ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜   作:カンさん

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第20話

「山本君。今回、君の働きのおかげで世界は救われた。礼を言うよ」

「いえいえ、そんな」

 

 ギルド長室に呼ばれた山本は内心狂喜乱舞していた。

 自分は運が良かった。あの時クロトのスカウト担当になったおかげで、今回の事件の功労者になる事ができたのだから。

 あの日、クロトから連絡が着て彼が求めるままに情報を与えた事により、クロトが参戦。そのまま事件解決に繋がった。山本が評価されるのは必然であった。

 

「それで、君は部署異動を望んでいるのだったな? 君の過去の行動を不問にするには十分な働きだ」

「……そうですねぇ」

 

 蔵内の言葉に、山本は少し悩む。

 このまま特対課を離れるのは簡単だ。しかし、惜しいと考えている自分も居る。

 

 今の自分は、ギルド内で唯一クロトとコネクションを持つ人間だ。これまで自分を見下していた者たちは、今回の件で山本への態度が変わった。元上司はこびへつらっていた。かなり気分が良かった。

 ここで部署異動すれば、クロトの担当から外れるだろう。それは勿体無い気がした。

 

「いえ、私はこのままで良いです。その方が人類に貢献できると判断しました」

「――そうか。ありがとう」

 

 山本の言葉に、蔵内は嬉しそうな表情を浮かべる。彼の中で山本の評価が上がった。

 

 しかし、山本は知らない。

 

(――影森クロト)

 

 蔵内は、国からのとある指示に想いを馳せる。

 

(場合によっては……特級指定、か)

 

 黒記燔濫(こっきはんらん)と呼ばれる他者の能力を複写する力は、対特級として評価され、彼を懐柔する事に躍起になっていた政府だが……あの黒刀を見て態度を一変させた。

 

 あの黒刀は危険すぎると。人類に牙を剥く前に殺処分するべきでは? という声が上がったらしい。また、彼が異世界人疑惑がある事も一押ししたらしい。

 蔵内はそれを強く否定し擁護した為、殺処分は保留されたが……クロトの立場は危うくなった。

 

(なんとしても阻止しなくては)

 

 蔵内はため息を吐く。宇宙(安全圏)から杞憂ばかりする政府には困ったものだ、と。

 

「どうされました?」

「いや、何でもない。今後も頼むよ山本君」

「はい!」

 

 とりあえず、この繋がりは断たない様にしたい、と蔵内は思った。

 

 

 

 

「――素晴らしい」

 

 白銀騎士団、クラン本部にて一人の男がとある配信を見て感動していた。

 紫の頭髪に青のメッシュ。甘いフェイスは女性を魅了し、金色の瞳に見つめられれば同性すら動悸する。

 彼の名は白銀ギンガ。S級2位ダンジョン探索者にして、五大クラン白銀騎士団の団長を務める英傑。しかし、今の彼を表すのに最も適しているのは……。

 

「素晴らしいよ!クロトきゅん!」

 

 クロトガチ恋勢、である。

 

 彼との出会い(一方的)は突然だった。自分の部下がダンジョンイレギュラーに巻き込まれて危機に陥った時、クロトが偶然同行していた為に救われる事となった。さらにはラストダンジョンが発生した時も特級から部下たちを守り、さらには攻略すら見せた。

 

 その時、既にギンガは彼に一目惚れしていた。

 さらに、その後自分の武器を使って特級の烏丸ナユタにダメージを与えてくれた時は〇〇した。

 今では彼の切り抜き動画を何度も再生、SNSで彼のファンアートをいいねしまくり、裏垢では自分と彼の〇〇で〇〇なイラストを保存している。

 

「ああ……早く彼にスパチャを投げたい。もう収益化はしているのだろう? 早く解放してくれないだろうか」

 

 この思いを抑える事ができず、クロトのチャンネル告知を運営しているSNSに長文を打ち込みまくるのが彼の日課となっていた。運営しているのはノアなのだが。

 

「それにしても……」

 

 光悦していた表情から一転、ギンガの顔が険しくなる。

 SNSで彼の目に入って来たとある情報が、彼の機嫌を悪くさせる。

 

:特級たちとクロトくんがオフ会するってマジ?

:オフパコですか!?

