ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜   作:カンさん

3 / 21
第3話

 甲高い音が響き渡る。何かが割れる音だ。

 

「――そんな」

 

 目を見開く前川の目の前には根元から折れた朝霧の大剣。

 

「前川ぁ! 避けろぉ!」

「え? あ――」

 

 ぶぉん、と全身の鎖を引き千切りながらMMドラゴンの尾が前川に直撃し壁に吹き飛ばされる。

 

「前川ぁ! ぐっ……!」

 

 叫ぶ朝霧をうるさい、と言わんばかりに牙を盾に食い込ませるMMドラゴン。

 その光景を見て朝霧はようやく理解した。

 自分たちは遊ばれていたのだ。盾で防げていたのも手加減されていたからで、透明化していたのもその方が面白かった。ただそれだけだ。

 

 全てが間違っていたと確信した朝霧は叫ぶ。

 

「――全員、救助が来るまで耐えろ!」

 

 朝霧たちは知らないが、現在彼らの配信は多くの人間が視聴している。既に状況はギルドに伝わっており、救助隊も組まれている。

 

「私が――オレが衛る! だから全員、自分の命を――」

 

 ふっ……と、盾に感じていた圧力が無くなり、次の瞬間朝霧は巨大な手で叩き潰された。

 

「隊長!!」

「いやぁあああああああ!!」

 

 その光景に絶望する白銀騎士団。朝霧は何とか死んでいないが、それでももう動ける状態ではなかった。しかし出血も酷く、このままでは死んでしまう。

 

「もうだめだ。おしまいだ」

「ちくしょう、ちくしょう!」

 

 皆が叫ぶ中――クロトはどうすれば良いんだろう、と悩んでいた。

 朝霧に何もするなと言われて動かなかったが、その指示を出した朝霧も気絶した。彼が居なくなった後の行動を聞いていなかったな、とそんな事を考えていると。

 

「誰か……誰か助けてくれ!」

 

 風間のその言葉を聞いて――ああ、助けて良いんだ、とクロトは理解を示した。

 

 

 

 ようやく彼は動く事ができた。

 このダンジョンで活動するには、彼ら白銀騎士団の指示に従わないといけない、と受付嬢に言われていたから。

 推しが求めるドラゴン肉を得る為に、クロトは「助けて」という指示に従う。

 

 

 

 

 助ける、を遂行するにはまず朝霧を助ける必要がある。そう判断したクロトは駆け出す。MMドラゴンがトドメを刺そうと再び腕を振り上げたからだ。

 

「やめろ! やめろおおおおお!」

 

 そう叫ぶ大槻の横を通り過ぎ、一瞬で朝霧の元に辿り着いたクロトは。

 

 

 ちょっと邪魔。そう言って黒く染まった腕でMMドラゴンの腕を裏拳で吹き飛ばした。

 

「――は?」

 

 絶望に支配されていた空気が払拭された。MMドラゴンが、風間と同じ様に壁に向かって吹き飛び勢いよく叩き付ける。

 見間違いでなければ、MMドラゴンの腕の表皮にヒビが入っている様に白銀騎士団のメンバーは見えた。

 全員が動けないなか、クロトはマイペースに動く。

 

 とりあえず助けてと言われたので、朝霧を回復させる事にした。

 拾った彼の腕を切断面と合うように置き、何処からともなく取り出したのは魔法の杖。

 その杖を見た犬飼は、魔法使いだからこそクロトの持つ杖が普通の杖ではない事に気が付いた。

 

「嘘。あれってまさかS級の【賢者】のアスクレピオスの杖?」

 

 しかしクロトは気にした様子もなく、杖の力を解放した。すると……。

 

「うっ……」

 

 MMドラゴンに潰されていた肉体が膨らんで元に戻り、千切れていた腕もくっ付く。

 意識を取り戻した朝霧は体を起こし、何が起きたのか理解できずに戸惑いを隠せない。

 

「オレは……」

 

 そんな朝霧に、クロトは一応弁解する。

 みんなに助けてと言われたので助ける事にしました。指示に上書きって事で許してください、と。

 

「……え? 君は何を言って――」

 

