ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜 作:カンさん
白銀騎士団の活躍により、モンスターを撃退しながらダンジョンの最下層に辿り着いたクロトは大きな扉を見上げていた。
「この先にこのダンジョンのボス、メタルドラゴンが居る」
ここまでの道中の動きの批評を部下たちに伝えていた朝霧は、クロトの隣に立ち口を開いた。
「このダンジョンはまだ未踏破だが、A級にしては難易度が低い方だな。道中、鉱石や宝箱が無いから、他のA級探索者にとって旨味が無いと判断されたのだろう」
ボスモンスターの情報を得た探索者は、このまま自分が攻略するよりも情報を提供してダンジョンギルドから報酬金を得る方がお得だと判断した訳だ。
実際、朝霧の様にB級以下の探索者を連れて修練として使う探索者も多い。此処で引き返してダンジョンを維持するのが通例だ。朝霧もまた当初はその予定だったが、クロトの目的を考慮して今回このダンジョンを攻略するつもりだった。
他の探索者から何か言われるかもしれないが、暗黙の了解だった事もありそこまで言われないだろう、と判断した。
「それでクロトくん。道中、彼らを見てどう思った?」
その問いかけにクロトは「何でそんな事聞くんだろう?」と思いながらも素直に答えた
自分ではできないな。無理だな。と。
クロトの答えに朝霧は苦笑しつつ言った。
「彼らもまた最初からあそこまで動けた訳ではないさ。血のにじむ様な思いをして今の彼らが居る。……クロトくんがそう思えたのなら、今回同行して貰って良かったかもしれないな」
そうなんだ、とクロトはぼんやり思った。
「いつか君も彼らの様に、そしてさらにその先に行けるよ。頑張りたまえ」
最後にそう言って、朝霧は部下たちの元へ向かいこれからのボス攻略の会議を行った。
そんな彼の背中を見送りながらクロトは思う。
自分、知らない人とダンジョンに潜った事ないしこの先もするつもりないけど、連携とかできるのだろうか、と。
影森クロト。言葉足らずな事があり度々意思疎通に難がある事が多い。朝霧とクロトの間で認識のズレが生じていたが……それが正される日は無い。
「よし、入るぞ。全員気を引き締めろ」
そう言って朝霧は扉を開けて中に入り、その後をクロト達が続く。
中はまるでファンタジー世界観にある魔王の間の様に仰々しい。とても広く、これまでの洞窟模様とは一味違う印象を抱く。
「……妙だな」
朝霧は違和感を抱いた。静かすぎる、と。
周りは暗く、何処かに息を潜めているのだろうか? と周囲を警戒する朝霧。
「ねぇ、此処のボスってメタルドラゴンでしょ? 何で居ないの?」
「いや、居ない訳ではない」
不安そうに短剣使いが呟き、それに朝霧が返しつつ魔法使いに指示を出した。
「犬飼。光を」
「はい。フラッシュ・レイ!」
杖の先からこの部屋の天井に向かって光の玉が放出され――暗闇のボス部屋が明るく照らされる。
しかし、メタルドラゴンの姿は無かった。全長50mに及ぶ巨大なドラゴンが、だ。
それを認識した朝霧の判断は早かった。
「全員、撤退だ!」
「え?」
「隊長?」
「これは罠だ! くそ、調査を怠ったなギルドめ!」
白銀騎士団は動揺しながらも朝霧の指示に従って入り口の扉に向かって駆ける。
クロトはドラゴン肉は? と思うも空気を読んで黙っていた。
「あれ、開かない?」
「ちぃ! 遅かったか!」
入る時は簡単に動いた扉がびくともしない。どうやら中に人が入れば絶対に開かない魔法が掛けられているらしい。
「どけ」
ならば、と朝霧が大剣で破壊しようと試みるが……傷一つ付かない。
――空間固定型の魔法か。
感触から施されている魔法を見抜き、朝霧は強行突破は不可能と判断する。
そして、此処から生きて帰るには――。
「全員聞け! どうやらボスモンスターを倒さないと出れないらしい」
「倒さないとって、何処に居るんですか?」
「――恐らく」
朝霧は部屋の中央を睨みつけて、
「あそこだ」
「え? でも何処にも――」
部下の戸惑いの声を無視し、朝霧は前に駆け出し盾を勢いよく前に出した。
瞬間――轟音。それと同時に、突如朝霧の目の前に巨大なドラゴンが姿を現わした。
白銀騎士団たちは、その光景に絶句する。
全く気配を感じなかった。魔法使いたちも魔力による探知を行っていたが引っ掛からなかった。
朝霧がソレを認識できたのは長年の戦闘経験から来る勘だった。
「な、なんだコイツは!?」
槍使いが戸惑いの声を上げる中、ドラゴンに弾き飛ばされた朝霧がメンバーの前に着地しながら答える。
