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「私が一人で暴走せずにみんなと一緒に問題解決をしようって、頑張ってる限りは。先生は自分を犠牲になんて二度としちゃダメだし」
「逆に先生が、最後の最後まで自分の事を大事にしてくれるならきっと、私も。みんなを、先生を、心から頼れると思うんだ」
「……結局のところ平行線なんだよ。生徒がなにより大事な先生と、対策委員会のみんながなにより大事な私。だから、」
「──枷になればいいと思わない? お互いに、お互いのさ」
これは一種の契約だ。散々ヒーローだと持て囃してくれたのだ。それに相棒として応じてくれるとも。
なら思う存分に頼らせて貰おう。
……最初に言い出したのは、先生だからね?
───
──
─
先生を伴ったパトロールについつい精を出し過ぎて、野宿が必要になったこの時間。
澄んだ空が瞬く間に暗くなり、目の前の焚火がより一層明るく周りを照らす。
太陽と同じスピードで気温も下がっていってるのに、思いのほか寒くないのはやっぱり、焚火と二人分の体温のおかげなのだろう。
パチパチと弾ける音を奏でる焚火を瞳に映して、同じ毛布に包まる先生の肩に頭を預けて言葉を紡ぐ。
会話というよりは、独り言みたいに。
「相棒って言うならさ。おじさん、先生に一つ言いたいことがあるんだよね」
”ん? ”
返される言葉も同じく。私に向けてはいるんだろうけど、焚火に紛れこませるように零れた独り言のように。
距離があるとは言え、徐々に渇く目を瞬かせながら。互いが互いに独り言をこぼして、それに返答する。
「ほら、おじさん、ちょっと前にみんなに迷惑かけちゃったじゃない? もちろん先生にも」
”……迷惑、よりは心配と困惑の色が強かったとは思うけどね、私もすっごい心配だったし”
「うぐ……。まあ、こう、思い詰めると視野が狭くなっちゃうというか、自分一人でやっちゃえ~みたいな部分。みんなにもさんざん言われたしさ。そういったのを改めていこうって思ったわけだけど」
ノノミちゃんにシロコちゃん。セリカちゃんにアヤネちゃん。対策委員会のみんな。心配も迷惑も多大にかけた。フォローに回らせてしまったヒナちゃんに、先生にも。それは勿論分かってる……でも、だよ?
「でもさ、おじさん、ちょっと思ったんだよね。先生にはすこ~し、言われたくないなあってさ」
”私? ”
相も変わらず頭は先生の肩にもたれさせ、視線は焚火に向いたまま。向こうに変化はなく、いっそ飄々とさえしているような声色。
それでも、私は。これだけは、言わずにはいられない。
疑念というのにも程遠い。愚痴というか、ひがみというか。うまく表現できないけれど。
散々私の事をヒーローと持て囃してきて、『相棒』になるとも言ってくれたのであれば、必要なのだ。
「だって、先生にもあるよね? そういう経験がさ?」
私にも、先生にも。腹を割って話す時間というものが、お互いに。
*
”……”
毛布に包まっている至近距離だから、顔は見られない。もたれた頭越しに先生の体温を感じながら、言葉だけで奥に踏み込む。
先生が無言であるのを良い事に、焚火が弾けるだけの環境音に耳を傾けながら、傍らの先生に更に告げる。
「沈黙は肯定。って、受け取っても良い?」
”……何を? ”
「またまた~、誤魔化しちゃってさあ? 本当は分かってるでしょ? こんな話題、私から切り出された時点でさ」
……百歩譲って本人が解って無くても仕方がないか。私だって、言われなかったら自覚できなかったわけだし。……先生は解っててとぼけてるだけだと踏んでるけどね。
「自己犠牲」
とかなんとか。多分、外から表現するとそう見えるモノを。私も先生も多大に払っているのだろう。……対策委員会のみんなには「自己満足」だなんて、怒りながら指摘を食らいそうだけど。
*
”そりゃあ私は「先生」だからね。生徒のみんなの為なら多少そういうことは”
「あーいやいや。そうじゃなくて。……というか、まだ誤魔化す?」
パキリ。
くべた焚火が崩れる音と、白々しい先生の発言が混ざって夕闇に溶ける。
「カード」
「本船」
「もう一人の先生」
くすりと思わず、笑いが零れる。もたれた頭越しに震えが伝わってきて。傍から見たらきっと、ちょっと前までの私も同じくらい白々しかっただろうかと思う。
そりゃみんなだって心配する。当たり前だ。……ついでにひとつ。
人差し指をついと動かし。
「……脇腹」
”……ッ”
うへ。最後のだけは当てずっぽうだったんだけどなあ。全部当たり?
