ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜   作:カンさん

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第21話

 

 ――此処は、じゃじゃ炎。

 ダンジョンで狩猟される珍しく強く、そして何よりも美味なモンスターの肉を取り扱っている高級焼き肉店である。

 A級、S級ダンジョンに生息するモンスターの肉を食べる事ができるこの店は、S級探索者がよく利用する。以前、クロトは朝霧の紹介でこの店に来ており、その際に自分が狩猟したミラージュ・ミスリルドラゴンを卸した経緯がある。

 元々は白銀ギンガの行きつけの店であり、彼自身がクロトを直接スカウトしようと用意していたのだが……ギルドに呼び付けられてしまい、泣く泣く朝霧たちに任せた。

 

 そんなじゃじゃ炎だが――本日閉店の危機に陥っていた。

 

「【黒曜炎牛(こくようえんぎゅう)】【銀牙(ぎんが)種ワーウルフ】【フレイムバード・エルドラ】【アイスセイバー・タイガー】【メタル・クロコダイル】【ゴールデンマンティコア】……ふん。ゲテモノばかりだな」

 

 メニュー表を見て嫌悪感を露わにする蒼銀の少女。

 凍羅晩像(とうらばんしょう)。氷室セツナ。

 

「貧乏人の貴女とは無縁のお店ですから。不満なら即刻出て行けば良いでしょう」

 

 トングを使い、次々と肉を焼いていく鍋奉行ならぬ焼肉奉行。

 紅蓮魔劫(ぐれんまごう)。火ノ神カグラ。

 

「……」

 

 静かにジンジャーエールを飲み無言を貫く少女。

 颯麟破刃(そうりんはじん)。空閑アキラ。

 

「ガツガツ! ムシャムシャ! ハグハグ!」

 

 焼かれた肉から次々と胃の中に放り込む野獣。

 崩天獄雷(ほうてんごくらい)。烏丸ナユタ。

 

 特級指定・反人類異世界迷宮探索者――通称、ラスボス。

 国家が対策を放り投げた四人。世界が恐れる天敵が四人。人類が対処できない最深領域(ラストダンジョン)を戦場にする四人。

 そのラスボス四人が、どういう訳かこのじゃじゃ炎に集っていた。店長は辞表を出して逃げたかったが耐えた。長男だから耐えた。次男だったら耐えられなかったかもしれない。兄弟いねぇや。

 

「ふん。ダンジョンモンスターのみ取り扱っていると、私が全てのダンジョンを消せば経営できなくなるぞ。さっさと普通の肉を使えば良い」

「何を世迷言を。そんな事できる訳ないでしょう。それに、家畜をコロニーから取り寄せるには莫大な関税が掛けられています。ダンジョンから獲れたお肉を使うのは賢いと思いますけれど?」

「そのダンジョンが無くなると言っているんだ」

「わたくしがさせませんから無理です」

 

 ピシッ! と店の壁に亀裂が入る。それに恐怖したアルバイトが逃げ出した。しかし店長は責める事は無いだろう。自分だって逃げたいもん。

 

「炭火焼き特選カルビ追加」

「……」

 

 ナユタの要望に、アキラがタブレット端末を操作して注文する。

 

「ダンジョンの完全支配か? それこそ無理だろう。あの骸骨に単独で勝てない貴様が、どうやって全てのダンジョンを……全ての異世界を支配するというのだ?」

「既に方法は確立させていますので。それに、貴女こそあの骸骨に手も足も出なかったではありませんか」

「目が腐っているのか? 私がいつ遅れを取った?」

「敗北を認めない愚者はすぐに潰れますわよ?」

「……ちっ」

 

 パキッ! と床に罅が入る。勤めて数年の新人スタッフが逃げ出した。しかし店長は呼び止めなかった。気持ちはよくわかるから。でも自分の手も引っ張って欲しかった。こわいよたすけて。

 

「熟成銀狼タンの薄切り炙り追加」

「……」

 

 ナユタの要望に、アキラがタブレット端末を操作して注文する。自身もジンジャーエールを追加注文した。

 

「そもそも何故貴女が此処に? ダンジョン産の食物アレルギー持ちの貴女が来る場所ではないでしょう」

「別にアレルギー持ちではない。それに、私が此処に来たのは抜け駆けされない為だ。飯を食いに来たわけではない」

「……」

「貴様、クロトを使って目的を果たすつもりだろう?」

「それは貴女もでしょう?」

「ふん」

 

 特に隠すつもりがないセツナ。何も言い返さないがその態度が答えを現していた。

 彼女は、クロトの黒記燔濫(こっきはんらん)に目を付けていた。S級どころか特級である自分たちの力を複写できるあの能力は魅力的だった。あの力を自分の物にできれば――全てのダンジョンを消す為の()()を実行できる。そう判断した。

 

 セツナは、自身が最もクロトの価値を理解していると思っていた。

 

 対して、カグラが注目したのはあの黒刀だ。世界の全てを飲み込んだ深淵の闇。あれこそが己の目的を達成する為の最後のピースだと判断した。

 故に彼女はクロトを自身の傍に置く為に暗躍している。とある企業の株は既に三分の二を購入しており、いつでもクロトをコントロールできると自負している。

 今回は食事をしつつ己の()を使い篭絡しようとしていた。誘った時も「行けたら行く」と言っていたので、彼女は勝利を確信していた。

 

 カグラは、自身が最もクロトと近しい存在だと思っていた。

 

「そして、お前もそうだろう空閑アキラ」

「……」

「相変わらずコソコソと色んな場所を嗅ぎまわっているようだな」

「あと、いい加減わたくしの子飼いにちょっかい掛けるの辞めてくれます?」

「ふん。やかましい奴らだ」

 

