便だ。簡単にカウンターされてしまう。
内心そう愚痴りながら、セツナはクロトの隣に降り立つ。
「滅せよ」
ノスフェラトゥの背後にいる分身体が魔法を繰り出す。
炎、氷、雷、岩、風、光、闇。ありとあらゆる属性を孕んだ魔の力がクロト達を襲う。
「しゃらくせぇ!」
ナユタは両腕に巻き付けた鎖を解放し、まるで鞭のように振るい全ての魔法を叩き落とす。
「腐った目しやがって! 気分悪い!」
さらに雷速でノスフェラトゥに接近し、そのまま力の限り頬をぶん殴った。
:容赦無いな
:気に入らなかった。烏丸ナユタが殴る理由としては十分なのだろう。
己よりも年下の姿をした美少年を躊躇無く暴力を振るうその姿に、リスナー達は相変わらずの獣性に慣れつつも呆れていた。
「無駄だ」
「かふっ」
しかし、ナユタの拳は効いていなかった。おそらく完全耐性能力だろう。
腹部に魔力弾を撃ち込まれて吹き飛ばされるナユタは、射線上に居たクロトに受け止められる。
「ならば」
「これでどうだ?」
入れ替わる様に、左右からカグラとアキラが斬り掛かる。
──火ノ神流・剣舞、壱の型【
重く鋭い一撃が炎を纏って首を捉え、
──SLB・シルフィード。
無数のエメラルドの宝石から形成された剣による斬撃が胴体を斬り裂く──が。
「無駄だと言っている!」
彼女達の攻撃は無力化され、解放された魔力の圧で吹き飛ばされる。
態勢を整えて着地した二人は眉を顰めた。
「どういう事でしょうか? 二つの属性なら片方は当たると思ったのですけれど」
「……なるほど」
カグラの疑問の声に対して、アキラは納得した様にノスフェラトゥの分身体を見ていた。
それぞれの瞳の部分が異なる色で光を発している。ノスフェラトゥが能力に耐性を付ける時の特徴だ。つまり……。
「わたし達の攻撃を防げるだけの耐性を持っている、という事か」
「ちっ、厄介な」
「それに複数の……最低10種の攻撃は防ぐみたいですわね」
仮に此処に居る全員で同時攻撃をしたとしても、彼女達の攻撃は届かないだろう。
唯一可能性があるのは──クロトの黒刀か。
:特級でも通らないのか
:どうするの?
:……もしかして
ある可能性が浮上し、リスナー達はざわつき始める。
特級達もその考えに至ったのか、物凄く嫌そうな顔をした。そして、絶対に自分から言い出せなくて黙ってしまう。ナユタだけは察しておらず首を傾げていた。
しかしこの男は違う。
「──」
クロトは彼女達に言った。全員協力しよう、と。
「──くだらん。影森クロトはまだ良い。だが、コイツらは必要無いだろうが」
「何を言っているのでしょうかこのチンチクリンは? 一番役立たずなのは貴女の能力でしょう? あんな弱点見え見えの能力、逆にこちらを窮地に陥れますわ」
「クロト。この馬鹿どもは放っておけ。わたしとお前の能力で事足りる」
「なんだ? お前らもコイツとヤりたいのか? 良いぜ、混ぜてやるよ」
「「「黙れ淫獣」」」
「何だと!?」
クロトはため息を吐いて、片手を上げる。そしてブンッ! と手を振ると彼女達の足元の影から黒い手が伸び、それぞれの尻を引っ叩いた。
「きゃん!?」
「あん♡」
「っ!?」
「お゛!」
同時に、ノスフェラトゥが複数の属性魔法を放ち、全員回避する。
回避を終えた彼女達は、ギロリとクロトを睨みつけた。若干2名、その瞳に情欲が宿っているが。
自分に注目した4人に彼は言った。協力を渋ってこのまま負け犬になるか、下らないプライド捨てて勝つか。どっちか選べ、と。
「「「「……」」」」
その言葉に──彼女達は己の中で折り合いを付ける。
「今回だけだ」
セツナは不機嫌そうに槍を構える。
「仕方ないですわね」
カグラは太刀を振るい、敵を倒すというシンプルな目的に準ずる。
「戦略的に最適なのは、悔しいが正しい」
アキラはライフルを構えて不服な表情を隠さずに愚痴る。
「なるほど、5Pか」
ナユタは特に気にしてないので、これからの戦いに心躍らせる。
:特級が共闘!?
:マジかよ
:これは歴史的瞬間なのでは?
クロトは左腕を掲げてノアの名を呼ぶ。
『はい、マスター。サポートですね』
ノアはその漆黒のボディをドロリと溶けさせると、彼の腕に纏わりつき籠手へと形状変化する。
『システムAI:
形状変化したノアから伸びたスカウターが左目に装着される。
:視点変わった
:もしかしてクロトくんの視点?
