ナギちゃんがぬいぐるみになって、先生に沢山愛された結果……(全二話) 作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv
先生は悲しく目を伏せました。
「……ごめん。ナギサ。私は今日まで、君のことに気づいてあげられなかった」
……違うのです。私は、もうずっとずっと、永遠に気づかれないままが良かったのです。
「先生……あ、……おねがいです。おねがい……ぎゅってしてください。安心をください。もう、もう戻りたくなかったんです。永遠に、おそばにいたかったのです」
「……駄目だよ、ナギサ」
「嫌だっ!私、私は……」
先生は私に歩み寄ります。
……でも、ぎゅってしてくれません。
ただ私のそばで立っているのみでした。
先生は重たく口を開きます。
「……ナギサ。私は君の助けになりたいと願っているんだ。きみを助けてあげられるのならどんなことでもする。でもね。……君は今、自分で自分を捨ててしまおうとしている。だから、君の願いは聞けないよ」
「…………なら。……なら、私、死にます」
「……君は深く傷ついてしまったんだよ。……こういう時に大切なのはね、休むこと。君はきっと今までずっと、傷だらけだったんだ。心のかさぶたが初めて剥がれて、血や膿が出ているんだよ。痛いのはわかる。でもね、だからって自分をないがしろにしちゃ、だめだよ」
「…………」
「ずっと。ずっと……君は、君自身を縛って生きてきた。それも、他人のために。君の好きな人を守るために、今日までずっとそうしてきたんでしょう?それは君の、とても素敵な部分だよ。君は根っから、他人のためを思って生きることができる人間なんだ。今はただ、前も後ろも見えなくなってしまっているだけさ」
「…………どうしてですか」
「どうして、って?」
「…………私を、ぬいぐるみにしてくださらないのなら、どうして……どうして私をあんなに大事にしたんですか!!」
喉が千切れてしまいそうなほどの声でした。
自分から出たとは思えないような。
「ナギサ……」
「ひどい、ひどいです……!わ、私、う、生まれて初めて……安心できたのに!!嬉しかったのに、暖かかったのに!あんなの、知ったら、私……嫌だ!一人は嫌だ!助けてくれない先生なんて嫌い!!嫌だ、嫌だ!!」
「ナギサ、しっかり」
先生は膝を曲げ、私に目線を合わせます。
涙が溢れて、視界が残酷なほどぼやけます。
「……嫌いです。もう、嫌いです。……あなたなんて嫌いです……!」
「……嘘つかないでよ。ナギサ。君は……」
「嫌い、嫌い嫌い嫌い嫌い!!優しくてかっこいいひとだと思ってたのに!!あなたも同じです、みんなと、汚いトリニティ生と同じです!期待させておいて、利用するだけ利用したら私のことゴミみたいに捨てるんでしょう!!あなたは、もう……」
「ナギサ」
ばちっ、と、肌を叩く音がしました。
私の頬が叩かれる音でした。
「……ナギサ」
「…………え」
いたい。
ひりひりする。
「……ひどいよ。君は、ひどい。……君はいつもそうだ。……私のことを、ちゃんと見てくれていないんだから」
「えっ……」
「いつも、いつもそうだ。……君は私を盲目的に見ている。……自分が人を信じられないのを棚に上げて、私を完全無欠の人だと思い込もうとしてくる。……でもそれぐらいならまだ、いいんだ。いくつになっても、人を信じるのは難しいことだから。でも……今のは、ないよ。なんか、君は私に文句を言ってるけどさ」
……先生は私の目を、まっすぐに見つめていました。
「……君は私に言っているように見せかけて、本当は君自身に文句を言っているんだ。なのに、自分でそのことに気づいていない」
「…………」
「君は、二つの心を持っている。……私以外にはたぶん誰にも見せないような、とても子どもっぽい君。そして、いつもの、ティーパーティーのホストとしての君。……君は私にだけ、子どもっぽい顔を見せてくれる。……でもね。私にはわかるよ。私と話しているときの君の後ろにはいつも、貴族としての君が監視の目を光らせている。だめだ、それ以上は自分を見せるな、後悔するぞ、って。……違うかな?」
「…………」