 しかし、朝霧の言葉は彼に届く前に、クロトは移動していた。

 瓦礫の中から体を起こしたMMドラゴンは、これまで認識していなかった脅威――クロトを警戒する。

 自分の配下のモンスターを使って白銀騎士団の脅威度は把握していたが――クロトの事は知らなかった。思えば、ダンジョン入り口に潜ませて、背後から偵察させていたモンスターが帰って来なかった。気にしていなかったが、もし片付けられていたとしたら――。

 

 そこまで思考して、MMドラゴンは目の前に現れた()の攻撃を反射で避ける。

 叩き付けられたのは禍々しい形をした巨大な槍。それを見た風間は驚きの声を上げる。

 

「あれはグングニル!? S級探索者【魔槍】の武器じゃねーか!?」

 

 しかしクロトの猛攻は止まらない。鉄槌で頭を砕き、左腕に装着した巨人の甲冑で顎をアッパーでかち割り、右手に顕現した拳銃で風穴を空け、最後に美しい刀身を持つ剣で右の翼を斬り飛ばした。

 その光景を白銀騎士団の面々は呆然と見ていた。

 

「【灰色の伯爵】の武器だよねアレ」

「それに【進撃の鬼人】の拳も使ってた」

「アレって、【千の射手】の愛機……?」

「まさか、アレは【白銀団長】の聖剣!?」

 

 クロトが使ってる武器に皆が見覚えがあった。

 彼が使っていた武器は全て――人類最強枠と言われるS級ダンジョン探索者たちが所有している武器だ。それをクロトは無造作に扱っていた。それも……本来の所有者と同等の力量で。

 

 その結果、白銀騎士団をオモチャの様に弄び圧倒していたMMドラゴンがボロ雑巾の様に蹂躙されていた。自慢のミスリル性の表皮は既に剥がされ、体の至る所が負傷している。

 透明化して逃げようとすれば、まるで見えているかの様に追撃をかけてくる。

 

 なんだこれは。なんなんだこいつは。これは――本当に人間か?

 

「ギャオオオオオオ!!」

 

 ボスモンスターとして、矜持を守る為、MMドラゴンは奥の手である魔力ブレスを吐こうと口を開いた瞬間。

 

 ――これでお肉ゲット。

 

 その一言と共に、全てを燃やし尽くす刀にて、上顎と下顎を泣き別れにするように――そのまま上下に切断されてしまった。

 何をされたのか。どんな武器を使われたのか。自分を殺した未知の能力の正体を知らぬまま――MMドラゴンはあっさりと呆気なくクロトに駆除されてしまった。

 

 

 ズシン、と重い音を立ててMMドラゴンが崩れ落ちる中……クロトは心配になる。

 思い起こすのは、彼がダンジョンに潜る原因となった推しの配信だ。

 

『この前、先輩にドラゴン肉専門の焼肉店に連れて行って貰ったでござる! もう凄く美味しかったんだけど、気軽に行けるお値段じゃなくて椅子から転げ落ちちゃったござるよ!』

 

:ドラゴン肉は美味しいよな

:でもA級以上のダンジョンじゃないと手に入らない高級肉

:そんな高級店に連れて行ってくれた先輩に感謝やな

 

『本当にそうでござる。でもでも、もう一回食べてみたいと思うのは人のサガ……』

 

:仕方ないな。これで食って来な¥50000

:しおしお、これで塩つけて食べてくれ¥10000

:ちなみにスパチャ限度額の数十倍だからな、ドラゴン肉¥50000

:少ないけどこれで許してください¥50000

 

『ちょ!? みんなやめるでござる! お金は大事に! ちょっとやめて!』

 

 汐しお。パーソナルカラーはホワイト。くノ一姿デザインの、ダンジョンとは関係のない配信者グループ【ライブファースト】に所属するVtuberであり、影森クロトの推しであり、生き甲斐であり、そして何より……。

 

『ふぅ。やっと止まった。でも機会があればまた食べたいでござるな』

「……」

 

:分かった。獲ってくる¥50000

 

『ちょ、もうそういうの良いでござるから! でもスパチャありがとうでござるよ、クロトカゲどの』

 

 彼がダンジョンに潜るのは何時だって、推しの一言がきっかけだ。

 

 クロトはその時の配信を思い出しながら、意気揚々とMMドラゴンから肉をはぎ取る為にナイフを取り出した。

 

 ……さっきの刀で焦げてないよね?