”はあ……”
きっと私の言動から、私が全部察している事を察したのだろう。観念したように深く長く溜息を零す先生。
”カードとか他はともかく、本船の代償のことなんて黒服しか知らないと思うんだけど……どこで聞いたの? ”
「黒服に。その辺のコンビニにいたから。ばったり会った時にちょこちょこっと捕まえて」
”コンビニ!? あいつコンビニとか行ってんの!? てかコンビニ行くの黒服!? てかなんで教えてんの黒服!? ”
「ポイントカードとか作ってたし、結構常連ぽかったけど……まあいいじゃない黒服の事は」
”いや……私的には結構重要案件なんだけど……まあゲマトリア解散したとは言ってたし行くかコンビニくらい……。行くか……? ”
まあ、吐かせるのにはそんなに苦労はしなかったけどね。というか、
「『先生が何をしているのかを生徒に言わない』、なんて契約は先生と結んでいないですしねえ」
なんて言って向こうから色々教えてくれたのは内緒にしておこうか。……あの黒服が、考えも無しに情報を流すなんてありえないし。
「とにかく! おじさんが言いたいのは」
結局のところ、同じ穴の貉なのだ。アビドス、後輩たち、先生。……。そしてユメ先輩が何より大事な私と。
優先順位の最上段に生徒を置いている先生。
「自分より大事な生徒の為なら、先生。平気で自分を投げ出すでしょ? ってこと」
”……”
「ああ、いやいや。別にそれが悪いって言ってる訳じゃ無いんだよ? おじさんだってそうだもん。みんなが一番大事だし、それに比べたら、とは。……直そうとは思ってるけど、またこの前みたいな状況になったらどうするかは分からないし」
「頼りたい。頼ろう。とは、思ってる。けど。私一人で解決出来るのなら、別に言う必要なんて無いんじゃあ──って考えは、どうしても」
経験を経ても尚直らない。どちらかというと癖とか、習性に近いのだろう。今までがそういう思考だったものだから。染み付いた「慣れ」は中々拭えたものじゃない。
手の内にある、ハンドガンのグリップを弄んで。焚火に炙られている表層とは裏腹に、冷静な思考が自分を分析する。
……でも、それは。先生だって同じこと。銃を撃つとか、戦うとか。そういうことじゃ無くて。もっと根本的な部分で。私達は似通っている。
「否定できる? 出来ないよね? だって──本船、動かしちゃったもんね?」
「でもさ? それって」
躍らせた人差し指のまま、そっと。……傷跡であろう位置をなぞり。告げる。
「私と一緒じゃないの?」
ぱきり。
また一つ。くべた薪が崩れる音がした。
*
「先生だって分かってるでしょ? 私がそう簡単に考えを変えられないことくらい。いくら頭では分かっていたって、思考を解きほぐしなんて出来ないことくらい。先生だって一緒だよ」
”……それは”
「いーや。同じだね。うへ、おじさん、分るよ? 先生、周りから何言われたって『自分が辛い思いしてしようが全部解決すれば万事OK、バレなければなお良し』って思ってるでしょ?」
言葉で否定を重ねたって、解る。私のことのようにわかる。見ていて恥ずかしくなるくらいわかる。だってどう考えても。例えば私が『自分一人で頑張ればどうにかなる!!」なんて言ったシロコちゃんを、ノノミちゃんを。セリカちゃんを、アヤネちゃんを。ほおって置けないのに。「それ」が自分なら許容できる矛盾。私自身が分かってる。
そしてそれは、先生も同じ。
だから、だからさ。他人事みたいに遠い視線に立ってようやく分かるんだよ先生。
私達みたいな、