「君はとてもまっすぐだ。トリニティの社会で生き抜くために君は、ひたすらに自分自身を先鋭化させてきた。自分で自分を捻じ曲げたんだ。だから君は二つに分かれたんだ」
「…………」
「君は昔から、ミカと仲良しだったんだよね。ミカと一緒にいる時の君は、少し気楽そうだけど……でも、そのミカにさえも自己を曝け出せないんだよ。なぜなら、怖いから。弱った桐藤ナギサなんて、桐藤ナギサらしくないから」
「…………あ」
「君は私を信じてくれている。けどね。君は君を信じていない。……そして今、子どもとしての君が、貴族の君を殺してしまおうとしている。だから、私は止めている。なぜなら、どちらも君自身だから。どちらが欠けても、きっと駄目だから」
「……」
「君はいつも恐れていた。私とお茶会をしていても、一緒にお散歩をしている時も、いつも心の壁一枚を隔てて遠くから私を見ていた。……私をちゃんと見て、心を通わす勇気がなかったんだ」
先生は息をひとつ吐き、まっすぐなまなざしを和らげ、にこやかな顔になりました。
「ナギサ。目は覚めたよね。教えて?……君は本当は、何をしたい?」
「……私は……」
「うん」
「…………トリニティに、帰って……ミカさんとセイアさんに会いたいです……」
「うん。……怖かったよね、ナギサ」
「怖かった。こわかったよ、せんせい」
「ずっと、その思いから逃げ続けていたんでしょう?五日間、ずっと。疲れたよね」
「…………はい」
「よしよし」
ぎゅっ、と抱き寄せられました。
心の曇りが拭われた後の先生のハグは、前よりもずっと暖かいものでした。
先生と私の頬が当たります。
「……本当にいい子だね、ナギサ」
「…………ごめんなさい」
「いいんだ。……それにしても。ぬいぐるみじゃなくても、君は可愛いね」
「う……うう」
「ほんとに可愛い」
「や、やめてください」
「死ぬほど可愛いよ」
「うぅ……」
「ミカより可愛い」
「…………え?」
「セイアより可愛い。ミネより可愛い。サクラコより可愛い。どんな生徒よりも可愛い。どんな人間よりも可愛い。どんなものよりも可愛い」
「…………せん、せい?」
「特に、騙されやすいところがいっちばん可愛い」
私の前には、とても可愛いぬいぐるみが一つ転がっていた。
それを拾い上げ、頭を撫でてあげた。
「……ナギサ。君は可愛いよ。ふふ……そもそもの話だけどさ。人が急にぬいぐるみになるなんて、普通じゃないでしょ?ここはキヴォトス。急に猫の怪物が出てきたり、オルガンを弾きまくる変なのが出てきたりはするけど……でもね。こんなことは、人為的にしか起こらないよね?黒幕が絶対いるわけだ。ねえ?少しも、おかしいと思わなかった?」
常識的に考えて、ぬいぐるみは、しゃべらない。
しかし、だ。
タブレットには、しっかりと彼女の心の叫びが、テキスト形式で映し出される。
『先生』
『いや』
『たすけて』
『うそだ』
『信じない』
『こんなこと信じない』
「ざんねーん。君をぬいぐるみにした元凶は私でしたー」
『たすけて』
『ミカさん』
『セイアさん』
『ヒフミさん』
「どうして助けを呼ぶの?ねえ?ついさっきまで、ぬいぐるみにしてってお願いしてきたじゃないか。ねえ?私を騙したの?ナギサ」
『違う、違います』
『ごめんなさい』
『先生のお気持ちを害したことをお詫びします』
『ですから』
『いやだ』
『いや』
『こわいのいやだ』
「お詫びなんてしなくていいよ。私はね、ただ……傷つく君がだーいすきなだけなんだから……。私はね、歪んだ愛を君に向けてたの。ふふ、いい子、いい子……そうだなあ。二つのことを教えてあげるよ。まず……君のぬいぐるみ化はね、君の絶望が深いほどに長続きするんだ。仕事に疲れていたときは五日間……。今回はどうかな?かつて君自身が傷つけて、でも甘えていいんだ、頼っていいんだってやっと思えるようになった、トリニティの嫌な社会の外から来てくれる大人に、こんなに酷く裏切られたんだから……。一ヶ月?半年?もっとかなあ?」
『あ』
『ああああああああああああ!』
『いやだいやだいやだいやだ』
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
『たすけて』
『ミカ』
『たすけて』
『わたしのせいじゃないの』
『ごめんなさい』
『いやだ』