:クロトくんはそんなことしない

:クロトがしなくても、特級側はしたいだろうなぁ

:ナユタとか普通にヤらせろって言っているしね

 

「特級どもがぁ……!」

 

 白銀ギンガは、すっかり特級アンチとなっていた。

 彼の中では、彼女たちはクロトに群がる害虫扱いである。以前から人類に貢献しない自分勝手な犯罪者という認識をしていたが、クロトと関わってから完全な敵認定である。

 同時に羨ましくも思った。何故自分は男なのだと。何故彼女たちは女なのだと。

 

「ああ……クロトきゅん、うちに入ってくれないかなぁ」

 

 相変わらずクロトへの勧誘は止まっていない。それは他のクランも同じだが、その湿度の高さはARCグループといい勝負をしているらしい。

 

「――ん? このダンジョンは……」

 

 ふと、ギンガは資料の一つにあるダンジョンの書かれた情報を見て――目の色を変えた。

 

 それから数ヶ月後、世界に激震が走るのだが……それはまた別の話。

 

 

 

 

『――ふぅ。ちょっとお水を飲ませてね』

 

:いいよ

:いい歌だった

:しおちゃんのライブ見れて幸せ

 

 第六次大規模侵攻の後、ライブファーストは汐しおのライブを予定通りに行う事を発表した。

 世界情勢が落ち着いたこと、本人の強い希望、そして何よりファンたちの言葉も相まってそう判断したらしい。

 それに対し否定的な意見も出たらしいが……すぐに鎮静化された。まるで強い力が働いたかの様に。

 

 汐しおは、ライブの初めに【LIVE FAST】というこの箱のオリジナル曲を歌ってスタートダッシュを決め、その後は人気のアニメ曲を中心に歌いながら踊り、同期や先輩をゲストに迎えてリスナー達を楽しませた。

 

 そして時間は経ち、グッズなどの告知を済ませ――汐しおは最後にある人物たちに感謝の言葉を送る。

 

『私がこうしてライブをできるのは、探索者の皆様のおかげです』

 

:それな

:俺たちが生きているのもそうだし

:ありがとう、それしか言えない

 

『でも、今回の災害でたくさんの人が傷ついたと思います。だから、私のライブを見て少しでも元気が出たら、と思います。そして、元気が出たら自分を助けてくれた人の事を思い出してください』

 

:優しい

:そうだな……

:感謝しないと、な

 

『私もしっかりとお礼を言わせて下さい。探索者の皆さんありがとうございました!』

 

 そう言って彼女は頭を下げて、最後に自身のオリジナル新曲をお披露目する。

 途端、コメント欄は加速し喜び、至福の時間を共有する。

 

 そして、その一人であるこの少年もまた――笑顔で汐しおのライブを見ていた。

 

「……!」

 

 クロトは、推しの輝く姿に感涙し、生きていて良かったと心の底から思うのであった。

 

 

『マスター……』

 

 その姿を見るノアの体は漆黒に染まっている。

 彼女は、クロトの汐しおに夢中になる姿を見て嘆く……事は無い。

 もう、彼に人類に貢献すべきだと、特級を排除すべきだと――国に従うべきだと強要する事は無い。

 

 何故なら、彼女は生まれ変わったのだから。

 

 ノアは、大規模侵攻が起きた時なかなか動かないクロトを非難していた。しかし、その際にクロトが「うるさい」と苛立ち交じりに誤って破壊してしまい機能停止。

 クロトは慌てて修復しようと己の魔力を注ぎまくった結果――エラーが発生。AIの中枢部分にクロトの魔力が侵攻した結果、ノアの内部の優先順位が入れ替わり……ノアはクロトの物となった。

 

 つまり、生まれ変わったのである。国? どうでも良い。特級? 好きにすれば良い。現時点で、クロトに害があるのは特級ではなく国の方だ。

 そう判断したノアは国への報告内容をクロトの不利にならない様に改竄する様になった。何やら殺処分を検討しているらしいので、上層部の汚職を現在洗い出している。もしもの時は駆除するつもりだ。

 

『マスター。あなたは思うままにお進みください』

 

 進化した湿度の高い視線にクロトは気付かず、推しのライブを楽しむ。

 ノアはクロトのその姿に愛しさを感じながら、クランからの勧誘メールを一つ一つ削除していく。特に、白銀騎士団からのねっちょりとしたメールは念入りに。

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