【Pokemon】邯鄲の歩み   作:夜鷹ケイ

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14 内気な少女と(4)

 一人の生徒に対する対応の差は他の教員も思うところがあったようで、朝の職員会議では問題として挙がってはいたようだったが解決には至らず。

 意外と短気な面のあるグライス・エトワールにより、「大人の決定なぞ待っていられるか。」という大人の間で行われる面倒なやり取りを全無視して行動を起こした。ハナノ・ブルーが在籍する教室で発覚した教員による嫌がらせ行為は、グライスを筆頭とした少年たちの活躍もあって水面下にて終幕を迎える。他の問題と深く結びつくために速攻で学園長が対応したおかげで、大事にはならずに済み、被害者の生徒の名前も不明のまま噂は静かに消えるだろう。

 ホッと安堵に肩を撫で下ろしたのはブルーの他にも、件の教員による被害を受けた生徒だった。よかったね、がんばったね、とお互いを検討し合う輪の中に、彼女も自然とそこに居る。孤立孤島の彼女も円環の内側に自然と居た。

 あの教室の妙な雰囲気も件の担任教師によるものだったのだろう。と判断できるほどに、あの徹底的に一人を排除する空気感の渦中に放り投げられていた彼女は、クラスメイトたちと自然に会話が出来ていたのである。解決したな、と思ってしまったのはそれが理由だったのだ。

 

 

 ほんとうは、何も終わっちゃいなかったのに。

 

 

 中庭に出て少年三人でブルーの環境改善できてよかった、とお互いを称え合っているなか。最年長の上級生グループがやって来た。以前の深刻さがなくなって心なしか嬉しそうだからなんの話をしているのかと気になって立ち寄ってくれたようだ。

 ちまちまとクラスメイトの雰囲気が険悪なのだと相談を寄せていたこともあり、無事に解決した旨を報告すると彼女たちは我がことのように喜んでくれた。これでもう彼女に隠れて会う必要はなくなったわけだとグリーンは嬉しそうに言う。上級生のひとりが、驚いたように目を見開き口に手を当てて問うてくる。

 

 

「か、隠れて会ってたの?」

「なーんか人目があるとあの先生がうるさかったんだよな。」

 

 

 同じ帰路で家に帰るのだから、一緒に帰ってもいいだろうに。

 わざわざ獣道を行くのは命知らずのすることだと学校でも教わるはずだが、奇妙なことに道や時間をずらして帰れと言うのだ。マサラタウンからの生徒は四人居るにもかかわらず、少女にばかり言う。あまりにも面倒になってしまったレッドが、じゃあ僕がそうする、と言ってきかず1番道路を送迎バスやポケモンも連れずに闊歩した事態が発生した。

 学園長がカンカンに怒り散らかしてオコリザルのあだ名を受けたのもその時である。似たようなことがあれば今度はグライス・エトワールが全力を以て、大自然の中を余裕綽々に道とした。学園の長の剣幕があまりにもオコリザル…………通り越して何かしらの怨念を放ちそうなまでもあって、反省したのかその後は何も言わなくなったようだけれども。――――否。

 伝家の宝刀。「次は僕がします。」とイイコちゃんぶったグリーンが先制攻撃を仕掛けたことでクラスメイトは、少女へ向ける眼差しをそっと逸らすようになったのだった。

 

 

「へ、へー……そうなんだ~……。」

「あの時の騒ぎってそんなことがあったのね……。」

 

 

 クラスメイトに何ぞを吹き込んだ下手人を見つけたら、警告を出すつもりであることをグライスは言う。そんなことまでしなくても、と苦笑気味の先輩たちに、けれど彼は一歩も引かなかった。行動を起こさなかったからこそ、少女は孤立したのだと。少なくとも、何かしらの対話が出来ればクラスメイトたちとああもすれ違うこともなかったはずなのだと。

 幼馴染であることは自他共に認める事実で。故郷を同じくするのもまた、同じほどに知られるもので。――――じゃあ、とグリーンは聞く。「家が近所の人間と同じ学校に通ってたとして」前提を明らかにして問う。「一緒に通学したことねーやついんの?」遠目で姿を確認出来ただけでも一緒に登校した(・・・・・・・)と言うのであれば、全員同じ条件になるはずである。彼女だけがダメだなんて、そんな理不尽は罷り通らないとも思う。