──枷が、必要だって。
*
”──ホシノはどうしたってみんなが、私が。自分より大事で”
「先生はどうしたって生徒が、私が。自分より大事で」
「だったら、そこで雁字搦めにしちゃえばいいんだって」
”……それが『枷』? ”
そう。別に首輪とか手錠とか言い換えたって良いけどね。
「私が一人で暴走せずにみんなと一緒に問題解決をしようって、頑張ってる限りは。先生は自分を犠牲になんて二度と『しない』し」
「逆に先生が、最後の最後まで自分の事を大事にしてくれるならきっと、私も。突っ走ったり『しない』」
”……逆に言えば、私が自分を蔑ろにしようものなら”
「おじさんは何するか分からないかもねぇ~。……そして、私が一人で突っ走ろうものなら」
”私はいつか、自分を危険にさらしてでも生徒を、ホシノを助ける、と”
「そう。おじさんが何を言ったってそうしてくれちゃうもんね……でも、私はそこまでのコストを、私に払って欲しくない」
簡単な話だ。先生に何かあれば私はどうするか分からないし。
……先生は私のことも大事にしていてくれてしまうから、私に何かあれば先生がどうするか分からない。
自分がどうなっても良いけど、相手には幸せになって貰いたい。
そういう、お互いがお互いに、自分の価値を低く見積もっている……違うか。
別に自分を勘定に入れてない訳じゃ無い。ただ明確に、自分より優先されるべきものがあって、それは『私』であって同時に『先生』なのだ。
積み重ねた信頼をタテにして成り立つ、杜撰にも程がある人質計画。
だけど。これを受けてくれるならきっと私は。また何か起きた時に、体じゃなくて心が止まる。冷静になれる。
私の無鉄砲さの先にあるのは、私より大事なものの危険なんだから。
そしてそれは、そっくりそのまま先生に返る。いずれ、手の届かないところで身を削って、消えてしまいそうな先生を繋ぎとめるにはこうするしかないと。……何よりも生徒を優先し続けた成れの果てを見てしまったから。
だからさ、先生。私達は私達同士で、
「こんなこと、みんなには頼めないし。お願い、先生」
枷にならなきゃって思うんだ。
*
”……わかったよ”
「!」
”確かにホシノの言う通り、私は多少無茶しがちなところがあるんだと思う”
”そして行きつく果ては、”
続けなかった言葉の先が、手に取る様に分かる。きっと同じものを思い浮かべている。忘れもしないあの日、あの場所で。もう一人のシロコちゃんと、もう一人の先生を見た光景。
”あの結末に繋がらない様にって思いながら、今も色々やってるけど。選んだ未来の先には私もいないと、って事だよね”
中々難しいなあ。生徒と同じくらい自分を大事にするっていうのは。
なんて、更にひとりごちて。ふいに、もたれていた頭で、先生が動くのを感じた。私に顔を向け、視線が交わる。
”それに、私もホシノには無茶して欲しくないし”
「うへ~、それはほら、お互い様だからさ」
それに、右を見ても左を見ても問題山積みなキヴォトスに居るんだから、どうせこの先も色々起こるし色々巻き込まれるんだろうけど。
「無茶をやるなら一緒にやろうよ。相棒でしょ?」
”……そうだね、ヒーロー”
差し出した拳に、拳がぶつかる。これで契約成立だ。
互いを互いの枷にするバディなんて随分歪だとは思う。でも、私達にはきっとこれくらいが丁度いい。
自分を優先できない悪癖を持つ私達には、鎖を付けておかないとね。
この先何が起こったってとことん付き合うし、付き合ってもらうから。そのつもりでよろしく、先生。