「恐らくメタルドラゴンの亜種進化型……ミラージュ・ミスリルドラゴンだな」
「ミラージュ種!?」
「それにミスリル!? 嘘ですよね!?」
ミラージュ種とは、透明化するスキルを持つモンスターである。魔力による探知も難しく、探索者にとって相手をしたくない厄介なモンスターだ。特に厄介なのは移動時の音や生じた砂塵なども透明化させる為、気付いたら殺されていたとい事案は多い。
さらに最悪な事に目の前のドラゴンの表皮はミスリルという特殊かつレアな素材で構成されている為、魔法攻撃に対して高い耐性を持っている。当然物理攻撃にも強い。
故に白銀騎士団の絶望感は凄まじい。ダメージを与え辛い上に、姿を消して暗殺者の様に殺しに来る巨大なモンスター。
そんなミラージュ・ミスリルドラゴンの等級は――。
「全員、気を付けろ! コイツはA級モンスターなんかじゃない――S級だ!」
「グオオオ――……」
翼を広げて雄叫びを上げたMMドラゴンは、途中で姿を消した。それに伴い、先ほどまで発生していた衝撃と声が消え去る。
朝霧はクロトと白銀騎士団を己の背後で庇いながら、全員に指示を出す。
「ミラージュ種は攻撃の瞬間は姿を現わす! 私が受け止め、全員で攻撃するんだ!」
「しかし隊長! 私たちの攻撃ではとてもダメージを与えるだなんて……」
魔法使いは、魔力を感知できる故にあのドラゴンの脅威も前衛組よりも感じ取っていた。あれは、普通の人間が挑めるものではない、と。
そんな彼女の不安を理解しながらも、朝霧は全員を生き残らせる為に作戦を伝える。
「それでもやるしかない。風間。前川。お前たちは目を狙え。あそこならミスリルの表皮は無い」
「……っス」
「はい……」
「失敗しても良い。できれば万々歳だ。それにどちらかが決めれば良い。
犬飼。二人が仕事を終えれば、あのドラゴンは痛みで口を開く筈だ。そこに魔法を叩き込め。体内なら外から叩くよりも魔法が効く。実在系の魔法……地属性で頼む」
「……分かりました」
「そして大槻。君はもしもの時の為の備えだ。回復役は最後まで生き残る事。それを忘れるな」
「はい」
「そしてクロトくん」
朝霧は一瞬躊躇し、しかしすぐに心を鬼にして言った。
「君は何もしなくて良い。邪魔にならない位置で身構えて欲しい」
当然の判断である。E級であり、戦闘スタイルが不明のクロトを白銀騎士団の連携に組み込む余裕もなく、そして状況打破の糸口になる可能性がないと判断した。実際その通りである。
クロトは素直に分かったと頷いた。そんな彼に朝霧は申し訳ない気持ちになった。彼を巻き込んだのは自分の判断ミスだからだ。
「ただ、もし我々に命を任せられない、と判断したら自分の意志で動いても良い。……その時、我々は君の行動に反対しない。非難しない。受け入れる。お前らも良いな?」
「当然です」
「仕方ないです」
「でも……できればみんなで生き残りたいですね」
そう言って彼らは笑った。ほぼ空元気だが。
白銀騎士団は、クロトが自分たちを囮にして逃げても良いと考えていた。扉が開かない為無理だが、もしかしたら誰かが死んだら開く、という悪趣味な条件があるかもしれない。クロトが自分を守る為にどんな卑劣な事をしても受け入れる。そう明言した。
クロトはその事を理解しなかったが。
故に呑気にあのドラゴン肉、だいぶ余るからダンジョンから出たら焼肉パーティでもしますか? と尋ねた。
その言葉に白銀騎士団たちはポカンとクロトを不思議そうに見て、その後全員笑った。
「いや、笑わせて貰った――そうだな。無事に生き残ったら、ソレも有りだな。存分に楽しんでほしい」
朝霧はクロトに感謝していた。パニックにならずに平静でいる様に見えるのは、状況が絶望過ぎて感覚が麻痺しているからだろう。それでも喚き散らしたり、こちらを罵倒しないでくれて助かった。
それどころか、生きて帰って焼肉しようと、それも自分たちがあのドラゴンを討伐する事を疑ってないような発言に勇気を貰った。
死なせたくないな、と朝霧は思った。部下とクロトは絶対に生き残らせようと誓った。
「――来るぞっ!」
勘が囁き、朝霧は前に出る。そして盾を前に出すと轟音と共にMMドラゴンが姿を現わした。
「おらぁ!」
「てやぁ!」
風間は槍を、前川は短剣を手に朝霧の指示通りにMMドラゴンの目に向かって得物を突き立てる。グサリ、と二人の武器が突き刺さり、MMドラゴンの悲鳴が上がる。
大きな口を開けて魔法使いに向かって見える様に。
「アース・シャベリン!」
上手く行った、と朝霧が作戦成功を確信し、次の動きをしようとして――違和感を覚える。
(なんだ?)