リスナーも戸惑うが、アキラもまた戸惑っていた。
「
ちょっとトラブルがあって、とクロトは視線を逸らして言い──。
「虚仮威しだ!」
ノスフェラトゥが魔法の矢を千本作り出し、クロトに向かって解き放つ。
『
しかし、ノアが召喚した聖剣がクロトの手に握られると、一閃して全ての魔法の矢を掻き消した。
「……前に見た時より安定しているな」
便利になった、とクロトは自慢げに言った。
さて、準備は整った。
クロト達は、このラストダンジョンを攻略する為に立ち並ぶ。まるで一つのクランの様に。
◆
「っしゃおらぁあああ!」
ナユタが両腕を振るうと巻き付いた鎖が伸びていく。ジャラジャラと音を立てて永遠に伸びていき、ノスフェラトゥに襲い掛かる。
「効かん!」
ガンガン! と音を立てて弾かれる鎖。それでもなお伸びていく鎖。
ナユタの鎖の伸びる長さに上限はない。ナユタの二の腕に嵌め込まれている腕輪が破壊されない限り、繋がっている鎖は所有者の魔力を喰らって永遠に、自由に動き続ける。
故に、こういう事もできる。
「隙だらけでしてよ?」
「ふん」
伸びる鎖を掴み、そのまま身を任せたカグラとセツナは一瞬でノスフェラトゥと距離を詰める。鎖に意識を向かせて接近に気が付かせない為に。
槍と
「無駄だ! 貴様らの攻撃は――」
余裕の表情を浮かべていたノスフェラトゥが、苦悶の表情を浮かべる。
「ぐっ、まさか――」
「
カグラの額に脂汗が浮かんでいる。どうやら掴んでいる間に聞こえて来る怨嗟の声に精神が蝕まれているらしい。
しかし、クロトの黒刀だけを警戒し、その他を油断していたノスフェラトゥに一撃与える事ができた。ここからが――本番だ。
「……」
「ええ、返しますわ」
影から影に転移し、カグラの隣に出現するクロト。彼は彼女から黒刀を返却されると、隣に並び立つ。
『
ノアがクロトの意図を察し、新たな武器をこの世界に影から呼び出す。
それは、全てを焼き尽くす地獄の炎。
:火ノ神カグラの太刀だ
:相変わらず黒いけど。
彼はそれを構える――
「行きますわよ」
「……」
こくり、と頷いたクロトはカグラと共にノスフェラトゥに向かって駆け出す。
そして繰り出すのは彼女が研鑽と共に磨き上げた末に辿り着いた極致。
カグラの握る太刀から迸る炎が白く輝き、クロトの黒炎と対照的に見る者を魅了させる。
ノスフェラトゥは、この攻撃は不味いと――己の完全耐性能力を貫くと判断し回避行動に移ろうとするが――。
「――動けん!?」
体が動かなかった。四肢に何かが巻き付いて固定されている。
それに気が付いたノスフェラトゥはすぐさま魔法で砕くと、現れたのは透明化していたナユタの鎖。
「バレたぞ」
「問題ない。時間稼ぎは終わった」
どうやらナユタの鎖をアキラの能力で透明化させていたようだ。
余計な真似を! そう叫びたかったが、そんな時間は彼には残されていなかった。
「火ノ神流・剣舞! 拾参ノ型!!」
既に目の前にカグラとクロトが居た。
「――
振るわれた2つの太刀の2つの炎。白と黒が彼の体を燃やし、不死の体を死へと近づける。
「ぐおおおおおお!」
仕方ない、とノスフェラトゥはその炎を分身体へと押し付ける。すると、10体のうち2体が炎に包まれて消滅した。
すぐさま補填しようとノスフェラトゥが魔力を廻らせようとするが――。
『
:次は氷室セツナの槍だ!
:黒い結晶……
カグラと入れ替わる様に、ふわりとクロトの隣に降り立つセツナ。
「行くぞ」
「……」
言葉少なく告げ、クロトが頷いたのを確認すると彼女は槍を掲げる。クロトも同じ動きをした。
「自戒する魂。昇天する魂。朽ち果てる体。世界の理を崩す領域外の刃」
槍に魔力が集い、それが光となって巨大な刃へとダンジョンを照らす。
白銀の光と黒鉄の光がギシギシと世界を揺らす。
それを見たノスフェラトゥは、分身体の復活へと回していた魔力を防壁へと変換させて防ごうとするが――。
「
振り下ろされた2つの光は容易く防壁を貫通し、ノスフェラトゥは斬り裂かれ――肉体に宿る魔力が完全停止させられる。
「バカな……!」
「
鼻を鳴らし、セツナは後ろへと跳ぶ。巻き込まれない様。
『
:烏丸ナユタの鎖!