『ごめんなさい』
「ざんねーん♪誰も絶対来ないよ。あともう一つだけどさあ。ぬいぐるみになった人は、だんだん周囲から忘れられていくんだ。だいたい三日で、完全にいなかったことになる。……あれれー?何日経ってたっけなぁ?」
『…………』
「あ、気絶した?いや、黙っただけかな。わかんないけど。……あぁっ、どうして君はそんなに可愛いの?ぬいぐるみにしても可愛い。普段も可愛い……。でも一番可愛いのはね、不憫な君なんだよ。息の詰まるような生き方をしてる君のことを、だーれも重視しやしない……君が周りに愛を与えるほど、周りは離れていって、報われなくて寂しくてひとりぼっちで……そんな君が、本当に本当に好きなんだ。……男の嫉妬は見苦しいって言うけどさあ、私、ミカが君と楽しそうにしてるの見るとね、たまになんか、頭の奥が爆発しそうになるんだ。だから、奪っちゃった。ごめんねー?」
『あは』
『あはっ、あはははははは』
「なんだ、起きてるじゃないかー。……ナギサ。愛してるよ。やっぱりね……人を一番苦しめるには、幸せにしてからそれをパッと取っちゃうのが一番だ!やっと前を向けるって希望を持てた君のことを……初めて自分の芯を認めてもらえたって舞い上がってる君を、地獄に突き落とすんだ。底の底の、さむーい、恐ろしいところまでね……今までは私一人っきりだった。私はね、誰も信用できないんだ。生徒のみんなとの距離を保てるのは、そのせいさ。あんな魅力的な子たちと一緒にいるのに手を出せないってぐらい、裏切りを恐れてるんだよ、私。君とおんなじさ!」
『あはははははははははは』
『おんなじだ!』
『わたしとせんせいおんなじ!』
「そうだよ。……今日からも、ずっと一緒にいようね?ナギサ」
『あはははははは』
『ゆめだ!これ、ぜったいゆめ!』
『さめて』
『さめろ』
『さめろさめろさめろさめろさめろさめろ』
『ミカたすけておねがいたすけてしんじてるからほんとだから』
『たすけてください!あはははは!たすけて、おねがいたすけて』
「君が絶対逃げないってぐらい従順になったら、人に戻してあげるよ。そして、もっと、私が好きな君に作り変えてあげるからね……楽しみだなあ。君が、逃げようって発想も無くすぐらい壊れる日が、楽しみだ」
『わたしのせいだ』
『わたしのせいだ』
『ごめんなさい』
「うん、そうだよ!全部君のせいだ!君が、ほんの少しでも私をちゃんと見つめてくれていれば、こんなことにはならなかった!でも君はずっと私から逃げ続けたよね。君が悪いんだよ!でも、安心してね。これからは私が守ってあげる。君が、君のこと好きになれるように心を作り変えてあげる。たーっぷり時間をかけてね!……これからもよろしくね、ナギサ?愛してるよ。心から愛してる。だから、お願い。苦しんで。苦しめ。もっと苦しめ。……愛してる。本当に愛してるよ」
ぎゅっとハグをしてから、タブレットの電源を落とした。
当然のことながら、ぬいぐるみは無言のまま、ただ可愛い笑顔を保ち続けるだけだった。
fin.
「ナギサ……その、これは……」
「いかがでしたか?」
「……」
ナギサが小説を書いたと言い、テラスにノートパソコンを持ってきて見せてくれた。
……おお神よ。私はこれにどう反応すればよいのですか?
「ナギサ、その……こ、これはちょっと、その……」
「なんですか!あなたの趣味も大概でしょう!?」
「それは、はい……ねえ、ナギサ」
「はい?」
「もしもさ。この小説こそが現実で、こうして私と付き合ってる君が夢だったら、どうする?」
「……」
「君はぬいぐるみになっていて、今こうして話してるのは君の妄想なの。どう?」
「…………先生」
「どうしたの」
「今晩、通話してくださいませんか?……悪夢を見そうです」
……あ、そこはちゃんと、そうなんだね。
震えるナギサも可愛いなあ。
ナギちゃんが先生のぬいぐるみになって沢山愛された後、元に戻っちゃったときのお話 完
どっちがいい?
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ナギちゃんは現実で幸せ
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ナギちゃんは夢の中