 御近所さんと同じ学校に通うのであれば道が同じであることは何ら不自然なことではない。むしろ、マサラタウンからトキワシティの間にある学校であるがゆえに、皆も分かるだろうが道は一本しかないのだから通学路は全員被るはずだ。

 

 

「そ、そうだね。同じ通学路だもんね。」

「でっしょう?」

 

 

 如何にも分かりきったことだと呆れかえった目つきでグリーンは力強くうなずく。

 一本道しかないのだから同じ道を通ることだってあるだろう。談笑しながらとかではなく、姿を見かけるだけでも一度くらいはあるだろうと発言だった。

 ざわつく先輩たちに不穏な気配を感じたグライスは、視線を向けぬまま様子を見る。不意に、発達した聴覚が拾った。「そんなつもりなかったのに……。」 呆然とした声色が、耳に残る。私のせいかも、と一歩を踏み出そうとした小動物のような先輩は青ざめたまま「一緒に登校するなんて仲良しなんだね」って小型ポケモンを見つめるような気持ちでこぼしたのだと言う。

 そのような言葉は、猫型ポケモンや犬型ポケモンの動画を見てカワイイと感想をこぼすのと同じである。「そんなんで発生するわけねーじゃん。」とグリーンは否定した。

 

 

「まるで夫婦ポケモンみたいって、うわさが出たの……そのあとだったの……」

「めおとぉ?」

 

 

 なんの関係が?

 少年たちは顔を突き合わせて首を傾げた。素朴な反応と疑問に、十代半ばの先輩たちは「年頃の話題なのよ」とお姉さんぶって、小動物のような先輩は恋愛話に関係があると推測を話す。

 異性に好く思われたい、と思う年頃に突入した少年少女だが、ここで一つ問題があった。一般的なこどもたちの感性と、少年たちの感性が共鳴しないのである。

 人外の視点で物事を考える傾向にある竜野郎(グライス)は、「好き」と言われたらにこやかに「おお、そうかそうかよしよし守ってやろうな。」と小さき命を愛でるように返すタイプである。人間として好きなのだと告白されても、彼の基盤にある基は人外。「そうか、自分の人間性を好ましく思うてくれるのか。」とやったー性格褒められたーありがとうー程度にしか響かぬ。かと言って、同じ竜の気配をまとうものであれば伴侶足り得るのかと思えばそうでもなく、「相談なら乗ろう。」と穏やかにどっしり構えてるモンだから周りも主として彼を崇拝してしまう。

 つまり、彼は恋愛に発展する前に、物語がドラゴン宗教の立ち上げから入ってしまうのだ。そんなグライスが一般的な恋愛話を語れるか、と言われたら――――戦力外である。

 へっ、と鼻で笑うものの他人事ではない男も居る。そもそも大人のインタビュアーに追われて既に木枯らしのような視点を持つようになってしまったのが、此の現実主義者の研究気質少年だ。映画の鑑賞会ではあったが、ブルーが語るラブロマンスの理想像を悉く一刀両断したことで、幼馴染カルテットの間ではロマンスブレイカー(グリーン)として有名だった。相談を目的に近寄ろうものならば疑心を宿った眼差しで貫かれながら「ハァ?俺様に恋愛相談って? 冗談だろ、付き合ってらんねー。よそでやってくれよ。」とアレルギーばりに全否定することから、カワイイ彼女とやらを得られる機会を根こそぎに潰している。優しく接したことで姉が受けた仕打ちを、未だに心の傷として抱える以上はこの対応も致し方ないものだろう。

 ぼうっと花壇に植わるナゾノクサと戯れる少年もまた、そう言った恋愛話には疎い。ほとんどポケモンにしか興味がない野生児(レッド)は、人類の恋物語を与えるとすぐさまポケモンバトルの応用に引きずり込む。駆け引きをするのはバトルも一緒でしょ、と案外適性があるようで、ポケモンバトルから離れなくなってしまったので「早計だった」が最終結論である。

 

 マア、そんなわけで、一緒に登下校することと、夫婦ポケモンが恋愛話に発展することと、少女が孤立することの関係性がサッパリ分からんのである。

 

 

「女の子が会話するときの必須項目なのよ。」

「一緒にいるだけでも、いいなあって思った子いないのー?とかね。」

「ええ、めんどくせー。」

「……。」

「おまえは例え話にも答えんのかよ!」

「え、答えてた?」

「うそうそ、聞き逃しちゃった?」

「ねね、レッドくんもう一回言ってみてくれる? だれだれっ?」

「……。」

 

