ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜 作:カンさん
「出たな、害虫が」
砂の中から現れたのは骨で出来たドラゴンだった。クロト達が潜ったダンジョンのボスがドラゴンだったからだろうか?
ラストダンジョンの発生条件やその内部構造の変化には法則性が無い為、その様な事を考えても意味が無い。
それに、彼女にとってはどうでも良い事。
「死ね」
彼女が槍を振るうと猛吹雪が起き、スカルドラゴンは氷塊の中に閉じ込められた。
一方、白銀騎士団の元に攻撃の余波が襲い掛かる。犬飼が炎系の結界魔法を展開し、その彼女の魔力を絶えず大槻が回復させることで凍死を避けた。
「スキュリュオオオオオオオ!!」
しかし、スカルドラゴンは雄叫びを上げて氷塊を破壊して脱出する。
セツナに向かって砕けた氷塊の一部が飛んでいくが、彼女は槍を振るって砕きながら明後日の方向へと飛ばしながら叫ぶ。
「はっ! 腐って骨になっても
両者の保有する莫大な魔力がぶつかり合い、バチバチと空間が震える。
一方、白銀騎士団へと氷塊の欠片が雨の様に降り注ぐ。
魔力切れで動けない魔法使い組を庇う様に前衛の三人が各々の武器で氷塊を弾いた。
しかしセツナの魔力で作られた氷だからか、弾き返し切れず風真と前川が負傷。
「何度でも殺してやろう。どの様に葬られたい? 火葬か? 土葬か? それとも博物館に展示してやろうか?」
スカルドラゴンがブレスを吐き、セツナは冷凍光線を放つ。両者の間で激突した二つの力は一瞬拮抗したが、すぐにセツナの光線がブレスを貫きスカルドラゴンを穿つ。
一方、白銀騎士団たちは撃ち抜かれたスカルドラゴンのブレスの余波を必死になって回避していた。スキルも魔法も発動出来る程魔力が残っていない為に。
「助けてくれぇえええ!」
「もういやだぁ!」
「いっそ殺せ!」
半狂乱になりながらも、本能が生存を諦めない。ただただ彼らはどちらかがさっさと倒され戦闘が終わるのを待っていた。
そんななか、衝撃波で髪がボサボサになりながらもクロトは虚空を見据えていた。
呑気に突っ立っている彼に対して、朝霧は叫ぶ。
「クロトくん! そこに居たら危ないぞ!?」
朝霧の言葉に、クロトは飛んできた冷凍光線の余波を黒刀で弾き飛ばしながら問い掛けた。
この戦闘って長引くんですか? なんか面倒な事になりそうなんですけど、と。
「え……?」
朝霧は訳も分からず呆然と口を開いたその時――氷点下まで下がっていた空気が、一瞬で燃やされる。
砂漠を覆っていた氷が溶かされ水になり砂と混じり泥となる。しかしその前に水分が蒸発し、元の砂漠へと戻った。
その現象に朝霧の元々青かった顔が、青を通り越して白くなった。
最悪の、さらにその上の最悪な状態になったからだ。
「――あまり虐めないでください。可哀そうではないですか」
スカルドラゴンに向かって放ち続けられていた冷凍光線が、横から振るわれた炎の斬撃が断ち切る。スカルドラゴンは力なく倒れ伏せ、それを見ながらセツナは忌々しそうに邪魔をした者に視線を向ける。
黒い髪をポニーテールにし、紅の瞳はセツナの視線と交差している。
身に纏う紅蓮の侍武者からはチリチリと炎の魔力が流れ出て、その手には美しく紅に染まった太刀が握られていた。
セツナは
「相変わらず愛玩動物が好きなようだな、火ノ神カグラ」
「勘違いしないでください。わたくしは、ただこの仔が今倒されるのが困るだけなのですよ」
「――このダンジョン狂いが」
「ふふ。この世界を理解できないアバズレが何かほざいてますね」
「……」
「……」
再び炎と氷がぶつかり合い、世界が悲鳴を上げる。スカルドラゴンはすっかり戦意を喪失していた。
対して朝霧達も抵抗する体力も精神力もほぼ失っていた。クロトがこちらに迫る冷気と熱気を黒刀で打ち払わなければ既に死んでいたかもしれない。
アレもラスボス? と彼が問い掛けると朝霧は頷いた。
火ノ神カグラ。特級指定コード:X003。コードネーム【