:つまり……ラッシュか!
リスナーの予想通り、次はナユタが飛び出す。クロトも黒雷を纏い、黒刀を地面に突き刺して駆け出す。
「はーっはっはっはっはっは!」
笑いながらナユタが百の拳を叩きこみ、反対側からクロトも同じ拳を叩きこむ。
「あははははははははは!」
ナユタはノスフェラトゥの体越しにクロトの拳がぶつかる感触を千回愉しむ。
「滾る滾る滾る滾る――たぁああああぎぃいいいいるぅううううぞぉおおおおおお!!」
まるで夫婦の営みを行っているかのように頬を上気させるナユタに、気持ち悪いなとクロトが思いながら万を超える拳を叩きこみ――。
「イくぞ、男ぉ!!!!!!!」
ナユタの絶頂と共に、二人は最後の一発に魔力を、雷を、鎖を腕に集中させてぶつけ合った。
――崩・天・獄・雷。
「がぁああああああああああ!?」
二人に挟まり、地獄の様なラッシュの後に、天を崩す一撃を受けたノスフェラトゥが思わず悲鳴を上げる。
分身体がボロボロと崩れていく。まるで彼の残りライフの様に。その数はあと2体。
『
:最後は空閑アキラか
:ん? 一瞬翼が見えたけど気のせいか?
クロトの手にライフルが出現し、彼の背中で黒い風が荒れ狂う。
そんな彼の隣にアキラが立ち、二人はアイコンタクトをしてその銃口をノスフェラトゥに向ける。
「やめろ……やめろぉおおおおお!」
ノスフェラトゥの体がボロボロと崩れ出す。どうやら限界の様だ。分身体を補填できない時点でそれは明らか。
完全耐性能力も、不死の体も、無限の魔力も――すべてが朽ち始めている。
「全砲門、解放――排除する」
二人のライフルから魔力光線が、そして背後からそれぞれ10本の魔力レーザーが解き放たれノスフェラトゥの体を穿つ。
分身体は全て消え去り、ノスフェラトゥが元の骸骨へと戻る。
魔力を掻き乱された彼は何もできずにその場に膝を着いた。
「後は任せた」
シュウシュウと音を立てて己の武装を冷却させながら、アキラは離れる。
クロトは頷き、地面に……否、ダンジョンに突き刺していた黒刀を手に取る。
【……なるほど】
それを見てノスフェラトゥはようやく理解していた。
彼はこのラストダンジョンのボスである。つまり、ダンジョンと繋がっている存在だ。ダンジョンに黒刀を刺されてしまえば、全てを飲み込む黒刀の力に侵食されるのも道理。
その事に気が付けなかったのは、特級たちの連続の攻撃の所為だろう。
クロトは、ノスフェラトゥの前に立ち、彼の首に黒刀を添えて問うた。
最期に言い残したい事はあるか? と。
【……甘い男だ。今更、残す言葉はない】
ノスフェラトゥは全てを失った。家族も、仲間も、愛しい人も、世界も。
だからこうして自分が負ける時が来ると、何処かで感じ取っていた。
【逆に問おう――貴様はこのまま生きるのか?】
当たり前だ、とクロトは即答する。この世界での生きる意味がある限り、推しの汐しおが存在する限り、クロトはこの世界で生きていくと決めている。
【推し、か……つくづくふざけた男だ――せいぜい生き残る事だ】
その言葉を最後に、クロトはノスフェラトゥの首を刎ねた。
すると、背後にあった洋館がサラサラと光の粒子となって消えていく。まるで浄化されていく様に。
:……勝ったのか?
:ああ! こちらの勝利だ!
:ありがとう! クロトくん!
:特級もお疲れ様
:やったぁああああああ!
リスナー達が喜ぶ中、クロトは振り返る。そこには疲れ切った特級たちがその場に座り込んでいた。ここまで消耗している彼女たちは珍しいだろう。
そんなラスボス達を見ながらクロトはノアに問い掛ける。
『何でしょうかマスター?』
今なら、S級でも彼女たちを殺せるけど……するの? と。
その問いに対してノアは――。
『いいえ、致しません。マスターがそれをお望みでないでしょうから』
変わっちゃったね、とクロトが言うとノアは柔らかい声で言った。
『マスターのおかげで私は生まれ変わりましたので――すべてはマスターの為に』
:え?どういう事?
:なんかこのAI前より人間味が増してるね
だったら、良いや。
消滅していくラストダンジョンの中、リスナー達が不思議そうにするなか、クロトは思った。
これで3Dお披露目ライブを見る事ができる、と。