 

 

 

 

 推しに送る肉はコレくらいで良いかな?

 白銀騎士団のメンバーと共にミラージュ・ミスリルドラゴンの肉をある程度剥ぎ取ったクロトが満足そうに呟く。

 

「え!? ……クロトさん。もしかしてその肉だけ持って帰るつもりですか?」

 

 風間は、まだまだ残っている肉……いや、それよりも価値のあるミスリルの表皮、爪や牙、内蔵が残されている事実に震える。

 

 自分達が生き残ったのはクロトのおかげ。ミラージュ・ミスリルドラゴンを倒したのはクロトだ。

 風間達が剥ぎ取りをしているのは、せめてクロトの負担を減らす為だ。

 

 クロトは要らないからあげます、と事も無さげに言った。

 

「いやいやいや! そんなの無理っすよ! 白銀騎士団として、いや男として、いやいや人としてそんな不義理なことはできません!」

 

 風間の言葉に、剥ぎ取りの手伝いをしていた白銀騎士団のメンバーは残像ができる程に頭を縦に振り続けた。

 そんな彼らに、クロトはじゃあそのまま捨てようかと軽く言った。

 

「嘘でしょ!?!? ミスリルの素材を捨てる!? これがあればどんなに強い武器ができるか!? どんな値段になるか分からないんですか!?」

 

 魔法使いとしてミスリルの貴重さを誰よりも理解している犬飼の叫びに、他の面々も同意する。

 しかし困ったな、とクロトは眉を顰める。推しはドラゴン肉が食べたいと言っていた。それ以外は別に欲しいと言っていない。ならば剥ぎ取って持って帰っても邪魔になるだけだ。

 

 ……よし決めた、とクロトは名案を思い浮かべて犬飼に言う。

 

 この素材全部千円で売るよ、と。

 

「舐めてんのか」

 

 何故か怒り出した犬飼に、クロトはやっぱり人と関わるのは苦手だなーと彼女の説教を聞き流した。

 

 

 

「……彼は何者なんですか?」

 

 朝霧を治癒魔法で癒しながら大槻は問い掛けた。

 

 かつて、大槻の身に魔力が宿り、その力が覚醒した時……周囲は彼を祝福した。

 ダンジョン探索者になれる人間は、5人に1人と言われる。ある日唐突に力に目覚めた彼らダンジョン探索者の才能には差がある。

 

 大槻は現在C級だが、何度かダンジョンアタックを繰り返せばB級に昇格できるだろう。それだけの才能がある。

 故に――クロトの異常性を理解していた。

 

「分からん。しかし、確実にE級ではない」

 

 探索者の等級はE、D、C、B、A――そしてS級(人類最強格)と段階的に定められている。

 E級(最弱)は力に目覚めていない一般人よりも少し腕力があるくらいで、とてもではないがボスモンスターを一方的に蹂躙できる存在ではない。

 

(特に異常なのは、あの武器たちだ)

 

 朝霧はA級探索者だ。つまり最強の一つ下。実戦経験を何度も繰り返していると、S級の探索者と鉢合わせする事もある。

 故に――信じられなかった。

 

(クロトくんが使っていた武器は――S級たちのものだった)

 

 見た事のある物。配信でしか見た事のない物。――実際に刃を交わした自分たちのトップの聖剣。

 クロトは、影から無造作に取り出し、それら全てを何でもない様に使っていた。

 盗んだ、のではないのだろう。本物と同等の威圧感はあったが、姿形は同じだが黒く染め上がっていた。

 

「何かしらのユニークスキルだろうな」

 

 魔力が宿り、力に覚醒したダンジョン探索者は主に二つの分類に分けられる。

 犬飼や大槻の様に事象に干渉して魔法を操るタイプ。

 朝霧や風間、前川の様に身体能力や武器に魔力を付与して技を繰り出すスキルを扱うタイプ。

 しかし時折、スキルと魔法が融合した様な特異な力――ユニークを発揮する者が現れる。そういう人間は総じてS級ダンジョン探索者へと至るのだが……。

 

「……」

 

 朝霧は、クロトの力はS級ではない、と感じていた。

 もしかして()()()()と同じ様な――。

 