 コトッ……とグラスを置き、アキラは可哀そうな物を見る目でセツナとカグラを見る。

 

「そもそも貴様らはアイツを何も理解していない。はっきり言って、先ほどの会話は滑稽過ぎて聞くに堪えん」

「なんだと貴様」

「聞き捨てなりませんわね」

 

 アキラは、世間が注目する前からクロトの存在に気が付いていた。そして、あの時クロトを実際に見て自分が求める人物だと確信した。

 彼女は誰よりも早くクロトの異質さに気づき、彼が異世界人である事を知り、そして彼の人生の転換を知っている。だからこそ――彼の存在自体が、己の目的を達成する鍵になると期待していた。

 

 アキラは、自身が最もクロトを理解していると思っていた。

 

「アイツはオレのだぞ」

「「「は?」」」

 

 地獄のチキンレッグを貪りながら、ナユタは言った。

 

 ナユタは……特にない。三人の様に明確な目的はない。クロトの力も良く知らない。彼の出自を知らない。彼がダンジョンに潜る理由を知らない。それどころか普段何処で暮らしているのかも知らない。というよりも興味がない。

 

 しかし――クロトは男であり、ナユタは女である。だから求める。体が求める。情欲が求める。本能が求める。心が求める。あの強い雄を。

 

 ナユタは、自身が最もクロトの強さを認めていると思っていた。

 

「だから、貸してやるのはやぶさかじゃねぇが、あまり勝手な事をするなよお前ら」

「「「……」」」

 

 やれやれ、と困ったように肩を竦めるナユタに――三人は切れた。

 

「ふざけるなよ貴様」

「この駄犬が……首を斬り落としてあげましょうか?」

「ちっ」

 

 店自体が悲鳴を上げる様に、至る所から音が鳴る。

 勤めて10年のベテラン店員が逃げ出した。店長とは親友と言っても良いほどの仲だった。しかし店長は咎めない。自分も店長じゃなかったら逃げていただろうから。とりあえず連絡先からは消した。

 

「あ? オレおかしい事言ったか?」

「おかしい事しか言っていないだろうが」

「そもそも貴女はクロト様の〇〇〇しか興味ないのでしょう? さっさとセッ〇スして、二度と関わらないでくださいまし?」

「下品すぎる」

「そもそもお前らはどうなんだよ? アイツとヤりたくないのか?」

「そういう目で見る訳なかろうが」

「わたくしはやぶさかではないですわね。まぁ、わたくしに対する態度に不満がありますので、調教したいところですが」

「馬鹿どもが」

 

 ナユタのせいで、食事中にするべきではない話題が展開される。

 残った店長は少しクロトが羨ましいと思った。ラスボスとはいえ、ここまで見た目麗しい美少女に求められる状況に。

 しかしすぐに考えを改める。誰を選んでも殺される可能性が高い。どんだけ難易度高いエロゲーなんだ。

 

 ――PRRRRRR

 

「あら、クロト様からお電話ですわ」

 

 ちゃっかり連絡先を交換しているカグラは、勝ち誇った顔でスマホを取り出す。

 セツナは舌打ちし、アキラは鼻を鳴らし、ナユタは金毛の背トロ焼きを口の中に放り込んだ。

 

「もしもしクロト様? 少しお邪魔虫が居ますが既に店に――は? 良かった? どういう――行けない? ドタキャンですか?? え? 推しが宝石の花を見たいと言ったから獲りに行く? いえ、それよりも今日は来てくださると……? え? 行けたら行くは行かない確率が高い? また今度? ちょ、まっ、貴方がふざけんじゃねぇですわよ!? 待ちなさい! 待って! 待てやごら!?」

 

 ――ブツ。ツー。ツー。ツー。

 

「……」

 

 電話が切れたスマホを手に呆然とするカグラ。自分との予定を放りだすとは思っていなかったらしい。自身が食事の誘いをして、断るなどあり得ないと思っていたからだ。彼女は全ての男は自分に傅くと当たり前の様に考えているからだ。

 

 対して、他の三人は――腹を抱えて笑っていた。

 

「……何を笑っていますの?」

 

 カグラの全身から炎の魔力が噴き出し、手に持ったスマホはバキッと握り潰される。

 しかしセツナたちは全く恐れた様子を見せずに一言。

 

「滑稽」

「哀れだな」

「負け犬」

 

「コ ロ ス」

 

 

 一週間後、じゃじゃ炎は閉店した。というよりも店自体が無くなっていた。まるで隕石が落ちた様にクレーターができており、店舗は見る影もなかった。

 なお、店長は仕事を辞めて実家に戻り、そこで10歳下の可愛らしい美少女と結婚してスローライフを送る事になったのは別の話。

 

 あとこれはどうでも良い事だが、通報を受けて駆け付けた白銀ギンガはウェルダンに焼かれて道端に放置されたらしい。

 

 

 

 

『マスター。この先にあるそうですよ』

 

:ノアちゃん有能

:前より話す様になったよね

:それにしても宝石の花か。誰かに送るの?

 

 ノアの案内の元、クロトは配信をしながらダンジョンに潜っていた。

 そんななか、念話魔法で送られたリスナー達のコメントでは彼がこのダンジョンに潜る事に疑問を抱いているようだった。

 

 彼らは知らない。クロトがダンジョンに潜るのは何時だって変わらない事を。

 

「推しが欲しいって言ってたから」

 

 クロトは、推しの一言でダンジョンを攻略する事を

 




これにて第一章は終わりです
第二章はカクヨムでの投稿が終わり次第になります
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