しかし既に犬飼の魔法は解き放たれ、作戦通りにMMドラゴンの口内に向かっている。このまま行けばダメージを与える事ができるだろう。
違和感。
――違和感。
――何に対しての違和感?
朝霧は一瞬の間に視界を動かし――気付いた。
風間と前川の武器に血が付着していない。何故? そこまで考えて――朝霧は駆け出し、クロトと後衛組を吹き飛ばした。
瞬間――鮮血。
「――なっ!?」
「隊長!?」
大槻が目を見開き、犬飼が悲鳴を上げる。
何が起きたのかは、朝霧の片腕が宙を舞っている事からも明らかで――ただ単に、MMドラゴンが背後から大槻たちに奇襲を仕掛け、それを彼が庇っただけだ。
それにより、彼の腕は鋭い爪で切り裂かれてしまった。……ただそれだけだ。
「なんで!? ドラゴンが二匹!?」
「いや、違う。これは――幻影だ!」
ゆらり、と陽炎の様に風間と前川の傍に居たMMドラゴンが消え失せる。どうやら先ほどまでのMMドラゴンは幻で、本体は
つまり。
「こ、こいつ……私たちの言葉を理解しているのか……!」
千切れた腕を抑えながら、苦悶の表情で言葉を零す朝霧。
MMドラゴンは、朝霧の作戦を聞き、彼の指示を聞いて返事をする白銀騎士団たちから役割を判断し、そして大槻を狙った。
にやり、と笑みを浮かべたMMドラゴンが再び姿を消す。まるで卑劣な犯罪者を相手にしている気分だった。
「隊長、すぐに回復を!」
「いらん。それよりも、だ」
朝霧は思い悩む。片腕では仕事が一つしかできない。攻撃を受け止めるか、渾身の一撃を叩きこむか。
彼は自分の一撃ならあのドラゴンにダメージを与える事ができると考えていた。もしダメージを与える事ができないのなら、MMドラゴンが姿を消す理由がない。正面から蹂躙すれば良いのだから。先ほどの手段からも、あのドラゴンは人間の様に慎重にこちらの嫌な事をするのが見て取れる。
「こうなったら……」
朝霧は皆を生き残る為に一つの決断をする。
「風間。次に私がアイツを受け止めたら、私の剣で私事斬れ」
「は!? 何を言っているんですか!?」
「アレの攻撃力は、自慢ではないがS級にも届く。当てるのが難しいが、私の背中から行けば、あいつにも届く」
「そんな事!」
「初めに言った筈だ。生き残れ、と」
「……はい」
風間は己の力不足を恨みながら頷く。
「あの剣はそのままお前にやる。……もっと強くなれ」
「……」
「前川。お前は風間のサポートだ」
「……はい」
前衛組に指示を出した後、朝霧は犬飼に視線を向ける。
「犬飼。風間に
「……分かりました」
次に大槻に視線を向ける。
「大槻。頼んだぞ」
「……はい」
朝霧は息を吐いて、前に出る。
「来いトカゲ野郎。姿くらます陰キャが」
朝霧がそう悪態を吐いた瞬間、彼の背後からMMドラゴンが襲い掛かる。
反転し、盾を受け止めた朝霧は確信した。どうやらこのドラゴン、相当人間味があるらしい。
「はぁあああああ!」
涙を浮かべた風間が大剣を両手に朝霧の背に向かって斬りかかる。このままいけば朝霧ごとドラゴンを斬り殺せるだろう。
故に、MMドラゴンは嗤う。その会話は既に聞いていた。
フッと朝霧の前のドラゴンが消える。今度もまた幻影だったようだ。
風間が絶望の表情を浮かべ、MMドラゴン本体が口を開けて上空から襲い掛かる。
「そうだと思ったよ」
「ワープチェンジ!」
しかし次の瞬間大槻の魔法で朝霧と風間の位置が変わる。それにより朝霧の盾とMMドラゴンの牙が激突した。
驚きに目を見開くMMドラゴンだが、彼らの作戦はまだ終わっていない。
「バインドチェーン!」
ワープチェンジという魔法は、二つの対象を入れ替える魔法。しかし術者の力量によってはその入れ替える範囲を操作できる。
大槻は優秀だ。将来有望の支援、回復に特化した魔法使いで、風間に付与されていた魔法だけをその場に残すことで付与された魔法を風間から朝霧に移すことに成功した。
それにより、朝霧の体から飛び出した鎖がMMドラゴンを縛り上げる。これで透明化はできない。
「貸して!」
「え、あ!?」
そして朝霧の言葉から彼の意図を察していた前川は、何が起きたのか理解していなかった風間から大剣を取り上げそのまま――MMドラゴンの首に叩きこまれた。