「隊長! 終わりました」

「っ! ああ、お疲れ様」

 

 朝霧の傷はクロトの力で癒されたが、体力や魔力は戻っていなかった。故に大槻の治癒魔法で癒して貰っていた。

 その間に白銀騎士団はクロトの剥ぎ取りの手伝いをしていたのだが、どうやら終わったようだ。

 

 結局、クロトは他の素材を白銀騎士団に売る事にしたらしい。値段は一万円。帰りにコンビニで豪遊できる、と彼は大喜びだ。

 しかし白銀騎士団の面々は納得していない。特に魔法使いの犬飼は憤慨している。買い取らなかったら捨てると言われて渋々了承したらしい。

 

 クロトは朝霧に聞いた。焼肉何処でします? と。

 

「……ははは。そうだな。良い店を探しておくよ」

 

 朝霧は、脳裏に過った考えはあり得ない事だと確信する。

 彼は、影森クロトは()()()()とは違う。自分達を助けてくれた恩人になんて失礼な事を考えていたんだ、と己を恥じた。

 

「よっしゃあ! 朝霧さんの奢りっすね!」

「ちょっと、調子に乗らないの」

「いや、構わんさ。今回危険な目に遭わせたしな。当然奢るさ」

 

 彼の言葉に白銀騎士団は喜びに声を上げた。老若男女問わず、人の金で食う肉は美味いのだ。……朝霧は少し残金が心配になった。

 

「さて。それじゃあさっさと帰る事に――」

 

 ――バチッ。

 

「……なんだ?」

 

 帰還しようとしていた彼らの足を止めたのは、異音だった。

 乾燥した空気に走る静電気の様な軽い……しかし、鋭い音。

 朝霧たちが辺りを見渡す中、クロトは不思議そうな顔で虚空を眺めていた――否、正確には……。

 

「なんだい、クロトくん」

 

 ちょんちょん、と朝霧を指で突いてクロトは問い掛けた。

 

 何であそこにダンジョンの(ゲート)ができているんですか? と。

 

「――は?」

 

 クロトの質問に唖然とした朝霧は、信じられない光景を見る事になる。

 突如彼らの前に巨大な白い渦が現れる。(ゲート)とはまるで正反対な、しかし通常の(ゲート)よりもおぞましく感じる程に不気味だ。

 

「なにあれ!?」

「何でダンジョンの中に(ゲート)が!?」

 

 ()()を知らない者は戸惑い、混乱する。

 しかしそれ以上に動揺したのは――()()を知っている朝霧だった。

 

「――全員、逃げろぉおおおおおお!!」

 

 ミラージュ・ミスリルドラゴンと相対していた時よりも、焦った声色で皆に撤退の指示を出した。普段から冷静で、死にかけた時も毅然とした態度を取っていた朝霧のその変わり様に、白銀騎士団は全力で出口に向かって走り出す。

 

 ダンジョンの等級は、探索者と違いDから始まり、初心者は必ずD級から攻略する。己の力量が上がったり、クランに所属して研鑽を積んだり、パーティを組み連携を戦術に昇華させていけばどんどん難易度の高いダンジョンに挑んでいく。

 人類が攻略に挑める最高難易度はS級。A級なら必ずパーティを組み、S級も個人、複数人関わらずしっかりと準備をしてから挑む程には油断ならないダンジョンだ。

 それでも攻略は可能だ。時間を掛ければ、装備を整えれば、人材を揃えれば。

 先ほどクロトが倒したミラージュ・ミスリルドラゴンも過去に討伐実績がある。

 

 ――しかし、人類ではどうする事も出来ないダンジョンが存在する。

 

 その名は【ラストダンジョン】。等級は定められていない、人類にとっての災害。

 

 ラストダンジョンは、時折ダンジョン内に発生する深淵のさらに奥にある深淵。

 通常の(ゲート)と異なる白い渦を作り出す特徴を持ち、そして何より――。

 

「ぐっ、ダメだ」

「引き寄せられ――」

「きゃあああああ!?」

 

 ラストダンジョンは人間を逃さない。

 引力が発生し、白銀騎士団とクロトは抗う事もできずにそのまま(ゲート)に呑み込まれた。

 

 悪意ある災害。それがラストダンジョンであり――()()()()の戦場だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。