 

 カビゴンなのだそうだ、とグライスは平然とした態度で答える。ふっくらとしていて、肌触りの心地よさが癖になるのだとか。ポケモンコンテストに出場する身分ゆえに身嗜みをよくよく整えられた、ぬいぐるみが編まれる繊維よりきめ細やかな体毛のカビゴンと触れ合ったことのある少年ならではの発言だ。

 柔らかな肌触りのベッドのような存在だと、続けて言われてしまうとそれは確かに、いいなあ、と思う。ここ最近、眠りの浅いグライスは素直に零した。

 

 

「よく眠れそうだ。」

 

 

 頭が取れるのでは、と思うほどに首を縦に振るレッドは言外に一緒に寝ようと誘った。サーナイトやエルレイドの身に不幸が降りかかって以来、見るからに気落ちした幼馴染を思ってのお誘いであった。色々なことが重なったことで封印が軽く抉れて、竜の気配がまろび出る現状きっとそばに居ては落ち着かぬだろうから、と理由を伏せたままやんわりと辞退する。

 細かく説明しようと思ったら、前々世の記憶から語らねばならなくなる。面倒だと言葉で片付けられれば良いのだが、未だ心の整理がつかぬ今は自身がパニックに陥る可能性は否定できない。パニックに陥った竜族の末路は、悲惨なものだ。周りも、じぶんも。

 自己防衛も兼ねて、グライス・エトワールは自分の記憶のことは生涯決して誰にも漏らさぬことを誓った。――――口調を変えようと思ったのは、そう言った人生の転機を明確にする為だ。

 

 

「……そう言えば、次の授業は部屋を移動するのだったか? 必要な道具は教室に置き去りにしたままだし、急いだほうが良いだろう。……と思うっすよ。」

「無理やりすぎるよ!その語尾は。」

 

 

 むさくるしさの中に、華やかさが舞い込んで大人びた雰囲気に憧れてしまうがゆえにグリーンも見落としがちの厳格な言葉遣いへの指摘は、久しく為された。懐かしのブルーからの言葉に、少年たちは眦を和らげる。

 

 

「早く慣れたいものだな。」

「かたい!」

「慣れたいっすな」

「……!?」

「そこ、ね、の方が自然じゃね? ほら、レッドも微妙な顔してっし。」

「そうか。早く慣れたいっすね。……ふむ、確かに。」

「……。」

「……ちぐはぐ過ぎてなんか怖ぇよ!」

「どうか慣れるまでは目を瞑っていてくれ。出来る限り、早めに習得するよう心掛ける。」

「かたい!」

「……頑張る、っすから!」

「まあよし!」

「そう!上手だよ、グライスくん!」

「……!」

 

 

 それじゃあ先輩。言葉短く別れを告げて、少年少女は授業の為に教室に戻った。穏やかな交流のように見えて、ぴりりとひりつくような気配を感じ取りながらグライスは耳を澄ませる。

 なにも、ない。常ならば多少なりともざわめきがあるはずだが、嵐の前の静けさのようにシンとしていた。不自然な沈黙は、授業のチャイムが鳴り止むまでそこにあったのだ。何かしら引っ掛かりを覚えながらもひとまずは解決した問題に肩の荷をおろしたグライスは、ただでさえ他人を信じて何かを任せるということに控えめだったけれど、この一件から更に控えるようになることは今は誰も知らぬことであった。

 

 

――――…

 なにせ、なんとブルーの状況を相談した先輩が、グライス・エトワールの大切な友人と紹介した彼女を虐げる場面に遭遇してしまったのだから。

 発覚した驚愕すべき新事実に、思わず身が硬直する。何故。彼女が大切な幼馴染であることは、周知の事実だ。学校の人気者のお気に入りに手出しをしようものなど、余程の者でなければ居なかろうと思い、そのようにした。

 その結果、腰までさらりと伸びたイーブイの尾のように柔らかな茶髪を、力任せに無遠慮に鷲掴まれた彼女が、痛みと恐怖に苛まれながら階段の踊り場で泣いている。

 何故。何故。何故何故。身を切りつけられたように痛む。直接的に暴力をふるわれたわけではないから何処も血は出ていなかったが、だからといって無傷ではなかった。普段なら守らねばと常々おもうレッドやグリーンが側に居てくれるから硬直からの回復もすぐだったが、不運なことに彼は今ひとり。思考の再起動にも、時間がかかってしまった。

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