口調は穏やかだが、他者をナチュラルに見下し、彼女もまた力を振るう際の被害を考慮しない問題児。
ラスボスが二人も現れるなんて、と朝霧は自分達の生存を諦め掛けるが──絶望は止まらない。
「……え? これから来る人もラスボスですか、だって?」
朝霧が信じたく無いと思いながらもクロトの言葉を復唱すると同時に──雷鳴が轟き、閃光が走る。
「はーはっはっはっはぁっ!」
空間を走る稲妻は嗤いながらセツナとカグラに突っ込み、鎖で覆われた両腕を二人に叩き付けた。
雷速を乗せた剛腕をそれぞれ槍と太刀で受け止めた彼女達は、不遜にも自分に牙を剥く駄犬に氷の柱と炎の鉄槌を返す。
「しゃらくせぇなあ!」
しかし雷が迸り、三色の魔力が弾けて砂漠に堕ちていく。
朝霧達はクロトの影に隠れて震えながら現れた魔物に恐怖した。特に朝霧はもう気絶しそうだった。
「X001。
「ああん? ちげーよ。面白い匂いがしたから来てやったんだよ!」
「ちっ。下品で下等な獣が。犬小屋で盛っていれば良いものの」
カグラとセツナは穢らわしい物を見る目でもう一人のラスボスを見ていた。
ボサボサに伸びて放置されている金髪はバチバチと雷を纏い、紫色の瞳はギラギラと獲物である二人に向けられていた。スカルドラゴンは眼中無し。
彼女の名前は烏丸ナユタ。己の欲求に従い行動し、己の快、不快を判断基準にする人の形をした猛獣だ。
「相変わらずだらし無い駄肉をぶら下げおって」
そして彼女は衣服を着ていなかった。小柄な体格に見合わない巨大な乳房を揺らすナユタを、セツナは苛立ち混じりに罵倒する。
「お? なんだ? 羨ましいのか? お前は小さいからな」
「ふふふ。あまり事実を言って虐めないであげてくださいナユタさん。それにこういう時は可愛らしいサイズ、と称するのが正しいのですよ」
煽るカグラの胸のサイズはナユタと同じくらいだった。ナユタが小柄な為彼女の乳房が大きく見えるが、カグラのバストサイズはEだ。対してセツナはAカップ。
「……」
殺気を過分に混ぜ込んだ槍の一振りが二人を襲うが、彼女達は簡単に避ける。
その斬撃はそのまま遠く離れた位置にある城を斬り裂いた。
「いいねいいね! 久しぶりにお前らと遊べると思うとテンション上がるなぁ!」
「黙れ駄犬」
「ワンちゃんは騒がしいと言いますが、此処まで来ると愛嬌もクソも無いですわね」
ナユタは己と同等の力を持つ存在であるセツナとカグラとの闘争に目を輝かせていた。狙われている二人は辟易としているが。
普段、ラスボス達が同じ場所に現れる事は無い。その前にラストダンジョンを攻略するからだ。
今回のボスモンスターがアンデット系だから起きた事案であり、それに巻き込まれた白銀騎士団は同情されるべきである。
「本当に今日は良い日だ──お前もそう思うだろ?」
ぐりんっ! とクロト達の方へと顔を向けるナユタ。そしてそのまま右腕を振るい、巻き付いていた鎖を彼らのいる方へ向かって伸ばした。
ジャラジャラと音を立てる鎖の音は、朝霧達からすれば死神の足跡。彼らは悲鳴を上げてクロトにしがみついた。
「クロトくん! 何とかしてくれ!」
朝霧にそう懇願されるも、クロトはぼうっと鎖を眺めて動く気配が無い。しかし彼はそれで良いと考えていた。
「ひいいいいいいい!?」
白銀騎士団が悲鳴を上げるなか、ガキンッ! と甲高い音を立てて鎖が明後日の方向へと飛んでいく。
「……」
同時に、クロトの目の前に一人の少女が現れた。
緑色を基調とした軍服に、片手にはライフルを担いでいる。茶色の頭髪は肩で切り揃えられており、そしてチラリと後ろを見たその切長の瞳はサファイアの様に綺麗だった。
「あ、ああ、あああ……!」
しかし、朝霧はどのラスボスよりも彼女に恐怖した。
空閑アキラ。彼女もまた特級指定のダンジョン探索者。コードネームは【
彼女もまたラスボスだが、アキラの場合はこちらの呼称の方が世界的に有名である。
世界最悪の犯罪者。それが彼女を現す一番適した通り名。
「ちっ。砂利どもが」
フワリ、と空を舞い毒を吐いた。彼女はライフルで3発の魔力弾を無造作に放った。
それぞれ狙われたラスボス達は簡単に回避し──。
「邪魔をするな羽虫ども。このダンジョンは私のだ」
「あら? 相変わらず知能が足りてませんわね。このダンジョンはわたくしが有意義に支配、管理しますので」
「どうでも良いからさっさと
「……ちっ」
そのまま四つ巴の
ナユタの拳がセツナの氷壁を砕く。
カグラの炎の太刀がアキラの弾丸を斬り裂く。
アキラの背後の空間が歪みエメラルド状の羽の弾幕は、セツナの魔法陣から放たれた氷柱で相殺。
ナユタが伸ばした鎖がカグラの太刀で断ち切られる。
セツナの吹雪はカグラの獄炎で掻き消され、ナユタの雷はアキラの風で逸らされる。
ラスボスがラスボスを喰らおうと際限なく力を発揮するその模様はまさしく終末。
余波で世界が崩壊していく様を見せられた朝霧達はもう限界だった。このまま生きて帰れるのかすら分からない。
そんななか、クロトは言った。まるで遅延している電車を駅で待っているかの様に。
早くしないと推しの配信が始まってしまう。
彼女達が攻略しないのなら、俺が終わらせるか、と。
「……何を言っているんだ?」
理解できないモノを見る目でクロトを見る朝霧だが、彼は気付いていない。
セツナの魔法の余波を彼が捌いていたことを。
途中から自分達が彼の影に隠れている事を。
ラスボス達がこのダンジョンに入ってくるのを察知していた事を。
姿を消していたアキラの存在を認識していた事を。
焼肉は後日お願いします、とクロトは朝霧に頼んだ。
そして影から黒い鎖が飛び出して彼の両腕に巻き付く。
まるで烏丸ナユタの様に。
そして彼女と同じ様に雷速で空を駆ける。向かう先は、このラストダンジョンを作っているスカルドラゴンだ。
『──』
──此処で初めて彼女達が彼の存在に気付く。
動きからスカルドラゴンを狙っている事に気付いたラスボス達はそれぞれの行動に移った。
それは獲物だ。横取りするなと苛立ち混じりに時を止める氷室セツナ。
しかし彼女の作り出した彼女だけの世界に、クロトは手に持った黒く雪の結晶の様な槍の力を使って侵入。そのまま術者であるセツナと激突し──ダメージを負ったセツナは能力を強制解除させられて吹き飛んだ。
「──なん、だと?」
次に動いたのはカグラだ。先ほどの光景に驚きながらもクロトの進行方向に立ち塞がり、全てを焼き尽くす太刀を振るう。
しかし彼の作り出した黒き刀は、ミラージュ・ミスリルドラゴンを屠った時以上の黒炎を纏い彼女の太刀と拮抗する。
「──あり得ない」
さらなる驚きに目を見開く彼女を弾き飛ばし──横から迫る剛腕に、己の拳を叩き付ける。
ナユタは邪魔された怒りから一転して歓喜する。なんだこの男は──何故こうも強い!?
胸の奥から湧き出る感情が、股座にかつて無い程の快楽を集中する。もし彼女が男だったら
「──ははは」
一瞬で千の拳を叩き付ければ、彼もまた同じ数だけ合わせてくる。ナユタにとって至福の時だった。
「はははははは、ハハハハハハハハ!!!」
しかしその幸せな時間はすぐに終わる。クロトが再び時を止めて「なんだコイツ邪魔だな」とナユタを尻目にスカルドラゴンに近づく。
そしてそのまま……えいっ、と太刀で斬り裂いた。同時に時間停止が終わる。
この間コンマ0.1秒で起きた出来事だ。
その光景を離れて見ていたアキラは、クロトの能力に当たりを付けて──。
「みつけた」
嗤った。
そしてそれは他のラスボス達もだった。
己の野望を成す為に足りなかった最後のピースは彼だったのか、と。
スカルドラゴンが倒された事で、ラストダンジョンが消滅し、拉致された人間は元のダンジョンに戻される。
白銀騎士団達は無事に生還できる事実に何処か夢心地でいるなか、朝霧はクロトを見て呟いた。
「まさか──5人目、なのか?」
その答えに応える者は誰も居らず──ラストダンジョンは崩壊し、彼らは現実世界へと帰還した。